第百八十二話 掌の上のニール
端的に言えば……素晴らしかった。
いろんなものがどんどん見えていくんだ。
めちゃくちゃエロくて、踊りも素晴らしくて……。
その後、流れでそのままスッキリさせてもらってしまった。
今は備え付けの浴場で身体を流しているところだ。
……テンペストになんて言い訳したら良いんだ……。いや、別にしても良いっていうのはすでに許しを得ているわけだけど。
でも……気持ちよかった……。
「あれ?ニール様まだ足りなかった?」
「い、いや!もういい!もういいから!!」
「恥ずかしがらなくてもいいのに!ニール様のは自慢していいですよ?」
嬉しいけど、あまり言わないで……。
今ただでさえテンペストに対する罪悪感でいっぱいなのに。
それにしてもこの子、話をしていて分かったけど踊り子でもあるけど娼婦でもあった。
リリアンに拾われて働いてるらしい。
ちなみに、本番をしたとしても妊娠や病気、怪我の心配はないという。
この部屋に施された魔法が受精を妨げ、怪我を回復する。
ある程度の病気なども防いでくれるとか、もうこれだけでも欲しい技術だ。
居るだけで怪我が治るんだから、病院が要らなくなりそう。
と思ったらやっぱりひどい場合は無理っぽい。まあそこまでうまい話はないか。
色んな意味でスッキリして部屋に戻る。
全身手洗いしてもらってしまった……。
ノルンが今度は果実ジュースを持ってきてくれたのでそれを飲みながら世間話をしていた。
聞き上手なんだろう、色々と僕の方から喋っていた気がするな。
結構密着されて居たんだけども、普通の娼婦と考えればそこまで緊張もしなかった。
でも隙あらば搾り取ろうとするのは止めていただきたい!
「……それで、君たちは別にこの仕事が嫌ってわけじゃないんだ?」
「むしろ天職だよ!それに無理やりやらされたりしてる子は一人も居ないんだからね?普通の職業が良いって子はそっちの方を教えてもらいながら暮らしていけるし、ちゃんとお給料も出るの。まあ、そっちの子達は自立してくると自分の家とかを持って外から通う子も多いかな?」
僕達が目指しているのに近い。
教育をして将来に向けて選ばせて、それぞれの道に分かれていく。
やっぱり、地球から来た人が主導しているからだろうか……考え方は結構似ていた。
ただ規模が違う。
こっちは国家規模。僕達はまだ街一つだ。
政策として孤児を無くして、皆が手に職を持てるように。
しかも娼婦とかの底辺と言われていた仕事の人が、逆に見直されている。
この国ではとっても大事にされているし、かなり厳しい規制とかがあるらしい。
それは病気の予防だったり怪我の予防、違法な商売の根絶、そして何よりも性犯罪の抑制に繋がっているみたいだ。
多分、そこはインキュバスがトップに居るからってこともあるんだろうな。
王様が元男娼とか聞いたこと無いし。
とかなんとかやっていたらまたノックが聞こえる。
もう驚かないぞ。
「戻りました」
「あ、テンペストもう終わった?」
「ええ、とても有意義な時間でした」
「ではテンペスト様!」
ノルンがテンペストに何やら耳打ちしている。
それを聞いて頷くと、ノルンとオリバーを帰してしまった。
「あっ、ちょっ……僕達またこっから出れなくなっちゃったよ!?」
「構いません。これは私が望んだことですので」
「そうなの?」
じゃあ、別にリリアンの命令で僕達を閉じ込めようとしてたとか、そういう話じゃないんだ?
ならこれは全部テンペストに仕組まれていたということか……。
でも、なんで?
あ、さっきサプライズがあるとか言ってたっけ。
「それにしても、幸いでした。この様な素晴らしい部屋があるとは思いませんでした」
「出入り口がないって事以外は良いね。外の眺めも凄く良い。夜の海は揺れなきゃ好きだなぁ」
「眺めは想像以上です。こうして好きな人と、落ち着いて見ていられると言うのは素晴らしいことです」
「うん……。僕も嬉しいよ」
「でも、扉が有るとニールは逃げてしまいますから」
「うん?」
なんて?
僕が逃げないように扉がない部屋を選んだ?
