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プロローグ
「君にあげられるのは、王位だけだ」
小さな呟きが彼女の胸を貫き、いつまでも耳の中で響いていた。
遠い記憶の中、沈痛な表情を浮かべていながら、それでもそれを差し出す人。
視線を向ければその手には、このアゼリア国の王位を知らしめる真っ赤な宝石がついた小さな王冠だった。歴代の王はこの宝石を受け継ぎ、自分の王冠に使い、次の代にそれをまた渡す。いわば王位継承の証だと、誇らしげに笑った人が差し出している。
しかし、彼女が昔見た憧れの赤は、こんなにものだったかと思えるほどくすんで見えた。
その王冠を茫然と見て動けないでいると、その人は更に表情を歪め、ゆっくりと王冠を彼女の頭に乗せた。一瞬間、割れんばかりの喝采が響いた。周囲からは「新女王万歳!」だとか、「新たなる時代に祝福あれ!」と叫んでいるのだろうが、何一つ彼女の胸には届かない。それなのに、喧騒の間を縫って聞こえた声に、彼女は初めて強い衝動を感じた。
――ごめんね。
その言葉が意味する事は、つまり彼女は“あの子”に負けたという事だった……




