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異世界貴族に転生したけど思ったより不満だったので  作者: 南乗七史
第2章・出会いと別れは唐突なようで
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第3話・これぞ夢見た異世界なので

 ある日、3兄弟全員はお父様に呼び出され、食堂に集まる。普段こういう事があれば書斎に集まるのだが、今日はどうやら空気が違った。食堂に入ると、神妙な様子で顔を伏せるメイド長と、上座で鋭い目つきのお父様が俺達を迎える。


「失礼します」


 3人が各々声を掛けると、お父様は「座りなさい」と俺達を促した。


 なんだなんだ、とアルフレッド兄が俺とスレイン兄を交互に見る。「何か心当たりはあるか?」と問われるような視線だったため、首を横に振る。スレイン兄も同じようにしていた。


 少しの沈黙が続いた後、スレイン兄が口を開く。


「それでお父様、どういったご用件でしょうか」


 しかし、お父様は答えなかった。メイド長に何かを言って、メイド長が食堂の奥の部屋へ入っていき、そして出てきた手には3つの木製コップとポット。俺達3人の前にコップを並べ、注がれたのはどうやら紅茶のようだ。


 お持て成しされたという事は、怒られているわけではないようだ。


 それにしても珍しい。厳格なお父様が、どうにも俺達に媚びているようにも見えた。そう考えてみると、お父様の目つきは鋭いのではなく、緊張しているようにも見えてくる。


 話が始まらないのではおいそれと紅茶に手を付けられず、妙な空気が流れた。


 そして、何かきっかけがあったわけでは無い。深く深呼吸したお父様は、あっさりと言った。


「突然だが、新しいメイドが2人増える」


 え、それで今の空気? ファラン家は斜陽なので次の世代では貴族じゃなくなります、とか言われるんじゃないか、くらいの空気だったと思うのだけど、蓋を開けてみれば新しいメイドが増えるだけ。


 2人増える、というが、先日シャーリーが寿退社したので実質1名の増員だ。


「えっと……それだけ、ですか?」


 と、スレイン兄が少しだけ身を乗り出した。続いたのはアルフレッド兄だ。


「てっきり説教でもあるのかと思ったんですが」


 その言葉に、お父様は明らかな逡巡を見せた。


「ああ、すまない、そんなつもりは無かったんだが、空気を悪くしてしまったな。……ガラにも無く緊張しているようだ」


 緊張? メイドの紹介に? どういう事だ?


 あまりにも理解不能な状況なので、俺は口出し出来ずにいた。だが、何故お父様の目は、まっすぐ俺を見た。


 スレイン兄やアルフレッド兄にも視線を向けてはいるが、なんだか俺を見る時だけ少し、弱弱しい目になるんだよな。ああいう目を前世で何度か見た記憶がある。どういう時だっただろうか。


 俺がお父様の視線に気付き、しかし意図には気付けず首を傾げると、お父様はもう一度不快深呼吸をして


「入りなさい」


 と、食堂の奥に指示を出した。


 扉が開きそこから出てきたのは――


「なん……だと……?」と、思わず前世のミームが出る俺。

「なっ!」驚きの中に警戒が混ざるスレイン兄。

「はぁああああ!?」一声で()()()()()()のだと解るアルフレッド兄。


 三者三葉のリアクションが飛ぶ。


 ――扉から出て来たのは、2人の女の子だった。


 歳は10歳前後だろうか。メイド服なのにミニスカなので、本場のメイドというより前世のメイド喫茶を思い出す装いだ。


 気だるげで厭世的に力の籠らない目。――すなわちジト目。


 華奢だが運動している事が解る締まりの良い腕や足。――もといスレンダー。


 無い乳。低身長。――ようはロリ!


 そして極めつけ! 1人は髪の毛がプラスチックのような青色のオカッパヘアで、瞳は右目が髪と同じ色で、左目が赤ワインのような深みのある赤をしていた。もう一人は光沢のある赤ワインのような髪色で、右目が同じ赤ワイン。左目がプラスチックのような青色をしていた。――そう! つまりはファンタジーカラー!!


 これだ、これこれ、これでこそ異世界。転生たるものこうでなくてはいけない。俺の目の前に居るのは、現実に舞い降りた、ジト目系ロリっ子双子美少女メイド~ツートンカラーとオッドアイを添えて~なのである。


 しかも! メイドだって! 何度も繰り返してるかもしれないけどメイド! つまりこの子達は基本的にはずっとファラン家に仕えるのだ。メイド喫茶には行った事は無いし、コスプレ会場にも足を運んだ事は無いが、行った人はこういう感動だったのだろうか。


「こんなものがこの世にあったのか……」「いえ、ここ、異世界です」みたいな面白い会話があるエンタメ作品もあったなぁ、と思い出す。そうだ、ここは異世界なのだ。「こんなものがこの世にあったのか」という感動も、当然ある。


「お父様! どういうおつもりですか!!」


「えっ!?」


 アルフレッド兄が聞いた事も無い怒号を上げるものだから、思わず驚いてしまった。アルフレッド兄は慌てて取り繕う。


「す、すまないアルメル。驚かせるつもりはなかったんだ、大丈夫か?」


「あ、いえ、こちらも反射ですみません。大丈夫です」


 答えると、アルフレッド兄は興奮した息を整え、静かに言う。


「どういうおつもりですか、お父様」


 それは明確な――敵意だった。


 どうしてそうなる? ただ、ファンタジー世界だからファンタジーな子達もそりゃ当然居て、それがメイドになるというだけで、何故、普段はあんなにも従順なファラン家の次男が、父親に対してそんな目を向ける?