なんでそんなことを……と言おうとして振り向いた。
「なっ……テンペスト!?」
そこには、下着姿のテンペストが居た。
その残った下着すらも全て脱いで裸体を晒す。
見慣れた姿では有る。自分が服を脱がし、身体を洗ってやったりしたのだ。なんど見たかも覚えてないくらいには見慣れている。
でも……あの時はまるで死体のような姿だった。
今は違う。
生きている。
心臓が血を送り出し、白い肌に朱を添えている。
動いている。
テンペストの柔らかい肌が、ニールに触れる。
「テンペスト……何を……」
目で逃げ道を探すが、ここには出口がないことを思い出す。
逃げられない……!
「先程、私は身体を調べてもらいました。予想通りリヴェリの身体とあまり変わらない状態となり、成体となった様です」
「もうなってたの?!」
「はい。時間がかかると思っていたのですが、リリアンの魔晶石とこの場に掛けられた回復の魔法が私の力の回復にも多大に寄与したと思われます。身体の改変に伴う変化が即時回復していると言った感じでしょうか……。おかげでこの身体は性交可能年齢にあります」
ということは……僕はここでテンペストと……?
「私はこの時をずっと待っていました。身体を調べてもらう時に、男性の喜ばせ方などの詳しい方法なども教えてもらいました」
「何教えてくれちゃってるの!?」
「ノルンはあなたの気持ちいいところを教えてもらうために付けました。種族的に近いアンファンですし、彼女はとても魅力的だったと思いますがどうでしたか?」
「ノルンまで……!」
まさかあの時耳打ちしたのは……!
それで何回も気持ちいいですか?とか聞いてきていたのか!?
もう、完全に逃げ道は封じられた。物理的にも、言い訳的にも。
テンペストが満足しない限り……僕はこの部屋から出られない……?
いや、僕だってこの時が待ち遠しかったし、正直嬉しいんだ。
でもだからといってこう、盛りが付いた犬みたいにがっついたらドン引きされそうだし、大きさ的にも凄く心配だったりして僕なりに物凄く我慢していたんだけども!
いいの?ほんとに?
「ニール、あなたが私のことを大事にしてくれているのは、とても良く分かっています。しかし、その代わり負担を強いていることも分かっています。もう我慢する必要は無くなったのです、お互いに」
「本当に大丈夫……なの?」
「説明では、娼館では痛みを軽減して快楽を与える様に設定されているそうです。各国の重鎮達が使うこの部屋は高級娼館の中にあり、当然ながらここではそういったことが行われるわけです」
セーフルームの代わりになる休む部屋だと思ってたのに!
ここそもそも娼館だったのか!
もう転移で移動されるから自分がどの位置にいるのかとか、全くわからないのが困る。
まあ、それは良いか。
テンペストはずっと生物の生殖行為とかそういうのにやたらと興味を持っていたのは確かだ。
それでどれだけ僕が振り回されていたとことか。
そして鋼の意志で頑張っていたことか!
それが年齢や身体のせいで出来ないと知ってからは、僕の身体を観察したりすることで気を紛らわしていたようだけど……。
精霊化したことでテンペストは自分の身体すらも作り変えてしまった。
もっと先の話だと思っていたのに、すでに完成してしまっているなんて……。
一枚、また一枚と僕の服が脱がされていく。
「……ニール、これは私に対して、と言うことで良いのでしょうか?」
「当たり前じゃないか!僕だって……僕だってテンペストの事抱きたかったんだし……」
「良かったです。ニール……ベッドへ連れて行ってください」
首に腕を絡めてお願いしてくる。
……これも教えられたのかな……よくわからないけど。
でも、子供が出来たらとか……そういうことを考えてしまうのは僕の覚悟が足りないせいだろうか。
すでに身体は準備が出来てしまっているけど、僕はもう少しテンペストと二人の時間を過ごしたい。
「……心配ありません、ここでなら……子供が出来る心配はありませんよ?」
「……!」
なんでこう、テンペストは僕の考えていることが分かっちゃうのか。
全ての不安要素が排除され、残された道は一つしか無い。
覚悟を決めよう。
テンペストの初めての記憶を、楽しかったということで埋めてあげよう。
□□□□□□
僕達は結局次の日の昼くらいになって、やっとであの部屋から出てきた。
テンペストも痛みを感じない代わりに感度が上がって大満足だったらしく、何度もせがまれてしまった。
でもあの部屋、何気に分かりにくいけど壁と一体化したような棚とかが隠れてて、その裏には沢山いろんなものが置いてあったのだ。
テンペストはその中身なども全部知ってたみたいで、それを使ったら途中から僕も色々と暴走してしまった感じが否めない。
……あれは……素晴らしかった。
「あ、あの、テンペスト……」
「ニール」
部屋を出てテンペストに話しかけると同時に、テンペストも話しかけてきた。
別に何か話がしたいとかじゃなくて、無言で居るのが嫌だったからだしテンペストに譲る。
「ニール、初めてがあなたでよかったです」
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
「生物というのはこのようにして増えていくのですね。以前の私からでは想像もつきませんでした。肉体を得て、感情を理解し始めた時……最初はなぜこのようなものが必要なのか理解できませんでした。愛や幸せなどの目に見えない、実在しない何かを表現するそれを理解するまでには時間がかかりましたが……今ははっきりと言えます。とても、幸せです、ニール」
そっと手を握ってくる。
今までの色々な経験を経て、テンペストは本当に成長した。
肉体的にも、精神的にも。
生物ですら無かったテンペストが、僕達のような人の感情を理解する事は難しかっただろう。
でも……今僕の前に居る彼女は完全な人間だ。
「繋がっている時、とても満たされた気分でした。ニールが好きなのも分かります」
「いや……好きっていうか……うん、まあ……」
「男性であればまた少し違った感じ方なのでしょうか?少し興味がありますが」
「頼むからテンペストはそのままでいて!?」
やめて!本気で男にもなれるっぽいしシャレにならないから!
