第34話 調査
途中まで書けていたのですが、投稿しないままだいぶ時間が経ってしまいました・・・・・・・申し訳ありません。
星のしずく亭に俺を迎えに来たルーラン光使様は、昼間の白い神官服ではなく、紺地のシャツを着用していた。シンプルだが体に沿ったシャープなつくりで、知的な印象を受ける。食堂は相変わらず騒がしかったが、俺が片手を上げるとすぐに気付いたようで、口角を上げて手を振ってきた。
「ここの夕食、おいしかったです。ありがとうございました」
「気に入ってもらえたようでよかった。ところで、あれから買い物に行く時間はあったのかな?」
「広場の近くに道具屋があったので寄りました。他の店はまた時間のあるときに回るつもりです」
「今日は私が勝手に予定を入れてしまったからね。申し訳なかった」
「いえ、どうせ夕方には店はほとんど閉まってしまいますから」
そんな話をしながら宿を出た。
買い物の時間が減ったのはあの横柄な神殿騎士どもに絡まれたせいだよな。幸いゲル子たちのこともバレなかったし大事にはならなかったけど、目をつけられたのは運が悪かったと思う。
「ところで光使様、どこからどういう風に調査します?」
「あ、クルクくん」
「なんでしょう?」
「私のことは名前で呼んでくれないか。所属が分かるとやりづらいこともあるだろうから」
なるほど、神官服を着てこなかったのはそのせいか。身元を明らかにするのは信用という意味ではいい面もあるけど、光の神殿の関係者には言いづらいこともあるよな。特に、西や南の連中は。
「じゃあ、ルーラン様?」
「もっとくだけた感じで、『シャルム』と呼んでくれないか。言葉も友達口調でいい」
「友達口調って、うーん」
身分のことを差し引いても年上だからなあ。雰囲気のせいもあると思うけど何となく呼びづらい。
「クルクくんは兄弟はいるのかな?友達というより、兄弟という設定のほうがいいだろうか?」
「いやー、それは、さすがに似てないから怪しまれるでしょう」
「そうかな、私に弟がいたら君みたいな感じじゃないかと思ってるんだが」
うちには兄貴はいっぱいいるけど、皆もっとがさつだな。そういや、ラジム兄ちゃんは結局どこにいるんだろ。たいした用があるわけでもないけど、町をぶらつくついでにでも一応探してみるか。
「まあ、友達でもいいさ。とりあえず『シャルム』って呼んでみて」
「えっと・・・・・・『シャルム』」
俺が言われた通りに呼ぶと、シャルムは嬉しそうな顔でうなずいた。
「まず調査の前に知っていることを情報共有しておこう」
シャルムが今までの事件について分かっていることを説明してくれた。
ひとつめ。最初の行方不明者は町はずれの農園で働いていたゴウプ族の母娘と思われる。当初は脱走と思われていたが、その後、同じく街中に住んでいる奴隷が数人行方不明になっている。
ふたつめ。奴隷の失踪が相次いだ後、南エリアで女性が行方不明になったという噂が立った。何人か行方不明者はいたと思われるが、詳細は不明。
みっつめ。数日前、北エリアに住んでいた、光の神殿の関係者の家族が突然姿を消した。同じ頃、東エリアで1名少女が行方不明になっているらしい。
「誘拐と言える決め手はないのか。場所もバラバラみたいだし」
「連れ去られるところは誰も見ていない。とはいえ、自分から失踪したにしては人数も多く不自然だ」
「全部が関連する事件だとは限らないけど」
「それはそうなんだけどね」
たまたま同時期に複数の事件が重なっただけという可能性もあるが、いくつかは関連がある事件かもしれない。誘拐だとすると被害者は女性が多いようだ。よからぬ目的で攫うにしても、奴隷から神殿関係者までとタイプはばらばら。ストライクゾーンの広いヤツがどっかでハーレム作ってるとか・・・・・・さすがにそんなことはないか。
「いなくなった北エリアの女性は私の同僚の妹でね。焼き菓子が好物で、私にも度々差入れをくれていた」
「いなくなった時はどんな様子だった?」
