未来編3 反逆への狼煙 なるか奇跡の脱出、なるわけないよね(2)
作者は思い込み、被害妄想が強い人物であるということを改めて踏まえた上でお読みください。
実在の企業にネガティブなイメージを与えることを意図したものではありませんので、そこはご推察いただきたい。
(ほんとは……いや恨み言は言うまい)
運命の日。いつもよりは寝られたもののやっぱり睡眠が浅かった自分は、寝ぼけ半分で明け方前に行動を開始した。
面接の時間まではまだあるので、朝食後にコーヒーを砂糖とミルク入りで一杯。
これで塩分0.05g追加。
ブレッド(例のチョコチップ)を一つだけ追加して優雅に過ごす。
いや本当は膝がガクガクしていたのだが。
待てど暮らせど時間は過ぎず、ほかになにも手につかないので段々眠くなってきて「もう約束のことなんか忘れて昼まで寝てしまうか」という誘惑に負けてしまいそうになるから困る。
それでも迫ってくる時間に合わせて緩慢に動く自分は、もう数年は使っていないスーパーハードスプレーの缶をしゃかしゃか振って久しぶりに噴射させたのだが、どうも手応えがまったくない。
ただ濡れて香りだけをまとったようで、まるで髪がセットされた気がしなかった。
のり同様これも使い切る前に寿命になってしまったか。
だって最近セットなんてしなかったから……。
そして一時間前、自分は重い腰をやっと上げて出かけることにした。
面接地は自転車で三十分ほどの場所だが、遠乗りは久しぶりなのでちょっと余裕を持って出発。
結局三十分程度そのままで無事到着。特に迷ったり困ったりもないまま、事前に電話で案内された通り建物の中に入った。
しかし時間三十分前ということもあって人影はない。
広いロビーには電話が一つ。
そして面接に来られた方へという看板が立っていて、なにやら但し書きがある。
その内容はスリッパに履き替えたら手を洗って後は座って待つように、ということだった。
面接採用係の携帯番号が書いてあるが、スマホを持っていない自分にはその番号にかけることもできない。
そういえば電話機があったと思った自分は受話器を取り、書かれた採用係の番号を押してみるが反応はない。
どうやら本当にただの内線らしい。
しょうがないので御用の方はこちらへという注意書きに従い電話した。
すぐつながって応対してくれる人が出たのだが、結局この人は最初に読んだ注意書きの通りに手を洗ってお待ちくださいと指示したので、自分はそれに従い、スリッパに履き替えてから手を洗った。
手術室みたいにやけに丁寧な手の洗い方が書かれているのを見て「事務とはいえ食品関係だしやっぱりこういう場所なんだな」と感じた自分は、とりあえず指示に従って手を洗ってみた。
その後指定された椅子に座ってひたすら待ったのだが、ふと目を洗面にやると「洗い残しが多い場所」が赤字で示されている。
確かにその辺はあまり念入りに擦らなかったなと改めて自分の手を眺めながら、もう一回洗い直すべきかと考えつつ結局実行に移さないままさらに待つ。
その後やーっと現れた(自分が早すぎただけ)面接担当の人は若い女性だった。
「寒い中おまたせして」と恐縮するその人は「部屋の暖房が効かない」とやけに寒さを気にしていたが、緊張もあるし普段の部屋よりは全然ましなこともあって、自分にはなんの感想もなかった。
そこから説明が始まるのだが、驚いたことに彼女は質問などもほとんどしなかった。
わずかにエクセルが使えるかどうか程度。
普段のお約束が全くないまま、ただ彼女の説明だけが続いた末、個人情報がどうとかで、結局提出した履歴書を返してくれた。
あ、履歴書一通儲かった、ラッキーなんて思うわけもない。
自分はこの時やっと「しまった」と思った。
履歴書の内容や職歴などで採用していないということは、別の場所に採用のポイントがあるということになる。
彼女が速攻で暗記したという可能性もなくはないが、おそらくそうではないだろう。
経歴でないならそれはなんなのか。
