ドラゴンの提案ともらいものと
俺と『俺』たちは、たっぷりとステーキを堪能した上で、ドラゴンの元へ戻った。試食のつもりだったけど、腹いっぱいだ。
とりあえず用意したのは、二〇皿だった。もし足りないようならすぐに捕まえにいく。
というか、ロックホーンがいる傍に『俺』たちを配置しているのだ。
もし足りなさそうならテレパスを使って狩ってもらって、持ってきてもらう。
これならタイムロスもかなり少なく済むからな。
そんなことを考えつつ、俺はドラゴンに差し出す。
『ほほぉう、これは臓腑が刺激される良い匂いだ』
隠すことなくヨダレを垂らしつつ、ドラゴンはさっそくかぶりついた。
切り分けることなく、豪快に。
もちろんあのステーキは柔らかいので、あっさりと齧りきれる。
口をいっぱいにするほどの一口で、ドラゴンは目の色を変えた。
文字通りぺろりと、ドラゴンはステーキを一枚平らげた。同時に、ドラゴンに魔力が注がれていくのを感じ取る。
ドラゴンは何も言わないまま、ステーキにがっついていく。その凄まじい勢いで、どれだけ美味しく食べているのかが分かった。
それにしても、漫画みたいだなー。
片手にステーキを掴み、がぶっと齧りついて肉を引きちぎる。ぶちぃっ! と生々しい音に、脂が飛び散った。
高速で咀嚼して、飲み込むや否やもう反対のステーキを齧る。
「誰も奪わないから、ゆっくりお食べ?」
『ふがっ、ふごふんごふんごっごっふ!』
「何言ってるかわかんねぇから」
俺は呆れてため息をついた。
ドラゴンはどうみても食物連鎖の中でも最上位の部類だ。だからゆっくり食べるものだと思っていたんだけど。
とりあえずこのペースならあっさりと消えそうだな。
俺はテレパスで『俺』たちに追加オーダーを出す。ちょうどドラゴンが最後の一皿を食べ始めたタイミングで、追加はやってきた。
『がふっ! がっふがっふがっふっ!!』
ごとん、と置くと、ドラゴンは容赦なく食らいつく。あ、これペース落ちないやつ。俺は危険な予感がしたので、すぐに『俺』たちへテレパスを送った。
結局、ドラゴンはさらに四回もおかわりをして、ようやく落ち着いた。
肩に乗っかれるくらい小さくなったドラゴンは、腹をぱんっぱんに膨らませて仰向けに寝転がり、その腹をさすっていた。
なんかつついたら破裂しそうだなぁ。
感想を内心にしまいつつ、俺は『俺』たちに戻ってきてもらう。
『ああ、最高だ……こんなに魔力が満たされたのは、いつかたぶりだろうか!』
「そんなに切羽詰まってたのか?」
『無論だ。おそらく、後一週間もあれば、俺様は砕け散っていただろうからな』
砕け散るって。
物騒な言葉である。俺は密かに顔をひきつらせた。
『そなたは本当に命の恩人だ』
「カナタでいいよ」
『おお、名前か。よき名だ。俺様はフォートドラゴンのフォルト。よろしくな』
「うん、よろしく」
返事をすると、早くも腹がへこみだしたドラゴンは、ふわっと宙に浮いた。
『まずはお礼からしようじゃないか。ついてきてくれ』
ドラゴンはふわふわと蝶のように上下しながら洞窟へと進んでいく。
ペースがゆっくりなので、歩いてもついていけるくらいだ。
一瞬だけ罠か? と疑ったが、そんな風には見えないし、仮にそうだとしてもまた殴り飛ばせばいい話だ。
ある意味能天気に考えながら洞窟の奥へ進んでいく。
魔物の一匹くらいいると思ったけど、静かだな。
念のため《索敵》で探ったけど、本当に気配がない。たぶん、普段からフォルトがねぐらにしているからなんだろう。魔物が全員逃げたのかもしれない。
そういうところはドラゴンだよなぁ、と思いつつ、さらに奥へ進んでいく。
『さぁ、ここにあるすべてをカナタに差し出そう』
ドラゴンが止まり、代わりに明かりの魔法を生み出す。
瞬間、周囲が異常なくらいに照らされた。眩しくて目がくらんだ。
しばらく待って目が慣れてくると、その光は魔法の明かりじゃないのが分かった。
いや、っていうか、これって、あれ?
