第百八十三話 お忍び
ハイランド国王、エルヴィン・フーバーとオルズテア国王、リリアン・ラストの会談は浮遊都市に造られた一室で行われた。
今回の階段は極秘であり、本人達以外ではテンペストとサイラス、ロジャー、そしてエイダが付いてきているだけだ。
ただし浮遊都市の地下入り口に繋がる場所は厳重に警備達が守っている。
「ようこそ、異世界からの友人の訪問を心から歓迎する」
「話し合いの機会を設けてもらえたのは嬉しいよ。君たちが懸念していることは分かっているよ、ただ、それはこちらも同じことだ。……これ、外していいかな?」
「すまないな、流石にあの映像を見た後では皆なかなか納得してくれぬゆえ、そのような手段を取った。当然私がそちらに行く時には同じようにしても良い……まあ、やらずとも私程度はすぐに消せるであろうが。まずは……先に彼女の質問に答えてくれるか?その結果をもって判断したい」
「良いよ。もし真偽を確かめる道具などが有るのならば使用してくれて構わない」
エイダが一歩進み出て、リリアンと相対する。
小声で精霊と交信し、相手の心の奥底を覗き込見ながら質問した。
「始めまして。私は神子のエイダ・ディロンと申します、無礼であることは承知しておりますが……」
「ボクが認めてるから問題ないよ。今ボクは完全に無防備だ、肉体的にも魔法的にもね。いくらでも真偽を確かめて欲しい」
「分かりました。感謝いたします」
幾つか質問をして、それにリリアンが答えてゆく。
言葉遊びではぐらかされないように慎重に……のつもりだったのだが、リリアンが意外と素直に断定した物言いをしてくれているのであまり関係なかった。
侵略や攻撃などの意思はなく、本当に協力したいという事が分かり首輪の方も外され、自由になったリリアンが首を回して伸びをする。
「ふう。首に何か有るのってちょっと慣れないね。取れてスッキリしたよ」
「協力、感謝するぞ。今日は全てが非公開、非公式だ。今後の話し合いの方向性をある程度固めておきたいと言うのもあるが……実のところ実際に会ってみたいと思ったのだ。若く、まだ経験の浅いと言うのに国をよく治めているという王がどんな者かを見たかった。まだ、子供と言っていいではないか」
「否定はしないよ。ボクが生まれてまだ4年しか経ってないからね。そっからどんどん上へ上へと上げられて国王になったのは去年位だから」
一般市民としてすら生まれていないのにもかかわらず、自分の体質を有効活用して男娼として、そして冒険者として有名になり、そこから数々の功績を上げて貴族入りを果たした後は色々あって国王になることになってしまった。
それも廃墟どころか更地になった広大な国土を与えられて、それを短期間で整えた挙句に国民も確保していった。
今では軍事的にも、経済的にもあの世界ではトップの国となっている。
ダンジョンケイブに大洞窟。どちらの世界にも同じようなものがあり、それを発見して活用したがために膨大な資金と資源を手に入れた訳だが……。
世界がつながっているのも恐らくその洞窟が原因なのかもしれない。
「金、資源、権力、それらを持っていたとしても、上手く使って賢王となれるのは少ない。……少なくとも今はそれを維持していると言うだけでも大したものだ。私など、未だに少なくない諸々に頭を悩ませているというのに」
「まあ……ボクの国は特殊だからね。国民の殆どがボクのファンみたいなものだし……。ある意味で宗教じみてるけど」
実際崇められてると言っていいほどには。
男娼の時からのファンとか、見た目美少年な国王にやられた人たちとか。
他の国なら不敬罪待ったなしな表現であっても許される風潮、それでいて犯罪者が生きにくく、真面目な人が損をしない街。
職のない人が手に職を得られるように支援される学校、整ったインフラ設備など。
ある意味で理想的な国がそこにある。
それでこの若い美少年王を受け入れないわけがなかった。
市場に王の裸像が溢れてる国などオルズテアくらいだろう。