一番くさいのは最初の手洗いだ。
「これ実際は監視カメラでもついてそうだな」と考えながら手を洗っていた自分は、最初からここに違和感を覚えていた。
食品を扱う企業は確かに手洗いや消毒には神経質なくらいだが、にしてもこの時の仕掛けはあからさまだった。
一々命令指示するのではなく、最初の自然な立ち居振る舞いでその人間の意識を判断するのだとしたら、こんな都合のいいシチュエーションはない。
もしかしてとは思っていたが、やはりこれは最初から別のテストだったのだろうなということを確信した。
とすれば身だしなみも不十分な自分は、印象はあまりよくはあるまい……。
完全に打ちのめされた自分は傷心のまま帰路についたが、その足取りは重かった。
これは駄目だな……おとなしく次の応募先探そう。
そして次の日改めて通帳を眺めていたら、実は健康保険料は二千円ではなく二千五百(数十)円だったとか、電気とガスはそれぞれ同じ会社から日を分けて徴収されていたため、高い時は合計で七千円から八千円は引き落とされていたとか、あまりにも大雑把にしか見ていなかった事実を再度修正されることになった。
だからあんなに急激に残高が減っていたのか……。
結局一月高くて一万円ちょっとだと思っていた支払いは、二万円には届かないもののやはり一万数千円以上にはなっていた。
駄目じゃん……。
もし採用が決まって明日からということになっても、来月の給料日まで持つだろうか?
今月は隠し財産の一万五千円で切り抜けられるとして、さてここがかなり不安だ。
よくよく考えれば付き合いやバレンタインのお返しという出費もある。
ぎりぎりで日々家にいれば出費は極力抑えられる状況とは違うのだ。
まあ結局十四日前にまだ採用は決まっていなかったし、同僚にチョコをもらうようなイベントはなかったのだが。
仮に入社決まっていたって突然入ってきた人間に渡すか? とも思うが。そもそも用意が間に合わない。
大体面接で女性が出たからって同僚もそうとは限らない。
このご時世で歓迎会や飲み会もそうあるとは思えないしな。
仮にあったら元から酒駄目で今は外食自体食べられない自分は、それこそ烏龍茶で腹をふくらませるしかないのでかなりの地獄だが、その心配も多分ないだろう。
本当に空想だけの余計な心配だった。
最悪引き落とし日前に電気電話代を引き出してしまうという手も使えなくはないことを知った。
引き落とし日に残高がない場合、十日後に再度引き落としがあるらしい。
三十日以内ならば利息やペナルティーなし、突然電気を止められるということもなく見逃してもらえるらしい。
なら給料日までそのお金で過ごせば、なんとか当面の危機は回避できる。
ただ面倒なのは電気代の一回目の引き落とし日が意外と早いため、初動が遅れると引き落としが完了してしまい生活費を確保できなくなってしまう可能性があるということだった。
うまくタイミングを合わせられればいいが、うっかりすると食費を削られてしまうかもしれない。
その場合ずっとふりかけご飯で半月耐えるというコースになってしまう。
米は十分あるし、余ったふりかけも半月くらいならなんとかあるにはある。
塩もほぼ一袋そのまま残ってはいるから、塩おむすびなら作れる。
せっかくの栄養大崩壊だが、背に腹は代えられない。
それで血圧がどうなるか想像すると恐ろしいが。
というか食事はそれでしのげても今度は病院に行って薬がもらえなくなってしまう……どう考えてもここで今すぐでも決めるしかもう時間はなさそうだ。
というわけで先行きは不安しかないまま、自分は日払いのアルバイトを検索し始めた。
これなら多少薄給でも少なくとも支払いが崩壊はしない。
残念なのは日払いに限定するとやはり都市部に募集が集中して、自分のような田舎暮らしにはちょっと厳しいことだった。
力仕事立ち仕事ができない自分には見事なほど選択肢がない。
この時ほどぎりぎりまでぐずぐずしていた自分を呪ったことはない。
