第8話 俺、覚醒
そんな感じで、俺とゲル子は共同生活をしながらほぼ毎日遺跡に挑んだ。
コツコツではあるが収入も順調に増え、ひさびさに実家に立ち寄った時は成長が早いとじいさんから褒められた。母さんには無理してるんじゃないかって心配されたけどな。ゲル子のことは家族にも話していない。どう話せば信じてくれるのか分からないし、きっと心配されるだけだろうし。ゲル子も実家に無理について来ようとはしないので、別にいいだろう。
今日挑んだのは遺跡の7階層目だ。遺跡は毎日形が変わるからさすがに道がわかったりはしないが、ゲル子は遺跡に住んでいただけあって結構博識だった。特に魔物の知識なんかは俺より詳しい。とても役に立つ。
7階層目で出てきた敵はスライムだった。ゲル子とは違って、体色が黄色っぽいやつだ。大丈夫かなと思ってゲル子のほうをちらりと見たら、『あれは毒も酸も吐きません。物理攻撃だけなので、スライムの中でも弱いほうです』といって冷静に攻撃していた。
一日の探索を終えるまでにスライムは8匹ほど出てきたんだが、ゲル子は顔色ひとつ変えずに全部倒してしまった。
「おまえ、躊躇しないのか?」
「どうしてですか?」
「だって、同じスライムだし。色は違うかもしれないけど」
「人だって、同種と争うことはあるのではないですか」
うーんまあ、それはそうなんだけど。それでもやっぱり、自分と同じ姿をした相手ってのはちょっと抵抗ある気がするな、俺は。俺が戦場で戦う兵士だったらそうも言ってられないのかもしれないけどな。
「魔物というのは、自我がないのです」
森を歩きながら、ゲル子が言う。
「正確には自我が遺跡に支配されていると言いましょうか。だから、楽しいとか嬉しいとか悲しいとかつらいとか、そういう感情がないのです。だから、生きていても楽しいことはないし、死ぬこともつらいと思わないのです。ただただ、遺跡の為にそこにいるだけ。遺跡の力で生み出され、遺跡の力で生かされ、傷ついて弱れば遺跡に吸収されて消える。生き物のようで生き物ではないのです」
「そうなのか?でもゲル子は……」
ゲル子は俺のことが好きだというし、遺跡から出たくて出たと言った。これはゲル子の感情じゃないのか?
「たまに、遺跡には自我のある個体が生まれます。突然変異……遺跡の失敗作のようなものですね。そういった個体は何かを求めて遺跡から出ることがあります。そういう魔物のことを聞いたことがありませんか?」
「危険種………か」
じいさんが昔戦ったと言ってたことがある。魔物は普通遺跡の中にいて出てこないものだが、なぜか遺跡の外に棲みついてしまう魔物がいる。それを危険種という。そいつらは遺跡に出てくる同種の魔物よりもなぜか体が大きかったり魔力に長けていたり、強いものが多いのだという。中には神を名乗り、近くの村に生贄を要求したものもあったと聞く。
「自我を遺跡に支配されていない個体は遺跡を出ますが、その時点で遺跡から生きる為の力の供給がされなくなります。そうなると、自分でエネルギー源を摂取しなければなりません。植物か、動物か、金属か……種族によって効率の良い食事は異なりますが、より強くなるために貪欲にむさぼるものもあります」
遺跡からの力の供給……この間もそんなことを言ってたな。とすると、ゲル子も危険種……突然変異の自我がある魔物の一種ってことか。
「遺跡の魔物というのは常に必要最低限の力しか供給されていませんので、成長をしません。生まれる時も死ぬ時も、その同じ種のものはすべて同じ強さなのです。しかし、自我を持ち遺跡を出た個体は捕食することによって生きる力を得ますので、成長をします。強さは個体によってさまざまです」
「そうなのか……………」
ゲル子がうなずく。
「話がそれましたが、魔物は生き物のようで生き物ではない。だから、同情する必要はありません」
そういって微笑むゲル子は少しだけ寂しそうに見えたので、抱き寄せて頭を撫でてやった。ゲル子は目を閉じてしばらくされるがままになっていた。
