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俺の心臓を殺しにくる  作者: てん


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第1話 隣の席が、近すぎる

 俺の心臓は、今日から殺される運命にあるらしい。


 そう確信したのは、席替え初日のことだった。


「えっと……春野悠斗くん。朝霧ひなたさん。二人は隣同士ね」


 担任の声と同時に、教室が少しざわつく。

 それを気にする余裕もなく、俺は黒板を見つめたまま固まっていた。


 隣。

 隣って言ったか?

 よりにもよって、朝霧ひなたの。


 クラスでも有名な、距離感がちょっと……いや、かなりおかしい女子だ。


「よろしくね、悠斗くん」


 名前を呼ばれた瞬間、反射的に肩が跳ねる。


「あ、ああ……よろしく」


 そう返しながら席につくと、すぐに異変が起きた。


 ――近い。


 机と机の間隔が、明らかに狭い。

 というか、寄せられている。


 横を見ると、朝霧ひなたが当然のように机を俺の方へずらしていた。


「……ちょっと、近くないか?」


「そう? この方が書きやすいよ」


 いや、そういう問題じゃない。


 彼女はさらりと笑って、俺の方に体を向ける。

 肩と肩が、軽く触れた。


 触れた瞬間、心臓が嫌な音を立てる。


 ドクン、じゃない。

 ドン、だ。


「……朝霧さん」


「ひなたでいいよ。もう隣なんだし」


 距離も呼び方も、一気に詰めてくるな。


 俺が言葉に詰まっていると、彼女は楽しそうに俺の顔を覗き込んできた。


「悠斗くん、緊張してる?」


「してない」


「じゃあ、なんでそんなに心臓うるさいの?」


 ――聞こえてたのかよ。


「気のせいだ」


「ふーん?」


 ひなたは納得していない顔のまま、今度は肘を机について、さらに近づいてきた。


 近い。

 近すぎる。

 息がかかる。


 俺は限界を迎え、視線を前に戻した。


 授業が始まる。

 ノートを取ろうとペンを持つ。


 すると、ひなたが小声で囁いた。


「ねえ、悠斗くん」


「今度は何だ」


「隣、落ち着くね」


「……そうか」


 俺は全然落ち着かない。


 むしろ心臓が、フルマラソンを走っている。


 そんな俺の様子を見て、ひなたはくすっと笑った。


「大丈夫だよ。慣れるから」


「慣れたくない」


「ひどいなあ」


 そのやり取りを、前の席の男子が振り返って見ていた。


「なあ春野、お前らもう付き合ってんの?」


 ……は?


「違う!」


 即答した。


「付き合ってない!」


「えー?」


 男子が不思議そうな顔をする。


「でもさ、距離感それ」


 俺が言い返そうとした瞬間、ひなたが口を挟んだ。


「うん、付き合ってないよ?」


「ほらな!」


 そう言った俺に、ひなたは続けた。


「……まだ」


 教室が、一瞬静まった。


「は?」


 俺が聞き返すと、ひなたは何事もなかったように微笑んだ。


「冗談だよ」


 絶対冗談じゃないだろ。


 再び授業が進む中、俺の集中力は完全に死んでいた。


 ノートの文字は歪み、ペン先は震え、心臓は暴れ続けている。


 横を見ると、ひなたは普通に授業を受けている。


 その肩は、相変わらず俺に触れたままだ。


「……なあ」


「なに?」


「本当に、近い」


「嫌?」


 そう聞かれて、一瞬言葉に詰まる。


 嫌かと聞かれれば、困る。

 落ち着かないのは確かだが、不快ではない。


 むしろ――。


「……嫌なら、離れるよ?」


 ひなたはそう言いながら、少しだけ距離を取ろうとした。


 その動きに、胸がきゅっとなる。


「……別に、いい」


 小さくそう言うと、ひなたは嬉しそうに笑った。


「じゃあ、このままね」


 その笑顔を見た瞬間、俺は悟った。


 ああ、これはダメだ。


 俺の学園生活は、今日から――


「春野、顔赤いぞ」


 前の席から声が飛んでくる。


「うるさい!」


 ひなたは楽しそうに俺を見つめた。


「今日も生きてるね、悠斗くん」


「殺す気か……」


 俺の心臓は、まだ持ちこたえている。


 ――今のところは。


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