「その日も私にお菓子を持ってきてくれたんだよ。その日は執務室で仕事をしていたんだが、休憩がてらお茶を入れて、少し話をした。日が暮れる前に帰ったんだが、夜遅くなってから同僚が執務室に駆け込んできてね。妹が出かけたきり帰らないんだが、知らないかと。帰る際に送っていってあげればよかったと後悔している」
そういってシャルムは眉を曇らせる。どうやら自分の不注意で起こったことなのではないかと責任を感じているらしい。
「そのお嬢さんの交友関係とかは調べたか?」
「まだ学生だったのだが、同じ学園の子たちは全く心当たりがないそうだ。品行方正で、これまで無断外泊をしたこともないと言っていた」
「なるほど、じゃあその子について調べればいいのか?」
「状況が状況だけに個人的には一番気にかかっているが、彼女についてはすでに調査に当たっている者が何人もいる。他の場所を調べるほうが進展が見込めるのではないかと思う」
そういえばあの神殿騎士たちも調査をしているようなことを言っていたな。北エリアについてはある程度調べられているのかもしれない。あまり有益な情報が出ているようには思えないが・・・・・・・。
「クルクくんもいることだから、今日は南エリアの調査をしたい。昼間に行ってみたが、ほとんど情報が得られなかったので」
「まあ、あの神官服では警戒する人も多いよな。場所が場所だし」
シャルムの希望通り、まずはギルドで情報収集してみることにした。部外者は連れて行けないから、シャルムには近くの店で待っててもらい、俺一人で「ギルド」に行って情報を買う。必要経費はシャルムが出してくれた。
俺が戻ってきたとき、灯りをケチってるのかやや薄暗い店の出入り口に近いあたりで、シャルムは居心地悪そうに半分腰を浮かせて座っていた。手の中の杯には赤黒い液体が入れられているが、ただ持っているだけで口をつける気はなさそうだ。
「一人でいると周囲の人に声をかけられたりして、落ち着かなかった。なんだかしつこくて」
「南エリアにしては雰囲気に品があるからな。カモだと思われてるのかも」
「迷惑な話だ」
「財布をスられないように気をつけてくれよ」
俺の言葉にシャルムが素直にうなずく。俺は周囲を警戒しながら、小声で話を続けた。
「行方不明になった人間は今のところ裏のルートで売られたりしている様子はなかったよ」
「それは・・・・・・幸いというべきなんだろうか」
「逆にどこにいるのか分からないから、単純に喜ぶことはできないけど」
最悪殺されて埋められてる可能性だってあるし、とは思ったけど言わないでおこう。
「二人だけだけど南エリアで失踪した人の職場が分かった」
「いなくなった時の話を聞けるなら有り難いな。ほかには?」
「他にはたいした話はなかったと思う。追加情報があれば連絡して欲しいと頼んでいる」
いくつか小競り合いや喧嘩のような事件の話は聞いたが、日常レベルの話だったから関連はないような気がする。
「そういえば、関係あるかは分からないけど、最近変な薬が出回ってるとは聞いたな」
「変な薬?」
「粉末状の薬で、摂取すると『神に会える』と言われているらしい。神が『秘められた能力』を解放してくれるとかなんとかいって、広めてるやつがいるんだとか」
「『神』?」
その言葉にシャルムが顔をしかめる。単なる比喩だろうが、聖職者としては愉快ではないだろう。
「要するに、人をダメにする薬の類いだろうと思う。出処は『ギルド』もよく把握してないようで、快くは思っていないようだったな。その影響か小競り合いなんかのトラブルが起きやすくなってるみたいだ」
快くない理由は、荒稼ぎしてそうなのに上納金をくれないからかもしれないけど。
「薬物中毒者が誘拐事件を起こしてるということはありうるだろうか」
「事件を起こすならもっと直接的な騒ぎになるだろ。誘拐はないんじゃないか」
「薬の代金欲しさに・・・・・・とか」
「それにしては身代金要求もないし、奴隷や南エリアの人間を狙ってもなあ」
あまり金になりそうにない人間を攫って何に使うのか。どっかで秘密の鉱山でも掘らせてるのか?
