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第百八十一話 戦闘記録2

 映し出されたのはリリアン専用機というフレズベルクの記録映像だ。

 次々と仲間たちの乗った機が離陸し、リリアンもそれに合わせて上がっていく。

 遠距離攻撃組はルシオとバルドルがティアがフレズベルクに。

 神竜エアが白い龍の姿で飛び立つ。


 ちらほらと空を撃ち漏らしの魔物が飛んでいるのを発見次第撃ち落とし、目標付近へと到達した。

 しかし、そこに見えているのは白い雪山だけだ。

 幾つか破壊の痕は見られるものの、あれだけ居たはずの黒い魔物たちが見当たらない。


『テンペスト、どこにも反応がないよ。もしかしてこれが結界?……凄いな、気配も熱も感知できない』

『その代わり大規模な紋章を描く必要があります。一部でも破壊されれば即座に効果を失うので問題ありません。おおよその中心の位置がわかれば良いのですが……現時点では不明です』

『やっぱりボク達が直接行くしか無いってことだね。フレズベルクはここで降りよう。オリバー達は前衛組のフレズベルクを移動。その後ルシオとテンペストの指示に従って』


 5人が空中で静止するフレズベルクから降りる。

 ハーティアは飛竜へと姿を変え、アスラを背に乗せる。

 ブラムが巨大な鳥へと姿を変え、サマイクルを乗せる。

 そしてリリアンも……黒い飛竜へと竜化した。


『これより結界内部に突入する。魔法陣を見つけ次第破壊、目につく魔物は全て消すよ。アスラとサマイクルは地上から、ボクとハーティアはブレスと魔法で広範囲を攻撃。ブラムは霧化して邪竜の居場所と例の爆弾の警戒を。……突入!』

『往くぞ獣王!振り落とされるなよ!』

『誰に物を言っておる!久しぶりに滾るぞ……!』


 ハーティアとアスラが一番乗りだ。

 あっという間に結界内部へと侵入し、姿が消える。


『……テンペスト、結界って正円?』

『ええ、魔法陣を中心に正円を描きます』

『なるほど。……じゃあ、ボクが何回かまっすぐに飛んで結界を出入りするから、中心を計算してくれる?出来るでしょ?』

『出来ます。……なるほど、あなたは頭が良いですね。では私は感知を使って観測します。どうぞ』


 ブラム達が消えた後、そうリリアンが提案した。

 確かに円の中心を求める為に、何点か円周場の点が分かればほぼ正確な位置が出る。

 その計算程度ならばテンペストに取って朝飯前だろう。


 リリアンの姿が結界内に消え、その地点をマークする。

 しばらく後に別な場所から出てきたリリアンを補足し、またその地点をマーク。

 これを最低3回行えば……。


『中心位置が判明しました。攻撃を開始します』

『結界の解除は任せたよ。じゃあボク達は邪竜を見つけて弱らせておくよ』

『了解しました。幸運を、リリアン』


 □□□□□□


「……凄い……」

「おかげで片を付けるのが早まりました。その代わり迎撃も多かったわけですが」


 結界を消されて丸裸となった邪竜の陣地。

 これによって探索が可能となり、即座に邪竜の位置を突き止めることが出来た。

 しかし向こうだってそのままやられるわけもなく……沢山の翼竜や飛竜を出して迎撃に来る。

 大量の黒いラインが飛び交う空。

 それを的確に避けながら確実に一匹ずつ仕留めていくルシオとバルドル。


 ティアはリリアン達を避けつつ大規模な魔法を放つ。山がまるごと凍りついたかのように表面に氷が這い、鋭いトゲが近くにいる魔物たちを串刺しにしていく。

 白い身体の神竜、エア。彼女は風を操り空を飛ぶ魔物たちを八つ裂きにしていく。


 その範囲と威力は……まるであの大精霊の力を使ったときと同じ位だ。

 そんな強大な力があの場に襲いかかっている。


 やがてその戦闘エリアを覆い隠すかのように厚い雲が突然あらわれ……激しい雷雨が打ち付け始める。


「これがリリアンの魔法だそうです。ここまで凄まじい物を操れるとは思っていなかったため少々驚きました」

「えっ……これが!?何この範囲と威力……!こんなの……こんなのと比べたら僕の広域魔法なんて……」

「発動までにちょっと時間掛かるから使い勝手はあまり良くないよ。僕がその中心に居なければならないっていうのもあるし。竜化しているせいかいつもよりも威力が大きくなってたのは嬉しい誤算だった。おかげで邪竜をあぶり出してやれたからね」


