帝王の雛 十三話
あの話の後、仮想トレーニングに興味があった俺と瑠璃は奏さんについていくことになった。
どうやらさっきのロビーらしきところから右側の扉に入り、突き当たり……といってもそこまで広くはない。
廊下はホテルのような装飾で、一定感覚ごとに観葉植物、ランプが左右に置かれている。真っ赤な絨毯が敷いてある様はまさにこの世界のものではないような雰囲気を感じる。
数十秒で突き当たりのドアの前に到着した。ドア上のプレートに、トレーニングルーム、と書かれた部屋に入る。
奏が承認機械に手をかざすとドアは左右に吸い込まれ、簡素なつくりの部屋が目に入る。
「ここが簡易トレーニングをする場所です。特殊なガラスで隔離した向こうの部屋では精神力が減らない仕組みになっているので、思う存分特訓が出来ますよ」
ガラスの向こうは広めのスペースがあり、人間二人が暴れまわるには十分すぎるほどの部屋だ。
「お二人はまだ召喚したばかりですから、少し召喚獣の能力や技を確認してみたらいかがですか?」
俺と瑠璃は顔を見合わせ困惑する。
「……といっても、まずはそれぞれの召喚獣との対話が先ですね。休憩スペースでお話ししてみてください」
奏さんは俺たちを椅子に案内すると、一人で壁の向こう側に行ってしまった。
「さて、ちょうどいい。自分で言うのもなんだが、俺の性能を大まかに説明しておこうと思う」
ホムラの声が俺の脳内に響く。見ると瑠璃も自分の召喚獣と話しているようだ。
「基本的には炎属性に特化した竜だと思ってくれて構わない。強いて言うなら他のドラゴンに比べて火力とバランスに長けているなんて言われたな。高い火力で臨機応変な攻め方をしてくれると、俺の性格的にも有難い」
今更だけど慣れないなこの感覚……。テレパシーとでも言うのか?やりづらい。
「まあ、お前は戦闘初心者だ。遠距離と中距離を使い分けながら隙があったら近距離の強い技を振っていくといい。……じゃあ早速試して」
「大変です!異世界が発見されました!今すぐ出撃準備をしてください!」
ホムラの声は突如ドアを開けて現れた幽によって遮られてしまった。
幽の様子からだいぶこの事態が緊急であったことがわかる。多分、想定外なのだろう。
「三人とも中央の部屋へ!」
幽に促され中央の部屋に向かう俺たちだった。
「今から転移を行います。皆さん覚悟はよろしいですね?」
中央の部屋に集められた俺達は一列に並んで幽の話を聞いていた。
作戦の説明の復習や役割、注意事項などを一通り説明された後、転移のための陣が書かれた床の上に乗る。
不思議な文様が描かれた陣に全員が乗った後、幽がカウントダウンを始めた。
「転移まで……3、2、1、0!」
俺達は不思議な光に包まれた後、目の前を激しい白に覆われる。
初陣への決意、不安と意思を心に抱えながら俺の視界は閉ざされていった。