第百十三話 寄り道
いつもブクマありがとうございます!最近また少しずつ増えてきて嬉しいw
翌日。サイモン達は別室で食事を取った後に会議を……ではなく、このホーマ帝国がどういう国かというのを知ってもらうために色々と案内されるらしい。
ちょっとばかり羨ましいが仕方ない。
「僕達も行こうか」
「同行者はメイ、ニーナの他にコリーとウルです」
「1台で行けるね。博士とギアズは?」
「部屋で渡した報告書に関して色々とすることがあるということでした。研究関連のものだったので恐らく指示書などを書くつもりでしょう」
サイラスとギアズは今日の朝届いていた報告書の内容に目を通している。
ついでに言えばサイラスに関してはラウリと共に面が割れている為、下手に動いて悟られたくないと言うことだった。
幸い、テンペストとニールはバレていなさそうだったのでなんとかなるだろう。
「出発します」
「あ、ウルって運転できたんだね」
「そりゃそうだ。前にも言った気がするが……ウルは俺の専属だ。自分で運転するのも楽しいが、何かと周囲の目ってのがな」
「貴族としての振る舞いをして欲しい、というだけです。自分が運転したら使用人も雇えない貧乏貴族などと言われるんですよ、実際は貧乏どころかその辺の貴族ですら敵わないくらいなのに、あまりにも気を使わなすぎるから周りに勘違いされてしまうのが嫌なんですよ」
「そういうのがめんどくさいから家を抜けてハンターになったのになぁ……。後ウル、こいつらの前ではいつも通りで良い」
「いや、そういうわけにも……。その前に、何処に行けば……?」
事前に隠密からの情報で得た魔晶石などを売っている所へと向かう。
その途中で魔道具等の大きな店もあるようだったので良いのがないか見てみるつもりだ。
道順をウルに伝えてやればとても丁寧な運転でオルトロスが走り出す。
ウルはコリーの従者として付いてきた狼人の少年だ。
コリーが狩りに出かけた時に拾った……らしい。
まだ子供だったウルが、討伐対象である魔物に襲われている時になんとか救い出したのがコリーだった。結局生き残ったのはウルを含めて数人しか居らず、身寄りの無くなったウルを引き取って世話をしていたようだ。
と言っても世話の大半は使用人の仕事なのだが。
コリーがやったのは戦い方を教えることと魔法の使い方だが、よく吸収して今では肩を並べて戦えるほどだという。確かに戦闘の時に素晴らしい動きをしていたのを思い出す。
「ここで合っていると思いますが……」
「もう着いたか。よしウル、そのまま待機していてくれ」
車を止められそうなところがなかったので路駐だ。
何かあったときのためにウルを残していく。
最初にきたのは魔道具販売店だ。どういったものがあるかをリサーチする目的もあるが、便利そうなのがあったら買っていくつもりで居る。
技術レベルは高いということもあって、デザイン的にも凝ったものが多くて個性がある。
家電として欲しいものは大体揃っているようだ。冷蔵庫、洗濯機、アイロン、製氷機もある。もちろん名前は別だが機能としては似たものだ。
クーラーよりの冷風扇みたいなものもあるが、温かいこの国ならではという感じだ。
「あ、この照明いいなぁ……」
「小さいですね。光量は……なかなかあるようです」
「そちらは最近出たもので、ベルトや頭に付けて使う物です。……この様に」
店員が出てきた。人の良さそうなおじさんだったが、実際に取り付けて見せてくれた。
テンペストは自分で光を生み出せるのであまり意味はないが、地下遺跡や洞窟探索などをする者たちからは喜ばれているらしい。
光量があるため遠くまで見通すことが出来る上に、その明るさで手に取ったものの観察が容易。それも手に持たなくていいので両手が使える。
「じゃぁこっちの小さいけどやたら高いやつは?」
「魔晶石を利用した水生成機です。魔法使いたちは自分たちで簡単に水を生み出しますが、許可を得ていないものは使えないのでこういった道具に頼ることになります。魔力さえ持っていれば好きなだけ飲めますから遠出する時に便利ですよ。これもつい最近出来たものですね」
「魔法使う人でも結構便利な気がする……。一々コップ一杯分出すのはむしろめんどくさいし」
別な棚に行くと、農作業用の器具が幾つか並んでいた。
何と草刈り機や耕運機を描いた看板が置いてあった。ここには大きすぎるため倉庫においてあるそうだが流石に高額だった。
……誰が買うのだろうか?と思ったら、これを買って農村の方に貸す商売をしている人が居るらしく、ちょいちょい売れているようだ。