 その言葉通り、暗雲が消え失せるとそこにはもう魔物の死体しか残っていなかった。

 中心に立つ2つの影を除いて。


 邪竜……アスモデウスと、それを守るように立ちはだかるとてつもなく巨大な竜。

 地殻龍だ。


「まさか地殻龍も操られてるとは思ってなかったから流石に焦ったよ。エアの話によれば、地殻龍の特徴はとにかく守りが堅いこと。魔法も、物理攻撃もほぼ通さないその身体は無敵と言ってもいいくらいだ」

「試した所レールガンでの攻撃は弾かれました。現状あれを貫ける物は実体弾では難しいでしょう」

「えっ、そんなに!?」

「最後の最後に本当に厄介なのを出してきたよ……だからちょっと、無茶をするしか無かったんだ」


 □□□□□□


『地殻龍……。あの守りは硬すぎて抜けません』

『かと言って接近するにも……!地殻龍のブレスも広範囲攻撃だよ?!』

『それに、これ以上神竜を傷つけるわけにもいかぬであろう。地殻龍から奴を引き剥がす事だな』


 動揺するリリアンにブラムが答える。

 どのみち傷つけることが出来るかはかなり怪しいわけだけど……。

 それでも引き離しておかないと、最後のテンペストの攻撃の時にどうなるかわからない。


『……ボクがあいつを引き剥がすよ。皆は地殻龍の足止めを!……テンペスト、完全に君から意識を逸しておくから、合図したら攻撃を』

『了解しました』


 そこからはテンペストの視点となる。

 指示を受けて大きく距離を取り、邪竜の視界から消え去り……更に姿を消して空に潜伏する。


 遠すぎてズームしても分からない距離。

 微かに巨大な竜が戦っているのが見える。

 リリアンの竜化した姿はやはり強かった。終始圧倒し続け、徐々に地殻龍のそばから邪竜を離して行くことに成功していた。

 しかし……このまま行けるかと思って攻撃を仕掛けたリリアンに対し……地殻龍からの攻撃が当たってしまった。

 巨大な岩石のスパイクが、リリアンの脇腹を刳り胴体を引き裂く。


 皆の声にならない声が聴こえる。


 ただ一人、冷静にそれを見据えていれたのはテンペストだけだっただろう。

 竜化が解けてインキュバスの姿に戻ったリリアンは、何も身につけること無く無防備に空中に放り出された。

 そして……邪竜の巨大な顎が、ちぎれかけた半身を引き裂き……リリアンの上半身は食われたのだった。


『……テンペスト、今だ。こいつはボクを飲み込んで油断している。ボクごと……』

『……分かりました。実行します』

『……』


 返答はない。


 あの場で自分を苦しめた存在を喰らい、喜んでいる邪竜。

 自分が犠牲となってまで手に入れることが出来た油断。


 テンペストは全ての魔導エンジンをフルスロットルで吹かし、邪竜に向かって突っ込んでいく。

 姿を消したまま、音を置き去りにして、空気を切り裂き、自らが弾丸となったかのように。


 低空飛行に移り、ようやくテンペストの存在に気がついた邪竜だったが、すでに反応できる距離は過ぎた。

 瞬き一つすることも出来ないほんの僅かな一瞬で、テンペストは邪竜を結界の中へと閉じ込め、自身は魔力を失いそのまま山に向かって堕ちていった。


 □□□□□□


