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底辺魔物と底辺テイマー  作者: @aozora
第四節 再びの城塞都市、新たな旅の始まり

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第152話 王都からの帰路、それは旅立ちの準備

王城での出来事、それはシャベルの想像を遥かに超える驚きの連続であった。緊張のあまり国王陛下との謁見の記憶を失ってしまうというとんでもない失態を犯してしまったシャベルではあったが、フェルトマ宰相とライド伯爵の説明により自身の置かれた状況を認識し、その事により再び硬直してしまう事態に陥った事は自身を全ての人々の最底辺として認識するシャベルにとっては致し方のない事なのであった。


「シャベル様、名誉男爵に叙されました事、誠におめでとうございます。家名を“ファミリア”と定められたとお伺いしております。

これからはシャベル・ファミリア名誉男爵様とお呼びさせていただきます、御用向きの際は遠慮なくお声掛け頂きますようお願い申し上げます」


貴族とは貴族位を受け継いだ者、爵位を叙された者を指す。各貴族家の夫人並びに令嬢令息は、貴族の家族であって正確には貴族ではない。それは嫡子であろうと同様であり、ミゲール王国の貴族制度においては、たとえ侯爵家嫡子であろうとも男爵位を持つ貴族の方が身分は上という事になる。

シャベルは王城にて国王ダストフ・グラン・ミゲールより直接名誉男爵に叙されるという栄誉を賜った。名誉男爵とは称号であり爵位ではないものの、男爵と同等とみなされる一代爵位と呼ばれるものである。

ライド伯爵家王都屋敷執事長ヨーゼフ・ライトラインは目出度くも名誉男爵に叙されたシャベルに敬意を払うと共に、その栄誉を心より祝福するのであった。


「シャベル殿、今後の事であるが王都出発は三日後を予定している。此度の謁見を受けて、ライド伯爵家として各方面に顔を見せる必要があるのでな。その間シャベル殿には王都を楽しんでもらいたいと考えている。

何か要望があればヨーゼフに声を掛けるとよい。ヨーゼフ、シャベル殿の事、よろしく頼むぞ」

「はい、旦那様。シャベル様、何かご要望はございますでしょうか?」


王都出発は三日後、シャベルは正直な話未だ夢でも見せられているような現実味のない心持ではあったものの、心に浮かぶ幾つかの思いをヨーゼフ執事長に問い掛ける。


「はい、それでしたらどこかお酒を購入できる店をご紹介いただければと。この機会にこれまでお世話になった方々にご挨拶がてらお配りできればと思いまして」

シャベルは“ワイバーンの巣”の代金として旧アーデル子爵領の土地所有権及び管理権を譲渡された。これはシャベルとシャベルの家族にとってはこの上ない報酬であり、ダストフ国王の真意である旧アーデル子爵領の復興支援は自身が負うべき当然の義務であるとすら考えていた。

シャベルにとって旧アーデル子爵領に向かう事は既に決定事項であり、復興に生涯を賭ける覚悟は出来ていた。

そんな自分がこれまで世話になった多くの人たちにどう感謝の気持ちを伝えたらよいのか、シャベルは拙い自身の経験から王都の酒屋での買い物を望んだのであった。


“自身が世話になった者たちへ感謝の気持ちを伝えたい”、名誉男爵となった事を偉ぶるでもなく、自慢するでもなくただ感謝の思いを伝える。このシャベルの言葉はライド伯爵家王都屋敷の者たちに深い感銘を与え、この無欲で真っ直ぐな青年に健やかに過ごして貰いたいという思いをより一層強くするのであった。


「<鑑定>、ふむ、“従魔の指輪”には違いないと。でも指輪の内側に付けた傷がなくなっているって事は、誰かがすり替えたって事で間違いないよね。

これって誰か他所のテイマーの従魔が入ってるのかな? 他人のテイム魔物って、指輪から出せるのかな? 鑑定だとその辺の細かい点は分からないし病原になるような従魔だったら嫌だよね。これってどうしたらいいんだろう?」

ライド伯爵家の客間に戻り一息ついたシャベルは王城から下がる際に返された従魔の指輪を<鑑定>し、警戒していた件が現実となった事に身を震わせる。スライムに関しては乾燥スライム作製用の個体であった為違いが分からなかったものの、どことなく違和感を感じたことからすり替えが行われた可能性が高いのではないかと結論付けるのだった。


「しかし嫌がらせにしてもテイマーからテイム魔物を取り上げたら、<テイム>スキルの繋がりからすぐにバレると思うんだけど、なんでこんなことをしたんだろう?

