プロローグ
「火の女神ヴァルマの神託に従い命じる。勇者よ、巨悪を討ち滅ぼし世界に平和をもたらすのだ!」
場は王宮、国王陛下の御前。恭しく垂れた頭の中で、火の勇者は考えた。普通に嫌です、と。
「水の女神ミュリの神託です。必ずや忌々しき怪物を討ってください。行ってくださいますね?」
場は大聖堂、大神官の御前。両手に肩を置かれて問われ、水の勇者は頷く他なかった。圧が凄かったので。
「大地の男神ドルゴの神託だ。この中で最も屈強な戦士であるお前に、世界の平和を託すと仰られた」
場は聖樹の根元、族長の御前。湧き上がる歓声の中、大地の勇者は不敵に笑った。やはり強者には使命が付き物だと陶酔した。
「風の男神フィニの神託です。どうやら倒すべき敵というものがいるらしいです。まあ、無理強いはできませんが。あ、拒否の申請をするなら私に面倒のないようにお願いしますね」
場は王立魔法研究所、所長は眼前。周りがやいのやいの囀る中、風の勇者はいつも通り呑気に笑った。なんか面白そうだしやってみるか、と。
少年は恩人からの手紙の内容を思い返していた。彼はこの世にあまり興味がなかった。いつも通りの日々をこれからも過ごしていくのだと思っていた。日常を終わらせたのは唐突な悲劇だった。彼の日常が変わることに、彼の意思はなんら関与しなかった。
さてこれからどうしようかと考えながら彼は荷車を引く。昨晩出会ったばかりの同行者に名前を聞かれ、咄嗟に自分のものと言っていいのか分からない名を名乗った。
「これからどうするつもりなのかな」
彼には特に目標ややりたいことがなかった。だが与えられたものならあった。
「俺はこの世の悲劇を終わらせる」
口ではこう言いながら、彼はこの世の悲劇に興味はなかった。恩人が手紙を渡してきた時の顔を思い浮かべながら、彼は宣言した。あなたがそう言うのなら、と。




