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闇修験 石動玄斎の異世界紀行 〜こっちでは冒険者稼業で食っていく〜  作者: 黒木吼


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16話 この世界の強さ

150cmくらいだろうか。


 黄色く濁った犬歯を、文字どおり剥き出しにした魔物。


 コボルト。


 一匹は粗末な短槍を持ち、もう一匹は牙を剥いて威嚇している。


「ガウッ!」


 飛び込みざまに、短槍を突き出してきた。


 玄斎は足を軽く引き、半身になって胸元へ伸びてきた短槍を躱す。


 それを隙だと見たもう一匹が、飛びかかってきた。


 玄斎は飛びかかってきたコボルトの腕を取り、その勢いを利用して短槍を持ったコボルトへと背負い投げる。


 ドンッ!


 二匹がぶつかり、短槍を持ったコボルトがたまらず尻もちをついて転がった。


 その興奮と怒りに満ちた目に――


『トスッ!』


 矢が突き刺さる。


「グガッ……」


 そのまま短槍のコボルトは、後ろへ倒れ込んで動かなくなった。


 もう一匹の投げられたコボルトは、よろよろと立ち上がり、牙を剥いて唸り声を上げる。


 唸りながら、連れを倒した矢の出どころを探す。


 だが、見当がつかないのだろう。


 ギョロギョロと忙しく目を動かしている。


 玄斎は腰の冊子から一枚を抜き出し、コボルトに向かって投げた。


 この冊子は、術式の書かれた符術紙を綴ったものだ。


 気を込めると、発動するようになっている。


 高等なものは真言を必要とするが、今回の敵には必要ない。


「符術――水の初段、水華《スイカ》」


 コボルトに向かって飛んでいった符術紙は、手前で水の蓮の花を形作った。


 次の瞬間――


 花びらが弾け、無数の刃となって降り注ぐ。


 切り刻まれたコボルトは、


『ドサッ』


 と血溜まりの中へ倒れ伏した。


     ーー


 ガサガサッ。


 藪からニコルが出てきた。


「ゲンサイさん、すごい! それが闇修験法って魔法?」


「魔法……になるのか。そうだな。これはそのうちの、符術というものだ」


「そんな水系の魔法、初めて見たよ」


「それより、矢の腕前、凄いじゃないか」


 ニコルは先日、玄斎との初めての依頼をこなし、報告と納品のためにギルドへと行った。


 そのとき、弓と矢の『初心者セット』をギルドから買った。


 ギルドの受付で、


『この前、初心者魔法書を買ったばかりじゃない?』


 と注意されたが、ニコルは頑として言った。


「ニンジャには、必要なんだよ」


「ニ……ニンジャってなに?」


「ニンジャはニンジャさ!」


 ニコルも、いまいち説明しきれないのをもどかしそうに、勢いで押し切ろうとしている。


「水の初級魔導書、まるまる六銀貨の支払いが残ってて、今回の弓矢の初心者セットが二銀貨……全部で八銀貨よ?」


 先ほどの勢いが少しなくなったニコルは、おずおずと言った。


「魔法書の返品、おねがいします……」


「魔法書は習得《ラーニング》した時点で、ただの本になってるでしょ?」


「……」


 さんざん受付嬢に怒られながらも、弓と矢のセットを担いで来たニコルは、泣きそうな顔で玄斎に、


「明日は朝の八時に集合で」


 と、当たり前のように約束して出ていった。


 そんな出来事がありながら、今日も一緒にエストラの森で依頼をこなしている。


 依頼はコボルトの討伐。


 最近、コボルトによる被害が増えているため、ギルドの常設依頼となっている。


 一匹につき、銅貨五枚。


 討伐証明は、右の耳。


 いまの時間は昼近く。


 先ほどの二匹を含め、五匹倒した。


 ギルドから、だいたいの生息範囲は教えてもらっているが、数時間で五匹は上出来である。


 索敵に関して、ニコルは良い勘を持っていた。


「ゲンサイさん、そろそろ、お昼にする?」


 ニコルはコボルトの討伐証明である耳を、腰にぶら下げた小袋へと放り込みながら聞いてきた。


「そうだな。森を歩き回って、腹もだいぶ空いてきたな」


 昼食はニコルがお弁当を作ってきてくれたそうで、玄斎は何の準備もしていない。


 ニコルに頼りきりなのを、少し申し訳ないと玄斎は思っていた。


     ーー


 適当な木の根元に座る。


 ニコルがバックパックから紙包みを取り出した。


 開けると、中には肉をパンに挟んだものが入っている。


「これ、昨日のウラズ鳥を挟んだんだ」


「おっ、美味そうだな。ごちそうになるよ」