 ヴァルトルも、ニールも、誰も声を出せなかった。

 二人がここに居なければどちらも死んだと思っても不思議はないだろう。

 リリアンは食われ、テンペストは山肌に突っ込んで行った。

 傍から見たら絶望的だ。


 その後も結界は残り続け、黒い結界が周囲の地形を削りながら縮小していくと……そこにはもう、何も残っていない。


「外から見てたらボクはこうなってたんだね。完全に消滅したはずだったってわけか……」

「私はあの後暫くの間機能停止していたようです。ここからのことは全く知りませんでした」

「いや、もう、なんか色々とすごすぎて……邪竜は……アシュメダイは完全に消えたんだね」

「そうだね。テンペストが蒸発を通り越して消滅させたよ。この間にボクはボクの戦いをしていたんだ」


 いつか見た真っ暗な空間。

 そこに浮かぶ大小様々な球体。

 ここで、リリアンは自分が死んだことを悟り、自分の真横に大きな魂があるのを発見する。


「あっちも死んだことを自覚していたみたいだけどね、ボクと違って何も出来ないみたいだったよ。消え行く自分の球体を補完……というよりももうそれごと取り込むつもりであいつの魂を、食った。なんで出来るかなんてわからない。でも、淫魔では多分ボクにしか出来ない事だよ。ソウルイーターって呼んでる」

「ソウルイーター……」

「私達の言葉で魂喰らいという意味です。恐らくそのソウルイーター発動後だと思いますが、あの場に居た者たちの証言で結界が展開されていた場所、クレーターの中心に一つの繭が出来ていたと言うことでした」

「エアに言わせると、まるで周りから突然魔力をかき集めてそこに生み出された様に出現した、ってさ。繭が出来る瞬間って見たこと無いから分からないけど」


 その中に入っていたのがリリアンだった。

 7日程経ち、リリアンは自力でその繭を破って出てきたという。


「出たら皆が怖い顔してこっちに武器向けてたからめちゃくちゃびっくりしたよ……」


 そりゃぁそうだろうと思う。

 誰が復活すると思っただろうか。

 必死で自分であることを証明しようとして、なんとか信じてもらえたリリアンは相当安心したそうだ。


「あ。……ボク、何歳の扱いなんだろう……?4歳……?0歳……?」

「正直、どっちでもいいと思います……」


 いきなり悩み始めたリリアンだったけど、僕からしたらどうでもいいレベルだった。

 どの道一桁じゃないか。

 なのになんで王様になれたのかとかそっちのほうが気になるよ!


「これが邪竜討伐の記録です。リリアンに取り込まれた事で、邪竜の事が色々と分かったそうですが、その邪竜の意識が表に出てくるということは無い、と言うことでした」

「僕の人格はもう完全に固定されてるからね。僕は三角翔太という子を主人格としたインキュバス。後から入ってきたヤツの入る場所はもうないんだ。記憶とか扱えることとかが幾つか増えたくらいだよ」

「えっ!?じゃあ、洗脳とか……変な魔物生み出したりとか……」

「出来なくはないけど……どっちも元からやれるようなものだし。魔物生み出すくらいなら可愛い子作りたいし。あ、ボクが作った子を娼館に入れれば……人手不足が解消する?」


