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底辺魔物と底辺テイマー  作者: @aozora
第四節 再びの城塞都市、新たな旅の始まり

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第137話 領都セルロイド、そこはライド伯爵領の中心地

街道を封鎖しアジル執務補佐官の乗るライド伯爵家の馬車の行く手を阻んだ冒険者の集団は、金級冒険者シャベルの従魔であるスライムの天多の活躍により排除された。

当初シャベル自らが冒険者たちの前に姿を見せ解散するように説得を試みるも彼らの意思は変わらず、シャベルの行いは冒険者としては人道的かつ慈悲深いものではあったものの、結果として道を塞いでいたすべての冒険者たちの命を奪う事になってしまったことは悲しい選択と言わざるを得なかった。


天多により全身を覆われ水の中で溺れるかのように儚くなってしまった者たちは、全ての装備品を外されシャベルのリュック型大型マジックバッグに仕舞われることとなった。群体スライムである天多は<亜空間胃袋>という特殊スキルを持ち、仕留めた冒険者たちをその身に仕舞う事も出来た、だがそのことをシャベルは嫌った。

それは大切な家族である天多に盗賊行為に走るような冒険者の亡骸を取り込ませていたくないという、シャベルの偽らざる気持ちの表れでもあった。


一般的に護衛冒険者パーティーが付く馬車移動に於いて、魔物や盗賊の討伐を行った際に発生した戦利品は護衛冒険者パーティーの取り分となる。

城塞都市から魔の森を抜ける移動の際にシャベルの従魔である白銀がグラスウルフの群れを倒した際も、この契約に基づきシャベルは気前よくグラスウルフの亡骸を護衛冒険者パーティーに提供した。

これは円滑に護衛を行ってもらうためだけでなく、護衛冒険者パーティーの士気を上げるためにも必要な措置であった。

シャベルは今回の冒険者たちから集めた戦利品に関してもこの契約に基づき護衛冒険者パーティーへの分配を申し出た。だが護衛冒険者たちはこの申し出を固辞し、シャベルが受け取るべきであると主張した。

これは今回の冒険者たちの討伐がシャベルの従魔だけで行われたという事もあるが、偏に金級冒険者テイマーであるシャベルに恐れを抱いたという事が最も大きな理由でもあった。


金級冒険者シャベルは決して怒らせてはいけない。

目の前で見せつけられた分裂するスライムの脅威は、自然災害に見舞われ己の無力さを嘆く被災者のように、深く濃く彼らの心に刻まれたのであった。


“ガタガタガタガタガタガタガタ”

アジル執務補佐官たち一行がダンジョン都市カッセルを旅立って四日、馬車はついにライド伯爵領の領都セルロイドに到着した。

領都セルロイドの街門前には多くの馬車が車列を作り、門兵による検閲を受けていた。アジル執務補佐官の乗るライド伯爵家の馬車はそんな人々の横を通り過ぎ、貴族専用門での簡単なチェックの後、特に問題らしい問題も起こすことなく領都の街に入る事となったのであった。


「アジル執務補佐官様、お手数をお掛けして申し訳ありません」

「いえいえ、お気になさらず。この件はライド伯爵領の政務官の一人として冒険者ギルドへ正式に話を通さなければならない問題ですので」

ライド伯爵家において内政の深い部分に携わるアジル執務補佐官の手を煩わせることに罪悪感を覚えるシャベルと、今回のような事態を招いた犯罪の温床であるダンジョン都市の暗部を管理しきれていなかった事に、政務官として責任を感じるアジル執務補佐官。

どちらが悪いという事ではないにしても、互いに謝意を向け合う二人。

領都セルロイドに到着してすぐ、彼らが向かったのはライド伯爵家の居城ではなく、冒険者ギルドセルロイド支部の冒険者ギルド建物であった。それは今回の移動の際に発生したライド伯爵家馬車襲撃事件が現役冒険者たちの犯行であり、再発防止の意味も込め冒険者ギルドとして厳正な対処を行わなければならない事態であったからである。


「失礼、ギルド長はおられるか? 火急の用件が発生した、直ぐに面会を求めたい」

「は、はい、ただいま確認してまいります」

ライド伯爵家執務補佐官アジル・ライドの来訪、その厳しい表情からただ事ではないと察した受付職員は、弾けるように席を立つと急ぎギルド長執務室へ向かうのだった。


「なに、アジル執務補佐官が?」

「はい、何やら厳しい表情をなさっておられまして、受付ホールに。それと専属護衛冒険者の方々が一緒に」


「チッ、一体なんだって言うんだ。こっちはエリクサーの問い合わせで四苦八苦しているっていうのに」

冒険者ギルドセルロイド支部のギルド長ゼジル・フリングは、不快な表情を隠そうともせず席を立つ。通常ダンジョン都市で冒険者たちが手に入れたドロップアイテムは冒険者ギルドで一括購入され、各都市へと流通していく。エリクサーのような高額商品は王都冒険者ギルド本部でオークションに掛けられ、その売却収益金は冒険者ギルドの大きな資金源にもなっていた。

