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刃の転界者  作者: 利々 利々
第四章 刃術師は幕を斬る
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第13話 Demon Buster

 前へ出る。

 その動きに合わせて、ヴァレットくんの気配がゆっくりと進む。


 一歩踏み込んだだけで鎧刃(ブレード)による攻撃が激化するようなことはない。元が変幻自在に曲がる剣のようなものだ。できるなら最初からやっているだろう。

 それよりも。


「ちょっとばかし厄介じゃねえか! はっはっはっ! いいぜ、これでこそ戦いだ!」


「ぬかせ! 本当にちょっと(ヽヽヽヽ)ばかし(ヽヽヽ)だとか思ってんなら――」


 細剣(レイピア)を振るって、ガンデントを追う(ヽヽ)


「――なんで逃げてんだ、てめえはッ!」


「俺様の勝手だろうがァ!」


 右腕の双刃による攻撃。

 胴体三刃の援護も加わって合計五つ。

 まだ鎧刃(ブレード)は『斬り徹』せない。


 だが届く。

 絶妙に直撃を外されているが、細剣(こちら)の被害が少なくて鎧刃(あちら)の被害が大きくなるように交錯して――ああ、つまり、俺の攻撃は当たっている。


 ……ちょっとばかし、一般的に思われる攻撃の構図とは違うだけで。


 防勢一方のまま前進する俺と、その後ろから駆けるヴァレットくん。そのまた後ろにはシズカがいる。

 攻撃を繰り出しているのはガンデントだが、奴はゆっくりと後退している。


 時間稼ぎのつもりか、あるいは別の目的か。

 それとも単に、鎧刃(ブレード)八つでは分が悪いと踏んだのか。


 優勢、と言い切るのは難しいが、帰趨は既に傾いた。


「――加勢します!」


 背後の気配が俺を追い抜く瞬間。

 横合いから声。


 白煙と青の篭手。

 右から俺へと迫っていた鎧刃(ブレード)を殴って凍砕(こわ)し、減速したヴァレットくんが俺に並ぶ。


「格闘戦もできるのか!? "先代"ってのは!」


記憶(ほんにん)によるとこっちが本職、だそうです!」


 本人!?

 脳内で……魂同士で? やりとりができるのか?


「そうか、じゃあ一つ!」


「なんでしょう!?」


「白い煙! 消せないか!?」


「そういう魔法はないですね!」


「じゃあちょっと離れてくれるかな!?」


 白煙で視界が遮られて動きづらいので!


「――はっはっはっ。また仲間割れか?」


「まさか。挟撃の相談だよ」


 俺とヴァレットくんは、弾かれるように二手に分かれて走り出す。

 直進した俺が鎧刃(ブレード)を五つ引き受け、ヴァレットくんが対処するのは三つ。


 ――(いや)


 ヴァレットくんの冷凍打撃を甘く見ていたのだろう、すぐに俺への対処は四つに減った。


 ……それは俺を軽く見ているのと同義だ。

 腹立たしいが、勝つためになら喜ばしい。


「――『()(ごく)(かん)(てん)(ほう)』!!」


 そして、俺とヴァレットくんが稼いだ時間が本命(シズカ)の攻撃力になる。


 風圧に耐えるために立ち止まり、身を(かが)めて周囲を(うかが)う。

 弾速だけで暴風を巻き起こす炎の塊が、着弾と同時に膨張し、()ぜる。


 けれど。

 砂塵の奥で、光が煌めいた。


 刃。

 防御? 反撃? ――思考の(ひま)はない!


 繰り出した細剣(レイピア)が、無理な交錯の結果、折れる。

 まだ代わりはある。

 次を取り出す。


 続く鎧刃(ブレード)を視界に捉える。


 交差の瞬間、鎧刃(ブレード)の横を滑るように走る。

 ともすれば攻撃を無視して後衛(うしろ)を危険に晒す動き。


 俺は鎧刃(ブレード)を、受け切れなかったように振る舞ったのだ。


 生まれた隙を、むざむざと見逃すガンデントではない。

 前衛(おれ)を抜けた刃が後衛(うしろ)へ向かう。


 それは大局の嗅覚だ。


 三対一の拮抗から、ガンデントの優位へ。

 確かにシズカを倒せばそれは得られるのだろう。


 だが、(いざな)うからこそ計略だ。


 俺の優先順位を下げてくれるなら。


「――『()(とお)し』」


 俺がその隙を突くまでのこと!


「と、っ……おぉ!? そいつぁ割に合ってねえんじゃねえか!?」


 逸る刃二つを落とせば、ガンデントは焦ったような声音を発して退いた。

 確かに鎧刃(ブレード)を斬ったところで、傷は相手(ガンデント)の体の一パーセントにも満たないのだろう。

 それをわざわざ、シズカに鎧刃(ブレード)が届く危険を押してまでやる必要はない。


「そうだな! もうしないようにしよう!」


 叫びながら、同じ手を繰り返す。

 舌打ちとともにガンデントは防衛を選んだ。


「騙し討ちとはな! 刃のォ、戦争らしくなってきたな!?」


 ……流石に二度目は通用しないか。


「満足したならとっとと魔界へ帰れ!」


「まだ不足さァ!」


 刃が交わる。


 抵抗なく細剣(レイピア)を振り切れば、鎧刃(ブレード)が回転して飛んでいく。


 一歩。


 さらに踏み込む。

 交差と交差の間隙(かんげき)、僅かな一瞬。


 視界の隅ではヴァレットくんが鎧刃(ブレード)凍砕(くだ)き、目では見えぬ後ろからはシズカの砲撃がガンデントを崩す。


 その中を進む。

 一計を成らせて、俺へと注意を向けさせ、俺を限界まで警戒した、そのもう一つ後。


「ちぃッ、小賢しい! だがそれもまた――」


 もういいと判断する、判断せざるを得ない瞬間を。


 ――待っていた(ヽヽヽヽヽ)


「――――」


 腕を振るう。

 細剣(レイピア)が手を離れる。

 そして影が、ガンデントに重なった。


 投擲版『斬り徹し』。


 貫いたのは左胸。


 魔法(マジック)旅袋(・バッグ)から一応、細剣(レイピア)をもう一本取り出しておく。

 けれど鎧刃(ブレード)は動かない。


 傷口から鈍く光る紫色の血液が流れている。

 それを眼型の刃で確認してから、ガンデントはこちらを見た。


「ふ……く、くくくっ――はぁーっはっはっは!!」


「……何が可笑(おか)しい」


 まだ奥の手があるのかと警戒する俺に、ガンデントは両の掌を見せてひらひらと振った。

 いやそれ安心できないから。お前の武器は鎧だから。


「はっはっは……そう怯えるなよ、刃の。ただ……いい戦だったと思ってな」


 ガンデントの鎧が動く。

 それが鎧刃(ブレード)の操作ではなく僅かな()(じろ)ぎだと気付いたときには、くぐもった含み笑いが響いていた。


「誇れよ、刃の。俺様の鎧を――心臓を見せるためじゃなく、本気で守って――あれだけまとめて貫かれたのは初めてだ」


 褒称の言葉とともに、九層――もとい、一層は既に砕け散っているから、残り八層の鎧が予兆のように光の粒子に包まれていく。


 そして最期に。


「……今生は、アキカネのとき以来だった。()く生きられたぜ……()い戦と、()い敵と、そして()い死だ」


 満足だ、と。

 ガンデントは言い。

 やがて鎧も心臓も、余さず風に溶けていく。


 大円武場(コロシアム)の中心。()り鉢の会場から。

 紫黒色に染まった風が、渦を巻いて抜けていった。

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