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異世界貴族に転生したけど思ったより不満だったので  作者: 南乗七史
第4章・トイレは三大欲求にも並ぶので

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番外編・奪われた晩餐会4

「舐めてんのか、てめぇ」


 野盗の頭が静かな怒りを露わにする。


「舐めていない。一枚噛んでもらおうと思ってるだけさ」


 余裕綽綽のアルメル。いや、この場合は、余裕を演じているのだと思う。交渉している時のアルメルの計算高さは、私では計り知れない。口調のひとつひとつに至るまで意味を持たせている可能性もある。


 このあたりの人心掌握は政治学の範疇だったと思うけれど、アルメルの前世は政治家か何かだったのだろうか。


「できるわけねぇだろカス」


 悪口が語尾なのだろうか、最後に汚い言葉を付け足さないと喋れない性格となると、確かに、戦闘力はあっても冒険者には向かない。冒険者には、チームワークは勿論、ギルドへの報連相などで喋るスキルは必要になる。でも、だとしたら、


「そういえば、君の名前は?」


 喋るスキル、となると、アルメルの得意分野だ。


「教えてなんになる。俺達の名前なんぞ、家名を持たねぇ貧民の自称だ」


「教えれば絆になる。俺はアルメル・オース・ファラン。この地でファランというと色んな人が困ると思うから、アルメル、のほうで呼んでもらって構わない」


 うーん、それはどうなのだろう、と、少し迷う。確かにこの地パラノメールを治めるファランという名前が示すのは、現当主のダグラス様であり、いつかの未来、次期当主のスレイン様ということになる。とはいえ、貴族にとって家名を示すのは最も重要な挨拶と言っても過言では無い。家名を重要視しないことは、失礼なのでは? という違和感が、私には拭えない。


「呼ばねぇよ」野盗の頭は言う。「だからてめぇも呼ぶんじゃねぇ」


 その喧嘩腰に、アルメルは大喜びの笑みを浮かべた。


「それは助かる!」と、アルメルは両手を叩く。「オヌシって呼ぶから、俺を呼ぶ必要が出来たらダイカンって呼んでよ!」


「だから呼ばねぇっつって……なんだそのコードネーム、聞いた事ねぇぞ」


「俺の故郷では定番だったんだよ。『お主も悪よのう』『お代官様こそ』って言って、権力者と実行役が裏取引するの。俺の周り、真面目な人ばかりだから悪だくみ出来る相手居なくてさぁ、困ってたんだよね。悪だくみ出来る相手が本名を望まないというのは、願ったり叶ったりだ!」


「本名かどうかは関係ねぇ! てめぇと呼び合わねぇっつってんだクソガキ!」


「つれないなぁ。何が気に入らないんだ? 基本は達成報酬になるけど……ああ、そうだ、大切な事を伝えていなかった。契約内容についてだ」


「結ばねぇ契約の内容なんざ興味ねぇよ! 喋んな!」


「ひとつ、業務内容は基本的に、俺が指定した魔獣・魔物の素材回収、あるいは捕獲だ。素材の買い取りは、ギルドへの販売価格よりも多めの契約で、俺のみに素材を届けて欲しい」


 おお、と、感心する。確かに今の戦力では素材回収は自力では出来ない。パラノメールは今、人口減少が止まるか回復するかの瀬戸際なので、人手不足のパラノメールから戦力を持ってくるわけにもいかない。そうなると、確かに、傭兵か野盗を雇う、というのが、最も簡単な手だ。


 野盗の頭も、その内容に面食らいつつも、暴言が続かなかった。ただ、少しだけ荒っぽい口調で


「ギルドより高く? なんでそうなる。てめぇにメリットが無ねぇだろ」


 当然の疑問。だが、アルメルは説明する。


「売値と買値は違うんだよ。例えば、冒険者達がギルドに対し、銀貨1枚で素材Aを売る。そしたらギルドは、銀貨2枚で職人等に素材を売り、銀貨1枚は手数料・仲介料として、自分達の組織運営に充ててる」


