帝王の雛 十一話
雷人は部屋のドアに近づき、胸元から取り出した鍵を差し込んで廊下へと続くドアを開けた……はずだった。
しかし、ドアの先に見えたのはさっき入ってきたときとは違う空間。この部屋と続いているとは到底思えない空気と光景に、思わず息を呑む。
「二人とも、着いてきてくれ」
そう言って先に行く雷人。瑠璃と目を合わせ、あわててドアの先に進む。
入った部屋は学校の一教室くらいだろうか。中心にはソファに囲まれてテーブルが置いてあり、さらにそれを囲むようにして四方に段差が数段存在している。俺達が今いる段が最高段。四方の階段の先にそれぞれ扉が存在している。
そしてソファに座り、こちらに背を向けながら何かを食べている様子の人物が一人。
「お……空木!」
雷人に空木、と呼ばれたその人物は手を止め、口元を拭ってからこちらに振り向く。
明るいライムグリーンのパーカーに、黒いフリルのスカート。目立つのはその手に持つぬいぐるみと……一際小さな体躯だろう。
小学生にも見えるその体型は、大きな目の童顔とも相まって余計に幼さを象徴している。
彼女のふんわりとした濃い萌葱色の髪は無造作に伸び、静かさと謎の威圧感を発していた。
「雷人。お疲れ様です。……もしかしてあなたたちが」
「そう。今回の被害者にして真竜計画の重要なキーパーソン……と、その友人だ」
「友人……?まあ、詳しく話を聞きたいのでとりあえずこちらへどうぞ。私は空木幽です。お菓子も……あったかい緑茶もありますよ?」
「なるほど。つまり再び襲撃を受ける可能性を考えて、ここに連れてきたと」
部屋の中央のソファに、俺と瑠璃、雷人と幽で向かい合って座っている。
これまでの経緯……俺達が彼らと戦うことを選んだところまで話したところだ。
「緊張しないでください。こう見えてもあなた達と同い年です」
「お、同い年!?」
瑠璃が驚いて声を上げる。
「幼く見えるかもしれませんが、本当です。呼び捨てでも構いませんし、私は遠慮なく呼び捨てさせてもらいます」
目の前の小学生に見える少女はなんと同い年だという。幼げな少女の声で言われてもにわかには信じられないが……本人が言うのだからそうなのだろう。
「話は戻りますが、彼らは必ずまたドラゴンを狙ってくるでしょう。しかし……町全体を異次元にするには少なくとも今日では足りません。人数の有利は向こうにあるはずですから、必ず町全体を異次元にするはずです。つまり明日の……そうですね、午前中。その時間帯がもっとも危険です」
「その時間帯に準備をしておけってことか?」
雷人が尋ねる。
「いいえ……今度はこちらから攻めます。既に前回彼らが登場した地点は調査済みですので、異次元になった瞬間、こちらからその地点に襲撃をかけて一気に殲滅します」
奇襲か・・・。
「竜斗と瑠璃には明日朝早くからこの場所に来てもらって、作戦の説明を行いたいと思います。ある程度召喚について教えなくてはいけないこともありますし、そのための講師も用意しておきます」
「わかった」「わかったわ」
「それでは、今日は遅いのでもう解散しましょう。雷人、送っていってあげてください」
時間を見るともう七時になろうかという頃合だった。そんなに長い間あの場所にいたのか……。
その日の夜。俺は寝付けずに考えていた。
明日香に汚れた制服の言い訳をするのは苦労したし、夕飯当番だったこともすっかり忘れていて大目玉を食らってしまった。
それに、父さんのことやホムラのこと。たった一日でいろんなことがありすぎた。
この問題が片付いたら……母さんにいろいろ聞いてみよう
すっきりしたかと思うとその瞬間、昼間の疲れが急に出てきて、俺の意識は深い深い眠りに落ちていった。