その日の夕食は焼いた鳥肉だった。それとゲル子はどこからか取ってきた赤い木の実を大量に食べていた。俺もひとつもらったが、すっぱかったのでたくさんは食べられなかった。ゲル子、肉が好きだったはずなんだが、味の嗜好が変わったのかなあ。
夕食を食べ終えて、満足しながら布団の上に転がってたら、ゲル子が近寄って来た。撫でて欲しいんだろうと思って手を伸ばしかけたが、何か見てほしいものがあるという。
「いいですか?よーくみててくださいね」
そういうと、ゲル子は女の子の形をとったままプルプル震えだした。人間の形をしているのに輪郭がぐにょぐにょ歪むのでちょっと気持ち悪い。だが、ゲル子が真剣そうなので目をそらさずに見ていてやることにする。
しばらくして、ゲル子は震えるのをやめた。
「……………あれ?!」
「ど、どうですか?」
ゲル子に、色が付いている。いや、色は前からついてたんだが、半透明じゃなくなっている。
今までは全身が半透明のピンク色だったんだが、今は髪の毛や瞳に当たる部分が濃い赤色で、肌の部分は薄ピンクになっている。赤一色だけだが、色の濃淡がついたのでより本物の人間らしくなったと言えるだろう。
「他の色はダメだったんですけど、頑張ったら濃淡だけはどうにかなりそうだなって」
「うん、かわいい。かわいいぞ、ゲル子!」
ゲル子が嬉しそうに頬を染める。前みたいに全身が赤くなるんじゃなくて、頬のあたりだけがほんのり染まっている。本物の女の子が恥じらってるみたいでとてもいい。
「しかし………」
俺はあらためてゲル子の全身をくまなく眺めた。
半透明だった頃は見た目は女の子でもやっぱり魔物って感じが強かったが、これぐらいになってくるとやや違和感はあるものの、ほとんど人間と変わらない。そうなってくると、途端にいろいろ気になってくる部分もある。なんせ、ゲル子は魔物だから服を着ていない。すなわち、その……。
「あーー、ゲル子、その、とってもかわいいんだけどもな」
「はい ありがとうございます」
「えーとその、む、胸の先のほうなんだが」
これですか?といってゲル子が柔らかそうな胸を持ちあげる。プルンと揺れるゲル子の胸。その先っぽは肌の部分よりもわずかに色の濃いピンク色だ。
「その色だが……」
「おかしいですか?クルクさんの構造をまねて、濃いめにしてみたんですが」
「い、いや、おかしくない。決しておかしくないけどな」
こいつはスライムだ。スライムだ。だから、偽乳なんだ。ものすごくおいしそうだが、しょせんニセモノなんだぞ。騙されるな、騙されるな、俺!
目の前で揺れる二つのふくらみ。
その先のピンク色の突起。
偽物だと分かっているのに、どうしても目がそらせない。ダメだ、魅力的すぎる。
「あ、あの……ゲル子さんや」
「なんでしょう?」
「ちょっとだけ触らせて頂いても……よろしいでしょうか」
はい、どうぞ。にっこり微笑んで胸を差し出すゲル子を俺は夢中で揉みしだいた。
このむっちりと手に吸いつく感触、たまらん!肌もすべすべでしっとりしている。サイズはファーラさんよりは小さめだが、手ごたえ十分な量があると言えるだろう。
揉むだけでは我慢できなかったので、もっちりした肉を口に含んで舐めまわした。甘噛みすると歯を押し返してくる弾力がいとおしい。
………ええい、もう魔物だろうがなんだろうが、かまわん!!
15歳の若い性欲が体の中からマグマのように噴き上がり、理性を押し流していく。俺は自分の中で何かが覚醒するのを感じた。本能の命じるがままにゲル子を押し倒し、脚を開かせる。ゲル子は大人しく俺のいいなりになっていた……が。
「……………ない」
穴が、ない……。
なんということだ。ゲル子が女の子だったのは、表面だけのことだったのだ。そこに女の子の一番重要な部分は存在しなかった。
俺はその夜、ほとほとと涙で枕をぬらしながら眠った。