「なんとも……自由な国なのだな……」
若干引き気味のハイランド王エルヴィンだった。
□□□□□□
とりあえず色々と情報交換をしていくと、お互いに利益になりそうなものが見えてくる。
そして、ある程度の協定のアイディアも。
ここで活躍したのがサイラスだった。
地球式のやり方を取り入れることで、お互いの交流を簡単にすることが出来る上、管理も楽にすることが出来る。
お金に関しては、お互いに硬貨を持ってきていたのでだいたい検分してみた所、そこまで成分に違いが有るわけでは無かったが……片方では使われていて、片方では使われていないというものもあったりとちょっとした違いがあった。
その為、ギルドなどで使われている方法で一度数値化した残高を、それぞれの国で換金する方法を取る。
もしくはそのまま数値のみでの遣り取りをする。
また、試験的にギルドと銀行を分ける。
国が管理するようにして、両替する際のシステム変更などを容易にするという意味合いもあるが。
これはその内に国の方でも取り入れていき、貨幣自体を別なものにする事になるだろう。
そのうち紙幣も使われるようになるはずだ。
どちらの世界でも共通の通貨が出来れば、もっと便利になる。
「パスポートはいい考えだね。魔術式を入れれば追跡もできるし」
「ええ。不法入国なども取り締まることが出来るでしょう」
これは国民が持つカードを少し改良するだけでもいいはずだ。
死亡確認も出来る様になるし、逃亡するなどした時にその情報を送ることで相手の国で速やかに見つけることも出来る。
差し当たっては刑法をどちらで適用するかなどがあるだろうが、それはまた後ほどというわけだ。
こうして夕方まで続いた話し合いは、終始和やかな雰囲気で終了した。
「有意義な時間であった。ここまで色々と考えているとは、これから経験を積んでいけば更にいい王となれるだろう」
「ありがとう。次はエルヴィン、あなたがボクの所に来ると良いよ、子供たちも連れてね。歓迎するよ?」
「リリアン、お前こそその年ですでに子供が居ることには驚いたぞ。まったく、魔物というものは我々とは全く違うということがよく分かる……。さて、仕事は終わりだ。城へ案内しよう、そろそろ準備が出来ているはずだ」
「ああ、良いね。そろそろお腹も空いてきた所だよ」
「明日は王都を案内する。テンペストやサイラスの街を見たいであろう?コリーの娼館街もな」
「魅力的だね。特に最後の」
「流石インキュバスなだけはある。そっちは今日の夜からでも良いぞ」
「行くいく。ボクのとこに来た時も最高のサービスしてあげるからね!」
見た目に合わない会話だが、インキュバスはそういう魔物だ。
生まれた瞬間からその機能は備わっているし、魔物であるために人と同じ尺度では測れない。
まあ、喜んでくれているのであればそれでいいのだ。
□□□□□□
後は全て城の方に任せてテンペスト達はそれぞれ帰っていったわけだが……その夜、屋敷にコリーが現れた。
「どうしましたか?」
「いや……今日物凄い重要人物が来るから最高級の娼婦と警備の厳重な部屋を用意しろと言われてな、そのとおりにしたんだが……。あれ、向こうの王様とか言ってたやつじゃねぇか!」
「ええ、今日は国王がそのように取り計らうと言っていましたので」
「まさかそのレベルが来るとは思ってなかったってのもあるけどよ……」
「何か問題でもありましたか?」
「いや、むしろ良いことしかねぇんだが。金払いは物凄く良いし、扱いもかなり丁寧ってことで人気だしアレもでかくて気持ちいいって評……いやそんなことは良い」
別に、問題起こしてないだけじゃなくて普通にお金落としていってくれているのならば問題ないのでは、と思ったテンペストだが……コリーの方はちょっと深刻そうな顔をしている。
まあ美少年で偉くて優しくてとなれば、普段荒くれ者やら世間知らずで女の扱いも知らないお坊ちゃんなんかを相手している娼婦からすれば、相当いい客に見えるだろう。
それを逆手に取って連れて行こうとしているとか……?
