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底辺魔物と底辺テイマー  作者: @aozora
第四節 再びの城塞都市、新たな旅の始まり

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135/148

第135話 領都に向かう旅、途中の街ダンジョン都市に到着

城塞都市ゲルバスを出発し領都へと向かう商隊は、二つの危険地帯を通過しなければならない。

一つは城塞都市周辺に広がる魔の森、豊富な魔物資源を供給する城塞都市はそれだけ多くの魔物が生息する魔の森の中に存在する。そんな魔の森の中の都市に向かうには当然多くの魔物から狙われるリスクを負わねばならず、城塞都市から離れ領都に戻る際にも負わねばならない危険。

城塞都市との商売は金になるが命懸けである、商人たちは己の命と利益を天秤に掛け、一獲千金を求めて魔の森を行き来するのだ。


もう一つがダンジョン都市カッセル、欲望都市とも呼ばれるそこは多くの冒険者がダンジョンの宝を求め集まる欲望の坩堝。

そんな冒険者相手の商売も盛んであり、花街や賭博場といった歓楽街が広がるだけでなく、強盗や殺人、誘拐や人身売買を行う裏社会の組織がひしめき合う危険地帯すら存在する。


“コンコンコン”

「アジル執務補佐官様、カッセルの街壁が見えてまいりました」

「そうか、ご苦労。カッセルに着いたら監督官屋敷に向かってくれ、今日はそこで一泊する。監督官への顔出しもあるのでね」


「ハッ、畏まりました」

馬車は進む、ガタガタと音を立てて。

城塞都市ゲルバスを出て魔の森を通過したシャベルたち一行は途中魔獣の集団の襲撃を受けるも、シャベルの従魔であるプルイチ・プルジ・プルミ・白銀の活躍により魔獣を撃退、白銀の先導の下街道を進むことで無事に魔の森を通過する事が出来た。


「シャベル殿、ここまで無事に辿り着けたのはシャベル殿のお陰、本来客人であるシャベル殿にお手伝いいただくことは心苦しい事ではありましたが、本当にありがとうございました」

「いえ、俺は大したことは。魔の森の一件でしたら運が悪かったとしか、普通スタンピードでもなければグラスウルフの集団が獲物を襲っているところにマッドモンキーの群れが横合いから襲い掛かることなどありえませんから。

グラスウルフにしてみればあのマッドモンキーたちは自分たちの獲物を横取りしようとしている敵です、直ぐにマッドモンキーとグラスウルフとの戦いに移行していた事でしょう。

ですがその前にこちらが多大な被害を被るは必定、本来であれば俺が手を出す必要もなく護衛冒険者の方々でどうとでも対処できたのでしょうが、時間的な事や被害を考えて勝手させていただきました。

それと皆さんが気にされていたこの従魔の指輪ですが、ダンジョン深層で手に入れた特別なものでして。収めることの出来る従魔の数に制限がないんです。

ご存じのように俺は<魔物の友>持ちですから、非常に助かっているんですよ」


シャベルはそう言い左手の従魔の指輪をそっと撫でる。アジル執務補佐官は愛おしそうに従魔の指輪を見つめるシャベルに、“この人物は本当に自身の従魔を大切にしているのだな”と自分がこれまで見て来たテイマーとは全く違うのだと改めて感じるのであった。


「シャベル殿、一つお聞きしてもよろしいでしょうか? 冒険者であるシャベル殿にこのようなことをお聞きしてよいのか分かりませんが、スキル<魔物の友>を持つテイマーは俗に最下層魔物と呼ばれるスライムやビッグワームしかテイムできないと記憶していたのですが、それは誤った認識という事なのでしょうか?

シャベル殿はあれほど精強な従魔を何体も使役しておられる、この事実はこれまで外れスキルと呼ばれてきた<魔物の友>の常識を完全に覆す光景なのですが」

それは疑問、シャベルが残念テイマーと呼ばれる原因となったスキル<魔物の友>の常識を百八十度覆す光景。

シャベルはアジル執務補佐官の質問に、「あぁ、その事ですか」とどこか懐かしげに目を細め、ゆっくりと語り始めるのであった。


「そうですね、アジル執務補佐官様のお考えになっている疑問は尤もかと。俺自身あれほど強い家族たちがどうして俺と一緒にいてくれるのか分からなくなることがありますから。