 何やら考え始めてぶつぶつ言っているけど……。

 そう言えばあのアリスとオリバーという存在はなんとホムンクルスだとか。

 自分たちですでに実現している事で、そこから更に便利そうではあるけどそんなに興味を持っていない感じみたい。

 洗脳に関してはインキュバスというか淫魔の催淫が似たような物らしいし。

 しかも催淫は耐性がなければ問答無用で効く。

 自分のためにならばなんでもしてくれる奴隷の出来上がり、という話を聞いてちょっと怖くなってしまった。


「さぁ、今日はもうちょっと疲れたかな。色々準備が整うまでまだ時間が掛かるし、ニールやテンペストからは色々と話を聞きたいところだけど、今日は休んでもらおう」


 なんだかとても濃い時間を過ごしたように思う。

 大分映像も端折ってあったりしたのに、その場に居たような高揚感があった。

 そして……あのアシュメダイを完全に倒したテンペストの事をとても誇らしく思う。


 もちろん、魂の欠片すら残さず吸収しちゃったリリアン……オルズテア王も凄いけど。

 ボク達は彼らから学ぶことがとても多そうだ。


 □□□□□□


 部屋を後にして、皆で少し話をした。

 ヴァルトルとニーナはあの場で発言することが出来ずに居たみたいだ。

 まあ、あの王様ならきっと誰が喋っても答えてくれる気がする。

 というか、事実普通に市民に話しかけたり話しかけられたりしていた。

 物凄く身近……というか、良いんだろうかこれで。


 ともかく、僕達がここにいる間何不自由なく暮らせるように手配してもらっている。

 ヴァルトル達には自由に見学してきていいと言っておいた。

 ここにいる間なら、あまり護衛の心配をしなくていいからね。

 ヴァルトルも少し色々と見てきてほしいし。僕達とは違った目線で色々見れる二人だからこそ、何か新しい発見があったりするかもしれない。

 それにここはリンドブルムという飛空艇の上だ。

 自分から堕ちてしまわない限りは全く危険はない。


 僕とテンペストはといえば、また自分たちの為に用意された部屋に戻っている。

 何度見てもなれないほどに大きくて面白い部屋だ。

 外の景色はどう見ても空の景色じゃないし。


 大きなソファに2人くっついて座りながら話す。


「それにしても……よく無事だったよね」

「墜落後、復旧したのですが装甲の損傷が激しく身動きが取れませんでした。その後リリアンが来てくれたのですがスリープモードに移行して魔力消費を抑えて居ました。攻撃時にほぼ全て使ってしまったので」

「で、僕が来た時に復帰したわけだね」

「はい」


 あの時のテンペスト……というかマギア・ワイバーンの損傷具合は意外と酷くないと思った。

 だけど本当はもっと酷かったようだ。

 機首部分が損傷していて、テンペストは一度完全に機能停止した。


「え、じゃあなんで直ってたの?」

「分かりません。しかしあの時、リリアンには言ってませんでしたが私も恐らく死と言うものを体験していたのだと思います」

「機能停止……本当に死んでいた……?」

「今となっては分かりませんが。ただ、リリアンの言う暗い空間と言うものに見覚えがあったのです。私は確かにそこに居た……。でもニール、あなたの声で引き戻されたのです」


 暗く、星が漂っているような空間で、テンペストは何も出来ずに漂っていた。

 どんどん力が失われていくところで、突然何かに強く引き付けられ、僕の声が聞こえたそうだ。

『君がやり残していることは何?』

 と。


「迷わず、ニールと共に生きることと答えました」

「それは……」


 毎回はっきりと物を言うテンペストだけど……死に際にあってもブレないんだなと思うと共に、凄く嬉しかった。

 自分と居たいと言ってくれたことが本当に嬉しい。


 答えた後に突然感覚が戻ってきて、あの巨大な魔石の損傷が回復しているのに気がついた。

 しかし残された魔力など無く、マギア・ワイバーンの身体を動かすことはできなかった。

 そんな時に近くにリリアンの気配を感じ、彼に判断を委ねることにして……テンペストは魔力消費を避けるために眠ったのだ。


 そこから先はニールもよく知っている。

 ニールがコクピットを開け、中に鎮座していた巨大な魔晶石にリリアンが次々と魔晶石を食わせていたのだ。

 最後に巨大な水晶柱……じゃなくてダイヤで出来た柱をまるまる飲み込ませて、ついにテンペストは復活する。

 その様子をずっと横で見ていることしかできなかったのは悔しいけれど。


「……あれ?」

「どうしましたか?」


 テンペストの胸元、別に良からぬことを考えていたわけじゃない、考えては居ないけど見えてしまうピンク色のものは仕方ないじゃないか。

 いやそうではなく、いつもテンペストがぶら下げているペンダントがおかしい。


「……入れてあった魔晶石が砕けていますね」

「うん。僕が連れてきた時にはちゃんといつも通りだったはずだけど。いつ壊れたんだろう」

「そういえば……ロジャーが言っていましたね。『リッチの魔晶石は一度だけ死から逃れられる』と」


 そういえば大分前に言われていたかもしれない。

 あの時はまだ師匠の元でボク達は修行中だったな。

 宵闇の森でリッチを倒した時に手に入れたものだ。


「まさか、ここで命を救われるとは思っていませんでしたが……あのリッチには感謝しないといけないようですね」

「っていうか……本当に効果あったんだ……。ガセだと思ってた……」


 この魔晶石はここまでだ。

 感謝しつつ、倉庫へと送りこむ。


「僕と一緒に生きたいって、言ってくれたんだね」

「はい。必ず帰って、ニールと共に生きたいと願いました。真偽は定かではないですが、その願いは確かに叶ったのですね」

「全部、終わったんだね?」

「終わりました。まだ、邪竜の残渣……黒い魔物が各大陸へと渡ったようですが、長くは持たないでしょう。邪竜は滅び、あの兵器は未来永劫失われました。それによって私の使命も終わりました」