そしてこんな時に限って良い条件のバイト募集を発見してしまって絶句。
それは自分からしたら本当に夢のような話なのだが、しかし給料がいつもらえるかわからないのが唯一最大の問題点だった。
まさか電話でいきなり給料日いつですかと聞くわけにもいくまい。
コロナ禍なので生活きゅうきゅうなんです! と訴えるのもあるいはありかも知れないが、さすがにそこまでプライドを捨てることもできないし、バイト応募の電話でいきなりそんなことを言うやつ採用しないだろうとも思う。
しょうがないのでそのバイトは泣く泣く見送ることにした。
あーあ……採用決まればすっげー好条件だったのに。
そんな中、三ヶ月ぶりに眼科に定期検診に行った。
目の中にできていた白い斑点はもうほとんど消えていた。
「ほぼ正常」と言われたのはなによりありがたい。
ありがたいはずなのだが、自分の生活は一寸先も見えやしないほど視界不良だから困る。
そして今でもやっぱり視力はあまりよくない。
どうもぼやけて細かい部分がはっきり見えないことが多い。まさに自分の人生を象徴するような症状だ。
次は半年後と言われたが、その時はもう生活保護で病院変えないといけないかも知れないな。
そして迷いつつも行動に移せないまま落ち着かない日々を過ごしていたが、ふと気づけば約束の一週間はとうに過ぎていた。
連絡すらなしかー。
自分が甘かったとはいえさすがにこれはがっくりした。
予感通り当日からさっさと次に動けばよかったのに、またこの瀬戸際で一週間も時間を無駄にしてしまった。
履歴書返された時点で問題外だったって気づけという話。
なお今回面接では脳梗塞ののの字も出ていないので、結局駄目だったのは職歴や年齢のせいでしかなかったらしい。
やっぱり無職が今さら社会復帰……というよりは社会参加自体が無理なんだろうな。
本当は妄想膨らませていた自分がひたすら恥ずかしいだけの話だったのだが、捨てるのも惜しいので公開してしまおうと思う。
とりあえず個人としてはもうあそこの商品は二度と買うまい……この調子でどんどん買わない商品行かない店が増えそうだ。
既にいくつ目だろう。
地産地消とか地元応援もこうやって参加する気力がなくなっていくんだな……いやないない。
どうせ元から買ったこともないブランドだったし、また無関係に戻るだけだった。
こうなったらふるさと納税で思い切り地元をディスってやりたいが、そもそもそんなに納税なんかしていなかった。
それどころか市民税も非課税(=収入がない)で今から生活保護受ける人間が何を抜かすという話。
鼻で笑われるのがオチだった。
考える復讐が貧民以下な上に実現不可能とは……つくづく自分だけが恥ずかしい。
まあやっぱり生活保護しかないかな。
余計なプライドさえ捨てれば生きていけるというのは、そんなに悪いことでもないと思う。
思うしかない。
叔母さんにばれたらその時はその時なので、自分が直接謝ろうと思う。
むしろ自分にとってはそれが望ましい結末でもある。
三年も黙っていたことは謝っても謝りきれないが。
ここに至る経緯、二度の骨折と母親との闘病生活は記しておきたいと思っていたので、時間と心理的余裕ができたらいずれ書きたいと思う。
骨折はともかく母親のことは笑いに紛らせることもできない話ではあるのだが、気分的にも湿っぽくなりそうなのでちょうどよさそうだ。
というわけでいよいよ生活保護給付間近に迫る現場からでした。
ほんとに第四部突入することになるとは。いやちょっと(かなり)思っていたけど。
もうひっそりと眠るように自分でも気づかないうちに逝きたいよ……生きているだけで恥な自分が恥ずかしい。
思いだけで人が殺せたら、その時は自分で自分を真っ先に死なせてしまうだろうな。
どうせその状況も飛び込んでしまえばすぐ慣れるだろうけど。
怖いのはいつも入り口だけなんだよね。
そう、手術室に入って物騒な器具に囲まれた時もそうだった……。
(いずれここに回想として過去編が入る予定です)




