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ちょっとカチンときたので鉄槌

「ド……ドラゴン!?」


 驚愕の声が轟いた。

 フェリスはまた顔を青くさせ、チョビに至っては泡を吹いている。

 いやいや。おかしいだろこれ。

 二人でなくとも、俺はその異常性に気付く。っていうか気付かない方が無理。


 町に入る前に遭遇したドラゴン。たしかフォートドラゴンと呼ばれていた。


 標的はおそらくも何も、あいつだろう。

 あれが撒き散らした破壊を俺は目の当たりにしている。

 あんなのをこれから冒険者になろうってしてるヤツに何とかできるようなものじゃあない。それをコイツは分かってていってるのだ。

 つまり、亜人族ハーフなんてこの程度の扱いなんだよな。

 ちょっとカチンときた。


「……ドラゴンをなんとかしてればいいのか? 具体的な条件とは?」

「そうだな、ここから追い払えれば合格にしてやるぜ」


 にたにたと意地悪な笑顔を浮かべながら、男がいう。

 まるでそれくらいできて当然だろうといわんばかりだ。


「分かった」


 だから、俺は即答してやった。

 男は(というかフェリスとチョビも)目をきょとん、とさせる。俺が即答するとは思わなかったからだろう。ちょっといい気味。

 俺は早速フェリスとチョビを連れていこうとする。けど、男がすぐに呼び止めた。


「おい。試験はお前ひとりだ。そいつらに協力させるワケにはいかねぇな」

「「ええっ!?」」

「いいぜ」

「「いいのかっ!?」」


 いや、こういったらダメかもだけど、フェリスはそもそも戦闘向きじゃないし、チョビは確かに召喚魔法があるけど、ドラゴン相手に通用するとは思えない。

 だから、俺一人でいくほうが効率的なのだ。

 っていうか、そもそも俺は一人じゃないし。


「その度胸だけは褒めてやるぜ。ほら、試験証だ。これがあれば、町の出入りは出来るぜ。ただし、一週間で効力は失うがな」

「問題ないよ。そのフォートドラゴンの居場所は?」

「ここから北にあるゴーファの岩丘の上だ。一目でわかるくらい大きい洞窟がある。そこをねぐらにしているようだぜ」


 あ、そういう情報は教えてくれるワケね。

 本気で死んでも構わないって思ってるんだろうけど。それと、冒険者ギルドとしての矜持もあるのかな。ドラゴンのねぐらくらい、突き止めてあるんだ、って。

 でも、それ以上手は出せてないんだろうけど。


 俺は早速町を出て北へ向かった。


 俺がいない間、フェリスとチョビに何かあったら嫌なので『俺』たちを五人ほど護衛につけておく。ちょっと過剰な気がするけど、でも、俺だしな。

 レベルがバカみたいにあがっても、俺は俺だ。抜けることもある。それを数で補うのが俺のやり方だ。


「かといって、道中やることがないのはもったいないしな」

『能力の整理でもしてみる?』

「ああ、それいいな」


 スライム状態で同行してくれている『俺』たちの意見に同意した。

 さて、おさらいといくか。

 俺はステータスウィンドウを開ける。


 カナタ  Lv二五六八

 性 別: 男

 種 族:《異世界からの召喚者》《亜人族ハーフスライム/人間》

 スキル:《形状変化》

     《完全感覚共有》

     《取得経験値上昇SSS》

     《念力S》

     《見破りSSS》

     《テレキネシスSSS》

     《鑑定SSS》

     《弱点克服SSS》

     《打撃・斬撃・魔法耐性SSS》

     《自己再生SSS》

     《治癒粘液SSS》

     《索敵S》

     《強酸性粘液S》

     《隠密SS》

     《貪食【ユニークスキル】》

     《ストレージルーム【取得アイテム補正スキル】》

     《剣術・槍術・打撃術A+》

      etc. 

 

 ん?

 なんかスキルのランクが上昇してる?