「でもあの鎌の歯がたくさん生えてるのとかもう武器にしか見えないんだけど」
「いえ、農業用魔道具です」
「いや、だって……」
「農業用魔道具、です。まさかあれを武器と見る人がいようとは……」
「もう、それでいいです」
ニールが押し切られた。
穏やかな顔のままで迫力だけ増すという器用なことをやってのけた店員に、ニールも流石に迫力負けした。まあ、実際のところ武器だと言われてしまうと回収騒ぎになるだろうし、そういう意味でも仕方ないのだろう。
幸いにも汚物処理装置や汚水処理装置等は出来ていないようだったので、十分使える技術として売り込めるだろう。
別な棚ではコリーが探索用品などを物色していた。
「やっぱ、剣とか斧とかっていうのはここじゃ売ってないのか?」
「武器に関しては取扱は有りません。許可を得た場所でしか買えないですので」
「なんだ、ここで売ってる珍しい武器とか欲しかったんだがな……」
「お客様は他国の方ということでしたが、ここで購入しても持ち帰る事は出来ないことになっているのです。むしろ、買う前で良かった」
「……没収されるとかか?はぁ……仕方ない。だがこのテントは気に入った!10人用をくれ」
武器は買っても持って帰る前に没収されるようだ。
自分たちで持ってきたもの以外は無理のようだし、店主にも無理強いはしない。
だが、ひときわ目立っていたテントがとても便利そうだったので衝動買してしまうのだった。
使用前に魔力を規定量注ぎ入れるだけで、全自動でテントが展開する。
それも高床式になっていて勝手に水平まで取ってくれる上に地面への固定まで自動だ。
どれだけ詰め込んだんだという位の機能があるが、大きさはスーツケース3つ分位のものだろう。意外とコンパクトなのだ。
「腕のいい魔道具技師が居るんだな、なかなかうまくまとまっていて使いやすそうだ」
「セットでこちらは如何でしょうか?切ってその場で焼けるまな板と焼き石を組み合わせたものです。薄く見た目に反して軽いですから色々と使い勝手は……」
「買おう」
「先程のテント専用の薄型ベッド……」
「人数分頼む」
「ありがとうございましたー!」
合流したテンペストとニールが、ものすごい荷物をオルトロスへ詰め込んでいるのをみてびっくりしたのは言うまでもない。
ちなみに帰るまではテンペストのガレージ行きとなった。
「やべぇ一気に金なくなった」
「あれだけ買えば当たり前じゃないか……何買ったの?」
「テントだ。ここに来るまでの移動で野営だった時には心底疲れたからな……。ハーヴィン候は自分たちのテントも持ってきてるが、俺達はテンペスト頼みだったからそういうのなかっただろ?ああいう他の目があるときにも使いやすいだろうと思ってな。展開から固定まで全部自動でやってくれるからめちゃくちゃ便利だぞ絶対」
いきなり散財しまくったコリーに対して、要らないもの買ってたら注意しようと思っていたが、予想以上に必需品で困ってたことを思い出して引っ込めた。
事実、オルトロスの中に泊まれるようになっているとは言え、中は色々と装備が詰まっているため狭く、ベッドは硬いので正直な所ものすごく疲れるのだ。
これでエキドナを出せたら最高だったのだが、流石にそんな目立つ真似ができるわけもない。
「思いの外実用品で文句言えなかった……うん、それはたしかに便利だね……」
「ついでに意外と寝心地良かったから空気入れて膨らむベッドとかな。あのテント専用品だから上手くまとまるみたいだぞ」
「どうせ帰りも同じだろうし、早速役に立ちそうだね」
「後で構造を見てもうちょっと上手くまとまる様にしてオルトロスに搭載しましょう」
「おま……買った意味が無くなっちまう!!」
使いたければそれを使えばいいのだ。
ついでにその機構を使ってエキドナを停車時に広くする機構を考え始めていたりする。
帰ってからサイラスと一緒に適当に作ってみようと決めて、早速無くなったお金を補充しに素材を売って換金してきた。
「あ、ここは駐車場あるよ」
「ウル、そこの枠の中に停めてくれ。ここは皆で降りるか」
高級ホテルと勘違いしそうな位豪華な入り口を入ると、やはり豪華な内装が目を引く。
ショーケースの中には色とりどりの宝石とそれを使ったアクセサリなどが陳列されており、何人か見ただけで金持ちな客が来ている。
来ている服から違うこともあって、こちらを見て少し眉根を寄せているものも居たがまあ仕方ないだろう。
実際のところはここは子供が来る場所じゃない、と思っているわけだが。
「さて、魔晶石は……。うーやっぱりちょっと高いなぁ……」