もしかしてバレることが目的だったとか? 王城で冒険者が騒ぎを起こせばその冒険者を連れてきた貴族家に累が及ぶ、であれば騒ぎを起こさせる事こそが目的だった? 従魔の指輪が本物であることは<鑑定>を行えばすぐに分かることだし、テイム魔物は言わずもがなだしね」

テイマーは<テイム>スキルに依る繋がりにより従魔に意思を伝えている。魔物である従魔がテイマーの命令を聞き行動できるのは、<テイム>スキルの効果によるところが大きい。テイマー自身従魔との間にこの繋がりを感じることが出来る為、例え見た目の区別のつきにくいスライムであろうと、テイマーが自身の従魔を間違える事は有り得ない。

だがその事を立証するとしたらどうだろうか、すり替えられたただのスライムがテイマーの言う事など聞くはずもなく、その事を以って従魔でないと主張しても“それはテイマーとしての資質の問題では? 外れテイマーは口だけですな”と返されるのがオチである。

騒動を起こさせることが目的ではないのかというシャベルの推測は見当違いの憶測などではなく、シャベルが城門で騒ぎ立てなかった事で相手の目論見を回避することが出来たとの見方は、陰謀渦巻く王都においては正しいと言わざるを得ないのであった。


――――――――――


「おい、あれって“スライムテイマーのシャベル”じゃないか?」

「“スライムテイマー”って王都下水道のスライムを片っ端からテイムして特殊スライムに統合させてっていうあの? 塩漬け依頼になっていた十二箇所の難関場所のスライム退治をたった一日で完遂させたっていう意味不明な偉業を成し遂げた金級冒険者、張り合う気もねえがスゲーって事だけは確かだよな」


「そうだよな、下手に馬鹿にして“それじゃお前がやってみろ”って言われても無理だもんな。どんな分野にでもとんでもない奴はいるって事だよな、うん」

王都冒険者ギルド本部、シャベルが初めて訪れた際に“金級冒険者がスライム退治の依頼を受けた”という事で騒動となったそこでは、シャベルに対し“スライムテイマーのシャベル”という侮蔑とも言い難い何とも微妙な二つ名が贈られ、皆が一歩引いた形でシャベルに視線を送っていた。

これは下水道のスライム退治に白金級冒険者“雷剣のエステバン”が同行した事もあるが、エステバンから語られたシャベルのスライム退治の方法が冒険者たちの想像の斜め上であり、ライド伯爵領のダンジョン都市カッセルにおいて“スライム使い”と呼ばれ恐れられていたシャベルの逸話が伝わった事で、“下手に手を出してはいけない要注意人物”という認識が広まった事も大きかった。


「こんにちは、王都冒険者ギルド本部へようこそ。本日はどういったご用件でしょうか?」

「あぁ、俺は金級冒険者のシャベルという。ギルド長と面会したいのだが確認を頼めるだろうか? それと明後日王都を出る事になったのでその報告も頼む」

金級冒険者の滞在ならびに出立報告は努力義務とされている。都市における高位冒険者の出入りの把握は都市防衛の意味合いからも重要であり、街門での入街・出街の際の審査記録は、街門だけではなくその都市の冒険者ギルドとも共有される。

高位冒険者の多くは事の重要性を強く認識しており、自ら報告を行う事で冒険者ギルドとのより良い関係を築いているのであった。


「只今確認してまいります、あちらの席にお座りになりお待ちください」

受付カウンターの受付職員はシャベルに場所を移って待つように声を掛けると、同僚に受付業務を代わってもらい席を外す。シャベルが受付を離れると代わりの受付職員が窓口業務を再開させる。

シャベルはこの流れるような業務交代と受付に並ぶ冒険者に負担を掛けまいとする受付職員たちの姿勢に驚くと共に、冒険者ギルド本部職員の質の高さに唯々感心するのであった。


「待たせたか、こちらも少々立て込んでいてな。それで今日はどういった用件だ? また下水道に潜りたいといったことなら受付で話を付けてくれれば大丈夫だぞ?」

ギルド長は前回シャベルが起こした騒動を揶揄うように、笑みを浮かべ軽口を向ける。シャベルが下水道でどのようにスライム退治を行ったのかの話をエステバンに広めてよいと許可したのはギルド長であり、それはその際に発見された隠し部屋の事を隠す為のカモフラージュでもあった。


「いや、今回はその件じゃない。近いうちにこっちにも話が伝わると思うから言ってしまうが、昨日ライド伯爵閣下が国王陛下に謁見する際に同行してな、名誉男爵の称号を賜ることとなった。家名はファミリアとしたのでこれからはシャベル・ファミリア名誉男爵と名乗ることとなった。

そうだ、この場合ギルドカードの名前も変更しなければいけないのか? 俺はそういった事に疎いんだが」

「はぁ!? いや、国王陛下との謁見って、すまん、状況が全く把握出来ん。何がどうなったらそんな大事になってしまうんだ? それに名誉男爵と言えば救国の英雄でもなければ授かることなんてない称号だぞ? お前は一体何をやったんだ、まさか下水道で・・・」

自身の言葉に慌てて口を押さえるギルド長、シャベルはそんなギルド長に笑みを向けるとその言葉を否定する。


「ハハハ、何を言ってるんだギルド長、下水道の隠し部屋には何もなかった、その事で俺がこんな凄い栄誉を賜る訳がないだろう? ギルド長も知っていると思うが俺は職外調薬師としても活動していてな、その過程で癒し草の栽培技術の確立に貢献したんだよ。それとダンジョン産アイテムの販売だ、王家に最高級香木の塊である“ワイバーンの巣”を売却した。事前確認に訪れたフェルトマ宰相閣下のお話では金額の付けようがない程の素晴らしい品って事だったぞ?