 疑問に思っていると、答えはすぐにやってきた。


 どうやら『俺』たちがルームの中にいる間、色々と実験していたらしい。

 つまり、『俺』たち同士での模擬戦や訓練でのスキル使用経験値の蓄積だ。三〇〇人いると、こういう部分でも非常に便利だ。

 おっと、本題に戻らないと。


「相手はフォートドラゴン、か」


 情報だけは事前にフェリスから聞いている。

 洞窟を好む、ドラゴンの中でも好戦的な種のようだ。強さもドラゴンでは中の上くらいのようだが、人間族ヒュームからすると、討伐するとなればかなりの手練れを集めて挑まないといけないらしい。

 理由は一つ。

 強靭すぎる耐久力だ。体格こそ中型に差し掛かる程度だが(それでも六メートルはある)、その鱗の耐久性がとてつもなく、ダメージを少しずつしか与えられないのだとか。


「となると、強酸で溶けるかどうかってトコか」


 ランクとしてはSなので、通用する可能性はあると無きにしも非ず、ぐらいか。このランクだと、鉄さえ腐食させてしまう威力を誇るんだけど。

 ただ、相手はドラゴンだ。

 さらにそのドラゴンの中でも強靭な防御力を持ってるとなれば、油断はできない。


「もしダメなら、どうするかなぁ……」


 思いながら進んでいると、先行して《索敵》していた『俺』たちから感覚がやってくる。 どうやらしっかりと見つけてくれたようだ。

 俺は形状変化して加速し、早速現場へ向かった。


 その洞窟は、すぐに分かった。


 さすが、あのムカつくヤツもちゃちい嘘はついてなかったようだ。

 一目でわかる巨大な入り口の洞窟。その奥から漂ってくる魔の気配。ドラゴンだというのは、もう《索敵》で分かっている。

 さて、どうしたものか。

 と思った矢先だった。

 洞窟の入り口から、凶悪な咆哮と暴風が襲ってきたのだ!


「ったく、いきなりかよ!」


 俺は形状変化させ、その暴風に耐える。

 ドラゴンはその間に姿を見せた。

 うわー、こうしてみるとでっかいし禍々しい。目つきとかヤバいな。逃げたい。

 爬虫類独特の、縦に割れた目に睨まれて、俺は背筋を凍らせる。うわぁああ、怖い怖い怖い怖い。マジで…………あれ? そんなに怖くない?


『なんだキサマぁあああああっ! 俺様は今、ものっすっごく機嫌が悪いんだ!』


 ドラゴンは猛々しく天を仰いでから、暴風を撒き散らしながら叫んだ。

 さすがに三回目となると慣れてきたなァ。

 などと思いながら、俺は近寄っていく。それを見たドラゴンが目を大きく見開いた。


『俺様の風を受けて、平気、だと……!?』


 平気ってワケじゃあないんだけど、まぁ黙っておいた方がいいよな。

 残念ながら、俺にはこの風を吹き散らす能力まではない。


「とりあえずさ」


 だから俺は声をかけることにした。


「依頼で、あんたをどうにかしてくれって言われてるんだけど」

『はぁ? なんだそれ! 俺様が何をしたってんだ! 人なんて食ってねぇぞ!』

「いやさっき思いっきりしただろうが。町の入り口あたりで」

『あんなのただの遊びだ!』

「少しは自分と相手のこと考えて? 下手したら死人が出てたんだぞ!」

『知るか!』


 フォートドラゴンは苛立ちを吐き出すように吠える。

 なんでコイツがこんなにイライラしてるのか、まるで分からない。でも、それに巻き込まれるこっちはたまったもんじゃない。


『そんなもの、弱い方が悪い!』


 ほっほぉう。

 いつもなら、ヒドいこと言うなァと思うくらいだろう。でも、今の俺は割と腹が立っている。全てはあのギルドのおっさんに集約されるんだけど。


「じゃあ、勝負といこうか」


 挑発するように提案すると、ドラゴンはぴく、と片目だけをつりあげた。


『貴様……半端モノの亜人族ハーフの分際で、この俺様とやろうってのか? いっておくが、俺様のレベルは一八四! 人間が逆さまになっても到達できない領域だぞ!』


 ごう、と周囲に風を呼び起こし、さらに炎と稲妻をほとばしらせる。

 さすがにドラゴンらしい器用さだ。


『何より! 俺様はフォートドラゴンだ! 貴様のしょぼい鉄剣程度、鱗に触れた瞬間粉々になるだろうよ!』


 確かにそれは事実だと思う。

 だから俺は、剣なんて使う気はない。

 俺は軽くストレッチしてから、ぐっ、と拳を握った。


『どうだ、恐れをなしたか! そもそも、貴様よく見たらスライムじゃないか! そんな下等極まりない脆弱な魔物との亜人が、一体何がどうあってこの俺様の前に顔を』

「よっと」

『出せたというのどっせぇぇええええ―――――――いっ!?』


 軽く跳躍して、俺は拳をドラゴンの顔面に叩き込んだ。

 けたたましい音を立てて、ドラゴンは地面に沈む。中々な手応えだったが、さすがに強靭なだけある。砕けることなく、頭だけ器用に地面に埋まった。

 俺は着地し、首をコキコキと鳴らした。


次回の更新は明日です。

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