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底辺魔物と底辺テイマー  作者: @aozora
第四節 再びの城塞都市、新たな旅の始まり

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第140話 王都モルガノへの旅、振り返る過去

王都モルガノ、そこはミゲール王国の要にして政治経済の中心地。ミゲール王国国内ばかりか、周辺諸国からも人や物や金が流入するミゲール王国の心臓にして頭脳。

ミゲール王国の人々は王都に憧れ、王都を目指し、王都へと旅に出る。

人は王都に夢を見る。栄光や名声、財貨や成功、人は王都の華やかさに己の輝かしい未来を幻視する。

王都はそんな人々の欲望と憧れを糧に、人々を惹きつける輝きを放ち続ける。


ライド伯爵領の領都セルロイドを出発したライド伯爵家の一団は、これといった問題に遭遇することもなく順調に王都への旅を続けていた。王都までおよそ四週間の行程、その間ライド伯爵家の馬車に揺られることとなったシャベルは、自身の置かれた立場や状況を実感し、今更ながら緊張に震えていた。

“俺は何でこんなことになっているんだろう”

ふとした瞬間に心に押し寄せる疑問と不安、シャベルはライド伯爵家居城を目にした時から続く説明のしようのない不安に押し潰されそうになりながらも、同乗の馬車に座るライド伯爵に請われるまま、自身のこれまでの冒険譚を語って聞かせるのだった。


シャベルは決して才能のある冒険者ではなかった。十二歳の授けの儀に於いてテイマーという冒険者としてはハズレ職と呼ばれる職業を授かり、戦闘用のスキルも棒術というあまりぱっとしないものしか所持してはいなかった。

冒険者として活動を始めたスコッピー男爵領マルセリオの街では、“街の雑用係”と揶揄され、街中の雑用依頼専門の冒険者として日々の生活費を稼ぐことで精一杯という状態であった。


冒険者は魔物と戦う事を生業とする者たちである。その土地の領主や周辺地域の街や村から討伐依頼を受け、現場に赴き魔物を討伐する。魔物蔓延るこの世界で、力ない人々に代わり皆が安心して暮らしていける世の中を創り出すために日々魔物と戦い続ける。

幼い頃に聞いた高位冒険者の英雄譚に憧れ剣を持つ彼らは、そんな自分たちの生き方に誇りと自信を持っている。

そんな冒険者たちからすればシャベルのような街の雑用依頼しか受ける事のない者は臆病者の雑魚であり、冒険者の風上にも置けない存在として軽蔑すらしていた。


だがシャベルは挫けなかった、己が冒険者ギルドマルセリオ支部に於いて厄ネタ持ちの訳アリとして敬遠されていることも、戦う力がなくホーンラビット相手にも命の危険性があることも受け入れ、自身に出来ることを誠心誠意熟し、日々生き残る事に真剣に取り組んでいた。

その努力は丁寧な仕事を熟す者として街の者たちに歓迎され、“街の雑用係”の呼び名は冒険者ギルドの冒険者たちとは真逆の、頼れる者に対する愛称として定着していった。


そんなシャベルの環境ががらりと変わったのは、冒険者ギルドからの頼みで飲み屋街の溝浚いという所謂“塩漬け依頼”を請け負ったことからであった。

“くさい・汚い・割に合わない”の三拍子そろった外れ仕事は、誰もやりたがろうとしない冒険者ギルドで持て余されていた依頼であり、そんな依頼を嫌な顔一つせず熟すシャベルという人材は冒険者ギルドにとって貴重な戦力でもあった。

シャベルは自身のテイマーとしての能力を生かし、依頼人に喜ばれる最高の仕事を行うため懸命に働いた。

スライムに溝をせき止めさせ、清掃箇所の水を抜いてビッグワームに泥を掻き出させる。これまでだれも考えつかなかった最下層魔物の活用法、シャベルの仕事は意外性の塊であり、溝の底のレンガまで見える完璧な仕事ぶりに、街の者全員が感嘆の声を上げた。


だが巨大なビッグワームを連れ、荷車に括りつけた樽に溢れんばかりのスライムを乗せて街中を移動するシャベルの姿は街の住民たちの忌避感を呼び、シャベルは臭く汚い溝浚いを行う底辺冒険者として“どぶさらいのシャベル”との呼び名と共に嫌悪の対象となっていった。