だが今回は事情が違った、エリクサーを手に入れた冒険者は冒険者ギルドを介さず薬師ギルド経由でエリクサーの販売を行った。そのため冒険者ギルドに入るはずであった売却収益金は薬師ギルドのものとなり、そのことに対する突き上げはダンジョン都市にあるカッセル支部のみならずライド伯爵領領都のセルロイド支部にも向くこととなったのである。


「大体薬師ギルドで販売されたエリクサーを冒険者ギルドにどうにかしろって言う方が間違っているだろうが、そういう事は直接薬師ギルドに言いやがれってんだ。

しかも値段交渉しろってバカか、青天井のオークションに比べたらよっぽどお得だろうが、そんなこと言ってるからライド伯爵家が自分のところで買い取るって話になったんだろうが」


ぶつくさと文句を言いながら受付嬢と共に受付ホールに向かったゼジルギルド長は、表情を引き締め直すとアジル執務補佐官に用向きを問い掛けるのだった。


「これはお久し振りでございます、アジル執務補佐官様。火急の用件とのことでしたがどういった内容でしょうか?」

「うむ、単刀直入に言えばライド伯爵家の家紋の入った我らの馬車が冒険者共に襲われた。その件に関し冒険者ギルドとしての見解を確認したい。

事と次第によってはライド伯爵領における冒険者の在り方を根本的に見直す必要があるだろう、詳しい事情を説明したいのだがよろしいか?」

“晴れ空にドラゴンの咆哮”とはこの事であろう、あまりの事態に思考が追い付かないゼジルギルド長は、「まずはお話をお伺いします」とアジル執務補佐官とその場の者たちを伴いギルド長執務室へと向かうのであった。


「お話を聞く前にまずは無事に領都セルロイドにお戻りになられたことを心からお喜び申し上げます。それで一体何が起きたのか、どうして冒険者がアジル執務補佐官様がお乗りになるライド伯爵家の馬車を襲うといった暴挙に出たのか、分かる範囲で構いませんのでお聞かせ願いませんでしょうか?」

「うむ、先ずは証拠の品であるが、シャベル殿、盗賊共の冒険者ギルドカードを取り出していただいてもよろしいだろうか?」

アジル執務補佐官の言葉に、背後に控えていた一人の冒険者が背中のリュックを降ろし皮袋を来客用テーブルに置く。ズシャリと音を立てて置かれたそれを開ければ、そこからは優に三十枚はあろうかという冒険者ギルドカードが姿を現すのだった。


「これらは街道を塞ぎライド伯爵家の馬車を停車させた者たちの所持していた冒険者ギルドカードだ。この者たちの要求はアジル執務補佐官様と共に馬車に乗っていた俺の身柄を寄越せというもの、俺に対する要求はダンジョンで手に入れたドロップアイテムはダンジョン探索者である自分たちにこそ受け取る権利のあるものだから、ギルド口座も含め有り金全てを寄越せといったよく意味の分からないものだったな」

そう言い肩を竦めるシャベルに空いた口が塞がらなくなるゼジルギルド長。


「いや、これはそこの冒険者とこの者たちの個人的な諍いが原因というものなのでは? 大変申し訳ありませんが、冒険者ギルドは冒険者同士の諍いには基本的には不介入でして、これが犯罪にかかわるものであれば当然ギルドとしても厳正に対処すべき問題ではありますが」

未だ状況を正確に把握しきってはいないものの、冒険者ギルドとしての基本的な在り方を口にするゼジルギルド長。だがそこにアジル執務補佐官の補足説明が加わる。


「いや、これは説明不足であるから補足するが、先ずこの者たちとシャベル殿には面識はないだろう。こちらは金級冒険者シャベル殿、ゼジルギルド長も名前くらいは聞いたことがあると思うが、城塞都市で発生したスタンピード制圧で活躍し、調薬師として癒し草栽培技術を確立したライド伯爵領の恩人でもある。

ゼジルギルド長にかかわる事としてはエリクサーを薬師ギルド経由で販売に出した人物と言えば理解できるか、今回はその件も含めライド伯爵家の客人として城塞都市よりお招きしたのだ」

アジル執務補佐官の紹介に目を見開くゼジルギルド長、目の前の人物が現在抱える面倒な雑用の原因と知り、何とも言えない引き攣った表情になる。


「シャベル殿はダンジョンの第十八階層、通称“宝箱階層”と呼ばれる場所で銀級冒険者パーティー“銀の鈴”の者たちと共に探索を行っていた。これはシャベル殿がテイマー冒険者同士で結成した金級冒険者パーティー“魔物の友”がダンジョン内で他の冒険者パーティーに襲われ逆に討伐していたところを、冒険者が魔物の襲撃に遭っていると勘違いした彼らが襲い掛かったことに対する謝罪の共同探索であり、そのことは冒険者ギルドカッセル支部で行われた話し合いで決定した契約であったため記録も残っている。