キラキラと光るそれらを見渡して、俺はぽかんと口を開けた。
いやだって、これって。
「まさに、金銀財宝ってか……」
『そうだ!』
自慢げに(というかこれは自慢して当然)ふんぞりかえりつつ、ドラゴンは肯定した。
洞窟とは思えないくらい広いエリアの見渡す限り、金貨、金貨、金貨。もちろんそれだけじゃなく、豪華な宝石類や装飾品、中には豪華絢爛な宝箱まである。
そういえば、ドラゴンはそういうの集めるのが好きって本で読んだことあるけど、その設定がそのままここに生きるのかよ。
いいんだけどさ。
ぶっちゃけ、これだけあれば一生遊んで暮らせるぞ。
それがもらえるっていうんだから、太っ腹な話である。
「本当にいいのか?」
『無論だ。俺様には使い方さえわからんからな。はっはっは!』
「豪快に言うとこかそこ」
反射的につっこみつつも、ありがたくいただくことにした。
収納先は言うまでもなくストレージルームの中だ。
俺と『俺』たちは総出で財宝を入れていく。
とはいえ、手作業じゃあ辛い。なので《念力》を使うことにした。
とりあえず全部入れてしまって、後でじっくり《鑑定》していこう。
俺と『俺』たちは小一時間くらいかけて、金銀財宝の山をストレージルームに移した。そのおかげか、《念力》のランクがアップした。
『さて、これで俺様も身軽になったな』
「むしろよくこれだけ抱え込んでたもんだよ。びっくりだわ」
『はっはっは。元々この洞窟に散らばってたのを集めたもだ。ほとんどはな』
「そうなのか」
なんだか深くつっこんだらいけない気がした。うん、忘れよう。
俺はあっさりと思考放棄した。
「それで、俺はこれらを証拠にしたらいいのか?」
外に出てから、俺はフォルトにきく。
『否。それだけでは証拠になるまい。たとえ、俺様の爪や牙だったとしても。首をもっていけば別だろうが、さすがに俺様は死にたくないからな』
「うん。俺も命まで奪うのはちょっとって思ってる」
もちろんフォルトが大量虐殺とかしてるんなら別だけど。
『だから、俺様がついていこうと思う』
…………うん? えっと?
言われている意味がわからなくて、俺は硬直した。
つまり、どういうことだってばよ?
理解できずに首をかしげると、俺の前に魔法陣が生まれた。
《フォートドラゴンのフォルトが契約主としてあなたを指定しています。契約しますか?》
浮き上がったウィンドウには、そんな一文。
つまりあれか。俺、ドラゴンをテイムするってやつか。
「フォルト、いいのか?」
『構わん。命の恩人だぞ、カナタは。だからついていく。それに、あんなうまいメシが食えるのなら!』
「そっちか」
ゲンキンなやつである。
でも、俺としては好都合だ。どんな反応されるか微妙だけど、きっと驚いてくれるだろう。それを想像するとちょっぴり気が晴れた。
俺はフォルトの意志を受け取って、契約を実行した。
魔法陣が二つに割れ、俺の手の甲とフォルトの額に刻まれる。
テイムが完了したようだ。
すると、頭にテイムに関する情報が流れてきた。便利。さすが神の加護。
俺とフォルトの関係は、どうやら契約関係のようだ。
契約主なので、俺が一応上位だが、隷属関係ではない。
ある程度の拘束力はあるが、フォルトが本気で嫌がることはさせられない。例えば自爆しろとか、そういうのだ。もちろんフォルトが望めば別だけど。
なるほど、これなら気軽な感じの契約関係だ。俺としても気が楽でいい。
「それじゃあ、早速戻るとしようか」
『うむ。まずは冒険者ギルド登録するだけのために、ドラゴン討伐なんて試験を挑ませたアホウの面を拝んでしっかりお仕置きしてやらねばな』
「一応いっておくけど、殺すなよ?」
『そのようなことはせぬ。一気に俺様は討伐対象にされてしまうからな。ただ……』
ベビードラゴンの姿のまま、フォルトはニヤりと笑った。
『きっちりと後悔はさせてやらないとな?』
ああ、これはやっちゃうパターンだ。
俺は内心で諦めた。
次回の更新は明日の夜中か、明後日です。
仕事がたてこんでいて……
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