これから話すことはあくまで俺の推測であり正しいかどうかは分かりません、ですのでアジル執務補佐官様の御心に留められるようお願いいたします。

まず前提としてアジル執務補佐官様はテイマーがどのように魔物を使役しているのかをご存じでしょうか?」

シャベルからの問い掛けに暫し記憶を巡らせるアジル執務補佐官。


「確か魔物を弱らせて、テイマーの職業スキル<テイム>を使う事で従魔に出来るという話でしたが」

「はい、一般的にはそのような方法で<テイム>が行われています。俺はこうした通常のテイムを“支配系テイム”と呼んでいます。そしてスキル<魔物の友>を持つ者はこの“支配系テイム”を行う事が出来ない、具体的にはスキルによって魔物に命令する事が出来ないんです」


「は? あの、すみません。スキル<魔物の友>を持つテイマーは魔物に命令が出来ないとはどういう事でしょうか? 魔物に言う事を聞かせる事が出来ないという事なのでしょうか?」

シャベルの話に混乱するアジル執務補佐官。テイマーが魔物に命令できない? それでは<テイム>の意味がないではないか。アジル執務補佐官の戸惑いは、“テイマーは魔物を使役し戦うもの”と考える一般常識からすればひどく当たり前の考えであった。


「そうですね、アジル執務補佐官は貴族の間でウルフ種の魔物を飼育する事が流行っているという話を聞いたことがありませんでしょうか? これは以前冒険者ギルドの資料室で読んだことがある本なのですが、「初めてのテイム、ウルフ種をテイムしよう」という本には<テイム>スキルがなくとも小さいころからウルフ種を調教飼育することでウルフ種を<テイム>する事が出来ると書いてありました。

また城塞都市ゲルバスにおいては<テイム>スキルがない一般市民がビッグワームやスライムを<テイム>している実績が残されています。

こうしたテイマーでない者が<テイム>を成功した場合どうなるのかと言いますと、魔物との間に<テイム>による繋がりが生まれ、意思の疎通がし易くなります。

ですがテイマーと違い無理やり命令を聞かせることはできず、互いの信頼関係において指示を行う事が出来るようになるんです。俺はこれを“共生的テイム”と呼んでいます。

スキル<魔物の友>持ちのテイマーが行う<テイム>はこの“共生的テイム”にあたるんです。つまりスキルによって命令に従わせているのではなく、信頼関係により指示を聞いてもらっている訳です。

スキル<魔物の友>を持つテイマーがビッグワームとスライムしか<テイム>できない理由がここにあります。いくら魔物を弱らせようとスキルによる強制力がない以上、攻撃を受けた魔物が言う事を聞く訳がないんです」


シャベルの話に空いた口が塞がらなくなるアジル執務補佐官。スキル<魔物の友>が外れスキルであることは広く知られている事実であるが、実際に<魔物の友>を持つテイマーであるシャベルからその実態の話を聞いて、より一層使い勝手の悪さがはっきりとしたからであった。


「ですがそれでは説明がつかないのではないですか? そうなると魔の森で従魔の指輪から出された魔物たちはどうやってテイムしたのかという話に戻ってしまう」

「ですから俺はビッグワームとスライムしか<テイム>出来ませんでしたよ? あの三体のスネーク系魔物は進化したビッグワームです」


「・・・えっ? あっ、えっ、はぁ!?」

シャベルの話に理解が追い付かず混乱するアジル執務補佐官、シャベルはそんなアジル執務補佐官の様子に苦笑しながら言葉を続ける。


「スキル<魔物の友>を持つテイマーと何も持たない者との最大の違いがここにあります。俺はテイマーですので<テイム>が使える、その効果は一般的な<テイム>のような支配的なものではありませんが魔物と意思の疎通がし易くなるんです。

ですが傷つけられ弱らされた魔物にいくら繋がりを取ろうとも魔物からしたら敵が痛めつけて片手を差し伸べた状態です、その手を取るものなどまずいないでしょう。

対してビッグワームとスライムは安全な最下層魔物、敵対する必要がないんです。

更に言えばビッグワームとスライムは食べる事と休むこと以外の思考がほとんどありません、ですので関係を結ぶことが容易なんです。

こうして関係を結び意思の疎通を取り続けることで、ビッグワームとスライムは次第に難しい指示も理解するようになります。学習進化の始まりです。

あとは環境としか言いようがありません。困難な環境、魔力豊富な食事により魔物は進化を続ける。俺の家族たちはそうして今の姿を手に入れた。


白銀は少し事情が異なります。白銀はダンジョンの宝箱で手に入れた卵型のドロップアイテムが孵化したもので、初めからテイムされた状態でした。おそらくは従魔を作り出すダンジョンアイテムか何かだったのでしょう、白銀が生まれた経緯についてはよく分からないとしか言いようがありませんが」