「あ、いや、そういうんじゃねぇんだ。ちらっと言ってたんだがこっちに娼館を建てたいとかなんとか」
「ええ。聞いています」
リリアンの使っている方法で画期的なのは、性欲を利用してその精で魔力を生み出すという点だ。
ゲートに必要な魔力などをそこから賄う。
その他にも色々と魔力への還元方法が有るらしいが、一番効率が良くて沢山確保できるということだった。
恐らく承認されるだろう。
「承認されるでしょうってお前……話聞いていたらあっちの娼館物凄いぞ?」
「知っています。こちらでは就業できない人でも出来るだけでなく、身体へのダメージなどを心配せずにかなりの給料と退職後の職業の斡旋など、従業員に対してのケアがしっかりしています。その上で娼婦を大事にできないような客は全て排除するなど、徹底した管理もされているようです」
「……なんで知ってんだ」
「もちろん、実際に入って色々と教えてもらいましたから。これは参考になると思いましたが、かなりの資金が必要となりそうそう簡単にできるようなものでも有りません。彼だからこそ実行可能なものです」
別に娼館じゃなく普通の職の方に行きたいならば、そっちの道もあるし、技術を磨きたいなら学校にも入れてくれる。
子供たちを集めて未来の担い手として育て上げ、食いっぱぐれが無いようにという支援を国を挙げてしてくれているのだ。貴族達もそれに習って支援をしたりと一般人との垣根は低い。
理想を実現した国として、とても興味深い。
「そう、なんだが……そうなると俺の商売に支障が出ちまう!」
「どうせ片手間じゃないですか。それに、別にそこまで悪いことでもありません。新しい街づくりのノウハウを手に入れることが出来るわけですし、コリーの娼館はこちらで展開する娼館と統合して、コリーが経営するという形を取ろうと考えていますから」
「は?」
話し合いの中で、リリアンは土地が欲しいと言っていた。
ゲートを設置するため、そのゲートとお互いの国での秩序を守るために一つの街を作る計画だ。
つまり街自体がオルズテア王国となり、そこではオルズテア王国の法が適用されるなど完全に別の国として機能する。
そこでそれぞれの国が審査して自分たちの国へ入ってもいいかどうかなどを決めるということだ。
ただ完全に国として認めるというわけじゃなくてあくまでも1クッション置くような感じだ。
そこでそれぞれの街に、自分たちの国民も入れてそこで仕事をさせたりなどすることで、相互理解やトラブルの防止に役立てようとして居る。
その娼館などを管理するということで、テンペストはコリーを推すつもりだった。
「え、いあ……まあ……そんなら、良いのか……?」
「土地としてはコリーの街の隣の山を削って作るつもりです。娼館街は引っ越しとなりますが制度などを一新した形で取り入れられるのではないかと思いますが」
「俺の立場としてはどうなるんだ?」
「自分の領地を持っている今の立場は変わりません。そこに追加でオルズテア王国の橋渡しとなる仕事が増えるくらいです」
自分たちの国に造られた街にはパスポート無しで入れる。
出稼ぎに入るというのも自由だが、ある程度審査は入るのは仕方ない。
それだけにお互いの国の風習などを巡って対立も起きるだろう。
その緩衝役として選ばれた人達が最初から街で働いたり、管理者として入って間を取り持ったりする。
まあ、確認した限りではそこまで争いになりそうな違いは無いようだが……宗教などが絡んでくるととたんに面倒なものだったりするので油断ならない。
「まあ……それなら、良いか……?」
「向こうの人と結婚というのもし易い立場となりますよ?」
「マジか。……良いな……」
「加えて、向こうの国では基本的に美男美女が多いです。獣人なども含めて整った人達が貴族、市民問わず多いですからコリーにはデメリットは少ないのでは?」
「ふむ……よし、そういうことなら問題ねぇ。進めてくれ」
内心ちょろいと思いつつも、顔には一切出さないテンペストだった。
最近周りが結婚しだして焦っているというのも本当らしい。
ついにテンペストも正式な結婚が決まったということもあり、ニールに先を越されてしまうというのが悔しいみたいだ。