その探索に於いてシャベル殿が発見した隠し部屋で裏切り行為が起きた、シャベル殿は自らが発見した宝箱を奪われたどころかダンジョン罠により下層へ続く落とし穴に落とされた。

シャベル殿が落とされた先は深層と呼ばれる四十階層台、シャベル殿自身生きて戻れたことは奇跡だったと話しておられた」

アジル執務補佐官から聞かされた金級冒険者シャベルの身に起きたとんでもない物語、この時点で冒険者ギルドの者として胃が軋む思いになるゼジルギルド長。


「シャベル殿が冒険者ギルドではなく薬師ギルドにエリクサー販売を託されたのも当然の事、これは少し調べてもらえればすぐに分かるが、シャベル殿が率いる金級冒険者パーティー“魔物の友”はダンジョン都市カッセルでいわれなく冒険者たちに襲われ続けている。シャベル殿がダンジョン都市に於いて“スライム使いシャベル”と呼ばれているのは、彼が使役する特殊なスライムにより多くの襲撃者を返り討ちにしてきたからであるそうだ。

シャベル殿とカッセルの冒険者ギルドは対立関係にはないものの、冒険者ギルドで換金価値の高いドロップアイテムを納品することの危険性をシャベル殿は誰よりも危惧していたという事だ」

そして知らされるエリクサーが薬師ギルドに持ち込まれた真相、ゼジルギルド長はダンジョン都市の阿呆な冒険者共に怒鳴りつけたい気持ちで一杯になるのであった。


「これはある意味俺にも原因があるのだが、俺はテイマーだ。さらに言えばパーティー名にもある通りスキル<魔物の友>の所持者だ。

スライムとビッグワームしかテイムできない残念スキル、ハズレテイマー、それが冒険者たちの俺に対する認識であり、テイマーは世間的に忌避される存在。そんなテイマー冒険者が運がいいだけで自分たちも手に出来ないようなお宝を発見し大金を手に入れた。

他人を虐げ利益を奪う事しか頭にないような低階層探索者たちにとって、俺は嫉妬を越え恨みの対象となってしまったという訳だ」


シャベルの言葉に事態を把握したゼジルギルド長、だがそれであれば冒険者同士の問題と言えなくもないのではといった思いが首をもたげる。


「まぁ俺と馬鹿な冒険者たちの話はどうでもいい、肝心なのはその馬鹿な冒険者たちが街道を塞ぎライド伯爵家の馬車を襲ったという事だ。街道を走る馬車を止める行為は王国法で禁止された重罪、そのことはこの冒険者たちにも口頭で何度も伝えたし、馬車がライド伯爵家のものでありすぐに道を開けるようにとの警告は再三行った。

にもかかわらず現役冒険者であるこいつらは“自分たちは正当な権利を行使している”とうそぶき道を譲らず俺に金銭を要求し続けた。

俺が単独で馬車移動していた時に起きたことであればただの冒険者崩れの盗賊で済むが、この馬鹿どもはライド伯爵家の馬車と知りながら弓を引いた。これは冒険者ギルドがライド伯爵家に剣を向けたことに等しい。話の方向性次第では王家と冒険者ギルドとの確執にもなりかねない大事と考えてもらいたい」


シャベルの言葉、それはゼジルギルド長にとっての死刑宣告にも等しいもの。顔色を蒼白にし、ガタガタ奥歯を鳴らすゼジルギルド長にアジル執務補佐官は静かに語りかける。


「状況はお判りいただけたと思うが、我々も冒険者ギルドと対立したい訳ではない。ただ現状ダンジョン都市が犯罪者の巣窟と化し盗賊冒険者の温床となっていることも事実、我々ライド伯爵家としてもこの事態は憂慮していた事でもある。

ゼジルギルド長には冒険者ギルドセルロイド支部のギルド長として、ライド伯爵家の冒険者ギルドを束ねる責任者として中心となって協力していただきたいと考えている。詳しくはライド伯爵家の実務担当者との話し合いで進めていくことになると思うが、賛同していただけるであろうか?」

そう言いアジル執務補佐官から差し出された右手、それは救いであり拒否を許さぬ絶対的な要求。ゼジルギルド長は震える右手を差し出し、「どうぞよろしくお願いします」と答える事しかできないのであった。

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 まぁギルド長になるだけあって、流石に盗賊まがいのバカ共と違って事態の深刻さを理解する頭はあるみたいですね。 この状況で知らぬ存ぜぬ対応なんてしようものなら、もうそれはヤバいことに…
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