探究心が有るのは良いけど、気になると調べつくそうとするしなぁ……。危険がないとなれば普通にやろうとするからね。
今回のこれだって、完全に退路を絶たれた上でだったし。
何あの用意周到な罠……。
まさかこれのためだけに閉じ込められるとまでは思ってなかったよ、本当に。
「あ、居た居た」
「リリアン……様」
「いいよリリアンで。君達とボクは友達、ね?」
「いや、普通友達でもわきまえろとか言われると思いますけど」
「堅いなあ……ああ、それよりもテンペスト、これ」
「……なにそれ?」
何か装置のようなものを一式貰っている。
魔道具かな?
「これは録画したものを再生する装置だね。こっちはその保存用の道具で、これがオクロっていう録画装置」
「へえ……僕達のとこにも似たようなのが有るけど」
「こちらのほうが性能が上のようです。魔力によって記録して行くのは同じですが、こちらはこの様に保存用の道具を使ってこれを売り出しているようですね」
僕達の方では、テンペストの倉庫にある記録装置に一括でデータを格納している。
その代わりにどこでも見れるんだけど、こっちではそのデータを複製したり、更には改変出来ないようにして売り出しているようだ。
……ってことはこの装置自体買う人が居るってことか……。
このやり方は地球では一般的で、それこそ一般人が誰でも同じようなことをしていたのだとか。
魔法もないのによくそこまで色々なことが出来るものだと感心してしまう。
「って事はそれにも何か記録されてるの?」
「ええ、昨日の私達の様子が全て」
「待って。昨日のってまさか……」
「はい。客観的に生殖行為を記録できる機会なんてなかなかありませんから……それにこちらの方はリリアン達が売り出しているもので……ニール?」
「あー、うん。話してなかったんだね……可哀想に……。許可取ってたかと思ってたよ。まあ、これボク以外見てないから安心してね」
見られた……一番見られたくない所を見られた……。
しかも記録されている……?僕が何か悪いことしたの?
「大丈夫です、私の研究のためにしか使いませんので」
「ぜっっっっったいに流出させないでくださいお願いします!!」
「……大変だね、君も……」
「うう……」
いいんだ、もう……テンペストはこういう子なんだ。
見たのがリリアンだけならもう、それでいいんだ。
二人っきりの時間だとばかり思っていたのに……。
「テンペスト、こういうことはパートナーの許可を得てからやること。本来こういった行為をしているところは見られたくない人が普通なんだ」
「そうでしたか……。こういうものがある、と聞いた時にいい方法だと思ったのですが」
「そりゃ、これに出演してる子達とかは皆プロだからね。ちゃんと対価を払ってるし許可も得てるよ。ボクなんかは淫魔の血のせいだろうけど……人前で裸になったりするの全然気にならないんだけど、普通は恥ずかしいんだ。そこをきちんと分かってあげなきゃ駄目だよ」
「分かりました。気をつけます」
リリアンが僕が言いたいことを代弁してくれた。
本当にそろそろ羞恥心って言うの理解して欲しい。
研究目的みたいな理由付けが有ると、わずかに芽生え始めた恥じらいと言うものが完全に消えてしまうのが悪い癖だ。
まあ、流石にこれは僕も予想していなかったから注意のしようもなかったっていうのも確かだけども。
他の人の前でっていう事は言ったけど……記録用の魔道具っていう言葉も付け加えないとダメだな。
「後、ニール」
「なんですか?」
「お相子ってわけじゃないけど、テンペストに渡した僕の娼館の子の映像、相手ボクだから」
「は?」
まって、それ流通してるんだよね?
