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異世界貴族に転生したけど思ったより不満だったので  作者: 南乗七史
第2章・出会いと別れは唐突なようで

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第4話・どうやら、只者では無かったようで

「護衛、ですか」


 スレイン兄が不服そうに問う。


 お父様はあの色違いの双子を護衛兼メイドにすると言った。確かにナイフの曲芸はすごかった。だけど、実際どうなんだろう。片や10歳くらいの女の子。片や貴族を襲うような野盗と考えると、あまりにも荷が勝ちすぎている。武術に精通したスレイン兄が納得出来ないのも理解出来る。


()()()()?」


 物腰は柔らかいが、お父様を糾弾するような声色だった。お父様は額に手を添えて浅い息を吐く。


「どうすれば納得する?」


「その双子で僕と手合わせを」


「勝てと言うのか、お前に」


「いいえ、二人掛かりで、僕を納得させてくれれば良いです。お父様にも考えがあること、重々承知しております。しかし、アルフレッドとアルメルは僕の大事な弟ですし、2人とも天才です。この世界の未来を担う事もあるかもしれない。なので、お父様がその2人を()()()()と願った理由と、僕が弟を守りたいと思った理由の、どちらが強いか、決闘を」


「…………」


 お父様は考えた。いいや、考えているというよりも、何かを思い出しているとか、感情を押さえつけて心が顔に出ている結果というか、なんだか人には伝わらない表情だ。後悔をしているようにも見える。


 しかし、少し瞼を閉じてから、双子を見て言った。


「そういう事だが、構わないか?」


 その言葉に、赤い髪の子のリーシャは眉をしかめて首を横に振った。


「依頼主、傷付ける。了承不可」


 お父様は答える。


「無論、木剣でだ。……うちの子達はみな意固地で、説得が難しい。すまないが俺からの命令と思ってくれ。我が息子、長男と模擬戦をし、我が家の長男を納得させてくれ」


 疑問を呈したのは青い髪のサーシャだ。


「オーダー把握。達成報酬と失敗時の損失は?」


 お父様は苦虫を嚙み潰したような表情に無理やりの笑顔を作り、答える。


「成功すれば護衛兼メイドとして働いてもらう。無論、()()()()は帽子とフード付きの外套(がいとう)で姿を隠してもらう事になるが、誇りと遣り甲斐はある仕事だ。失敗したならそうだな……心苦しいが、一生屋敷の掃除だ」


「!?」「!?」


 2人は目を剥いて動揺を見せる。


 しかし報連相というか、仕事に対してちゃんと受け答え出来ている様子に、少しばかりの感動があった。ファンタジーな外見とはいえ10歳前後。そんな子供があんなにもハキハキと仕事の話が出来るなんて、すごい事だ。


 これから始まるであろうスレイン兄とファンタジー双子との決闘への期待感と合わさり、高揚感が抑えられず、隣に座るアルフレッド兄に耳打ちした。


「あんな幼いのにハキハキと喋れて、凄いですね」


 アルフレッド兄は数秒ほど驚いた後に破顔(はがん)して、俺の頭を撫でた。


「あはは、お前が言うな」


 それはそうだ。俺は実質30歳中旬だし。


 赤髪のリーシャが言う。


「一生掃除。了承不可」


 嫌いなのね。


 青髪のサーシャが続く。


「ファラン家長男。絶対狩る」


 狩っちゃダメだよ、勝つまでにしてね。


 スレイン兄が立ち上がる。


「決まりだね。それじゃあ、訓練場へ行こう」





 ―――――(◇◆◇◆◇)―――――





「ジャン、すまないが少し、スペースを借りるぞ」


 お父様が訓練場で訓練中だった騎士達の中でも一際大きい男に声をかける。


「閣下。それと……そうですか、その子達が……。ところで、何故訓練場に? しかもメイド服で」


 ある程度の事情は知っていたらしい、髪色と目を見てもそれほど驚かなかった大柄な男。ジャンと呼ばれていた。騎士団の人たちとはあまり関わりが無いから、まだ顔と名前が解らないんだよな。部署が違い過ぎて名刺交換も出来ていない感じだ。


「スレインと決闘させる」


「本気ですか?」


「仕方ないだろう。俺だって止めたさ」


 止めただろうか。と、食堂での事を思い出す。


 これはいけない、前世の職業柄、何回でも引き下がる事が前提だったため、1、2回とりあえず言ってみる、というのは交渉と思えないのだ。


「一応ですが、閣下。騎士達には忠告はしてありますので、ご安心ください」


「わかった。助かる」


 なんの忠告か、と思ったけど、周りの騎士達の反応を見てなんとなく解った。口封じ及びリアクション禁止あたりだろう。騎士達は訓練を続けている体でなんどもこちらをチラチラと見て、様々な形容しがたい顔をして、三度見四度見いやもうそれ隠す気あります? ってくらいチラ見し続けている。


