ギルド登録と呪いと
意気揚々と(フォルトはだけど)町に戻って、俺たちは早速ギルドへ向かった。
時間的にはまだ夕方にはちょっと早いくらいだ。
当然、ギルドの受付もまだやっていて、俺は例の男を呼び出した。
「ああ、なんだ。もう試験をクリアしただ? 本当かよ」
恐ろしいくらいダルそうな態度で、男が出てきた。すっごいムカつくけど、出てくるだけまだ立派といえるだろう。
正直なところ、門前払いもありえたのだ。
もしそうなったら、どうすればいいか思案のところだったんだけど、どうやらそこはクリアできた。一安心といえば一安心。
ちなみにフェリスとチョビとは事前に合流してあって、事情も説明済だ。
その流れでフェリスは目をぱちくりさせてポカンとして、チョビは立ったまま気絶した。
フェリスはともかく、チョビは本当に器用だよな。
俺が合図すると、フードに隠れていたフォルトが這い出て俺の肩に乗っかった。そのままパタパタと可愛らしく羽をはばたかせ、俺の両手の平におさまる。
もうその時点で、ギルドの男がぎょっとしているのが分かった。
「ということで、手懐けてきました」
「いや何がどうなって手懐けたんだよっ!?」
しれっと報告すると、男は瞬時につっこんできた。
「えっと、こう、どん、って?」
「まったくもって意味不明だわ! っていうか、それ本当にドラゴンなのか?」
早速疑ってきた。
もちろん、こんなやり取りに時間をかけるつもりはない。
俺はぐるりと周囲を見渡す。幸いにも、だだっ広いホールに人はいない。夜の依頼をこなすには早く、昼の依頼の達成報告には早いかららしい。
俺はフォルトの頭を撫でてから、そっと解放する。
瞬間だった。
ぽんっ、と軽い音を立てて、フォルトは元の姿に戻る。
そう。巨大で禍々しいフォルムに。
「あ、ああ、あ、あひいいいいいい――――――――っ!?」
男は大声をあげて、その場にへたりこむ。ってヘタレすぎだろ! それでもギルドに所属してる人間かよ!
ああ情けない。って思ったら、チョビが立ったまま気絶していた。
「またかよチョビ……」
「気持ちは分からないでもないんですけど」
ぶくぶく泡をふくチョビの肩を揺さぶって起こしつつ、俺は行く末を見守る。
『貴様か、この俺様の主をコケにしたってアホウは』
「ひゃ、ひゃああああっ!?」
『ギルドの登録試験ごときにこの俺様へけしかけさせるのも、俺様を十分に舐めたマネなんだけど、それ以上に、そんなことをさせるとは、いい度胸だな?』
フォルトはドラゴンらしい威圧を放ちながら、その牙を見せつけつつ、血腥い息を吹きかけた。それだけで男は気絶しそうになっていた。
っていうかこれ、状況によってはギルドのメンバーとかが緊急招集させられるんじゃないか? 今になって思い至った可能性に、俺はちょっと警戒する。
素早く読み取った『俺』たちが《索敵》を展開する。
――今のトコは、そういう気配はないかな。
一応考えつつ、俺はフォルトに目線を送る。
心得たのか、フォルトはすぐに頷いた。
『色々と問い詰めたいが、それは後にしてやろう。今は、試験に合格したかしてないか、だ。どうなのだ?』
ギロリと睨むと、男はひいひい言いながら、何度も頷いた。
「ご、ごごご、合格! 合格だから! 早くなんとかしてくれ――――っ!」
「じゃあなんとかしてあげるついでに、フェリスとチョビも登録してくれるよな?」
「えっ」
「「えっ」」
俺の提案に、双方から声があがった。
俺としても無茶なのは分かってての提案だ。でも、理不尽を最初にぶつけてきたのは向こうなんだから、これくらいは許されるよね?