「そうっだったの!?」思わず声が出る私。


 シンシアとサーシャは知っていたのか、大したリアクションは無かった。


「そうなんだよ」アルメルは私のほうを見ながら言った。「でも、それは正しい事なんだ」


 経済学は深く履修していないので、知らない範疇の知識だった。


「正しいの? なんというか、横取りされている気分なのだけれど……」


 言葉を選ばず強めの表現をすると、アルメルは苦笑した。


「――求めている人に、求めている物を。これって案外難しいんだよ」


 と。


 そして、アルメルは野盗の頭の目の前に立ち、尋ねる。


「未加工のワーウルフの毛皮が10体分ほど欲しいな。今この瞬間なら大金貨1枚で買い取る。持っているかな」


「そんな都合よく持ってるわけねぇだろ馬鹿か?」


「そっか、残念だ」


 アルメルは姿勢を変え、私のほうを見る。


「ワーウルフの毛皮、10体分が欲しいから、すぐに手に入るだけの戦力が欲しい。3日以内だ。手配出来るかな」


 問われ、少し考える。


 この森、イディムの森はワーウルフの生息地だ。しかし、ワーウルフの毛皮は魔法灯の素材でもあるため、日常的に狩られている。沢山居るが、競争相手は多い。そうなると、戦力には質よりも数が必要になる。他の冒険者に先取りされず、より多くの場所でワーウルフを探せるだけの、戦力が。


 だが、パラノメールは人手不足。アルメルの私兵はシンシアとサーシャの2人のみ。私の実家では馬車で片道を行く半分にも届かないうちに3日を過ぎる。


 つまり、結論はこうだ。


「無理ね。手配が間に合わないわ」


 その答えに、アルメルは少しだけ驚いてみせた。もしかしたら、強がって可能と言った私を説き伏せるつもりだったのかもしれない。


 それでも、結論は結論。アルメルは嬉しそうに言う。


「つまり、クリスティーナも、野盗の皆さんも、ワーウルフ10体すら討伐出来ない、という事ですか?」


 明確な挑発。しかし、意味を理解し、反論を控える。


 でも、野盗の頭は言った。


「そんな雑魚ならいつ出て来たって狩れるわボケが! 3日以内なんつう急な日程がカス過ぎるんだよ!」


 と。


 そう、それだ。私も、今は野盗の頭と同意見だった。


 しかし、アルメルは言う。


「いつでも狩れるなら、狩っておいて注文を受けたら売れば良くない? なんで保管しておかないの?」


 野盗は答える。


「意味ねぇだろ、売れるんだから売ればよ。保管はギルドにやらせろや」


 アルメルは言う。


「その考えで金貨1枚を逃したんだよ? こういう事もあるのに、なんで保管しておかずに、すぐにギルドに売ったの?」


 野盗は答えた。


「こちとら倉庫なんて持ってねぇんだよ! 保管なんざ出来るわけねぇだろ!!」


「そのとおおおおおおおおり!!!!」


 野盗の頭以上の声量で、アルメルが言った。


「そう! たかだがワーウルフ10体の討伐と素材回収。こんなのは、出来る人間にはいつでもできるミッションだ。でも、じゃあ2人とも、その狩った素材を、誰に、どのタイミングで売れば良いか、解る? 俺との取引は失敗した。じゃあそのワーウルフの毛皮、ギルドにも売れないなら誰に売る? どう売る?」


 その問いの答えを私は知らない。野盗の頭も黙っていた。


「これが、仲介料というやつなんだ」アルメルは嬉しそうに語る。「売る人、管理する人、運ぶ人、飼う人。これだけの人が、生活のために労働をしている。だから、生活のために間のお金が発生する。その結果、売った人の手に入るお金と、買う人が払うお金にギャップが生じる」


 嬉しそうなアルメルは続ける。


「その仲介料を一切省けるとした場合、多少、売る人に多く払っても、買う人にとっては、ただ買うより安くなるんだ。だから、改めてもう1度聞くよ、野盗の諸君。――お前も労働力にならないか」

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