 正しくはリリアンがその記憶を持っている限り、失われはしないだろうけど……リリアンがそういうことをするとは思えない。

 きっと大丈夫だ。


 こちらをじっと見つめてくるテンペスト。

 金色の瞳は僕を見据えゆっくりと近づいてきて……。

 僕達は唇を重ねる。

 此処から先はもう、あんな戦いは必要ない。

 テンペストの熱い口内を味わうように舌を這わせる。

 帰ったら色々とまた忙しくなるだろう。

 だけど今は……僕達の時間だ。


 顔が離れる。

 潤んだ目のテンペストを見て、自分の顔が火照ってくるのがわかった。


 ヤバイ。テンペストがこんな顔してるのとか初めてみたかもしれない。

 物凄く可愛い。

 いや今までも可愛かったんだけど、この表情は反則だ。

 というか、なんだろう?いつも無表情気味だし、その合間に見れる表情とかが最高だったのは確かだけど……今回のはいつものそれよりももっと、こう感情がこもっている気がする。


 そうしてもう一度……と、ニールが顔を近づけようとした瞬間、ノックの音が響いた。


「ふ、ふぁああひぁぁい!?」

「どうぞ」


 心臓が止まるかと思った!!

 そして僕がこれだけ驚いているのに、テンペストは全くの平常心で普通に返答している。

 ……こういうところは本当に敵わないな。


 入ってきたのはレナだった。

 小さな体ながら、家事の腕は誰にも負けないというブラウニー。

 その力は本当にすごい。汚れたところなんかはあっという間にきれいになるし、食事も何もかも家事の範疇であれば正確に、そして素早く終わらせてしまう。


「テンペスト様、頼まれていたことの準備が整いました」

「分かりました。案内を」

「かしこまりました。それと、ニール様には少々お待ちいただくことになりますので、その間お楽しみいただけるようささやかながら余興をご用意しております」


 ……何だろ。っていうかいつの間にテンペストは頼み事してたんだろう?

 まあいいか。

 しばらくぶりに自分の身体に帰ってきたわけだし、色々と整えておきたいこととかがあるのかもしれない。


 僕の案内はオリバーがしてくれるようだ。


 □□□□□□


「ニール様、こちらです」

「ここ?」


 さっき僕達が居た部屋に似ている。

 違うのは更に広い部屋であることと……扉がないことだ。

 オリバーに連れてこられた時には転移してここに入ったらしい。


「あの、これどういう……閉じ込めるつもり?」

「いえ、決してそういうわけでは有りません。ここは……各国の王や公爵など身分の高い人たちが使う部屋となっており、ここに入るには限られた方法でしか入れません。つまり安全で外部と切り離された構造となっているのです」


 隔離されてるんじゃないか。それって僕のこと閉じ込めたのと何が変わらないんだろ。


「用事を済まされた後、テンペスト様もこちらにいらっしゃいます。それまでここでお待ちいただければと……。また、これはテンペスト様よりご提案頂いたことですのでご安心ください」

「テンペストが?」

「はい。ニール様のためにと言うことで是非と……内容は私にも分かりません」


 え、なんだろう。手料理とか?

 何かしらのサプライズがあるらしい。

 それじゃあ楽しみに待っていよう。


「……それでは、テンペスト様が来るまでの間、お相手は彼女が致します。何なりとお申し付けください」

「よろしくお願いします、ニール様」


 そこには、小柄な……でも、確実に大人の子が居た。

 僕と同じ種族、かな?