自重なんてものはしない。するつもりもない。
最初に失礼かましてくれたのは向こうだからな。
「はい! はいはい! 登録します、しますからっ!!」
男の必死な叫びに、俺は満足気に頷いた。
▲▽▲▽
その日は、ちょっとお高めの宿に泊まることにした。
宿屋はいい。払うものさえ払えば、亜人族であったとしても分け隔てなく部屋を用意してくれるからな。
とはいえ、もっと格式の高い宿だとそうはいかないんだろうけれど。
「ということで、これが登録カードだな」
俺は袋からカードを取り出す。
もちろんフェリスとチョビの分もある。これで、俺たちは堂々と依頼を受けられるようになったわけだ。とはいえ、全部の依頼をこなせるってワケじゃないけど。
ちなみに、俺の職業はドラゴンテイマーになっていた。
ドラゴンをテイムしたんだから、当然といえば当然かな。
そのせいか、冒険者ランクはCだった。
最初はEかDからスタートするものなんだけど、ドラゴンテイマーともなると、最低でもCからスタートらしい。下手したらAランクもありえたのだが、そこはそこ、意地汚さが残っていたというか。
フォルトは早速抗議する気だったけど、なんとかなだめた。
ちなみにフェリスは魔法使いでD、チョビは召喚師としてEで登録だ。
「わぁ、すごいです、カナタさま!」
「まさか、あんなごり押しが通用するとはな……」
手放しで喜ぶフェリスに、顔をひきつらせるチョビ。
「ドラゴン効果ってヤツだな」
『ははは! 俺様は役に立つだろう!』
そう言うと、小さいフォルトは俺たちの周り飛び回りながらふんぞり返った。
器用なことするな、こいつは。
「それにしても、本当にドラゴンをテイムしてくるとか、アニキは何者だよほんと」
「テイムできたのは偶然っていうか……」
『俺様がついていきたいと思ったからだ! はっはっは!』
フォルトの発言が真実である。
俺としては証拠さえあれば良かったんだけどなァ。けど、ついてきたのはフォルトの事情もある。フォルトは現在、経口摂取でしか魔力を補給できないのだ。
さらに《貪食》スキルによる食事の提供がもっとも効率的なので、フォルトとしては生き残るためには選択肢なんてなかったんだろう。
「それで? これからどうするんだ?」
きいてきたのはチョビだ。
もちろん、それを説明するために俺の部屋に集まってもらったんだ。
「せっかく冒険者になれたわけだし、しばらくはここで簡単な依頼をいくつかこなそうと思う。実績があるのとないのとでは、他の町にいった時、全然違うらしいしな」
これは顔をひきつらせながらも笑顔を保ったままお姉さんが説明してくれた。
ここならば、フォルトの威光が通用するので、ある程度の依頼は任せてもらえそうだ。利用しない手はない。ただでさえ俺は亜人族なんだから。
つまり、しばらくはここを拠点に動くつもりだ。
金に関しては問題ない。安宿にすれば冒険者ギルドの依頼報酬でじゅうぶん賄えるし、そもそも今はフォルトから譲り受けた莫大な財産もあるし。
「じゃあ、ここに根をはるんですね」
「そうだな。ある程度稼いで、必要なものも買いそろえながら、経験をつんでいこう」
とはいえ、最初から討伐系の依頼をこなすつもりはない。
何度でもいうけど、俺は戦闘はあまり好まないのだ。ここなら人口が多いので、お手伝い屋さん的な依頼もそこそこある感じだから、そっちからこなしていくつもりだ。
チョビにはいずれ必要だから、おいおい受けていくんだろうけど。
それに、フォルトから譲り受けた莫大な財産の《鑑定》作業もあるし、フェリスをむざむざ危険な目にあわせたくない。可愛いからな。
「はいっ!」
フェリスは元気よく返事をした。
「じゃ、今日は解散ってことで」
俺が切り上げると、チョビとフェリスは自室へ戻っていった。
バタン、と扉が閉められたタイミングで、俺は空中でくつろぐ器用なフォルトに目線を送る。気になっていたことがあるのだ。
「なぁフォルト。ききたいんだけど」
『なんだ、我が主カナタよ』
「お前に――ドラゴンに、魔力吸収を阻害させるようにしたのは、誰なんだ?」
なんかフラグを全力で踏み抜く行為そのものなんだろうけど。でも、そうだとしても放置してても一緒だし?
『知らんのだ』
………………は?
あっけらかんとした返答に、俺は首をきょとんとかたむけた。
いや、だって、知らんって。
「フォルト、自分の身体のことだろ!」
『そうはいっても、いきなり呪いとしてかけられたのだ。追跡はしたが、痕跡さえ残っておらん。術式さえないのだ』
「……俺は魔術とか詳しくないからよく分かんないんだけど、術式がないのは変なのか」
『うむ。偽装は確かに可能だが、その偽装の片鱗さえ分からんかった。これは神の仕業といってもよかろう』
そんなにか。
いや、でも確かにフォルトは魔法が得意のはずだ。実際、器用なことをしてたし。しかもドラゴンだし。そんなフォルトを欺けるとなれば、必然的にそうなるのか。
そもそも論として、ドラゴンに呪いとかかかるのかって疑問もあるしな。生半可なものだとバッチリ弾き飛ばすだろう。
「他にありうるとしたら? なんかその日にいつもと違うことがあったとか、そういうのないのか?」
『いつもと違うこと……ああ、そうだ、確か、白い蛇に咬まれたな。鱗の僅かにも傷がいかなかったから、気にも止めなかったが』
「いやそれだろ間違いなく」
『えっ』
「えっ」
あれ、もしかしてフォルトって……バカ?
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