第5話・いずれパンツを作るようで
2026年2月15日において2本目の投稿です。今日の最新話を見に来たよーという方は、前「第16話・どうやら、只者では無かったようで」が閲覧済みか否かをご確認ください。
決着した3人の元へ向かう俺とアルフレッド兄。その後ろにジャンが着いて来る。こちらをチラチラ見るばかりだった騎士団もいつの間にか戦いに夢中になっていたようで、そこかしこから拍手が起きている。
「くっ……強すぎ……」
と、赤髪のリーシャが言う。スレイン兄は喉元に突きつけていた剣を引き、青髪のサーシャの上からどく。
「これでもパラノメールを守るファラン子爵家の長男だよ? 弱いと思ったのかい?」
当たり前のようにスレイン兄は言う。え、そんなに
「うぐ……勉強不足」
「自らの不足を認められるのは良い事だ。少し強く弾いてしまったね、すまない」
スレイン兄は未だに立ち上がらない青髪のサーシャに手を差し伸べる。だが、サーシャはその場で倒れたまま、うねうねと謎の動きを始めた。
「やだ……やだぁ……一生掃除……無理ぃ……」
あれ、ジト目系クールロリだと思っていたんだけど、意外とクールじゃないのかもしれない。
「え」
スレイン兄がお父様を見る。
お父様は歩み寄りながら頷いた。
「伝わらなかったか。まぁ、しっかりしているように見えてもまだ10歳だ。勘違いも無理はあるまい。スレイン、試験結果を伝えてやれ」
そう促すと、スレイン兄は苦笑して答える。
「僕としては合格です。お互いを庇い合う戦闘スタイルは少し修正すれば護衛対象を守りながらの戦闘にも活かせるし、この戦闘力を掃除係で済ますなんて、他の貴族ならともかく、ファラン家においては選択肢に無いでしょう」
「解ってくれて何よりだ」
「!」「!」
サーシャが飛び起き、リーシャがサーシャの手を取る。
「じゃあ、掃除、不要!?」
どっちかが嬉しそうに言うと、スレイン兄は笑って答えた。
「そんなわけないだろう? メイドなんだから」
「!?」
ジト目はジト目のままなのに何故か衝撃を受けたのだと解るリアクションをする2人。そんなに嫌いか、掃除。まぁでも10歳だからなぁ。
「しかしどうでしょう」
スレイン兄がお父様に問いかける。
「土魔法で砂を舞わせて視界を妨害する作戦は鉄板なので良いとして、わざと局部を露出して戦うのは、ファラン家に仕える者としてあまりにも品が無い」
「え!」「まじか……」
動揺したのは俺とアルフレッド兄だ。俺としては流石に10歳の局部に興奮する歳でもして良い歳でも無いが、確認してみたい事があった。この世界のこの時代に下着があるのか無いのかを。いわゆるパンツが日本で広まったのは1900年代中旬で、かなり近代の話なのだ。防犯・防災関連の営業に行った時の営業トークで衝撃的だったのでよく覚えている。
白木屋火災という火災事故が起きて、逃げられなくなった人たちが居た。ロープを作って垂らして逃げようとする中、10人以上が落下死して命を落とした悲惨な火災事故。その落下死した人は女性が多かったらしい。当時パンツ型の下着が一般的では無く、局部を見られる事を嫌がって自ら落下死を選んだり、隠そうとしてロープに集中出来ずに命を落としたと言われている。
これがきっかけで日本ではパンツ型の下着が広まるようになったんだ、という話。所説あるが、パンツ型の下着であれば守られた命はあったかもしれないという事。パンツは人の命を救うのである。よし、いずれパンツを作ろう。メンズもレディースも俺が作る。ボクサーパンツのあの安心感をもう一度手に入れる。
アルフレッド兄が反応したのは普通に思春期だからだろう。紳士でも思春期には勝てないのである。
