表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今日から始める脳梗塞  作者: おっとり魚
第三部 退院、それから
27/61

未来編3 反逆への狼煙 なるか奇跡の脱出、なるわけないよね(1)

 生活保護も直前となったある日、偶然から生活保護を受けると今までの医療保険が使えないという事実を知った。

生活保護指定医療機関というのがあり、その病院で診察してもらう場合医療費は免除されるのだが、医療保険自体は適用されなくなるため、そうでない病院にはもうかかれないというのだ。

慌ててネットで検索するが、どこがその生活保護指定医療機関なのか、詳しいことがまるでわからない。

公表している病院の情報はたまにちらっと検索にかかるのだが、どうもそこが全てではないようだ。

一覧で発表されていればいいのにと思いながらも、今後近隣にある病院を使えなくなる可能性を考えるとぞっとした自分は、とりあえず役所に電話して確認を取ることにした。

脳梗塞の影響で動きはまだしも言葉がどうもうまく出てこない自分は、他人と話をするのも電話をするのも億劫だったのだが、そんなことは言っていられない。

普段から脳内で会話を(空想で)シミュレートしてみることが多かった自分は、最近はそれを音読して実際に実演+発声練習を加えるようになったのだが、もし聞いている人間がいたらただの危ない電波を受信する人にしか見えないだろうなと思う。

しかもそれはなにかというと「えー」「あのー」と間をとって時間を稼ごうとしては、なにも頭に思い浮かばずにパニックになってもまだ結局次の言葉が出てこないということが多かったので、なおさら勝手を知らない他人と完全アドリブで会話するのはきつかったのだが……。

なんて考えるより先に電話していた自分は、多少噛みとちりながらも事情を説明してどこが指定機関なのか尋ねてみた。


しかし回答は「個別の案件にはお答えできないので、実際に保護を受ける時につくケースワーカーに聞くか、自分で今かかっている医療機関に尋ねてほしい」ということだった。

実際のリストなどは公表されていないが、対応している病院はそんなに少なくはないらしいということを聞いて、辛うじて安心するしかなかった自分は礼を言って電話を切った。

ただでさえ機動力が極端に少ないアーマーナ○ト(いや実質シュー○ー)のような自分は、もう何年も電車に乗っておらず、今から電車で通うということをちょっと想像できない。

今だと杖があっても普通にホームから線路に足を滑らせそうだ。

自転車も以前は20kmくらい平気で遠乗りして二つ三つくらい隣の市にも出かけたのだが、二回目に背骨を折った三年前からそれも完全に途絶えてしまった。

このあいだ生活保護の相談に市庁舎(当然市内)を訪れた時ですら、70代のおばさま達は軽々と自転車をこいでいたのを、一応まだ40代の自分がひいこら言いながら追いかけたくらいは体力がない。

なので本当に近くの病院しか通えそうにないのだが、さてその近場の病院は指定されているのかいないのか……。

いないとして他の病院はどこなのか、実際に病院を移る面倒を思うと憂鬱にしかならない。


もう一つ知った情報として、生活保護を受ける前に三親等の家族にも援助ができないかと尋ねられるらしいということ。

自然と恥が広まることになるわけだが、実は我が家庭はここにも大問題があった。

三親等ということはおじおばにも話が及ぶ。

父方の叔母は元からほぼ縁を切った状態だしまあどうでもいい。

ほんとは罵りながら何もしない様が目に浮かんで苛立たしくはあるが。

父方の叔父は自分より遥か年下なのでこれも問題がない。

母方の伯父も既に故人で年齢は自分より下なので、あとは母方の叔母が一人残っている。

この叔母は長期入院しているのだが、実は三年経った今でもうちの母親=姉の死を知らされていない。

何故かという部分はまた家族の恥なので詳しい言及を避けるが、照会などされれば自分のせいで全てが明るみに出てしまう。

これは非常に不味いことになってしまった……。


たった一つだけこの容易ならざる事態を覆す方法はある。

それは自分が「稼げるようになる」ということ。

しかしその猶予期間をたっぷり優雅に(でもないが)過ごしてしまった自分には、もう時間がほとんど残されていない!

いまさら慌てたところで八月末日の夏休みの宿題に過ぎない。

もう今月の生活費だって不足しだすレベルなのだ。

今二月。

今すぐ働き出せばとりあえず二月の終わり、最悪でも三月中旬くらいまでに給料をもらえれば、なんとか保護は受けなくてもすむ。

とはいえ既に今月も中旬に差し掛かろうとしている。

すぐ仕事ができればいいが、そんな簡単でもないだろう。

レスポンスがやたらと遅いのは散々経験済みでもある。

とりあえず稼ぎが五万もあれば一月の水道光熱費と食費くらいはなんとかなるし、残金も計算に入れれば数万で滅亡だけは免れるが、時間は今にも切れそうだ。

どうする?