本来であれば王都冒険者ギルド本部でオークションに掛けるところなんだろうが、物が良過ぎる事と量が多いという事によって香木の価格崩壊を起こす可能性が高かった。これはミゲール王国経済に多大な混乱を引き起こす危険性があったんでな、王家に処分を願い出たって訳だ。

ダストフ国王陛下はこの話を快く了承して下さったんだが、その支払いがな。値段の付けようがないとまで言わしめた品に対する支払いを如何したらいいのか、その解決策として提示されたのが名誉男爵の称号と旧アーデル子爵領の土地所有権及び管理権を譲渡だったのさ。

で、今日ギルド長に面会を求めたのは旧アーデル子爵領で冒険者ギルドがどうなっているのかって話なんだけど・・・って俺の話聞いてるか?」


シャベルから語られた話の内容に思考が停止するギルド長。ダンジョンアイテムである最高級香木の塊“ワイバーンの巣”をオークションではなく王家に直接売却したという話に思わない事はないが、それがミゲール王国経済の混乱を回避する為と言われればどれ程の品であったのかと頭を抱えざるを得ない。

しかもその支払いが何の価値もないと見放された厄災の被災地である旧アーデル子爵領の土地所有権及び管理権と聞かされては、混乱を起こすなと言う方に無理があるだろう。


「あ、うん? 名誉男爵は男爵と同等の扱いだったか? それじゃ敬語を使わないとまずいのか? すまん、言葉遣いが間違っていたら謝ろう。

少し混乱していてな、いや、何が何だか分からないと言った方が正確だろう。

先ず質問の冒険者ギルドだが、旧アーデル子爵領南部の魔物被害が軽微であった都市には残っている。とは言っても子爵領だからな、元々冒険者ギルドを置くような街は三箇所しかなかったんだが、その内の二箇所が大規模スタンピードに吞まれちまった。現在は南部ローデグランに残ったローデグラン支部が唯一の冒険者ギルド支部になる。

ただ多くの冒険者が死んじまったからな、質の高い冒険者は皆他所に移っちまった。元々それ程経済力のある地域じゃなかった事もあって、支部経営はあまりうまくいっていないというのが正直な話だ。

一度は撤退の話まで出たような所だ、そのつもりでいた方がいい。

というか、何でそんな話を受けたのにお前は平然としてるんだ? 誰がどう聞いても貧乏くじどころか懲罰の一種だろうが」


ギルド長の歯に布着せぬ物言いに苦笑するシャベル、だがそれは誰もがそう考える程に旧アーデル子爵領の状況の悪さを物語っているのであった。


「まぁギルド長の言わんとする事は分からなくもない、だが俺にも事情があってな。ギルド長も知ってるだろう? 俺の家族のことを。まぁそう言う事だ、何とかしてみるさ」

そう言い肩を竦めるシャベルに、シャベルの従魔の事を思い出し乾いた笑いを浮かべるギルド長。


「ハァ、そういう事ならまぁ仕方がないのか? 大した手助けも出来んが紹介状くらいなら書いてやろう。シャベルの従魔たちなら現状を変えるに十分な戦力だろうからな。

問題は物流か、商取引は壊滅的だって話だぞ?」

互いに顔を見合わせ大きなため息を吐くギルド長とシャベル。復興の決意とは裏腹に山積する諸問題、シャベルは改めて自身の力のなさを痛感しつつ、出来ることから少しづつ行うしかないと自らに気合いを入れ直すのであった。

宣伝です。


書籍化決定、Amazonサイトにて予約販売受付中。

https://www.amazon.co.jp/dp/4800017637?tag=kisarayms-22&linkCode=ogi&th=1&psc=1


発売は6月10日、ご購入は書店かネット販売にて!!

閑話でシャベル君のお母さんについての書下ろしがございます。

書泉様のどこかの店舗(詳細不明)、電子書籍版では特典SSが。

頼まれて書いたんですが、詳細はよく分からないっす。


by@aozora

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― 新着の感想 ―
なるほど……ボクシーに預けていたんですね……その部分のことを忘れていたのですり替えが行われていたとばかり勘違いしてました。ありがとうございます。 それはそれとして、このことを陛下に伝えたら陛下キレそう
>シャベルが城門で騒ぎ立てなかった事で相手の目論見を回避することが出来たとの見方は、陰謀渦巻く王都においては正しいと言わざるを得ないのであった。 クレームって直後に言わなきゃ後から言っても「すり替えた…
更新お疲れ様です。 >指輪すり替え やりやがったなぁ…どこのバカ貴族か知らんが。これ陛下が知ったら大激怒でしょうね…国のトップである自分が真摯に相手に対応したのに、配下がその相手に汚水をぶっかけたよ…
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