哲学戦
「『子守歌は聴く者の心を奪い、聴けば聴くほど、子守歌の世界に籠もる籠もり歌となる』……これは我が哲棒技『籠もり歌』を発動させる際の呪文だ」
つり目の恵太はフルフェイスを脱ぐなり、つまらなさそうな顔で富勇をにらんだ。
「まさか、我が哲棒技を破る者が現れるとは……これいかに」
「……鮫島。あの幻術は、お前の仕業か」
「そういう貴様は、朝倉富勇で間違いないな」
「だったらなんだよ」
「貴様を連行する」
「……佐々木さんはどうなる」
「無論、佐々木涼香もだ。貴様らまとめて、地下収容所『ゼロ』にぶち込む」
地下収容所「ゼロ」――聞いたことのない収容所だ、と富勇は内心臆した。
「どうであれ、貴様らを逃しはせんし、我が愛用のバイクも渡しはせんぞ」
「ふん、どうだかな」
それが戦いの狼煙だった。
銃拳そのもので肉弾戦に挑む親衛隊員、銃拳による弾丸で遠距離から攻撃をしかけてくる親衛隊員。
前衛と後衛に分かれた親衛隊員は、次々と富勇に襲いかかった。
理想はどちらの攻撃にも対処したいところだが、それはあくまでも理想の話。
最善手は……どちらかの攻撃に対処すること。
富勇は銃拳弾丸をもろに受けながら、サイダーナイフ技「ストロー突き(伸ばしたり曲げたりしたサイダーナイフで敵を突く攻撃)」で親衛隊員の身体を槍のように突いていく。
後衛からの攻撃をすべて受けたことで、何本かのあばら骨が折れたようだが、そんなこと気にしている場合ではなかった。
一人、二人、三人……四人。
五人。
瞬く間に倒れ伏す親衛隊員を前にして、とうとう親衛隊長の恵太は戦場に出る。
恵太は後衛の親衛隊員を涼香の見張りのほうに回すと、富勇の名を呼んだ。
「我が敵、朝倉富勇よ」
「……なんだよ」
「『この世は鎖のように離れないからこそ、鎖で繋がれる人間がいてしかるべきだ』……哲棒技『鎖繋ぎ』」
と、富勇の身体を縛る鎖がこの世に突然現れた。
しかも鎖に縛られた際には、サイダーナイフを地面に落としてしまう。
「うっ……こ、これは」
「言っただろう? これは我が哲棒技『鎖繋ぎ』だ」
「くそっ……解けない、か」
肝心のサイダーナイフを地面に落とした今、富勇にできることは何一つもなかった。
そのとき、富勇は親衛隊員によって捕まっている涼香と目が合った。
「……佐々木、さん」
「……っ!」
――あたし、富勇くんを最後まで信じてるよっ!
……そう涼香が叫んでいるように、富勇には聞こえたのだ。
だったら、その期待に応えなくてはいけないな、と富勇はこの戦いに勝つための策を考えた。
…………。
「いや、待て。これはそもそも戦いじゃない、か。なら、頭脳戦、でもないな。だったら……これは哲学戦」
哲学もどきの思想をねじ曲げれば……この哲学戦、乗り切れるのではないだろうか。
だから富勇は口にした。
「『この世は鎖から離れられなくて、鎖で繋がれる人間がいるのなら、それを打ち壊すのも、また人間でしか成しえない』……おっ」
直後、富勇の身体を縛っていた鎖は砂となり、富勇は自由を取り戻したのだった。




