第28話 エピローグ
六面世界には四季がない。
それ自体は薄々勘付いていたことだ。しかしはっきりと知識として知ったのは最近――こちらの世界へ来てから一年近く経った頃だった。
六面世界は六面世界で、四季の代わりに平界があって、それぞれ違う気候が広がっているのだけれど。
とはいえ俺が生まれた世界の、俺が育った国のことも、知ってほしいと俺は思ったのだ。
……いや、本当はアルキスが「ジンは知ってるのにあたしだけ知らないなんて」と謎の拗ね方をしたからなんだけど。
でも前者の理由が存在しないというわけじゃない。
――というわけで、ここは地球。
長い耳をマフラーで隠せる季節。二人でイルミネーションを見るために外出中だ。
「異世界は随分と寒いのね」
「今度は暖かい時期に来ようか」
「あら。それだと耳が隠せないでしょ?」
……それは確かに。
けど地球だと奇跡も魔法も使えないしなあ……六面世界と地球を繋ぎ続けて魔力を充満させる……? いや御鈴流の後継者としてそれは流石に……。
「別にいいわよ。そんなに考え込まなくても」
頭を悩ませる俺を見かねて、アルキスが溜め息を吐いた。
「六面世界の寒冷地っていうと、たいていは魔境だもの。そういう場所を無防備に歩けるだけで、充分過ぎるくらい物珍しいわよ」
白い息が、街路に溶ける。
「だからね――」
きゅっ、と袖を引かれるようにして。
指先に絡むのは、冷たくて柔らかな感触。右腕を包み込むように、重なる暖かな時間。
「――たまにはこういう歩き方もしたいから。地球に来るのは冬だけにしましょ。寒いなら、こうしても変じゃないでしょ?」
「……ああ。そうだな、そうしようか」
右側に心地好い感覚を覚えたまま、俺とアルキスは微笑み合う。
小さな雪が、アルキスの、少しだけ赤くなった鼻先に落ちて。
俺はそれを、接吻で溶かした。
この小説はこれで完結です。
最後まで拙作にお付き合い頂き、ありがとうございます。
それでは、また。




