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ドラゴンとステーキ

6000PV突破しました。

 ぴくぴく、ぴくっ。

 ドラゴンは禍禍しい足をぴくつかせ、ぴた、と止まったと思ったらいきなり起き上がった。勢いよく頭を抜いたので、土煙が舞い上がる。


『ぶはあっ! 貴様いきなり何するんだ! 俺様が喋ってるんだからちょっとは空気読んで言い終わるまで黙ってるとかなんとかしないのかよ!』

「んなメタい抗議してくんな、ドラゴンが!」


 俺は思わず反論してしまう。いやだって。愉快かよ。


『っつうかよぉ、今のはきいたぞ……』


 ゆっくりと起き上がりながら、ドラゴンは睨みつけてくる。

 軽く殴った程度ではあるんだけど、ダメージは充分に通っている感じだな。俺は速やかに説得へ移行した。なんどもいうけど、俺は戦うことはそんなに好きじゃない。


「なぁ。強いあんたなら分かったんじゃねぇの? 今ので実力の差ってのが」

『くだらん。たかが一人に俺様が敗北するはずがないだろう』


 強がりを言いつつ、ドラゴンは威嚇してくる。何かに追い詰められているかのように。

 うーん、一体何があったのか。

 ドラゴンって、フェリスからの知識に従えば、絶対的に等しい強者だ。自由気まま、空を愛する究極の種族。下位の亜竜になると状況は異なってくるようだが(人間族ヒュームの伝承にあるドラゴン討伐のドラゴンはこの亜竜のようだ)――フォートドラゴン。こいつは間違いなくドラゴンなのに。

 とりあえず、俺は説得を続ける。


「一人だったら勝てるってのか?」

『無論。確かに貴様は俺様より強い。うん強い。ぶっちゃけありえないくらい強い。マジで。うん』


 足をぷるぷる震わせながら言わないで?


『だが、俺が命を賭せば、お前を道連れにすることはできる』


 いわゆる自爆ってやつか。

 なるほど。実にドラゴンらしいといえばらしい。かもしれない。だって俺も知らないし。

 でも、それなら話は早い。

 俺は早速動くことにした。


「じゃあ」


 ぞろ。ぞろぞろ。ぞろぞろぞろぞろぞろぞろ。


「約三〇〇人だったらどうなる?」


 自信満々に、俺と『俺』たちはそう言い切った。

 やってきたのは、硬直。

 顎が外れるんじゃないかってくらいの勢いで口をぽかんと開けながら。


『な……な。ななぁ……!?』


 当然といえば当然の反応だな。

 予想通り、ドラゴンはその場でへなへなと崩れ落ちた。なんか地味に可愛いなオイ。

 そのドラゴンは、ポップコーンが弾けるような音をたてて、小さく変化した。

 なんか可愛くなったし! ベビードラゴンみたいだ!


『なんなんだ、お前! ありえないだろう!』


 愛くるしい姿になったドラゴンは、とたんに抗議してくる。


「俺もそう思うんだけど、現実だし? ところで、俺はわりと本気で平和的解決を望むんだけどさ、もうこれで終わりにしねぇ?」


 俺の提案に、ドラゴンがのまないはずがなかった。

 けど、これで終わりじゃあない。原因の根本を解決させなければ。


「それで、何があったんだよ。ずいぶんと追い詰められてる感じだったけど」

『当然だ。俺様は……』


 ごくり。


『猛烈に腹が減った!』


 ……………………。


『よし待て。お願いだから待って。いや待って?』


 ぬらりと詰め寄る俺に、ドラゴンは顔を青くさせつつ両手をあげた。降参のホールドアップだ。そこで俺は手を止める。

 いやでも俺が怒るのも当然だ。

 腹が減った。って、そんな理由で町の入り口であんなことしたんかい!


「あのさ、腹が減ったなら飯を食えばいいだろうが。それこそあんたなら、どうにでもできるんじゃねぇの?」

『それができないから腹を立てているのだ』

「どういうことだ?」

『俺様のような存在は、食物の生命力を糧とする。つまり生体エネルギーというわけだ。だが、俺様はそれの摂取を封じられてしまった。残るは経口摂取だけなのだが、生肉というのはどうにも不味くてな……それに、摂取効率も悪い』