「どうも何も無い。意味が無いからな。2人にはしばらくは帽子とフード付きの外套で外見を隠して行動してもらう。目鼻立ちすら解らない相手の股間に何があるかを気にして戦闘に挑む者なんて居ないし、居たとしたらこの2人の脅威では無いから、結局そんな手段に頼る必要は無い」
ビシッとお父様は断言する。「それもそうですね」とスレイン兄はあっさりと納得した。しかし、と続けて話を戻す。
「ところで、アルメルとアルフレッドの護衛兼メイドと言っても、アルフレッドはもうじき魔法学校へ通うため、魔都メルヘンラークへ行きます。その帽子にフード付きの外套で入れるでしょうか。魔都に入るには怪しすぎるような気がします」
魔都メルヘンラーク? 知らない名前だ。この世界の事に関しては未履修な事が多いので困る。メンヘラみたいな名前だな。
「ああ、それに関しては条件付きだ」
とお父様が答える。一瞬俺のほうを見た気がするが、食堂の時からそうだった。なにかあるのだろうか。
ふと
「なにをなされているのですか? 旦那様?」
後ろから女性が声を掛けてくる。振り向くとそこには、お父様より10は年上くらいだろう、妙齢の女性が立っていた。食堂にも居たメイド長である。メイド長が来たならフレイヤ辺りも見に来てないかな、と周りを見るがフレイヤは居なかった。なんでい、ここにスレイン兄が居るのに。
「ん? ああ、スレインの要望で決闘をな。怪我等はしていないから問題ない」
とお父様は答えるが、メイド長はずいっとお父様との距離縮めて、低い声で言った。
「問題ありませんか? これから掃除や洗濯を叩きこもうと言う者達を土まみれにして、問題は無い? そうですかそうですか。掃除した後が土まみれになりますが、そんなお屋敷でも問題は無いのですね?」
「いや待てハンナ、この2人はメイドとしては手伝い程度、どちらかというと護衛などの戦闘力強化に重きを置きたいんだ。アルメルがすごい発明をしただろう? アルフレッドの魔法もピカ一で、2人とも嫉妬で他の貴族に絡まれるリスクが高いんだ。子爵家レベルでは、伯爵家、公爵家、侯爵家に目を付けられると弱い。解ってくれ」
おお、そこまで考えていたのか、とお父様の言い分に納得しかけたが、メイド長は食い下がる。
「解って頂きたいのはこちらですわ。シャーリーの抜けた穴をどうお考えで?」
「うぐ……」
こーれはきつい一発だぞ。
「メイドの人数に余裕はございませんでした。それともなんですか、その2人を増員と見做す癖にメイドの仕事はやらせないと? しわ寄せが誰に向かうとお考えですか? 他のメイドが頑張ればシャーリーの抜けた穴など埋まるとでも? あの優秀なシャーリーの穴などそんなものだと」
どうしよう、管理職やってた身からするとものすごく胃が痛い話だこれ。
ふと、俺が口を挟む。
「メイド1人雇うのにどれくらいのお金が掛かるんですか?」
メイド長が答える。
「スキルの無い新人メイドならば、週給小銀貨1枚。そこに経験やスキルで加算され、フレイヤは今、週給で大銀貨1枚を頂いております」
何故比較がフレイヤなのかというと、おそらくフレイヤが一番の高級取りなのだろう。流石は俺の推し。
近くに居たジャンが続いた。
「因みに騎士の場合、新人なら小銀貨1、大銅貨5から始まりまって、評価で上がってきます。必要な飯の量が違いますので。で、ここ、パラノメールは城郭都市っていって、他国や魔獣から国を守るための戦いの都市なんです。だから騎士団の維持は最重要です」
メイド長がその説明に乗っかる。
「だからないがしろにされるというのは致し方ありませんが、メイドとして雇っておきながらメイドとしての仕事をやらせないなど言語道断。2人は護衛だというのなら、シャーリーの分の人員補充を」
「解っている、解っているが……」
「財政が苦しいというのなら、その2人をこちらにお渡しください」
「く……くう……。わかった、わかったから離れろ」
