3話:デート
マナさんに手を引かれるまま、学校を後にし10分近くが経過。
徒歩10分圏内と言えど、あまり通らない道に出て、この辺りは見覚えがない。
「半ば強引に連れ出してしまい申し訳ありません、気持ちが焦り考えなしで飛び出してしまいました、リンさんとの話は大丈夫だったでしょうか?」
「まぁ……いつもの事だし、それは大丈夫。
ところで聖剣って……なに?」
「それは、ネオウさんの方が詳しいかと」
この言い方だと、何かの商品名的な事で無く、オレが連想するような聖剣と思って良さそうだ。
にわかには信じられないが、少なくともマナさんの中ではそうなのだ。
「んで、聖剣ってどこでなくしたの?」
「はい?」
「異世界人を探すって難しそうだし、とりあえず現場を見たいっていうか」
「さすがネオウさん!! 聡明であられますね」
聡明なんて言い方で褒められたのは初めてだ、それもこんな真っ直ぐな目で。
マナさんは顎に指を当て黙考した後、口を開いた。
「ええと、奪われてた時の記憶が曖昧でして……
その日に行った場所を巡る感じでもよろしいでしょうか?」
「いいよ、今日は急ぐような予定もないし」
記憶が曖昧? まさか異世界人に記憶を……なんてのは彼女の話を間に受けすぎか。
これがマナさんの作り話と仮定した場合、その目的は何だろうか?
パッと思いつくのは……オレをデートに誘いたかった?
……無いですね、こんな可愛い子が。
聖剣とか言い出す子に対してアレだけど妄想がすぎました。
「ネオウさん、どうなさいました?」
「いえっ!! 何も!!」
考え事をしながら歩いている内に、最初の目的地に着いたようだ。
10分近くは無言で歩いていた……デートなら失格、デートじゃなくて良かったね。
「ここは……?」
「マキシム水族館です、来たことありませんか?」
デカデカと看板があるので、マキシム水族館なのは見れば分かる。
ちなみに小さい時に来て以来で懐かしい。
っとまた妄想に浸らないよう、ブルブルと首を横に振った。
水族館は、その名の通りマキシム社が運営している。
そして同じくマキシム社が運営するマキシム高校の生徒は、無料で利用する事ができるのだ。
無料なら来れば良かったとも思うが、相手がいない。
友達はいるけど男子と水族館は行く気にならない。
「ネオウさん!! 見てください!! シャチです!!」
「おぉ、こんな近くで見たの初めてかも!!」
「ネオウさん見てください!! ジンベイザメです!!」
「さすがにデカいね!! 凄い迫力!!」
マナさんの話では、この前も水族館に来ているハズだが、彼女はそうとは思えない燥ぎぶり、オレも十数年ぶりの水族館を満喫した。
まさか女子と制服で水族館に来れる日が来るとは!!
アレ? 何か忘れているような……
「あのぉネオウさん、次はマキシム遊園地にも行きたいのですが、お時間大丈夫でしょうか?」
上目遣いで聞いてくるマナさん、こんなの断れる訳がない。
いや、時間は大丈夫だし断る理由もないのだが。
マキシム遊園地は、マキシム水族館のすぐ隣にある。
マキシム高校の生徒は無料で……以下略だ。
「水族館か遊園地、このどちらかで聖剣を奪われたと思うのですが……」
あぁそうだ、遊びに来たんじゃなく、聖剣を奪った異世界人を探しに来たんだ。
犯人は現場に戻ると言うが、短期間で水族館や遊園地を訪れるモノだろうか?
「この前も来たばかりで、今日は遊ばないつもりでしたが、何度来てもワクワクしますね!!」
……まぁマナさんは例外に分類しておこう。
「あっあのさぁ、異世界人って言っても色々な人がいると思うんだけど、特徴とか教えてもらえないかな?」
「そうですね、失礼しました」
ペコリと一礼をした後、考え混む仕草をするマナさん、ヤバい……かわいい。
「先日の記憶は本当に曖昧でボヤッとしているのですが……
そうです!! 年齢は私達と同じくらいで髪は銀髪だったと思います」
「うーん他に何か特徴は無いの?」
数百年前は、大半の日本人の髪の色は黒だったと聞く。
だが現代日本人の髪の色は千差万別、地毛で銀髪は探せばまぁまぁいる。
まぁオレは黒髪なんだけどマナさんは金髪ロングだし、リン生徒会長は赤みがかってる。
「一瞬の出来事でしたので……あっ!! 耳の形が特徴的でした!!」
「耳の形?」
「上に長い? いいえ、尖ってると言った方が正しいでしょうか?
長い髪が風で靡いた時に、少し見えただけですが間違いありません」
「尖った耳、異世界人……」
そう聞いて思い当たる種族は……エルフ。
古のライトノベルには、良く出てくるが、マキシム社が管理している現代のライトノベルには一切登場しない。
現代でエルフを知る人間は、ほとんどいないだろう。
マナさんは、本当に聖剣を持っていて本当に異世界人に奪われた、俄には信じられないが、そう考えるのが一番自然という事になる。
「一瞬見ただけなのに、どうして異世界人って分かったの? 耳の形だけ?」
「“私の世界を救うために必要なんですゴメンナサイ”と仰っていましたので」
「なるほど……マナさんの聖剣で自分のいた世界を救うのが目的なら、言いにくいけど、もうこの世界にはいないかも」
「そんな……」
ってオレは何を異世界が実在する前提で話をしているんだ?
マナさんのペースに完全に飲み込まれてしまった。
しかし彼女の落ち込みぶり……少なくとも大切な物を取られた事に変わりはなさそうだ。
力になってあげたいが、情報が少なすぎて、これ以上どうする事もできない。
「ヘイ彼女!! 俺達と一緒にお茶しない!?」
オレの思考を妨害するような大声で、近くでナンパ師が動いているのが聞こえる。
しかし、いつの時代のナンパだ? 昔でもこんなナンパが実在したかは定かで無いが。
「あっ!!」
「え!? !?」
できるだけ関わらないよう、遠ざかろうとしていたオレをよそに、マナさんがナンパ師の方に飛び出して行ってしまった、正義感が強いんだなぁ……とか言ってる場合じゃない!!
オレも、すぐにマナさんの後を追った。
この状況であれば、ナンパされ困っている女性を助けに行った、誰もがそう思うだろう。
その予想は外れていた、だって今の今話していた特徴の相手が、そこにいるなんて偶然、そうそうないじゃん?
今思えば、必然だったのかもしれない。
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