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如月島は満月の夜に  作者: 最上優矢
第二章 大ピンチのときには哲棒をねじ曲げろ

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20/20

哲学戦

「『子守歌は聴く者の心を奪い、聴けば聴くほど、子守歌の世界に籠もる籠もり歌となる』……これは我が哲棒技『籠もり歌』を発動させる際の呪文だ」


 つり目の恵太はフルフェイスを脱ぐなり、つまらなさそうな顔で富勇をにらんだ。


「まさか、我が哲棒技を破る者が現れるとは……これいかに」

「……鮫島。あの幻術は、お前の仕業か」

「そういう貴様は、朝倉富勇で間違いないな」

「だったらなんだよ」

「貴様を連行する」

「……佐々木さんはどうなる」

「無論、佐々木涼香もだ。貴様らまとめて、地下収容所『ゼロ』にぶち込む」


 地下収容所「ゼロ」――聞いたことのない収容所だ、と富勇は内心臆した。


「どうであれ、貴様らを逃しはせんし、我が愛用のバイクも渡しはせんぞ」

「ふん、どうだかな」


 それが戦いの狼煙だった。


 銃拳そのもので肉弾戦に挑む親衛隊員、銃拳による弾丸で遠距離から攻撃をしかけてくる親衛隊員。

 前衛と後衛に分かれた親衛隊員は、次々と富勇に襲いかかった。


 理想はどちらの攻撃にも対処したいところだが、それはあくまでも理想の話。

 最善手は……どちらかの攻撃に対処すること。


 富勇は銃拳弾丸をもろに受けながら、サイダーナイフ技「ストロー突き(伸ばしたり曲げたりしたサイダーナイフで敵を突く攻撃)」で親衛隊員の身体を槍のように突いていく。

 後衛からの攻撃をすべて受けたことで、何本かのあばら骨が折れたようだが、そんなこと気にしている場合ではなかった。


 一人、二人、三人……四人。

 五人。

 瞬く間に倒れ伏す親衛隊員を前にして、とうとう親衛隊長の恵太は戦場に出る。


 恵太は後衛の親衛隊員を涼香の見張りのほうに回すと、富勇の名を呼んだ。


「我が敵、朝倉富勇よ」

「……なんだよ」

「『この世は鎖のように離れないからこそ、鎖で繋がれる人間がいてしかるべきだ』……哲棒技『鎖繋ぎ』」


 と、富勇の身体を縛る鎖がこの世に突然現れた。

 しかも鎖に縛られた際には、サイダーナイフを地面に落としてしまう。


「うっ……こ、これは」

「言っただろう? これは我が哲棒技『鎖繋ぎ』だ」

「くそっ……解けない、か」


 肝心のサイダーナイフを地面に落とした今、富勇にできることは何一つもなかった。

 そのとき、富勇は親衛隊員によって捕まっている涼香と目が合った。


「……佐々木、さん」

「……っ!」


 ――あたし、富勇くんを最後まで信じてるよっ!


 ……そう涼香が叫んでいるように、富勇には聞こえたのだ。

 だったら、その期待に応えなくてはいけないな、と富勇はこの戦いに勝つための策を考えた。


 …………。

「いや、待て。これはそもそも戦いじゃない、か。なら、頭脳戦、でもないな。だったら……これは哲学戦」


 哲学もどきの思想をねじ曲げれば……この哲学戦、乗り切れるのではないだろうか。

 だから富勇は口にした。


「『この世は鎖から離れられなくて、鎖で繋がれる人間がいるのなら、それを打ち壊すのも、また人間でしか成しえない』……おっ」


 直後、富勇の身体を縛っていた鎖は砂となり、富勇は自由を取り戻したのだった。

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