お父様が困っている。そりゃ困るだろうこの状況。俺だって多少の覚えはあるが、これはあれだ、完全に謎の強権力を持つお局にガン詰めされている課長だ。お局ってなんであんなに強い権力持ってるんだろうな。
シャーリーの抜けた穴。人員1人。そこにおそらくなんらかの事情があり2人を雇ったが、お局との口論に負けて3人目を雇う、と。
実際問題まずいだろう。
「あの、お父様」
と、俺は挙手をした。
「――どちらかは俺が雇いますよ」
周りが黙って俺を見る。何を言うんだこのガキは、という驚愕の目。それはそうだ、6歳児が人を雇うと言っているのだから。
この世界の通貨については、ギルバート商会とのあれこれで学んだ。
小銅貨1枚で安さが売りの店でパンが買える。
小銅貨10枚で大銅貨1枚。
大銅貨10枚で小銀貨1枚。
小銀貨10枚で大銀貨1枚。
大銀貨10枚で小金貨1枚。
小金貨10枚で大金貨1枚。
フレイヤクラス1人の週給が大銀貨1枚ならば、大金貨1枚で100週間雇える。だいたい2年だ。
そして俺には大金貨500枚という金がある。フレイヤを1000年雇える。もしくはフレイヤ10人を100年雇っても良い。
「それは助かる……というか正直アテにしていた」
と、お父様が苦笑する。しかし、そんな苦しそうな表情をする必要は無い。
「なんなら2人とも俺が雇いますよ。正直こき使……協力者が欲しいと考えていましたし」
しかし、お父様は首を横に振る。
「お前に頼みたいことが別にある。その時にまとめて話そう」
ああ、なるほど、と納得する。たまに縋るような目を向けてきたのは勘違いでは無かったようだ。後で話すというなら、あえて今追求する必要も無い。
俺は答えた。
「承知しました。では、時が来たらよろしくお願いします」
「ああ、すぐに話す」
と、一件落着したかと思えば
「でしたら、彼女達はまだメイドですね? 違いますか?」
「……まあ、そうなるな……」
お父様、肩身が狭そうである。
「でしたら教育をしないといけませんね、掃除、給仕、炊事、マナー、接客……は控えたほうがよろしそうですが、メイドの仕事は潰しが利きます。アルメル様が雇うにしても、それまではメイドとして教育します。泥だらけの状態で。土埃まみれの彼女達が、屋敷を掃除します。よろしいですか?」
「…………解った、風呂を使うと良い」
「ありがとうございます。ところで、2人のために風呂を沸かすのも勿体ないです。他のメイド皆で入っても?」
「無論だ、許可する。今からメイド全員で風呂休憩にでも入ると良い」
「これからですね。つまりは旦那様より先に入っても?」
「許可する」
「男の使用人達についてはどうなさいましょう」
「それは……いや、許可する。俺達はこの後、家族会議がある。スレイン、アルフレッド、アルメル、申し訳ないが風呂は最後だ」
お父様がこちらへ申し訳無さそうな表情を浮かべるが、あの流れでは仕方あるまい。苦笑して頷いて見せる。
そこに、ジャンが横から入って来た。
「おや、この流れはもしかして騎士も……?」
騎士達の後の風呂は汚いのでその後が入れなくなる。ジャンも承知なのか、冗談です、みたいな表情で言う。
お父様も流石に首を横に振ろうとしたが、
「よろしいのではないでしょうか、お父様」
そう言ったのはスレイン兄だ。この人はいつも騎士の味方である。
「たまには、僕達貴族のためではなく、使用人たちのための風呂という事で、僕達は水で拭くくらいでも」
その言葉に、お父様は少し驚いていた。あまりの意見に驚いたというよりも、天啓を得たとか、昔の知り合いに再開したとか、そんな感じの驚き方だ。そして、力なく頷く。
「そうか、そうだな。当然、そういう日があっても良いな。皆、良い子に育ちすぎて困る」
そう言ってお父様はスレイン兄の肩を叩くと、ジャンに向かって言った。
「無論だ。許可する」