「お父様。僕の武器はどれが良いと思いますか?」


 とスレイン兄が様々な形の木剣の前に立ち、尋ねる。


 お父様は答えた。


「片手剣とバックラーだ。この子達は素早いから、小回りが利くほうが良いだろう」


 その返答に、スレイン兄は微笑んで言う。


「そうですか。では、こちらの大剣にいたしましょう」


「おい、それは」


「お父様はあの2人の味方ですから、反対の事を言うかもしれないでしょう?」


 確かに、読み合いとしては有りだし面白い考え方だ。でもどうだろう、お父様がそんな卑怯な事をするとは思えない。実際にお父様は呆れた表情で反論しようとして、


「あのなぁ、俺はそんな」


「お父様」


 反論しようとして、スレイン兄に止められる。


「解っております」


「…………そうか」


 多分騎士道の類なのだろう。言葉は無かったが、流石の俺でも解る。これはハンデだ。スレイン兄は双子にハンデを与えつつ、双子にはハンデと伝わらないようにしたのだろう。こんな状況でも優しい人だ。


「それじゃぁ、好きな武器を取って、好きな時に、2人まとめて掛かってこい」


 そう言い残して、スレイン兄は木製の大剣を持って真っすぐ離れていき、お父様は木製のダガーを2本持って、斜めに離れていく。審判の立ち位置だろう。木剣の保管所に取り残された俺とアルフレッド兄と双子。


 アルフレッド兄が不安げな表情を浮かべているところ申し訳ないが、俺は今非常に興奮している。生の決闘だというのもそうだし、ファンタジーな双子の戦いも見れる。さっきの曲芸もそうだけど、きっと只者では無い。


 それにだ、さっきの去り行くスレイン兄。いつもは温和な口調のスレイン兄が強気な騎士の口調になっていた。「二人まとめて掛かって来い」なんて、男の子なら一度は言ってみたい台詞じゃないだろうか。


「サーシャ、あいつ、私達、舐めてる」


 と、赤髪のリーシャが言って、木製の短刀を手に持った。


「不愉快。解らす」


 青髪のサーシャが、言いながら左手にダガー、右手にバックラーを持った。


「まずあたし、行く」


 と赤髪のリーシャ。


「了解」


 と青髪のサーシャ。


 そして、リーシャが駆けだした。


「は!?」


 早い。10歳の子供の運動能力では無い。普通に運動習慣がある成人男性並みの速さがある。


 リーシャは途中まで、ステップを踏んで方向転換。それを何度か繰り返し、死角に入った所でスレイン兄に切り掛かり――次の瞬間には地面に伏せていた。砂埃が少しなのは、リーシャを地面に叩きつけた張本人であるスレイン兄が直前に庇ったためだろう。


 スレイン兄の圧勝である。


 しかしスレイン兄は、リーシャを押さえつけていた手をすぐに離し、数歩下がって、こう言う。


「やり直しだ。言ったはずだよ、2人まとめて掛かって来いと。これはハンデとかじゃないから勘違いしないで欲しい。僕は、2人が2人で戦っている所を評価する必要があるんだ」


 審判をしていたお父様が、それを聞いて納得したような反応をしていた。何か思い当たる事があったようだ。


 リーシャはメイド服についた砂埃を払いながらこちらへ戻ってくる。


「大丈夫?」


 と俺が聞くと、リーシャは手のひらをこちらに見せて、問題無いと態度で示した。


「サーシャ、あいつを舐めてたの、こっち。かなり強い」


「見てた。解ってる。シンシア相当。勝ち目無い」


 2人は少しだけ目を伏せて考える。


「でも、一生掃除、無理」


 とリーシャが言う。うん、やっぱり嫌いなんだね。


「自由行動必須。せめて身体動かす騎士」


 とサーシャが言う。うーん、喋り方は必要以上に最低限って感じなんだけど、行動理念は活発な女の子だ。


 2人はスレイン兄と向き合い、そしてリーシャが言った。


「あたし達、傭兵。本来卑怯」


 スレイン兄は数秒だけ回答を待ってから言う。


「お互いがお互いを護衛対象だと思って戦うなら、手段は問わないよ」


 その言葉を聞いたリーシャとサーシャはお互いに目配せをしてすぐに、反対側へと駆けだした。


 本当に早い。間違いなく前世の俺の全盛期よりは早いと思う。砂埃を上げながら左右へ広がり、スレイン兄を挟み撃ちにする。


 あんな大振りの大剣で、あんなスピードに挟まれたら、俺なら成すすべなく降参だ。太刀打ちのしようがない。しかしスレイン兄は、後ろに目があるのでは無いかというほどに攻撃をかわす。高速で繰り出される両側からの攻撃を避けて避けていなして反撃までしている。