「落ち着け。聞いてくれ、アルフレッド。事情があるんだ」


 とお父様は宥めようとするが、アルフレッド兄は完全に冷静さを欠いていた。


()()()()()()()()()()()()()()()()()ですか。本当に、そういう意図は無いと、誓って頂けますか」


「無論だ、誓う。この子達はな、俺が愛用していた傭兵団の団長の子供達なんだ。傭兵団が壊滅して、行き場を失ったため、こちらで引き取った」


「……信じさせていただきます」


 おどろおどろしい空気が流れる。突然変異個体、とアルフレッド兄が言っていたけれど、初めて聞く言葉だった。しかし、以前アルフレッド兄から似たような話を聞いたのを覚えている。確か、獣が魔力の影響で突然変異したのが魔獣だ、という話だ。


 そうなると、だ。


「この人達は突然変異した人間、という事ですか?」


 と、俺はアルフレッド兄に尋ねる。


「ああ、そういう事になる」


 と、アルフレッド兄は俺に気をつかって優しく言った。


「へぇー」


 魔力の影響で突然変異した個体。改めて双子を見てみる。双子をじっとり見つめる俺に帰ってくるのは冷たいジト目だけ。


「綺麗ですね!」


 無難に褒めておく。物珍しく奇抜な個性はどこに地雷があるか解らない。だから無難に褒めた――はずなのに、


「アルメル!」


 隣のアルフレッド兄が声を荒げて、俺の肩を掴んだ。


「いいか、いいかいアルメル。頼むから、お兄ちゃんと約束してくれ。彼女達は人間だ。それだけは忘れないでくれ。俺達と同じ、人間なんだ」


「え……そんなの当たり前じゃないですか……。アルフレッド兄さま?」


 様子がおかしい。尋常では無い。お父様に助けを求めて視線を向けると、お父様はどこか嬉しそうでもあり、しかし困ったように苦笑するばかりだった。


 変わりに助け船をくれたのはスレイン兄だ。


「アルフレッド、それではあまりに説明不足だよ。後でちゃんと事情を教えてあげるといい。……お父様、話を戻して頂いてよろしいですか?」


 なんだかよく解らない状況だが、前世の営業で培った空気読みスキルが告げている。今は黙るべきだと。


 専門知識を持つ業者と専門知識を持つお客様の口論を間でただひたずら聞き続けて数時間、蓋を開けたら何も解らなかった頃を思い出す。


「ああ、ありがとう、スレイン。それでは、2人とも、名乗りなさい」


 と、お父様はようやく、2人に話を振った。


 さぁ、待ちに待った萌えキャラの第一声。俺は身を乗り出して聞く体勢を整えて――


「リーシャ・ディーゼル」「サーシャ・ディーゼル」


 ――体勢を整えてそして終わった。確かに名乗りなさいとしか言われていないけれど。


 この場で一番冷静なスレイン兄が進行を続ける。


「赤い髪の方がリーシャさん、青い髪の方がサーシャさんですね。これからよろしくお願いします」


「ん」「了解」


 軍隊のような完結な返答をする双子。スレイン兄は進行を続けた。


「それでお父様。()()()()()()()()()()()()()()()()が、まず何故、そのような破廉恥なメイド服を着ているのですか? 常識的では無い」


 リスクがなんなのかは解らないが、スレイン兄の発言は最もだ。メイド服というには露出的過ぎる。


「2人とも」


 とお父様が言うと、サーシャとリーシャは、スカートの右側をたくしあげた。


 そう、ミニスカを、たくしあげたのだ。


 必然、既に見えていた膝から上の白くて引き締まった太ももが見えて、その太ももに括りつけられたナイフが見えて、そらに10歳くらいのロリっ子美少女の横ケツまで見えて、サービスが良すぎて、しまいには通称Vラインよ呼ばれる皺まで見えて――ちょっと待った横ケt……違うっ! ナイフだ!!


 一瞬ロリっ子によるセクシーサービスに脳が焼かれそうになったが、大丈夫、何故なら俺は前世から数えて30台半ばの年齢になるのだ。例えば35歳のおっさんが10歳の子供の横ケツに興奮なんて事は流石にまずい。本当にまずい。まずいって。危機感覚えたほうが良い。


 それよりも、ナイフだ。スカートの下に武器が隠されていた。


「あたし達、傭兵団団長の娘」と赤髪が言う。

「戦闘スキル、習得済み」と青髪が言う。

「護衛件メイド。これがオーダー」と赤髪が言う。

「遂行可能。役立つ」と青髪が言う。


 そして、スカートの内側から取ったナイフを、まずは青髪の子がテーブルの真ん中へ、弧を描くように回転させながら投げる。そのナイフが燭台の蝋燭を1本切り消したかと思えば、続けて赤髪の子が投げたナイフが、1本目のナイフのどこかに当たって弾いた。


 俺の動体視力では理解が出来なかったので最終地点だけ説明すると、蝋燭は半分まで縦に切りつけられているが()()の燭台に乗ったままで、投げられたナイフは背後の石の壁にぶつかって()()()()床に落ちていた。いや、曲芸過ぎる。


「器用。役立つ」と赤髪が言う。

「あたし達、強い」と青髪が言う。


 そのプレゼンのようなパフォーマンスを終え、お父様が2人のよく解らない語彙を翻訳してくれた。


「そういうわけで、元傭兵団所属で戦闘力が高いこの2人を、アルメルとアルフレッドの護衛兼メイドとして雇う事になった。よろしく頼む、みんな」

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