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異世界貴族に転生したけど思ったより不満だったので  作者: 南乗七史
第3章・食糧事情が問題だったので

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第19話・重大案件はいつも不意なようで

 アルフレッド兄ほどでは無いが、それなりに土魔法を使えるようになったので、早速自分の仕事に取り掛かる。


 まずは土の壁を作る。土と言っても石ほどの硬さを持たせたので、事実上石の壁。1辺2メートルと4メートルの長方形をした石の壁を4枚と、4メートルの正方形を2枚。


 それらを組み合わせれば、高さ2メートル、幅4メートル正方形の空間を作れる。


 これで作った空間は、隙間を無くせば理論上は魔力が補充されない断魔力空間となる。


 土魔法でその壁を操作して、俺とサーシャと、ついでにクリスティーナも中に入り、シンシアは外で待機とする。万が一この土の壁が壊れた際の救出係だ。


 無論だが、魔法灯を持ち込んだ。土の壁で囲まれるため空間内は真っ暗だ。だから、魔法灯で灯りを灯す。


 そうして作った断魔力空間で、基本は俺とサーシャで順番に土魔法を使った。


 原則的に同じになるよう、持ち込んだ土で規定の物を順番に作る。これを繰り返す。たまにクリスティーナが暇つぶし&俺達の休憩のためにそれに参加する。そして、ある時を境に、土魔法が発動しなくなった。


 経年劣化のせいか、1時間で切れるようになってしまった魔法灯を2回補充してすぐなので、要した時間はおよそ2時間だ。2時間で、このサイズの空間は魔力を枯渇させた。この状態を維持出来れば、この中では魔獣や魔物は産まれない事になる。


 壁をひとつ取り外し、外の新鮮な空気を吸い込む。そしてそのまま次の作業、とはいかない。同じ条件でなければ同じ実験は出来ない。さっきの疲労がある以上は、このまま続けたら実験にはならないのだ。


 そういうわけで、本日は解散とした。そして土壁の補修及び増設、エレメントの取り付けに掛かろうとしたところで、


「婚約者としてのイチャイチャは所望して良いのかしら?」


 クリスティーナが唐突に、作業中の俺に構ってちゃんアピールをしてきた。


 さりげなく回りを見ると、シンシアとサーシャは大喜びで訓練場のほうへと駆けている。いや元気過ぎるだろあの2人。


 そして少し考える。元営業職の経験をフル動員して考えた。


 まず、公爵家で生まれ育ったクリスティーナが我侭な娘に育っている場合。これは明確に、イチャイチャを全力で遂行する必要がある。


 だが、公爵家故の甘やかしにクリスティーナが飽きるほどの環境だとしたら、こちらの都合で待機させたり振り回したほうが「ふっ、おもしれぇ男……」となり好感触にもなりうる。


 別にハズレを引いたところで構いやしないのだ。婚約者という前提となる契約がある以上は、原則として相手を好意的に理解しようとする義務が生じる。どうせ結婚しなければならないのだから、多少のマイナス点には目を瞑ってでも、良い面を見出さなければ、自分が幸せになれない。自分の人生のため、相手を善人だと思い込む必要がある。だからこそ、多少の過ちは問題にならない。普通の政略結婚なら。


 でも、悲しい事に俺はそうでは無い。俺はクリスティーナに恋をしている。彼女の美しさもさることながら、彼女の強さを見せつけられた事で、俺は既に、クリスティーナの事が好きになっていた。


 普段なら、営業トークで適当にそれっぽい事を言えただろうに、今はそれが出て来なかった。そのせいで、言葉も上手く出てきてくれない。


「何も答えてくれないの?」


 不安げに揺れるクリスティーナのピンクの瞳と魔法陣の虹彩。


 間違えてはならない。これはシリアスなシーンではない。ただ、思春期を迎えた俺の身体が彼女の見た目に恋をし、合計年齢40歳に至るであろう俺の心が負けを認めるほどに強い心を持った彼女へ憧れの念を抱いている。そのせいで……そのせいで俺は……。


「そうね、公爵家から子爵家へ申しだされた婚約。断れるはずないものね……。ごめん、無理を言ってたわ。両想いになれたんだと勘違いしてた。これからはちょっと遠慮するようにするから、嫌なら嫌と言ってくれて構わないからね」


 そんな優しくて切ない言葉を残してこの場を去ろうとする彼女に、なりふり構っていられなくなってしまった。




「俺は! 異世界から転生してきたんだ!!」




 怖かった。心の底から怖かった。


 俺に優しく、知的で理解のあるファラン家においても、誰にも言えなかった事実。


 本当に、本当に怖かったのだ。申し訳なかった。


 俺は、俺にアプローチをかけてくれた彼女のため、自分の痴態を、卑怯さを、姑息さを、全て赤裸々に語る事を決意した。


「え?」


 去ろうとしたクリスティーナが立ち止まる。


 振り向いてくれたので、それに甘えて、言い訳を続けた。


「俺は、その……異世界で30歳くらいまで生きてたんだ。この世界よりずっと発展した世界。そこで死んで……気付いたら、この世界の、ファラン家の三男として生まれ変わっていた」