とりあえず目をつけてはいたアルバイトの募集に電話をした自分は、こういう時だけは仕事がせっかちだった。

ぎりぎりになってから慌ててダッシュするのはもう性格なんだろうな……。

もっと早くやっていれば焦ることもなかったのに。


今月最初に引き出した四万円は、米購入代金や食費、病院代で既に一万五千円ほどになっていた。

これでは月末までの食費もちょっと不足するかもしれない。

まだ病院の予定はあるし、来月は早々に水道代の請求も待っている。


まずは銀行に残された残高を照会しに行ってみた。

ここに以前は十万近く残っていたのだが……残金が思った以上に減っている。

え、これ今(九日)から先月の電話電気代引き落とされる(確か十五日頃)んでしょ? それが今からこんなに減っていたら、もう今月の生活費引き出す余裕もないじゃん!

ほとんどパニックになった自分は、その足で履歴書をプリントアウトしにコンビニへ向かった。

しかし何故か機械が新しくなっていて、今までと操作が変わっていたこともあってこれまたパニックに。

何度も失敗を繰り返してなんとか履歴書は印刷できたものの、今度は証明写真のプリントアウトができない。

心理的には数十分、多分実時間では数分悪戦苦闘の末に諦めた自分は、刷った履歴書だけを自転車の前かごに入れて一度帰宅した。

家で説明を読み直して、結局自分が心理的(ただ勝手)に「これはない」と思っていたところに飛べばよかっただけと判明。

この寒いのにもう一回コンビニまで行けというのか……そういえば以前も証明写真を作ったから、まだそれがあるはずなのに何故見つからないんだろう? と部屋をくまなく探し始める自分は、もうとっくに平静を失っていた。


ここに入れた記憶しかない、という引き出しを調べてみる。ない、ない、ここにもない。

あと可能性があるのはこっちかここだ。こっち、なし。ここ……領収書がたまっているなあ。おくすりの説明書とか残しておいても仕方ないよ、ちょっとゴミと残すもの仕分けよう。

……はい時間の無駄でした。

やっぱり最初の引き出しだよ。

もう一回スタート地点に戻った自分は、その引き出しの奥でなんと一万円札を発見!!

そういえば以前ここに隠したようなおぼろげな記憶がある。

そして狂喜した自分は少し平静を取り戻した。

ネットの知り合いにそれを言ったら「RPGのダンジョンみたいだな」と言われたが、確かにそんな感じなのかもしれない。

探索されきったと思っていた場所にも掘り出し物はあるものだ。

そして思いつく場所をもう一度探索。ない。

またスタートの引き出しに戻って探索。


……ん? この底に貼りついている見慣れた女性の肖像は。五千円札だった。

なんと同じ引き出しから一日で一万五千円を回収した。

確かに引き出したお金を雑に放り込んではいたのだが、ここまで高額を引き当てるとは。

多分こんなことは二度とあるまい。少なくとも数年はないだろうな。

それ以前に今後こんな額を見失う余裕はあるのだろうか。

なんとか心理的に復活できた自分は、その後証明写真も発見したため再度コンビニに出かける必要はなくなった。


そして履歴書に写真を貼りつけようとしたのだが……今度は液体状ののりが乾ききっていて出てこない。

さすがに親が生きている頃に買ったのりなんてもう駄目か。

やっぱりもう一回買い物に行かないといけないか……なんて浮き沈みの激しい日なんだろう。

結局別のスティックのりの古い部分をはさみで切り落として、乾いていない部分を引き出してそれで接着した。

そのまま粘着が明日まで持つだろうか、不安しかないがもう適当にごまかせたらそれでいいや。


その写真はたしか十月頃に自宅でスマホを構えて強引に撮影した写真なのだが、もう既に輪郭が今とは大分違っている。

その頃から比べても5kgは体重が落ちた自分の顔は、その写真と比べるとやつれきっているように見える。

そう例えるなら以前が八○親方だとしたら写真当時はナ○ル、今は立○○らくのようになっている……。

一月に行われた血液検査の結果は極めて良好ではあるのだが、どうも最近やつれた顔をしているのは気持ちの問題なのだろうか。

まあどうせほとんど空の職歴と経歴、学歴のほうがよっぽどツッコミどころ満載だしもういいや。

仕事が終わった自分は気楽にこの文章を書き始めたが、しかし当時(数時間前)を振り返ると地獄だった。


ノリノリで探索行を書いてはみたが、明日どういう質問をされるか考えるとやっぱり憂鬱。

とりあえず年齢で即断られず面接に呼ばれただけまだマシではあるのだが……と言いながら成功した試しもまだないので安心には程遠い。

もしこの面接が断られたら次はどうしようか。いやもうどうしようもないのだが。

ジャッジメント・デイはすぐそこに迫っていた……その夜は昼寝もできなかったし眠れそうもないので早めに布団に入りましたが、おかげでいつもよりは眠れました。

つづく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