王様出演とかそれ良いの?
逆にそれ僕がこれで凹んでるのがアホらしくなってくるレベルなんだけど。
「ん、元気になったっぽいかな?さあ、今日はボクが色々と案内してあげるつもりだからね。ヴァルトルとニーナも用意できて待っているから早めに来てね」
「分かりました。では、また後で」
結局、この件はとりあえずテンペストも納得してくれて、二人だけで記録する以外はダメということを約束させた。
見れるのも僕とテンペストだけ。
そしてオルズテア王国へ転移して、僕達はリリアンの案内で観光を楽しんだのだった。
□□□□□□
「それでは……リリアン、準備は良いですか?」
「いつでも良いよ。魔力を押さえる首輪に目隠し、本当に全然どこに居るのかわからないよこれ」
「今のあなたは一般人よりも若干魔力が使える程度に抑えられています。感知などが出来ない程度になっているためそう感じるようになっています。……本当ならばこんな囚人紛いの事をさせるのは気が引けるのですが」
「信じてもらうにはこれくらいしなきゃね。ボク一人でついていくって言ったのもその為だし……そっちの王様が会ってくれる条件なんでしょ?気にしないよ。なにせお互いに初めての異世界交流だよ?どうせなら上手く手を取り合って行きたいじゃない」
王都アヴァロン。その中心に聳える城の一角にテンペストのマギア・ワイバーンが駐機している。
滞在を初めて5日目に、ハイランド王国から連絡があった。
テンペストとニール、ヴァルトル、ニーナは今から元いた世界へと一度帰ることになるのだが……その際にリリアンも一緒に同行することになったのだ。
これは国王の方から、10人という大人数を受け入れる前に、まずお互いに会って話をしたいということからだったのだが……あの映像を見ていた警備担当がどうしてもと言うことで、ここまで厳重に弱体化させた上でのみ許可すると言い張ったためにこうなった。
不敬にも程がある訳だが、意外にもリリアンはこれを快諾。
臣下達は流石に怒りを隠さない者もいたが……上手くなだめてくれたらしい。
何よりも問題が起きた場合にはテンペストが責任を持って無事に連れ帰るということを約束した。
感知が出来ないようにするためにというのは、ゲートの位置を知られないため。
まだ正式に交流は始まっていないためにこればかりはどうしようもない。
マギア・ワイバーンの修理自体は完全に終わっていないが、融合していたレールガンポッドを切除して今は以前と同じように脱着式となった人員輸送ポッドが取り付けられている。
全員が乗り込んだのを見計らい、扉を閉めた。
『マギア・ワイバーン、離陸します。レビテーション開始』
ゆっくりと上昇していき、ランディングギアを格納。高度を上げ所定の位置に付く。
『こちらアヴァロン管制塔。進路クリア、よい旅を。陛下をよろしくお願いします』
『了解。マギア・ワイバーン、加速を開始する』
レビテーションで市街地を抜け、周囲に家がなくなったところで魔導エンジンに火が入る。
凄まじい加速がかかりシートへと押し付けられていく。
「おお……良い加速……」
「結構平気そうですね?」
「まあね。ボク自身も飛べるし、この機体は殺人的な加速も可能なのにちゃんとボク達に配慮してるから平気だよ。……惜しむらくは外の景色を見れないことかな……」
「それは……すみません……」
「いいさ、この同盟が成功すればいつでも見れるようになるんだしね」
礼服を着て首輪を嵌めたリリアン。
本来、この首輪は囚人に付けるものだ。魔法を封じ、反抗できないようにするための物。
武器などは一切身につけず、この礼服だって特になんの効果もない物だ。
それでも……いつも見ていたラフな感じのリリアンからすると、若いけど優秀な王様のように見える。
事実そうなのだけど、雰囲気がまるで違っているのだ。
今は目隠しは外しているが、その代わり外が見えないように室内は明るく照らされているのみ。
窓も完全に閉じられて陽の光は全く入ってきていない。
「加速が終わったみたいだね。安定飛行に入った」
『然程時間はかかりません。……恐らく大体の場所の検討はついていると思われますが……言い訳としてこの様な方法を取らざるをえないことをお詫びします』