本来なら数年の猶予があったからとのんびりしていたのも悪い。
しかもこっちでは有名になってしまった事もあって、色々な女性たちに言い寄られては辟易しているという。
カネ目当てなのが見え見えで嫌になると言っていたが、それを更に後押ししてしまった感じだ。
それもあって自分のことをあまり知らない向こうの世界に望みをかけている。
まあ、色々と教育されている子を娼館の方から見繕ってやっても良いかなとテンペストは思っているわけだが。
先程まで焦っていたのが嘘のように上機嫌となっている。
今言ったことは嘘ではないし、事実そうなるだろうがもう少し時間は掛かるだろう。
「ああ、そうだ。テンペスト、マギア・ワイバーンの改修はどうするんだ?」
「親方さん達が今設計図書いてます。胴体周りが大きく構造変更されるわけですが、第3魔導エンジンが無くなる程度ですね。リリアンから貰った魔晶石によって掛かるGを軽減することが出来るようになりましたし、操縦は楽になります」
「マジか。すげぇな……んでもお前また向こうに行くのか?」
「一応しばらくはこちらにいます。処理することもありますので……ですがまた向こうに渡って調整することになるでしょう」
それまでは自分の領地の色々なことをなんとかしなければならないのだ。
大半はヴォルフがきっちりとやってくれているので問題ないが、テンペストの処理が必要なものまでは無理だ。
今も恐らくニールが頑張っているところだろう。
□□□□□□
「テンペスト、交代……もう無理……」
「お疲れ様ですニール。部屋で休んでいてください、残りは私が終わらせておきます」
「ありがとう……休み分の報告書は読み終わったし、残ってるのも少ないけどね。僕達が戻ってきたと思ってる人達から物凄い量の手紙来てるよ」
「忙しいから控えてほしいのですが……まあ仕方ありませんね」
テンペストが未帰還という知らせはすぐにハイランド中に広まった。
その時がチャンスとばかりにカストラへ忍び込もうとする輩が後を絶たず、捕らえた人たちでそろそろ収容所がいっぱいになってしまう。
取り調べが済んだ順にしかるべき沙汰を出していたわけだ。
大体が非協力的なところの密偵だったり、それに雇われた奴らと言うことで色々と証拠を押さえていつでも反撃できるだけの材料が溜まっている。
そんな人達からの手紙で、不正は無かったとばかりにしれっとお祝いの言葉と、年頃の息子を紹介とか良く分からないオッサンを紹介したりと下心しか無い文章が並んでいるのだ。
見ていてイライラしたので不正の証拠やらなにやらと一緒に手紙を纏め、適当なタイミングで糾弾してやろうと決めたニールだった。
そもそも結婚が決まったニールを無視してこのようなことをされてはニールの立場がない。
元々が平民上がりだったから風当たりが強いのは知っているけども、ここまで居ない人扱いされると温厚なニールであっても許せる気がしないというわけだ。
「それは流石に私も許せません。それなりの対処をしておきましょう。私の夫はニールだけで十分です。ニールがもう一人ほしいというのであれば私は反対しませんが」
「いや僕もテンペストだけで良いから。最高のパートナーが居るのになんで他の人が必要なのさ」
「私だけでは性欲を持て余すのでは?」
「アレはテンペストに薬盛られたからだからね!?」
初夜の時には大興奮したニールが大分頑張ったわけだが、途中の休憩で飲まされた物に例の精力剤を混ぜ込まれて収まりがつかなくなってしまったのだ。
あれは断じて自分のせいではない。薬のせいだ。
むしろあれだけして、初めてだったのにもかかわらず全く変わらずにいるテンペストのほうが持て余しているのではないかとさえ思う。
でも、愛しい人に求められて嫌な訳がない。
むしろ今日とかどうなんだろうとか、要らないことを考えてしまうくらいには期待していたりする。
「そういえばニール、帰り際にリリアンから頂いてきた袋です。色々役に立つものを入れてあるから、ということでしたが確認しておいてください。袋自体もかなりの高級品のようです」