残念テイマーと呼ばれる不遇な環境、その中でも諦めることなくテイマーとして生き続けてきたからこその今。創意工夫、常に前を向き冒険者として進み続けてきたからこその金級冒険者であり調薬師としての成功。

アジル執務補佐官はシャベルがそうした人物であったからこそ癒し草栽培を確立させ、ポーションEXを作り出すに至ったのだと確信するのであった。


「では私は監督官と話がありますので失礼させていただきます。シャベル殿はお部屋でお休みになるか街でゆっくりしてください。シャベル殿にとってはしばらく振りのダンジョン都市です、向かいたい場所もある事でしょう。

ですが夜までには部屋に戻るよう願います、明日は朝早く出発しますので」

ダンジョン都市カッセルに到着したシャベルたちは、特に街門で止められることもなくカッセルの監督官屋敷に向かう事となった。監督官屋敷のある場所は街の中心部であり、魔道具や武器など多くの商会が店舗を構える比較的治安のよい地区であった。

シャベルはエリクサーの件もあり逃げるようにしてカッセルを離れたため、世話になりつつも別れの挨拶が出来なかった場所がいくつかあった。その中でも一番世話になりながら不義理にしてしまった宿屋“大地の怒り亭”の主人には一度顔を見せておきたいと思っていたのである。


久しぶりに訪れたダンジョン都市カッセルの街並み、そこは多くの冒険者たちで賑わい活気溢れる所であった。

ダンジョン罠によりダンジョンの四十八階層に落とされ三か月間ダンジョン内を彷徨った、魔物の恐ろしさ、冒険者の恐ろしさを魂に刻み付けられた。城塞都市に向かって四か月、“大地の怒り亭”を訪れるのは七か月振りの事であった。


“ガチャッ”

乱暴者の冒険者対策であろう重く丈夫そうな扉を開ける。目の前に見えるカウンターには人がおらず、時間帯の関係か宿の受付前は閑散とした雰囲気を醸し出していた。


「すまん、誰かいるだろうか?」

大きな声で呼び掛けを行う。宿屋の奥、厨房の辺りから「はいよ、ちょっと待ってくれ」という男の声が返ってくる。


「待たせたな、泊まりか? 宿泊は何日にする?」

ドタドタと大きな足音を立てて現れた偉丈夫の姿に、懐かしさから頬の緩むシャベル。


「お久し振りです、以前こちらでお世話になっていたシャベルです。ダンジョンから無事に生還したにもかかわらず挨拶の一つもせずに姿を消し申し訳ありませんでした。

本日は所用でダンジョン都市に来たのでご挨拶に、すでに半年以上前になりますが大変お世話になりました」

そう言い深々と頭を下げるシャベル、そんなシャベルの態度に何事かと表情を変えた主人は、すぐに思い出したのか受付カウンターから前に出るや「よく生きて帰ったな、そうか、無事だったのか。一時期街中“スライム使いシャベル”の話題で持ちきりだったからな」と言ってシャベルの背中をバンバン叩くのであった。


“ドンッ”

食堂のテーブルに置かれたエールのジョッキ、「生還祝だ、先ずは飲め、俺の奢りだ」と言って出されたそれをグビリと口にするシャベル。


「そうか、“スライム使いシャベル”が城塞都市に身を寄せているという噂は本当だったのか。例のエリクサー騒ぎの後、ダンジョン都市中の冒険者がシャベルにあやかろうとお前の事を探しまくっていたからな。

それでも城塞都市に喧嘩を売る真似が出来ないあたり、馬鹿をやる連中も自分が分かってるって事なんだろうけどな。

そう言えばシャベルの紹介って言ってウチに泊まりに来た“剛拳のヘイド”、従魔を連れたテイマーって事で絡まれてたんだが、馬鹿を片っ端からぶん殴って死屍累々の惨状を作ってたな。

ダンジョン都市の連中も、いい加減テイマーだからって舐めてかかったらどうなるのか学んだんじゃないのか? 強さは職業じゃない、個人の力量だってな」

“大地の怒り亭”の主人はニヤリと笑い、一気にジョッキを空ける。

変わり行く意識、良くも悪くもテイマーへの認識はハズレ職から侮りがたい職業というものへ。シャベルはライド伯爵領内の一部地域ではあるもののテイマーの扱いが徐々に変わり始めていることに口元を緩め、嬉しげにジョッキのエールを飲み干すのであった。

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。明けましておめでとうございます! テイマーの印象が良くなりつつある…良い傾向ですよね。 世界平和に繋がる!みたいな大きい影響を及ぼさないのは当然の話では有りますが、逆に良い印象にな…
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