「薬の話は置いておいて、これから失踪した女性の働いてた店に行ってみないか」
俺が立ちあがって促すと、シャルムもうなずいて椅子から立ちあがった。
失踪した女性が働いていたというのはいわゆる「夜のお店」だった。ちょっとけばけばしい感じはするけど、『カカプラーマ』よりはマシな雰囲気だな。店の中に入ると化粧の濃い女たちがシャルムに群がって、押しのけるのに苦労した。当のシャルムはなんだかおどおどしてるし。
「何で俺の後ろに隠れるわけ?」
「こういうのは苦手で」
「モテてるんだから、堂々としてればいいのに」
「・・・・・・女性はトラブルの種になる」
そういって苦笑いしている。
「まさか、男のほうが好きとか・・・・・・」
「いや、そういうわけではないのだけれど」
いやな思い出でもあるんだろうか。イケメンにはイケメンなりの事情があるのかもしれないな。
群がっていた女の一人に店主を呼んでもらい、いくらか払って別室で話を聞かせてもらった。店主の話では、失踪した女性はいなくなる前日までいつも通り仕事をしていたらしい。最後に来た客は彼女を買ってから外に連れて出たらしいが、翌日以降ずっと彼女は店に顔を出していないとのこと。女は顔立ちもよいほうでそこそこ人気もあったので、いなくなって店も残念がっているようだ。
「店の女性を連れて出るのは、よくあることなのか?」
「そういうお客さんもいらっしゃいますね。連れ出す前に決まった料金は払ってくれるので店としては文句はありません。金払いがよければ彼女たちもそちらのほうが喜びます。余計なトラブルに巻き込まれることもあるので、受けるのは馴染みのお客相手が多いですが」
「最後の客というのも馴染みの客だったのか?」
「よく覚えてないのですが、見慣れない人だったと思いますよ。金払いが悪くなかったので受けたのかもしれませんね」
「どんな相手だったか、なんでもいいから覚えてないか?」
そういうと店主はしばらく考え込んだ後、「甘い匂いがしたような」とつぶやいた。
「甘い匂い?香水のような?」
「移り香かもしれませんが、うちの店の子が普段つけているような安物の香水とは違う匂いでしたね」
店主の話を聞き終えた後、別の失踪した女性が働いていたという店にも行ってみた。そっちも似たような店だったが、失踪の当日働いていたという女に話を聞くことができた。鼻骨の目立つ痩せぎすの女で、「あの女とは別に仲良くはないんだけど」と前置きしてから当日の様子を話してくれた。
「あの日は確か、金をもってそうな男と一緒にいたと思うよ」
「身なりのいい相手だったのか?」
「別に目立つ恰好をしてたわけじゃないけど、なんとなく横柄でね。顔も隠すような感じで妙にこそこそしてた。それなりの立場がある人じゃないの」
「そういう客は結構いるのか?」
「こういうしょぼくれた店に来ることは少ないけど、いないわけじゃないね。西エリアや北エリアの人なんかがね」
「北エリアの人間も来るのか?」
「神官さまだって人の子さ。それこそ隠れるようにコソコソしてるけどね」
女の言葉にシャルムがあきれたように溜息をつく。
「いなくなった女の特徴を教えてくれ。いなくなる前後、何か変わった点がなかったか、も」
「変わった点と言われてもね。そうだね、あの女は性格は最悪だったけど、顔は悪くなかった。化粧もうまくて若く見えてね。うまく乗せられて貢いだ男もいたんじゃないか。自分でも自信があったみたいで、そのうちいい客が自分を身請けしてくれると信じてたようだよ。そんなはずないんだけど、夢見がちなところもあったのかね」
あ、そうそう、と思い出したように女は付け加えた。
「あの女、一度おかしなことを言い出したことがあってね。『神様が自分を迎えに来る』とかなんとか。北エリアの男でもつかまえたのかと思ってたけど、様子がおかしかったから部屋をのぞいたことがあったのさ。なんだか変な薬を火で炙って吸い込んでたね。こっちまで匂いが漂ってきたんだけど、なんだか妙に甘ったるい匂いだったよ」
「今のところ、失踪したふたりの共通点は夜の商売ってことぐらいか?」
「一人は『薬』を使っていたと言うが、『ギルド』の言っていた薬だろうか」
「かもしれないが、そこからどう失踪につながるかが良く分からないな」
薬代が払えなくて売り飛ばされたとか?それよりは、今の商売をさせながら継続的に搾りとったほうが金になるような気がするな。
二軒目の店を出たところで、既に夜も更けていたので宿に戻って寝ることにした。今夜の調査はなんだか疲れたわりに、これといった成果は得られなかった気がするな。
宿の部屋は内側から鍵がかけられてて、開けてもらおうといくら呼んでも反応がなかったから、仕方なくピッキングして入った。やってみたら結構簡単に開いたんだけど、防犯上問題があるんじゃないだろうか。女将さんに言っとくべきか?
部屋の中にはそこそこのサイズのベッドが2つ並んでいて、そのうちの1つにボロボロになった花子がスライム姿のゲル子に蛇のように巻きつかれた状態で乗っかってたな。魔物には睡眠はいらないはずだけど、二人とも意識が飛んでるようだったから放っておいてもう1つのベッドで寝ることにした。朝になったら復活してるだろう、きっと。