 なるほど。

 どうやらこのドラゴンは本当に困っているようだ。


『それで少しでも生気を摂取するために、感情の発露を行って吸い取ろうとしていたのだが、これでは消費の方が大きい』


 がっくりと項垂れるドラゴン。

 俺は顎をさすりながら考え、一つの結論に至る。だったら、アホほど食えばいいんじゃね? それも、生肉とか、そういうのじゃなくて、調理されたモノを。

 実は、《貪食》によって魔物は調理された食べ物に変化される。すると、魔物のエネルギーが全て内包されるのだ。つまり、高純度の生気でもある。


 つまり、そこそこの量を用意すれば、ドラゴンも満足できる可能性が高い。


 俺は早速実行することにした。

 けど、タダで、とはいかない。俺にだってやり遂げるべきモノがある。


「一応可能性って段階だけど、それ、なんとかできるかもしれない」

『なんだと!?』


 当然、ドラゴンが食いついてくる。

 それだけ飢えてるんだろうなァ。腹が減る苦痛はよくわかる。ブラック企業に勤めてた時代、どれだけメシを抜いたことか。


「ただし、条件がある。俺、実はドラゴンをどうにかしてこいっていう内容の試験を受けてるんだ」

『なんだそれは。たった一人でそのような試験、きいたこともないぞ。クリアしたらどのようなことになるのだ』

「冒険者ギルドに所属できる」


 端的に答えると、ドラゴンはぶふぉ! と吹きだした。


『ギルドに所属!? それだけのことでドラゴンを!? どんなムチャクチャだ!』


 やっぱりムチャだよなぁ。


「けど、成し遂げないといけないんだ」

『……なるほど、差別か』

「そういうこった。で、それを正面から突破してやろうかと」


 もちろんこれは俺のためでもある。冒険者になれれば、色々と優遇されるのだ。


『よかろう。俺様の腹を満たすことができれば、貴様についていって、その証明を果たさせてやろう。鱗や牙でもくれてやれれば十分だろう?』

「うん。たぶんな」


 了承を得て、俺は早速魔物狩りに出た。

 三〇〇人という数を存分に使わせてもらう。

 この岩丘は寂れた場所だけど、それでも魔物はそこそこいた。早速《索敵》スキルで周囲を調べ尽くし、いくつかの魔物の群れを見つける。

 どうもロックホーンのようだ。

 俺たちは早速分散し、次々と仕留めていく。


「よっと」


 もちろん俺も参加だ。こういうのは全員参加でとっとと終わらせる!

 ロックホーンは、岩場を住処にする牛型の魔物だ。強靭な肉体から繰り出される突進は、直撃を受ければ人間くらいはミンチになるとか。さらに角の硬度は非常に高く、重全身鎧フルプレートメイルでもあっさり貫通するとか。え、怖い。


 じゃあ、そんな攻撃受ける前に始末だな。


 ロックホーンと正面から向き合い、俺は飛び出して加速した。

 手をチェーンソーに変化させ、すれ違いざまに首を刎ねる。剣術のレベルが上がってるせいか、すっごくスパスパ切れる。


 さて、どんな料理に変化するかな?

 ドラゴンの腹を満たそうというんだから、肉系が望ましいんだけど。

 なんて思っていると、ぽんっと愉快な音を残して、ロックホーンが料理に変化する。

 俺の手に落ちてきたのは、ほっかほかの湯気を立たせ、じゅーじゅーと焼ける音を色濃く立てる――ステーキだった。


 うっひょー、これ美味そう!


 じゅるり、とヨダレがあふれ出てきた。

 ご丁寧に鉄板の仕込まれた木製プレートに鎮座している熱々ステーキは、かなりの分厚さと大きさを保有していた。軽く見積もっても三〇〇……いや、四〇〇はあるだろう。

 漂ってくる香りは、胡椒のスパイシーさと、暴力的な肉の匂いだ。


 ああ、これは無理。


 しかもそれが一〇皿だ。

 これを我慢するのは無理だよな。ちょうど飯時だし。

 俺と『俺』たちは一旦退避し、熱いうちに早速試食することにした。


 肉はまだじゅーじゅーと音を立てていて、乗せられたハーブバターが

 指をフォークとナイフに変化させ、ナイフで肉を切る。

 さく、と、驚くほど簡単に入る。柔らかいんだ!


 俺は脂のしたたる肉をひときれ、口に頬張る。


 じゅわっ。と熱で溶けた脂の旨味がまず口の中に充満し、溢れるように塩と胡椒のスパイシーさが追随してくる。うまい。もうひたすらにうまい。

 肉の焼き加減も絶妙のレアだ。

 漕げる一歩手前まで焼かれた表面とは違い、中は赤い。けど、脂がじゅわっと溶ける程度には加熱されているのだ。これはマジもんのステーキだ。


 むぎゅむぎゅと肉を噛みしめる。


 程よい弾力は、適度な赤身に綺麗なサシが入っている証拠だ。

 多すぎると、脂はくどくなるからな。やや赤みの持つしっかりした肉本来の旨味が勝る。そんな感じだ。この噛み応えはたまらん。


「うんまぁぁああ…………」


 ごく、と飲み込んで、出たのはそんな感想だった。

 分厚いからこその食べ応え。脂と赤身のバランス。塩胡椒だけの味付けだからこそ、より洗練に、強烈になる肉の旨味。

 これこぞ、ステーキだ。

 

 俺はあっさりとステーキを平らげる。

 うん。これなら大丈夫だろう。ドラゴンも満足するはずだ。

 体内に吸収された魔力を感じ取って、俺は確信した。




次回の更新は明日です。

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