 対して双子は、まさに双子ファンタジーだった。短刀のリーシャが主な攻撃をし、サーシャはバックラーでスレイン兄の攻撃を妨害・止める事をメインにしながら時折フェイントのような攻撃を入れている。コンビネーションがすばらしい。


 それに、


「……土魔法が使われているな」


 隣のアルフレッド兄が呟く。やはりそうか。砂埃が舞い過ぎている上に、スレイン兄の顔付近に偏り過ぎている。あれでは満足に目を凝らす事も出来ない。視界が妨害されている。


 早すぎるのでおそらくでしかないが、短刀なのにバックラーを持たず片手が開いているリーシャが、その空いた片手で魔法を使っているのだ。


 それに、それにだ。


 双子は武器での攻撃のみならず、時折足技も繰り出している。足技も繰り出している。そう、足技も繰り出している。何度でも言うが足技も繰り出しているのだ。ミニスカメイド服の2人が、足技も繰り出しているのである。


「アルフレッド兄さま……見えますか」


「奇遇だなアルメル。俺も気を取られているところだが……見えない」


 お、顔が赤くなってるなーと思ったのでアルフレッド兄も気付いていると確信して聞いたが、やはり見えないそうだ。見えそうで見えない。せめて、せめて穿いているか穿いていないかだけでも確認したい!


「女傭兵がよく使う手段ですよ、お二方。気を付けてくださいね」


 突然話しかけてきたのは、先ほどの大柄な男、ジャンと呼ばれていた騎士だ。


「よく使う手段? な、ななななな、なにがですか?」


 スカートの中を覗きたいという欲求がバレていたと思いたくないので誤魔化そうとしてみるが、どうやら俺がアルフレッド兄のそれを見破ったと同じ理由で筒抜けだったようだ。


「ああいう目つぶしなんですよ。男の下心を利用した目つぶし。露出が高い女傭兵や盗賊が居たら気を付けてくださいね。今みたいになったら思うつぼですから」


「はい」と神妙に俺。「気を付けます……」と恥ずかしそうにアルフレッド兄。


「どっちが勝つと思いますか、えっと、ジャンさん」


「お。もう名前を憶えてくれたなんて光栄ですね、アルメル様。勝敗については決まってますよ、ほら」


 と促され、改めて戦いに意識を戻す。すると、戦況が動いた。


 スレイン兄がとある攻撃を避けたかと思うと、その勢いで大剣を振るい。サーシャのバックラーに回転切りをした。


 バックラーが大きく弾かれて無防備になるサーシャへ体当たりをするスレイン兄。その途中でサーシャのダガーがスレイン兄に突きつけられそうになっていたはずだが、そこには丁度回転切りを終えて止まった大剣があり、防いでいた。


「はぁ!?」


 サーシャが吹き飛ばされ、リーシャが驚愕する。2人からしたら悲劇的な偶然だろう。たまたまそこにあった大剣にたまたま攻撃を防がれたのだから。


 だが、普段のスレイン兄を知る俺からすれば、狙っていたんだろうなと思える、絶妙な攻防。


 倒れるサーシャ。そこに上から大剣を突き下ろさんとばかりに振り上げるスレイン兄。


「サーシャ!」


 庇おうと突進を試みるリーシャ。だが、それはあまりにも無謀だった。


 罠だったのだろう。急激に方向転換した大剣は、リーシャの喉元に突きつけられ、止まった。


「勝負あり。スレインの勝ちだ」


 とお父様が止める。


「はは、こう生で見ると、本当にすごいな、スレイン兄は」


 アルフレッド兄が驚嘆していた。


 俺はすごいとかなんとか解らないが、とにかく感動したので、惜しみない拍手を送る。


 語ってくれたのはジャンだった。


「あの双子の2人、突然変異の力も使っててそんじょそこらの兵士よりも強いですね、多分うちの騎士団と普通に渡り合えます。でも、スレイン様は、ガタイのハンデがある俺以外誰も勝てない。その辺の兵士と渡り合える程度じゃ、スレイン様には勝てませんよ」


 スレイン兄、どうやら本当に、只者では無かったらしい。

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