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その言葉を聞いてお辞儀をして部屋を出て行ったデリュー教授に付いて私も部屋を出ていこうとすると、ヴィクト様に腕を掴まれた。さっきの微かな触れ合いとは全く違う、強い感じ。
「君は居残りだ」
ヴィクト様の言葉に、私は眉をひそめた。何で私が居残り?そんな成績の悪い人がされること、経験したくなかったわ。出来の悪い人間って勘違いされるじゃない。
そんな私をよそに、ヴィクト様は応接用と見られるソファにどっかり座り、腕と足を組んだ。偉そうね。まあ実際偉いんだから良いんだけど。
「君も座れ」
私はお言葉に甘えてヴィクト様の指した、彼が座っているソファの向かいのソファに座る。
「普通に喋っていいぞ。学長室には常に防音の結界が張ってあるからな」
そう言われた私は、ふっと警戒を解く。誰かに会話を盗み聞きされるなんてまっぴらだもの。
「それで?どんなお話なのですか?私、早く学業に戻りたいのですが」
ヴィクト様と二人きりで防音の結界も張ってあるので、本来の口調に戻る。ヴィクト様は軽く頷いてから口を開いた。
「メイニー・ブランシュの悪い噂を消すための策は何か見つかったか?」
ヴィクト様の言葉に、私は布の下で笑う。
「私が、何も考えていないとでも?」
というか、ヴィクト様は何でこんなこと聞くのかしら。学園の秩序を守りたいとか?それはないわね。秩序を守りたいんだったらこんな偉そうな姿勢しないわよ。
だとしたら何で……。あっ、分かったわ!きっとメイニーさんのことが好きなのね!好きな人の悪い噂を消したいと思うのは至って普通のことだもの。
前にお茶会をした時にはあまり好いていなかったように見えたけど、あれからかなりの時間が経ってるから、好きになったとしても納得だわ。
勝手に納得した私は、ヴィクト様の質問に対して具体的な案を返す。
「まず、この姿のままで悪い噂を消そうとすると、日頃の行動と違いが生まれます。さしあたり……ヴィクト様にお願いがあるのですわ」
私が交渉人の笑みを浮かべると、ヴィクト様も同じ表情をした。
「言ってみろ」
そのヴィクト様の言葉に甘えて、私は口を開いた。
「初めに、私が学園を駆け回ってメイニーさんの悪い噂を流している人たちを突き止めます。と言っても、ほとんど全員が悪い噂をしています。なので、最も噂を広げるのが上手そうな人を標的にします。そこで」
私は話を続けた。
「標的にした人に、本来の私の姿で接触するんです」
「本来の、ということは、男装姿の『イディ』ではなく、影のメリウェザー家のルディシア・メリウェザーとして接触するんだな?」
ヴィクト様の問いに、私は頷いた。
「はい。そのために先程も言いましたが、ヴィクト様にお願いがあるのです」
「どんな?」
「私を最も美しく見せるドレスを私にプレゼントしてほしいのですわ。もちろん、ヴィクト様に頂いたファンシービビットオレンジダイヤモンドの髪飾りも合わせます」
私が常に持ち歩いている髪飾りを見せると、ヴィクト様は目を見張った。ものすごく貴重で高価な物だから、盗まれそうで怖いのよね。
ヒロインだったら王子様に頂いた大切な物だから、とかいう理由で持ち歩きそうだけど、生憎私はヒロインじゃないものね。ものすごく合理的な理由で持ち歩いてる。
「……捨てていなかったんだな」
やや間があってからヴィクト様が発した言葉に、私は耳を疑った。空いた口が塞がらない状態だ。
「捨てる?捨てるわけないじゃないですか、あんな高価で貴重で私の美しさを際立たせる物を」
私が眉をひそめながら答えると、ヴィクト様は軽く笑って、自分が座っていたソファから立ち上がって人一人分開けて私の隣に座った。
「俺からの物だから、とは言ってくれないんだな」
悪戯っぽく目を輝かせたヴィクト様を私は一瞥して冷めた声で言い放った。
「ええ。別に私、誰からもらったから、とかいう理由で物を選びませんから。ただ自分に似合う物を選ぶだけです」
悪女っぽいわ!自分の美しさのためなら手段を選ばない……なんて素敵なの!私がうっとりしていると、ヴィクト様が咳払いをした。どこか決まり悪そうだ。
「そうか。とりあえず、ルディに似合いそうな服を用意すれば良いんだな?しかし、白昼堂々本来の姿を晒すのか?危険すぎる気がするんだが」
「流石に私といえどそんなことは致しませんわ。夕暮れ時に標的の人の前に本来の姿で現れて、メイニーさんの噂に関する何か適当な良い話を吹き込んで転移魔法で姿を消します。そうすれば標的が勝手に噂を広めてくれるでしょうから。もちろん、転移魔法に何かしらの仕掛けをして」
私の瞳が輝いているのを見たヴィクト様はフッとおかしそうに笑った。
「やっぱり、本質は変わっていないな。分かった、君に合う服を用意しよう。今度寮に届けに行くから、今日は戻ると良い」
ヴィクト様はそう言って私の頭にそっと手を置いた。
「頑張れよ」
その言葉に勇気付けられながら、私は学長室──学園内で唯一気を抜ける場所を出た。