傍に置きたくはないが汚れ仕事をさせるのに都合がいい便利な小間使い、街に定着したシャベルのイメージは宿屋はおろか食事処や屋台、道具屋から小物の店に至るまですべての店からの入店拒否を言い渡されるという最悪な形へと進み、シャベルは街の外の魔の森での暮らしを余儀なくされることとなった。


しかしそんなシャベルを救った者もまたマルセリオの街に暮らす一部の心ある者たちであった。シャベルに対し心配の声を掛ける門兵たち、シャベルを正当に評価する冒険者ギルドの解体所職員と総合受付責任者、街の噂など関係ないとばかりにシャベルに仕事を与える石工の親方、そして丁寧な仕事を行う者は正当に評価すると謳って憚らない薬師ギルドの人々。

シャベルにとってマルセリオは決して暮らし易い街ではなかった。街の住民のシャベルを排斥しようという動きは尋常ではなく、その流れに逆らえず苦渋の決断としてシャベルから離れていった者も少なからずいた。

だがそれだからこそシャベルは自身を大切に思ってくれる人々に感謝し、その思いに応えようと必死に努力を重ねた。


調薬のスキルがなくとも薬師ギルドの正規会員となることの出来る職外薬師という制度、銀級冒険者資格、難関と呼べる二つの身分を手に入れ名実ともに一人前としてスコッピー男爵領を旅立ったシャベル。

その後さまざまな旅の困難を経てライド伯爵領の城塞都市ゲルバスに到着。職外調薬師として、テイマー冒険者として活動する中、発生したスタンピードに於いて多くの冒険者を指揮し功績を残す一方、従魔たちの活躍によりゲルバスの街を魔物の脅威から救う活躍を見せた。


金級冒険者シャベル、その評価は正当かつ妥当なものでありその判断が間違っていなかったことは、ダンジョン都市カッセルに於いてダンジョン罠により四十階層台に落とされるも単身生還し、数々のドロップアイテムを持ち帰ったことで証明して見せた。


これまで不可能とされてきた癒し草の栽培方法を確立し、ポーションEXというハイポーションに匹敵する効果を持つポーションを、調薬スキルがなくとも作ることの出来る画期的なレシピを編み出した偉人。

強力な従魔を従え、ダンジョンよりエリクサーを持ち帰った金級冒険者。


シャベルの語る物語はライド伯爵がこれまで耳にしたどの冒険譚よりも悲しく切実で、それでありながら胸の熱くなるエピソードに彩られていた。


「シャベル殿、残念ですがそろそろ王都に到着してしまいますな。王都までの旅路がこれほどまでに楽しく過ごせたのは初めてであった、この話の続きはぜひとも帰りの馬車の中でお願いいたしますぞ」

そう言い少年のようににこやかな笑みを浮かべるライド伯爵。ライド伯爵領領都セルロイドから王都までの四週間の馬車移動ですっかりシャベルのファンになってしまったニコラス・ライド伯爵は、舞台の終わりを惜しむ観客のようにシャベルに握手を求める。

シャベルはこの四週間共に過ごしある意味寝食を共にしたライド伯爵の人柄に、“貴族の中にもこのような心許せる人物がいるのか”と緊張と警戒も解け、いつの間にか馬車の旅を楽しむ余裕すら持つ事が出来るようになっていた。


「ここから先、王都に着いた後の事を話しておこう。まず我々は王都にあるライド伯爵家屋敷へと向かう、そして王城に到着の旨を知らせ、王城からの返事を以って国王陛下との謁見となる。

ただ此度は事前に取り決めなければならない事柄もある故、ライド伯爵家屋敷か王城の来賓の間にて事前交渉を行う事になるやもしれん、そのことは心に留め置き願いたい。

通常であれば到着の知らせを送ってから三日から四日後に王城より返事が来ることとなる。陛下との謁見も含まれるとあればお忙しい陛下のご予定を加味せねばならず、その辺りは承知願いたい。

王都での過ごし方は好きにして構わぬが、日が暮れる頃にはライド伯爵家王都屋敷に戻ってもらいたい、此度は謁見を控えての王都入りである故この点は諦めてもらいたい」


ライド伯爵の話はいちいち尤もであり、シャベルに異論はなかった。むしろシャベルは王城へ登城するまでの間屋敷内に留め置かれることを覚悟していただけに、王都で自由に過ごしてよいとの言葉は意外でありどのように過ごしてよいのか困惑したほどであった。


