第一話
虐待、暴力表現があります。ご注意ください。
この話は、過去編で、雪菜視点です。
全体的に暗めです…。
今でも、時々夢に出てくる。
初めて会った時の、リアの姿。
なにもかも、諦めたような目をしていた。
――そのとき、私は絶対にこの子を助けようと思ったんだ。
・・・・・
私は、物心がついたときから、他の子よりも大人しかった。
考え方も、子供らしくない。
そんな私を両親は受け入れ、愛してくれた。
本当に、この二人の子供でよかったと、今、とても感謝している。
小学校に入る前の年、私は自分にもう一つの記憶があることがわかった。
それはどうやら前世のようで、私は転生したらしい。
最初は驚いたが、すぐに納得した。
それなら、教えてもらっていないものの名前や、使い方を知っていた理由がわかるからだ。
前世の記憶は、はまっていた乙女ゲームのことと、死ぬ直前のものしか、ほとんど覚えていない。
あとは、いつも使うようなものの名前などだ。
私はこの世界が、前世はまっていた乙女ゲームの中なのかと疑った。
よくある、小説のように。
疑いが確信へと変わったのは、私が小学校へ入学したときだった。
攻略キャラの妹となる予定の“篠原 梨亜”が同じクラスにいたからだ。
彼女は、かなり痩せていた。
顔もやつれていて、病的なほどに肌が青白い。
そこで、私は大事なことを思い出した。
“篠原 梨亜”は、ゲーム内で幼少期、虐待を受けていたのだ。
単身赴任で海外へ行っていた父親が帰ってくるまでの、およそ6年間、ずっと母親から、殴る、蹴るなどの暴力を与えられていた。
もし、それが現実で起こっているなら、彼女も虐待を受けていることになる。
どうにか、助けなければならない。
…でも、私に何ができるのだろう?
私は、非力で何もできない子供だ。
教師に相談するのがいいのかも知れない。
しかし、それを本人は望んでいるだろうか?
私は、彼女に声をかけた。
「あの…、梨亜ちゃん」
「…」
彼女は返事をせず、戸惑ったようにこちらを見てくる。
「えっと、わたしは“さくら ゆきな”。よろしくね」
「……うん」
本当に小さな声で、彼女は言った。
―――
それから、私は毎日、リアと一緒に過ごすようになった。
はじめは戸惑っていた彼女も、徐々に笑顔を見せ始めるようになった。
それでもまだ、彼女から、“助けて”の文字は出てこない。
私は、少しでも彼女を守るために、合気道と空手をならい始めた。
好きじゃない勉強も、そのために頑張った。
本当は、私の両親に話して、解決してもらおうと思った。
でも、リアの気持ちを第一に考えたかったから、そうしなかった。
「あ!梨亜ちゃん!きれいなお花があるよ!」
「…ほんとうに、きれいだね」
彼女は、言葉も話すもようになった。
でも…――。
「…梨亜ちゃん。梨亜ちゃんの、おうちの人って、どんな人?」
「パパもママも、優しいよ」
「…本当に?」
「なんで、そんなこと聞くの!?本当に、ほんとうは、やさしいん
だもん!梨亜が、悪い子なの!!ママのせいじゃないよ!!」
「そっか…、そうだよね。ごめんね」
リアは、自分が悪いんだと思うことで、虐待をやり過ごしていた。
だから、自分を過剰に責める。
私は、リアに嫌われたくないから、あまり強く言えないでいる。
このごろ、リアへの暴力も悪化している。
――どうか、これ以上リアに、悪いことが起こらないで欲しい。
ブクマ、評価、ありがとうございます!!
初期設定では、お兄さんを転生者にする予定だったんですが、それでは不都合がでるので、雪菜になりました!