「まぁねぇ。あの炭焼き小屋に来てたってことは、巨人の森の何処かって所までは想像付くからね。やろうと思えばティアがノールに調べさせればすぐに分かる」
「え、じゃあこんなの意味ないんじゃ?」
『ええ。有りません』
ポッド内部の明かりが消え、代わりに全面が外の景色を映し出す。
あくまでもポッドの全周なので上を見ればマギア・ワイバーンの腹が見えていた。
外は……ニールが見たことのない景色だった。
「えっ……なに、これ……」
後ろでヴァルトルとニーナも外の景色を見て固まっている。
当然だ。僕達はまだ見たことがない景色だったから。
雲が遥か下にある……というレベルじゃない。
周りは黒い空が広がり、下には蒼い膜の張った恐ろしく大きな球体が見える。
さっきまで青空が広がっていたのに……今はまるで夜だ。
しかし、下に広がる球体はとても明るく輝いている。
「これがボク達の住む惑星、カエルレウス。ニール、ボク達は今……いつも立っている大地を離れて遠く離れた世界を見ているんだよ」
「テンペストとか博士から聞いてはいたけど……。本当にまるいんだ……凄い。青くて……とても綺麗だ……」
「この、これが私達が居た所を、遥か高みから見た景色だというのですかな?」
『その通りです、ヴァルトル。現在地表から3万mを飛行中です。……やはりリリアンは知っていましたね』
「義務教育レベルだしね……。リンドブルムで同じことしたよ。あれ、木で出来てるくせに隙間全く無いから真空にさらされても平気なんだよ」
巨人の森で採れるあの巨大な木。
あれは木であるのは確かだけども、大量の魔力を抱え込み、更に火に強く鉄などよりも固いという。
それを贅沢に使ったリンドブルムは、木造であるにも関わらず下手な金属製のものよりも遥かに強靭であるらしい。
規格外すぎて訳がわからない。
それよりも、眼下に広がるこの景色は僕の想像を遥かに超えていた。
博士たちからの授業で頭に叩き込んだ知識。
でも……それをこうして自分の目で見るまでは何処かで信じきれていなかった。
まさかこんなにも美しいものだったなんて。
僕達が感動してそれを見ていると、徐々に高度を下げてまた景色は消されてしまった。
そろそろ到着するのだ。
□□□□□□
「え、この穴?」
「はい。詳しい場所は表向き分からないということにしておいてください。今のところは」
「いいよ。じゃあ、行こうか」
風穴に続く穴へ到着し、僕達はついに元の世界へと帰ってきた。
また外に出てからマギア・ワイバーンへと乗り換え……。
カストラへと到着する。
「ヴァルトル、ニーナ、ありがとうね」
「いえ。むしろ私の出番が殆どありませんでしたな」
「そんなことはありません。ヴァルトルの料理を久しぶりに食べることが出来て嬉しかったです」
「ああ、ボクもあなたの料理を食べさせてもらったけど、本当に美味しかったよ」
「お褒めに預かり光栄です、陛下」
ヴァルトルは一度自分の店へと戻る。
ニーナは他の使用人達と合流して、早速土産話をせがまれているようだ。
そしてテンペストは……。
「おかえりなさいませテンペスト様!」
「絶対生きていると信じていました!」
久しぶりの再会で屋敷中の皆に囲まれていた。
喜びのあまり泣き出すものもいたりと混乱を極めたわけだけど……。一人冷静な家令のヴォルフのおかげでリリアンを屋敷のゲストルームへと案内することが出来た。
……一国の王様がいるんだけど、いいのかな……。
「なんか、スミマセン……」
「ずっと行方不明だったんだから当然だよ。それにしてもこの部屋、凄く落ち着く……」
「今、使用人を連れてきますので」
「ん、わかった。とりあえずボクはちょっと寝るよ」
そう言ってベッドへと歩いていくオルズテア王。
本当にめちゃくちゃ無防備なんだけど良いんだろうか。
まあ、良いか。
その後、派遣された使用人がリリアンの事を呼びに行き、素っ裸で眠っているリリアンを見て悲鳴を上げたという事件があったほかは至って平和だった。
尻に敷かれるというよりは、お互いに愛し合っているけど何処かとんでるテンペストに振り回される生活になりそう。




