episode3(10) 過ち
「華先輩。私とキスしてください」
家に遊びに来ていた実莉ちゃんは突然そう言った。
「実莉ちゃん。そういうことは好きな人と」
「でも、橘先輩にはキスしたじゃないですか」
「それは、その~、場の勢いというか」
実莉ちゃんは私を押し倒し、そのまま馬乗りのような体勢になる。
「私じゃあ華先輩を満たせませんか?」
「実莉ちゃん……」
実莉ちゃんは私にぐっと顔を近づける。実莉ちゃんの心臓の鼓動も、温かい吐息もしっかりと感じられた。私の心臓の鼓動も実莉ちゃんと同じように速くなり、だんだんボーっとした感覚に落ちていく。
「先輩、いいですか?」
「……うん」
そうしなけば私の体の疼きはもう、おさまらなかった。私の言葉に実莉ちゃんは口づけで答える。さっきよりも感情が高揚するのがわかる。実莉ちゃんはそのまま舌を絡ませてきた。駄目、それ以上は。私はもう止そうとしたけど、実莉ちゃんは私を抱きしめ、それを許さない。私はもう、このまま溶けてしまいそうで。そのまま実莉ちゃんに身を委ねた。
その夜。また橘さんから着信があった。電話にでていつもみたいに今日学校で思ったことだとかを時間を忘れて話す。いつも話してくるのに、今日は実莉ちゃんの話題は無かった。そして、電話を切るとき橘さんは不思議な質問をしてきた。
「委員長。私たちって友達?」
「うん」
当然。いまさらそんなことをまた聞いてくるなんて前の橘さんに戻っちゃったみたい。
「じゃあ、実莉は?」
「友達……だよ」
今日あったことを思い出して言葉がつっかえる。あんなことがあったのにいつも通りでいろというほうが無理である。電話がかかってくる前だって実莉ちゃんを思って……
「私、何聞いてんだろ。ごめんね。おやすみ」
電話を切る橘さんはどこか焦っているような、慌てているような印象を受けた。
改めて今日のことを思い出す。あんなことしたの初めてだよ。こうなったのは私の行動が原因。それなのにまただ。あの官能的な空気に飲まれて、実莉ちゃんにされるがままだった。私ってなんか軽いな。それに鈍感だ。実莉ちゃんの好きってそういうことだったんだね。……じゃあ、橘さんは? 実莉ちゃんに妙に喧嘩腰だったのもそういうことなのかな? 私二人を知った気でいたけど何にも分かってなかった。橘さんが私に言った好きはどの好きなんだろう。実莉ちゃんと一緒ならまた怒られちゃうかな。そして私は? 私はどっちが好きなの? もうよくわからない。考えつかれて私は眠った。