「王都での外出許可をいただきありがとうございます。実は王都に来たら一度冒険者ギルド本部を訪ねてみたいと思っていたのですよ。

カッセルのダンジョン第一階層の話をさせていただいたときにお話しいたしましたが、俺の従魔であるスライムの天多は群体スライムという特殊なスライムでして、俺の持つスキル<魔物の友>と非常に相性の良い<統合>というスキルを持っているんですよ。

これは俺がテイムしたスライムを天多自身と同化し吸収する能力でして、ダンジョンではこの力にずいぶん助けられたものでした。

前々から王都の話で一つ気になっていたことがあったんです、それは王都の下水道はスライムで溢れかえっているという話なんですが。

溢れかえるほどのスライムがいるのであれば、どれ程天多の強化に繋がるか。王都の冒険者ギルドではスライムの駆除依頼も取り扱っているとか、ぜひともそれを受けてみたいと思っていたんですよ」


そう言いにこやかに微笑むシャベルに、“下水道のスライム退治をこれほど楽しそうに語る冒険者はシャベル殿だけであろう”と思わず笑いそうになるライド伯爵。

馬車は進む、王都モルガノを目指して。街道を行き交う多くの馬車と人々、そして遠くに見える長大な王都の街壁は、ライド伯爵家の人々にこの旅の無事な終わりを知らせるものなのであった。


――――――――――――――


“コンコンコン”

「失礼いたします。宰相閣下にご報告申し上げます。先程ライド伯爵家より当主ニコラス・ライド伯爵が無事ライド伯爵家王都屋敷に到着したとの連絡が入りました。

つきましては登城予定の確認を行って欲しいとの由にございます」


王城内宰相執務室、そこでは王城に寄せられる様々な問題の解決に宰相フェルトマ・ドウトニウスが日々考えを巡らせていた。


「おう、ようやく到着したか。陛下からは到着し次第優先的に予定を調整せよとのお言葉をいただいている。緊急性は低いため本来であれば謁見は十日程後になるところであるが、陛下のご要望である、多少の配慮は必要であろう。

執務補佐官、陛下のご予定を考え最短でいつ頃になら組み込めそうであるか?」

「はい、緊急であればいつでもと申し上げたいところですが、陛下との謁見の前に宰相閣下との詰めの話し合いを設けられた方がよろしいかと。そうであれば六日後の午前最後の予定がよろしいのではないでしょうか?」


宰相フェルトマは執務補佐官の答えに頷き、ライド伯爵宛てに書状を送るよう指示を出す。


「ところで指示しておいた金級冒険者シャベルについて、詳しい情報は集まっているか?」

「はい、詳細はこちらの資料にまとめておきました。しかし面白い人物ですね、このシャベルという金級冒険者は。調べた限りですと決して冒険者向きの人物ではないにもかかわらず結果として金級冒険者にまで上り詰めている。

かと思えばダンジョン都市に於いて自分たちに絡み暴力で支配しようとした者たちに対し、容赦ない対応を示している。その苛烈とも呼ぶべき対応から“スライム使いシャベル”の二つ名で恐れられていたとか。

丁寧な物腰と態度、そしてテイマーという職業により冒険者たちから下に見られ、命を狙われることも一度や二度ではなかったとか。その中でしっかりとした実力と自分たちの敵に対する容赦のない対応で一目置かれた存在、それが金級冒険者シャベルという人物でした。

ですがその顔とは全く違う研究者としての一面も併せ持っている。それは城塞都市での成果のみならず、ダンジョン都市でも遺憾なく発揮され、成果として残されていました。

そしてそんな彼の根底にあるものとして面白い事実が」


執務補佐官はそういうやその記述が載った資料の一文を指し示す。その記載に「ふむ」と興味を示すフェルトマ宰相。


「書状には合わせて私が事前交渉に向かう旨も記すように。そうだな、場所はライド伯爵家王都屋敷がいいだろう、その際金級冒険者シャベルの同席も頼むと記しておいてくれ」

「畏まりました。では宰相閣下の予定もそのように調整させていただきます」

執務補佐官はそう答えると、一礼の後自身の席に戻っていく。フェルトマ宰相は再び冒険者シャベルの資料に目を通しながら、果たしてどういった人物が現れるのかと口元を緩めるのであった。

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