「そうなの?……ただの革袋にしか見えない……っていうか何も入ってなさそうだけど」
そしてニールと交代でテンペストは執務室へと入っていった。
自室に戻ったニールは、早速革袋を開く。
……が、中には何も入っていない。
いや、入っていないというよりも中が全く見えなかった。
光を当てても暗く真っ黒にしか見えないのだが……この感じは見覚えがある物だ。
「もしかして……これって!」
前に商人から貰った不思議な箱、大量の荷物が入るその箱に似ている。
恐る恐る手を突っ込んでみれば、中に何が入っているのかが分かった。
「って、役に立つって夜のお供じゃないか!!」
出てくるのは大量のエログッズ。
全部あの部屋で見た覚えがあるものばかりだった。
その中に「ニールへ」と書いた物が入っており、それらは男性用の物となっているらしい。
ご丁寧に使い方の説明書付きだ。
「うわ……コレの中に突っ込むの?……うわぁ……動いてる……どうなってるのこれ?こっちは……えぇ!?お尻に!?」
ちょっと試してみたくなったが……自重した。
多分、凄いんだと思う。
止められなくなりそうでちょっと怖い。
なにせ作っているのがあのリリアンだ。インキュバスと言っても僕の知っているようなものじゃなくて、男からの精を貰わないとダメとか言う良く分からない生態なだけあって、喜ばせ方は良く知っているわけだから……試していないわけがない。
本物以上に本物らしいとかいう良く分からないキャッチコピーまでついているし。
お手入れは定期的に少し濡らすだけ、掃除は不要、使えなくなってきたら僅かな追加料金で中身を交換してくれる……と、かなりサービスもいい。
「えっと……これは……塗り薬か」
この薬は塗り込むことで、塗り込んだ場所の痛みを軽減し、性感を高める効果があります。
布が擦れるだけでも感じてしまう新しい感覚をあなたに!
「……」
我慢できずに試してしまった結果、そのまま寝ようとしたらシーツが擦れたりしただけでもおかしくなりそうなほどになってしまって、結局一睡もできないまま効果が切れるのを待つ羽目になったのだった。
□□□□□□
数日後。
「やあ。寄らせてもらってるよ」
「!?」
なんか、リリアンが来てた。
全くアポとかもない。本当に突然に。
しかも使用人達も気づいてなかった。
「えっ、あのっ」
「ああ、うん。ちょっとお城抜け出してきた。ニールと話をしたくてね」
「抜け出してきた」
「転移して、窓から中見えたからそこにまた転移して?」
「転移して」
「そう」
転移の悪用例をしれっと使ってるよこの人。
まあ別にいいけど……心臓に悪いから止めて欲しい。
「テンペストに渡した袋の中身、使ってみた?」
「普通いきなりそれ聞くかな!?」
あのドエログッズを寄越しておいて、使ってみたか?なんて普通聞くやつなんて居ない!
めちゃくちゃプライベートじゃないか!
「いや、あれ新製品だしまだ流通させてないのも有るんだ。今までのよりちょっと性能上がってたりしてるんだけどね。それで感想聞いてから帰りたいなぁとか」
「商売熱心ですね……」
「そりゃね。ボクとしては皆に気持ちよくなって欲しいわけだから……。大事な行為だからそれが嫌になっちゃったらダメでしょ?」
「う……確かに……」
あの時僕もそうならないようにと気を使っていた。
まあ、効果のおかげで気にするまでもなくテンペストは気に入ってくれていたんだけど。
しているときのテンペストは本当に可愛かったなぁ……。
昨日も……。
「まあ、うん。良かったよ。テンペストも結構気に入ってるみたい」
「それは良かった。君たちのような可愛いカップルはボク好きだからね、沢山気持ちよくなってね。後あのスライムホールの新型、まだ試してないでしょ?どんどん使ってよ。そうするとボクも助かる仕組みだからさ!」
「え、どういう事?」
「あれで集められたやつはボクのところに来てそのまま魔力になるの。あの時の戦闘とかで結構無くなってしまったからね、しばらく竜化も出来ないよ……」
ちょっと抵抗があるけど……!
でもアシュメダイを倒してくれたのも事実だし、あの時に失った魔力を取り戻すって言うならまぁ……たまにはいいかな?
