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事あるときは幽霊の足をいただく!  作者: 北大路 夜明
第6章 Time is running out
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第17話 アンダーワールドへようこそ【前編】

 体感的に二十分ほど経過しただろうか。ようやく車が停車した。


 騒々しいマフラーの音が止むと、少ししてからステレオの爆音も消え去った。


 品がない複数の笑い声と乱暴なドアの開閉音のあと、トランクが開けられた。にわかに訪れた外界の光に目が眩む。


「降りろ」


 目をしばたたいてから眼前に現れた影を睨むと、青白い顔をした上野が立っていた。


 すでに段取りが決まっていたのだろう。


 上野が指示をしなくてもオレの両脇は取り巻きたちに固められ、力ずくでトランクから引きずり降ろされる。


 どうやら、ここはどこかの別荘のようだ。雑木林を左右に従えたログハウスという言葉がよく似合う丸太作りの家が建っている。


 こんなときでもなければ、「避暑地に連れてきてくれてサンキュー!」とお礼のひとつでも言いたいところだが、現在オレは拉致されている身であるから、そこは自粛する。


 先頭を歩く上野のあとから建物に入ると、成金が好みそうな野生動物の剥製や、ハデな額縁ばかりが目を引く絵画をのんびり観賞する時間も与えられぬまま、地下通路へと下りていく。


 そして視界が開けた地下室からは、


Excitingggエキサイティングゥゥゥゥッ!」


 スポーツ観戦でもしているのか、興奮を帯びた歓声が聞こえてきた。


「連れてきました」


 上野が躊躇(ためら)いがちに声をかけると、部屋の中央にあるコの字型のソファでくつろぐ男が親指を立てた。


Good Jooob(グッジョーブ)。上野君」


 (まだら)金髪だ。斑金髪は蛇のような小さな目を意地悪に細めた。どうやら、こいつが首謀者らしい。


Buuut(バーット)、少しばかり遅刻だぜ。Five minutesファイブミニッツだ!」


「すみません……」


No problem(ノープロブレム)。今回は不問に付してやるよ。オレは心がWorld size(ワールドサイズ)だからな」


 斑金髪は相変わらず上機嫌にふざけた英単語を並べた。いや、上機嫌とは少しの違うかもしれない。というのも、斑金髪が上野からオレへと移した視線が上手く定まっていないのだ。


 瞳孔は開きつつも、どこか虚ろで、まるでアルコールに酔ってハイになっているような。


 無防備なその姿に隙あらば逃げられるかもしれない、と微かな希望を抱いたオレは早速斑金髪に向かって吠え立てることにした。


「オレをこんな山奥まで拉致って何の用があるんだよ。とっとと家へ帰しやがれ。貴重な週末なんだ。お前らみたいな暇人とは違って、こっちはいろいろとやることがあって忙しいんだからな!」


「キャンキャンうっせえわ。まるでSmall dog(スモールドッグ)だな」


 斑金髪は含み笑いを漏らした薄い唇でガラス製のパイプのようなものをくわえた。それを胸いっぱいに()みこむと、振り子のように体をブラブラ揺らしながら覚束ない足取りで近づいて来る。


 ああ、この酩酊(めいてい)ぶりはアルコールのせいじゃなく、ヤバいクスリの乱用なのだなと気がついたときには手遅れだった。


「Shut upppppシャラップッッッッッッ!!!!!」


 斑金髪の奇声と拳のうねりがオレの鼓膜を揺さぶり、押し殺したはずの恐怖心が再び目を覚ます。


 そう言えば──いつかもこんなことがあったと走馬灯のように記憶が蘇った。まだ真之助が怨霊と名乗っていた頃だ。上野と取り巻きたちに絡まれ殴られそうになったところを、真之助の計算と友人Aの助けがあってが返り討ちにできたのだが、今回は首尾よくいかないようだ。


 斑金髪のパンチを頬に受けたオレの身体は、風に舞う木の葉のように軽く吹き飛ばされ、床を転がった。脳を激しく揺さぶられ、一瞬意識が飛びかけたが、背中を壁にしたたかに打ち付たとき、ハッとした。


 壁の質感とは明らかに異なる感触に振り返るとそこには、


「──藤木さん!」


 行方不明になっているはずの藤木さんが倒れていた。ソファの影で死角だったが、両手両足をガムテープで拘束され、膝を折った格好でぐったりしている。


「大丈夫ですか、藤木さん!」


 体を揺するが反応がない。鼻先に手を翳してみると、ほとんど虫の息だ。元々は清潔感のある白いワイシャツだったに違いない着衣は血液や何らかの液体で汚れており、今の今まで暴行を受けていたことがわかる。氷のような冷たさと炎のような熱が怒りと共に体を駆け巡った。


 オレは唇の端から垂れる血を肩口で無造作に拭い、斑金髪を睨む。


「……お前らが藤木さんを拉致したのか!」


「That's rightザッツライト. だったら何か問題でもあんのかよ?」


 斑金髪は何が可笑しいのか大声を立てて笑い出した。


「お前、Mr.藤木をかばうつもりなら、今すぐ考えをチェンジした方がいいぜ。これはMr.藤木の自業自得ってもんなのさ。自分で蒔いた種は自分で刈り取ならきゃならないってゴッドも言っているだろ」


「自業自得だって?」


Yeees(イエースッ)! 俺はスペシャルに親切だからな、教えておいてやるよ。Mr.藤木は、外面は善人ぶって少年係の刑事なんかやっているが、正体は不良少年少女を食い物にしてDrug(ドラッグ)ドラッグの売買やら製造やらパパ活の斡旋をやってるCrazy(クレイジー)な|Bad policemanバッドポリスマンなんだよ。オレはGod(ゴッド)に成り代わり、Mr.藤木にJustice(ジャスティス)の鉄槌を下してやったのさ。これは天罰、すなわちCarma(カルマ)! 可哀想にお前は騙されていたんだよ」


 斑金髪は薄い眉毛を寄せて心底同情する顔を作った。


「嘘だ!」


「No no, This is no Jokeディスイズノージョーク! オレらはMr.藤木の指示で、ここで合法Drug(ドラッグ) を製造していたんだからな!」


 イカれた斑金髪と喋っていても埒が明かない。そう判断したオレは斑金髪の隣に立つ上野に視線を移した。


「おい、上野。藤木さんを解放してやろうぜ。このままだと藤木さんが死んじゃうよ。今ならまだ引き返せるって。なあ、上野!」


 上野は物言いたげに口を開いたが、それを斑金髪が遮った。


「二度と口が利けねえようにしてやんよ。「Hey,Chiby(ヘイ、チビィ)!」


 いつもであればコンプレックスをざわつかせる発言に腹を立てるところだが、今はそんな余裕を持ち合わせていなかった。


 オレの鼻先に斑金髪が隠し持っていたバタフライナイフが突きつけられたのだ。


 オレを見下げる、底なし沼のような暗い瞳がこれは単なる脅しではないと公言している。


「Fuck youuuuuファックユゥゥゥゥゥッ!!!」


 斑金髪が狂気に満ちた雄叫びを上げた。

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