 説明をする。クリスティーナは呆然とその話を聞く。


「だから、いろんな開発が出来た。魔法灯、サングラスも、前世の世界では当たり前にあったものだ。俺が開発したんじゃない。パクリなんだよ。だからクリスティーナ、君が俺に感謝する必要もない」


 説明をする。クリスティーナは漠然とその話を聞く。


「前世で30歳。今が10歳。合計すると40歳だ。そしてクリスティーナ、君は10歳の少女だ。40歳と10歳。解るだろう? これから年寄りになる準備を進める年寄り予備軍と、未来ある若者であり未成年の子供。なにがあろうとも……政略の都合では身体が結ばれようと、心が結ばれてはいけないんだ。倫理がそれを許してくれない」


 説明をする。クリスティーナは毅然とその話を聞く。


「クリスティーナ、君は心から素晴らしい人だと思う。問題があるのは俺のほうなんだ。だから気に病まないで。君は美しくて、強くて、最強の女性だ。間違いない。俺に問題がある。それだけなんだ。だから、イチャイチャは、出来ない」


 と。


 しばしの沈黙が流れた。俺の頭は真っ白だった。


 親からすれば、兄弟からすれば、恐怖でしかないだろう。なにせ、アルメル・オース・ファランという本来誕生すべきだった人格が、素知らぬおっさんに乗っ取られていたのだから。だからこそ、家族にも、関係者にも言えなかった。子供のフリをしていた。


 ただ、クリスティーナを傷付けたくなかった。全責任は俺にあるんだと言いたかったから、今、この世界で初めて、俺はこの事実を打ち明けた。


 すると、クリスティーナは真っすぐに俺のほうに身体を向けて、言った。


「私は、突然変異であって、人間ではない。魔獣や魔物の類なの」


 と。


 唐突な自虐に、俺は呆然とする。


「だから、なんにでも対応できると思った。周りの人間は皆弱いから、私が望めば周りの人間は操れると思った。ルーサー公爵家の長女という立場もあって、外に出られない事以外に不自由は無くて、関係者は皆、私に絶対服従。屋敷の中にあるものは全部が意のままで、屋敷の外には、出る事も許されなかった」


 自分は化け物なのだと、人では無いと断言した、先日のクリスティーナが脳裏を過って、理解する。彼女は、強いのではない。強くならなければならなかったのだ。強い力を持つ化け物であると同時に、人としての人生を歩めない被差別対象だったが故に、10歳にしてこの世を客観視しなければならないほどに、未来に希望を抱けなかった。だから、彼女は、自分の心を強くしなければならなかった。


 そんな、半強制的に心が強い者という事にさせられた彼女の言葉を、俺は漠然と聞く。


「そんな化け物の私でも、外に出られるような商品開発をしてくれたのが、あなた。突然変異の化け物でも外に出て良いんだと示してくれたのが、あなた達であって……こんな化け物を、()()()と言ってくれたのがファラン家なの。私は、ファラン家が無ければ、ずっと、化け物だったの」


 自らを化け物と称する彼女。そんなわけが無い。君は断じて化け物では無いと憤りながらも、今は聞くべきだと、彼女の言葉を、毅然として聞く。


 大粒の涙を流し始めたクリスティーナの言葉を、ただ、待つ。


「――だから私は、権力を振りかざしてでも、あなたと結婚したい!!」


 本当に、彼女は強い。


 俺なんかよりも、ずっと素直で、誠実で、強い。


 認めよう。年齢とか関係ない。彼女のほうが、俺より強い。


 だから、俺は、彼女をリスペクトし、彼女をオマージュする事にした。


「ありがとう、クリスティーナ。多分、俺が生きた年数よりも、ずっと重いものを抱えて、君はここまで生きてきたんだろう。それなのに、そんなに真っすぐな姿を保てる強さに、俺は、心から感服する。だから……だから俺は、世界の倫理観が許してくれなくても、君と結婚したい」


 お互いに、抱き合っていた。強く、強く。クリスティーナの抱擁が少し痛かった。男の子の身体が痛いのだから、全力で抱き締めているのだろう。俺は、極力加減する。加減して、いたら、


「ふひ」


 胸元の処女が、ちょっと気持ち悪い笑い声を上げた。


 そして満足そうに、蕩けた様子でこう言うのだ。


「いちゃいちゃ、成功~」


 と。


 まったく、本当にこの子は、俺よりもずっと、格上らしい。

ToDoリスト


・既存の農業の問題点の発見及び改善。

・場合によっては問題解決のための装置開発。

・生産量を増やすための土地と人員確保。

・場合によっては効率化のための道具開発。

・場合によっては調理器具の改善。

・新料理開発。

・新料理のレシピ拡散。

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