第27話 凱旋のあとで
静寂は一瞬だった。
世界が止まったような寸隙をおいて、時間が動き始める。
最初の孔傷をなぞるように一つ。左右の肺を横からまとめて刺し貫くように一つ。細剣の鈍色を黒い液体が伝う。
何かを喋ろうとしたのか、マクスウェルが口を開いて。
泡立った黒血が溢れた。
剣を引き抜く。
ぞふり、と傷から血が流れ出る。
それらはすべて、一つの事実を示していた。
――すなわち、『虚ろの陽を胸に掲げよ』の終わりを。
「これで終わりだ」
マクスウェルの身体が、力を失ってがくりと崩折れる。
返事はない。
それが答えだった。
◆◆◆
"最悪"は滅び、王国は守られた。
最高に仰々しい凱旋行進と式典――といっても後者は、時間の大半が武闘会後に行なえなかった処刑の処理で消費された――が王宮主導で行なわれ、女王様から叙勲されたりした。その後の立食宴席は胃がからっぽになって苦しかったとだけ言っておこう。
特記すべきことといえば、玉座に座ったカエデ様の足が床についていなくて微笑ましかったくらいのものだ。
……ああ、何故か『永世斬徹』を返したときよりも集中力の小石を返したときのほうが嬉しそうだったな、割れてたのに。気のせいだったのかもしれないが。
そして、そんな死闘とその後に続く一連の面倒事も一昨日までのこと。
俺とアルキスは王都の冒険斡旋所に宿泊していた。
アルキスは戦いが終わってすぐに王宮を出たかったようだが、カエデ様に引き留められていたのだ。
戦いの後、俺たちは王国軍の人たちからやたらめったらに褒めそやされて帰途についた。軍人にどういう褒賞があったのか、あるいはなかったのかまでは知らないが、ユミナたちのことは聞いている。
ユミナは昨朝早々に王都を発った。まあ、年に一度はアルキスをからかいに――もとい様子を見に、辺境の街に来るそうなので、また会うこともあるだろう。
シズカとヴァレットくんは迷宮都市へ戻るようだ。ヴァレットくんが頭を抱えていたから、何かシズカが苦労をかけたのかもしれないが……短い冒険者生活なのだし、好きにさせてやるのもいいんじゃないか、とは思っている。勝手に思っているだけだけど。
俺たちが王都を発つのは三日後の予定だ。
ちょうどその前後に、カエデ様がカモフラージュをしてくれるらしい。もう一度パレードをする羽目にはならずに済みそうだ。カエデ様々だな。
――だけど。
辺境の街に帰る前に、どうしても決着をつけておきたいことがある。
……決着というと、ちょっと大仰なイメージになってしまうけど。
アルキスのほうへ、視線を向ける。
金髪碧眼の、森人の少女。俺の大好きな少女は、両の掌の間にある鉄貨を雷の奇跡で浮かせたり回転させたりしている。
昨日からずっとこの調子で、復習――と、言えなくもない反復作業の繰り返しだ。
「アルキス」
「ふひゃい!?」
びくり、とアルキスの肩が跳ねた。
ついでに鉄貨も飛んで、見事天井に直撃した。
「なっ、なによ! 急に話しかけるなんて――」
そう、アルキスは真っ赤な顔で叫んでいる。
けれど、
「……もう、『偽りの伝心の奇跡』はないからな」
けれど、俺の言葉にアルキスは押し黙って。
床を数度跳ねた鉄貨が転がって、壁に行き当たって震えて止まる。
「――好きだ、アルキス」
静寂に掴み取られたように重く感じる腕を、アルキスの肩へと伸ばして。
「――あたしも、好きよ。ジン」
仰向けに、ベッドに倒れ込んだアルキスの口唇が、そう言葉を紡いだ。