今直接飲ませてくれてもいいけど……なんて言われたけど流石にそれは断固拒否させてもらう。
「残念。まあまたここに寄らせてもらうと思うから、その時はよろしくね」
「え、良いですけど。先に連絡くらい下さい……誰かと思って本当にびっくりしたんですから」
「ああ、そうだね。連絡するよ。それじゃあそろそろ戻らないと向こうで大騒ぎするかもしれないから帰るよ。じゃあね」
そう言ってまた一瞬で消えてしまった。
なんだったんだ、と頭を抱えたくなる……。聞かれるがままに結構色々喋ってしまった。
というかそもそも転移で直接乗り込んでくるなんて……。
まあ危険性を自ら示してくれたと思っておこう。
っていうか……あの人は、今からでも自分の世界に戻れるのでは?
□□□□□□
「では、そろそろ失礼するよ」
「うむ、また会おう。全員が集まる場所は、そちらに任せる事になるだろうが……」
「大丈夫だよ。いつも使ってる所があるからね。見晴らしもいいし限られた人しか入れないようになっているから安全だ。ああそうだ、ヴァルトルって料理人も連れてきてよ。あの人の料理ボクも気に入ったから」
「しかし……彼は一般人となっているが……」
「適当に誤魔化してよ……素材は良いの用意するから」
「まあ……良かろう。テンペストにも知らせておかねばな」
「じゃあ、また」
王城の庭でリリアンが消えた。
大体予想はしていたが、やはり転移して帰った様だ。
まあ、実害はないだろう。
本人には全くこちらを害する意思はないどころか、お互いに手を取り合う事を選択しているのだ。
いちいち迎えに行かなくて良くなるのも楽なのだが。
そしてオルズテア王国、アヴァロンの城では。
リリアンが帰還し、待っていた者達が皆安堵の声を漏らしていた。
「魔力封じまで付けられたと聞いて、少々肝を冷やしたのじゃ」
「別に向こうにはこっちをどうこうするつもりはないっての分かってたから付けたんだけどね。ま、そういうわけでただいまフレイア」
リリアンよりも更に幼く見えるフレイア。リリアンの妻であり、旧オルズテア王国の王女でこの地で魔王によって囚われていた者。
神竜を祖とする血脈で竜人だ。
褐色の肌に赤く描かれた文様は呪いと、それを解除するために掘り込まれた開放の文様。
すでに人の一生以上に長く生きている彼女は助け出された後、リリアンと結婚してすでに子を産んでいたりする。
「で、どうじゃった?」
「大体こっちの要求は受け入れられそう。向こうからの要求も無茶なことは何もないし問題ないよ。何よりも向こうにはボクの同郷が2人も居るんだ。色々とこっちも学ぶことは多くなるんじゃないかな?一人は学者みたいだしね、博士って呼ばれてたし」
学者であれば、自分よりももっと色々なことを知っているし難しいことでも解決できるだろう。
中途半端な知識よりはずっとマシなはずだ。
テンペストやサイラスは自分よりも未来の人間、それであれば自分の知っている知識がすでに時代遅れのものとなっている可能性なんて普通にある。
「他の国王達にはリリアンが纏めておいた物をすでに送っておる。それに自分たちの要望や取引材料を加味して持ち込むじゃろう。それに、最後まで意地を張っていた奴じゃが、最終的に妾達の下につくと明言した。このミール大陸は実質リリアンの物と言っても大げさではないのじゃ」
「正直そんな広くは要らないけど。いい人たちに出会えてよかったよ」
色んな意味で楽しませてもらった。
多分ハイランド国王はこちらに単身で来るだろうし、色々と歓待したい。
「その前に、またテンペストとニール達呼ぼうかな。まだ案内しきれてないからね」
「ならば皆であの湖に行って水浴びでもするかの?」
「それも良いね。とても落ち着く所だし」
大勢の参加する会議はちょっと先延ばしになったけど、それもこれも邪竜の後始末のせいでも有るのだ。
その辺は部下たちに任せて、今はこの平和な世界を楽しもうと思うリリアンだった。
ちょっと難産で遅れましたすみません