第8話 スランプと停滞
仲間と出会い、励まし合いながら書き続ける日々。
孤独だった頃とは違い、執筆は確かに楽しくなっていた。
PVも以前に比べれば増え、ランキングに顔を出すこともあった。
「これなら少しずつでも上に行けるかもしれない」――そんな期待を抱いていた。
だが、甘くはなかった。
数字は右肩上がりではなく、ある日突然ぴたりと止まった。
ブックマークも感想も増えず、ランキングからも姿を消した。
努力が結果に繋がらない日々が始まったのだ。
■ PVが動かない
その頃の私は、毎朝スマホを開くのが習慣になっていた。
目覚ましを止めるより先に「なろう」の管理ページを確認する。
PV、ユニーク、ブックマーク――昨日の数字がどうなったかを確かめるのが日課だった。
だが、画面に表示されるのは冷たい数字。
「昨日:38」
「一昨日:37」
「その前:36」
ほとんど動いていない。
100を超えたあの感動はどこへ行ったのか。
まるで数字が意地悪をしているように見えた。
■ 心に広がる不安
数字が伸びない日々が続くと、心の中に黒い霧が広がっていく。
「もう読まれていないんじゃないか」
「飽きられたんじゃないか」
「そもそも面白くないんじゃないか」
仲間が「停滞期は誰にでもある」と励ましてくれる。
理屈ではわかっている。
だが、目の前の数字は嘘をつかない。
私は何度も原稿を開きかけては閉じ、キーボードの上で手を止めた。
まるで「書く意味があるのか」と問われているようだった。
■ 更新を迷う夜
特にきつかったのは、毎晩の更新前だ。
「更新しても誰も読んでくれなかったら?」
「むしろPVが減ったら?」
不安が頭をよぎり、投稿ボタンを押す指が震える。
結果が出ないときの更新は、まるで暗闇に石を投げ込むようだった。
音もなく沈んでいく石を想像しながら、「またゼロかもしれない」と胸が冷えた。
だが、それでも私はボタンを押した。
「続けることに意味がある」と、仲間の言葉を信じた。
■ 読者の沈黙
停滞期に入ると、読者も沈黙する。
感想欄に新しい書き込みはなく、ブックマークも変化しない。
以前はあんなに嬉しかった通知が、今はただの虚しさに変わっていた。
「本当に面白いなら、感想がつくはずだ」
「感想がないということは……つまらないんだ」
そんな思考に陥ると、自己否定が止まらなくなる。
作品だけでなく、自分自身を否定してしまうのだ。
■ 諦めかけた瞬間
ある夜、私はついに更新をやめようとした。
パソコンの前で手を止め、ため息を吐く。
「もう、ここまでかもしれない」
キーボードに置いた指が、重くて動かなかった。
これまで積み上げてきた努力が、すべて無駄に思えた。
だが、そのとき――スマホが震えた。
通知が一件届いていた。
「応援しています! 次回も楽しみにしています」
短いメッセージ。
だが、その一文が私を引き戻した。
■ スランプの意味
停滞期は苦しい。
数字は伸びず、心は折れそうになる。
だが、あの夜私は思った。
「停滞は無駄ではない」。
停滞するからこそ、支えてくれる人の存在が際立つ。
伸びないからこそ、少しの数字の変化が輝いて見える。
止まったように思えても、地面の下では根が広がっているのかもしれない。
そう思うと、少しだけ気が楽になった。
■ 今日のまとめ
停滞期は必ず訪れる
数字が動かないと自己否定に陥りやすい
だが、一人の応援が停滞を乗り越える力になる
停滞は無駄ではなく、成長の前触れかもしれない
私は再びキーボードに指を置いた。
画面の向こうにいる「まだ見ぬ読者」のために。
そして、沈黙の中で応援してくれる誰かのために。
停滞の先に待つのは――バズる瞬間なのかもしれない。