 冷めてはいるが、肉の旨味は損なわれていない。


 味付けは、少し甘めのタレに塩気と香辛料が混ぜ込まれているようだ。


 それがパンと肉の旨さを引き立てている。


 旨さのあまり、頬張りすぎて喉につまらせかけた。


 玄斎は水筒の水で流し込む。


「ふーっ」


 ニコルは、美味しそうに食べてくれている玄斎を見ながら、自分も頬張り始めた。


「もぐ……ステータス・オープン」


 ニコルは食べながら、ステータスを見始める。


「うっ!」


 ニコルも胸をドンドンと叩きながら、水を飲んだ。


「レベルが上がってるよ!」


 【Lv.2】


 体力   12 → 17

 魔力   8 → 11

 力    3 → 4

 耐久   3 → 4

 敏捷   7 → 10

 知力   3 → 5


 食事そっちのけで、ステータスに夢中になっている。


「敏捷が3も上がってる! 知力も2アップ! 力は……うん……ブツブツ」


 玄斎は喜んでいるニコルを見ながら、あらためてこの世界のレベルについて考える。


 自分の力が数値に表れる。


 それも、修行や鍛錬で得るものではなく、魔物を倒すことで得られる力。


 どうにも、馴染めぬな……。


 力を得るには、他の力を奪う。


 命を奪う。


 なにか歪《いびつ》な、この世界のあり方。


 俺は……これから、どう向き合うべきなのか。


「ゲン……」


 ……。


「ゲンサ……」


 ……。


「ゲンサイさーん!」


「お、おう」


 俺はニコルの声に呼び戻され、生返事を返した。


「もう、ゲンサイさん。愛弟子のレベルアップだというのに、なに呆けているんだよ!」


「愛弟子?」


「レベルアップに盗賊スキルの『吹き矢』も強化されたんだってば!」


「ほう」


「今までは、動物とかだけしか効果がなかったんだけど、魔物にも有効になったんだ!」


「効果は?」


「距離は10メートルが最高。動物なら最高で10秒間麻痺させる。これ、今までは最高で5秒だったんだよ! それで、魔物は最高で3秒。でも、強かったり耐性があったら効かないんだって。ちょっと残念」


「これは、かなり戦いに使えるスキルではないか」


「そうかな?」


「油断は刹那であっても、命取りになる。実力が拮抗していれば尚の事だ。その隙を作り出すこのスキルは、敵に使われたら厄介この上ないものだぞ」


「そういや、忍者も得意としていた武器の一つだ」


「イヤッホーイ!」


 ニコルはレベルアップよりも、一際喜んでいる。


「その『吹き矢』を見せてもらえるか?」


「うん、いいよ!」


 すると、ニコルは右手の指――親指と人差し指で、丸い輪っかを作った。


 それを口に当て、


「シュッ」


 と息を輪っかから吐く。


 目に見えぬ何かが、音もなく走った。


 五メートル先にある木の実が、ポトリと落ちてきた。


「ちょっと待て。『吹き矢』とは、吹き矢は使わないのか?」


「そうだよ。スキルだもん。魔力は1持っていかれるけどね」


 これはニコルには悪いが、対人の戦いになれば有用すぎるスキルだな。


 スキルについて、あらためて用心をしないといけない。


 この世界でも、敵は魔物だけとは到底考えられないのだから。


 だが、きっとニコルにとって、これから冒険者として生きていくための助けとなるだろう。


「ニコル、このスキルはこれから、お前を守る力となるだろう。大切にな」


 そう言うと、ニコルは嬉しそうに言った。


「うん、大切にするよ!」


     ーー


 日も暮れかけている、町へと続く道。


「ごめんよ~」


 ニコルは玄斎に背負われ、しきりに謝っていた。


 あれから、ニコルは調子に乗って『吹き矢』を使いまくり、マインドダウンという魔力枯渇による失神をしてしまった。


「ごめんよ~」


「気にするな。全然重くないしな」


「ゲンサイさん、力の数値高そうだもんね」


「そういや、ゲンサイさんレベルいくつ?」


「レベル? ああ、なんか15とかだったような」


「えっ、そうなの? もっと上かなと思ってたよ」


「そうか? 俺もニコルも、もっと強くならないとな」


「めざせ、ニンジャー!」


「あっ、その前に、おいしい夕食ー!」


 そう言って、ニコルはコボルトの討伐証明部位を入れている袋を掲げた。


 その袋は、パンパンに膨らんでいる。


 ニコルの『吹き矢』が敵を麻痺させることで、討伐のスピードが上がったからだ。


「そりゃ、早く帰らないとだな」


 笑いながら、リベェールへと帰っていく。

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