 間違いないと思う。テンペストとはまた少し違って大人の女性であることが分かるが、見かけは完全に子供だ。

 踊り子……なのかな?結構際どい服を着てる……っていうか、ちょっと透けてる。……見えそう……。


「ノルンだよ!ここで踊り子をしてるの。今日はあなたのために踊らせてね!」

「よ、よろしく。えと、君ってもしかして……リヴェリ?」


 頭に「?」が浮かんでいるようにコテンと首を倒すノルン。

 質問の意味がちょっとわからないらしい。一応、こっちの言葉で喋ってるはずだけど……と思って理由がわかった。

 多分、種族名がこっちとは違う。

 その考えは当たっていたようで、オリバーが補足してくれた。


「リヴェリ……というのは種族の事でしょうか?それであれば彼女はアンファンという種族になります。その中でも肌の色が濃いノルファンと言われるもので、見た目は人族で言う子供のままで成長が止まり、人族よりもずっと長い時間を生きる種族です」

「僕もそうなんだよ。多分……リヴェリとアンファンっていう種族は似ているか……同じようなものだと思う」


 なるほど、アンファンっていうのか。エルフは同じみたいだけど……微妙に呼び方が違うのは他言語にはよくあることだ。

 ただ、基本的にはあまり変わらない種族なんじゃないかなと思う。

 僕達の方にだって、色黒のリヴェリは居るからね。特に肌の色で呼び方は変わらないけど。


「では、ごゆっくりとお楽しみください」


 そう言ってオリバーが転移して消えてしまった。

 あれ?僕これ完全に閉じ込められたよね?


「さぁさぁ、ニール様!こちらへどうぞ!あ、お酒飲む?」

「あ、うん。……ありがと」


 ソファに座らせられて、僕はノルンの踊りを見ることになった。

 先程までとはうってかわって、とても真剣な顔になったノルンが踊りだす。

 金細工を沢山身につけ、薄い生地の服を身に纏いながら踊る褐色の身体。

 踊りが激しくなるにつれて肌には薄っすらと汗が滲み、薄い服はより透けていく。

 しかしその踊りは激しくも情熱的で、とても素晴らしいものだった。


 その音楽がピークを迎えた時には僕はもうノルンから目が離せなくなっていた。

 踊りでこんなに表現できるんだ!って初めて知った。

 そしてそれが最高潮に達した時、ノルンが身に纏っていた薄い生地を剥ぎ取り、僕に投げつける。

 びっくりして顔にかかったそれを取り、ノルンを見ると……。

 物凄い露出の多い格好になって扇情的な踊りを見せていた。


 ……あ、これエロいやつだ……。

 僕は、先程までとは違った意味で目が離せなくなり、立ち上がることすらも出来なくなったのだった。


 □□□□□□


 一方その頃、テンペストによって記録映像を渡され、それの確認作業を行っていたサイラス達は……。

 予想以上の内容に頭を抱えていた。


「なあ……リリアンって呼ばれてるやつ、王様なんだよな?子供じゃねぇか?」

「ええ、しかしリヴェリなどではなくインキュバスと言っていましたね。なぜインキュバスが飛竜に変わる?」

「っていうか、ボクの見間違えじゃなければ……あれ、食われたよね?しかもその後テンペストの攻撃で消滅したよね?アシュメダイごと」

「俺にはそう見えたぞ」

「……しかしテンペストはまるで生きているかのように言っていましたが……」

「いや、これ死んでなかったらおかしいだろ!?」


 予想を遥かに超える魔法の数々、そして保有している戦力の強力さと数、何よりも飛竜を味方につけて居るのは分かるがその攻撃力は自分たちが居るカストラの空を飛んでいるような奴らとは比べ物にならないほどに強力。


「どうやら、ボク達は……とんでもない所と友好関係を結ぼうとしてるみたいだね?」


 テンペストもおかしいことになっていたが、向こう側の世界はもっと酷かった。

 現状でこちら側が攻撃を受けた場合、勝てる気がしない。

 保有している兵器が同等であれば、数が多い方が勝つ。


 どちらも上回っている相手にどうやって勝てというのか。

 テンペストは大丈夫だと言っているが、何処まで信用して良いものかがわからない。これをそのまま陛下に伝えても良いものなのか……。

 無論、本当に友好関係になれればこちらのメリットは計り知れないだろう。

 だが裏切られた場合は?


 答えが出ないまま、映像の解析を行っていけば行くほど、余計にどうしようかと悩むハメになっているのだった。



全ての戦いは終わり、世界は平和に。

……だけど国の重鎮達の悩みはまだまだこれから。

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