表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
刃の転界者  作者: 利々 利々
第四章 刃術師は幕を斬る
52/79

第01話 失われた前夜

前話まで三人称でした

ここから一人称に戻ります

 実に、三十日。

 丸々一ヶ月にも渡る修行を終えて、俺は王宮都市(ミレニアン)に帰ってきた。


 一ヶ月。


 そう、一ヶ月だ。


 俺は今、最後の『()(とお)し』――『断界(だんがい)斬徹(ざんてつ)』の修得のために費やした時間の重みを、ひしと感じていた。


 目の前の幕に書かれた、『王国(ミレイ・)五耀(ペンタ・)武闘会(ガントレット)・本戦開催』という文字のせいで。

 ……一般人が推薦なしで本戦に出場するために必要な、予選会は既に終わっている。というか十日近く前に、そもそも受付が終了している。


「ちくしょうめ、あの(ジジイ)……!」


 いきり立つ俺の姿は目立たない。


 というのも、ここには似たような境遇の人間がたくさんいるからだ。

 立ったまま悶絶する男。座り込んでべそをかく男。何か変なお札(多分()(れい)に使う何かだろう)を耳に当てて「推薦してくれるって言ったじゃないか!」と憤慨している男。

 ――現在、王国(ミレイ・)五耀(ペンタ・)武闘会(ガントレット)会場『大円武場(コロシアム)』前は阿鼻叫喚の様相だった。


 ついでに観客の種類もここに立っていると分かりやすい。

 こちらに奇異の目を向けてくるのは武闘会(ガントレット)初観戦の人だろう。逆に微笑ましげな生温かい視線は常連のもの。

 ……勝ち誇ったような笑みを浮かべて見てくるのは、自力で本戦出場を勝ち取った奴らか、問題なく推薦してもらえた連中だろう。


 ちくしょうめ、せめて予選に出るくらいはしたかった。

 実力で出られないなら納得もできたのに。


「そんなあなたに推薦チケット」


「ああ、助か――ってうわあ!? ユミナお前いつからそこに!」


「……反応が天丼(前と同じ)。そういうのは良くない。……ええと、そう。そういう表現があるの」


 なんだ?

 いきなり独り言を始められても、俺には訝しむことくらいしかできないんだが。


「あなたの知る言葉で表現すると……リアクション芸人としての誇りを持つべき」


 芸人じゃねーわ!


「ていうか思考だけならまだしも知識まで()めるのかよ!」


「当然。私くらい上等な天人(デイヴァ)にはこれくらいが標準」


「やってることは上等どころか下劣極まりないのにな……」


 というか地球の知識を言いふらしたりしないでくれよ?

 まあ女王(カエデ)様あたりと協議の上でやってくれれば大丈夫だとは思うけども。


「大丈夫大丈夫。天人(デイヴァ)の口は堅いから」


「信用できねえなあ……」


 俺の中の天人(デイヴァ)像、サンプルが魔女(おまえ)大罪人(マクスウェル)しかいないんだよ……。

 不安しかない。


「仮に天人(デイヴァ)の口が軽かったとしても私の口は堅いから平気。触って確かめてみるといい」


 そう言ってユミナは自分の唇を指でぷにぷにしている。どう見ても堅そう、(いや)硬そうには見えないが、触って確かめていいというならお言葉に甘えて……。


「それとも私の胸に聞いてみる?」


「胸で」


「分かった」


 おっと。

 ローブの隙間から覗く鎖骨に魅せられて、ついつい即答してしまった。

 ……だが「分かった」と言われたら乗るしか――はっ、殺気!?


「節度!」


背後(うしろ)ッ!」


 間一髪、アルキスの蹴撃を躱す。

 食らっても魔法の鎧(マジック・アーマー)があるので精々吹っ飛ぶだけで済むが、僅かでもダメージは遠慮しておきたい。

 なにせ今日から本戦が始まるのだ。ユミナが用意してくれた推薦チケットとやらの都合にもよるが、今日から戦う可能性がないわけではない。


 しかし……ふむ。

 今日は赤か。気合の入ったことで。


「アルキスの赤は見られてもいいやつ。油断してはいけない」


「そうなのか」


「往来で人の下着を評論するなー!!」



  ◆◆◆



 流石にその場で話を続けるわけにはいかなかったので移動した。


「――とすると、具体的にチケット的なものがあるわけじゃないのか」


「そう。私の名前で既に推薦してあるから、受付に名前を言えばいい」


 ちなみにアルキスは、と訊こうとして視線を向けるとドヤ顔と目が合った。


「あたしは予選会を突破したわ。本当は予選会一つあたり二人が本戦に出場するんだけどね、あんまり速く狩り過ぎちゃったもんだから、Cブロックからはあたし一人しか出てないのよ」


「……本当はマナー違反。でもアルキスがそのミスをしたおかげであなたは出場できる。感謝するといい」


 二人の話を総合すると、まさか俺が予選会に登録すらしていないとは思っていなかったらしい。

 さしものユミナも俺が修行で本戦まで留守にしているとは予想も読心もできなかった。まあその頃俺は海の中にいたから、当然といえば当然である。

 で、予選会終了後にアルキスが『やり過ぎた』穴を埋めるのに――予選会に出ていなかった俺が使われたというわけだ。


「そういえばユミナは出場しないのか?」


「……普通、神鉄級(アダマンティン)以上の冒険者(トレイラー)は出るのを嫌がる。それくらいになると手の内をさらしているかどうかも、かなり大きく戦局に関わってくるから」


 じゃあアルキスはむざむざ手の内をさらしに出場してるのか……。


「な、なによ。……仕方ないでしょ!? 出てみたかったんだもん!」


 俺とユミナの可哀想な子を見る視線に耐えられなかったのか、アルキスは顔を真っ赤にして叫んだ。

 そういえば冒険者(トレイラー)になったのは三年前だとか言っていた。というか十三歳だと四年前の武闘会(ガントレット)当時は九歳か。そりゃ出てないわな。

 四年に一度、限られた祭典なら一度くらいは出てみたいと思うのも仕方ないか。


「ま、どうせ予選会で手の内は一度さらしたんだろ。今年は別にいいんじゃないか?」


 アルキスがここで出場を取りやめたりすると、推薦してまで俺をねじ込んだ意味がなくなってしまう。


「……でしょう!? なのにユミナったら酷いのよ、ここに来るまで何度もあたしの出場を取り下げさせようとして!」


「先輩として当然の配慮。流石に後輩が身内同士でぶつかって切り札や奥の手を周知させるのを、どうぞと勧めるわけにはいかなかったから。……でもお互いが同意の上でなら、いいと思う。頑張って」


「そうそう。なんだったら予選会で見せたの以外は使わないようにすれば――」


 ん?

 ……待てユミナ。今、身内同士で(ヽヽヽヽヽ)ぶつかって(ヽヽヽヽヽ)って言わなかったか。

 それはどういうことだ。


「どういうも何も。簡単な話。厳正なる抽選の結果――まああなたの分の(くじ)は私が引いたけど――ともかくあなたの本戦初戦は今日行なわれる。その相手が、アルキスになった。たったそれだけのこと」


 思ってた状況と違う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