「お客様、店内でそのようなことは……」
「あ、ごめん。ここは魔晶石も扱ってるって聞いたんだけど、こうやって宝飾品に加工したものしか無いの?」
「と、申しますと……原石をお探しですか?」
「そんな感じ?」
求めているのは加工用の魔晶石だ。
少し高くなるが加工用として選別された魔晶石は、その属性やどんなものかというのも調べられてから並べてあるため、初めて見るものでもすぐに使える利点がある。
それに一々狩りに行かなくても手に入る分楽だ。
「……想像の10~100倍位するんだけど……」
「これがこんなにすんのか?」
「魔晶石は魔物を狩り、綺麗に取れたもののみをこうして加工に回しています。討伐しても必ず手に入るとは限らず、見た目美しい物となっているのですから当然これくらいは……」
「実用、と言うよりは鑑賞目的の方が大きいようですね。私達が求めているのはもっと違うものです」
「失礼ですが、元々魔晶石はそれほど安いものではありません。魔物を大規模に狩っているならまだしも、危険すぎてそういうことは出来ないのですよ?だからこそ魔晶石は……」
店員が色々と話をし始めたのだが、そもそも供給が少ないらしい。
大分ハンターの仕事が追いついていないのか、回収した魔晶石を自分達用に回しているのか……。
ただ、店員の話が長い。
「話の途中ですみませんが。私達がほしいと思っているのはこういった物です。見てくれなどはどうでもいいのですよ、これくらいまとまっていれば。……ですがここには無いようですし、自分達で獲ってきたほうが早いことがわかりましたのでもう結構です」
そう言ってガラスケースの上に置かれたのはタラスクの魔晶石だ。
ほぼ完璧な状態で抜き出されたそれは、人の頭程度の大きさがある。
目の前に出されたものの正体を一瞬で見抜いた店員が固まり、その隙にさっさとタラスクの魔晶石を仕舞い込んでしまうテンペスト。
「あ、あの」
「では失礼します。……何か欲しいのはありましたか?無ければ帰りましょう。ここには何もないですし」
「いや、別に欲しいもんはないな。上にあるやつも大体が国に帰れば価値が暴落するのが目に見えてるのに高い金出したくねぇ。さっき買ったテントのほうがよっぽどいいぞ」
「なっ……」
「装置に組み込むのにこんな高価なのを使ってられないもんなぁ。さっきの魔道具屋のほうがいいんじゃない?」
「何という使い方を……!お待ちを!そのような事に使わず、私達が買い取りを……お待ちをぉぉ!!」
後ろで魔晶石の原石を転ばした音が聞こえたが、とりあえず無視して外に出る。
確かに売っていたには売っていたけども、あれは宝石加工用として出しているものとなってしまっていてムダに高い。
であれば先程よった魔道具店でそういった魔道具に使うための魔石を取り扱っているところを聞いたほうが良いだろう。
「……皆様、少々おふざけが過ぎるのでは……」
「いやーなんかああいうの気に入らねぇからな。テンペストが挑発したから乗っかってみたが……あの店員の顔の変わり方見たか?ニール」
「正直、笑いこらえるのに必死だったよ。テンペストもあの人にかなりダメージ与えるやり方したよねぇ」
オルトロスに乗るやいなや腹を抱えて笑い出すコリーとニールに、ウルからの苦言が投げかけられる。
コリーはあえてタラスクの魔晶石なんて言うとんでもないものを出して、こちらを嘲っていた向こうの鼻をへし折れたのが嬉しかったようで、それに合わせて言っただけだ。
悲しいかな、事実魔晶石を使った指輪などはハイランドでは別に貴族用ではなくハンター用として売られている位だ。
石をはめる台座はかなり凝ったものではあるもののあそこまで高くはならない。
ニールも空気を読んでそれに合わせた。本当は研究に使うのだがそれを言う必要はない。
「いや……別にそのようなつもりでは……。事実を述べたまでですし、出来れば自分達で獲ってきたほうが明らかに早く多く手に入れられると思いますので」
「えっ。皮肉言ったんじゃないの……?」
「ああ、最近は色々と感情とかも出るようになってたから忘れてたが……テンペストはそういうやつだったよ……」
これ以上の拘束を嫌ったテンペストが、要点を素早く述べて、見本となる魔晶石を提示して話を強制終了させただけだった。
皮肉で返そうというつもりはさらさらなく、さらに言えばタラスクの魔晶石はたまたまガレージにまだ残っていたから使っただけで、大きな意味はない。
既に磨き上げられて綺麗になった分無駄に値段が上がったものではなく、大きめの原石を少し圧縮しつつ魔力の回収用の魔法陣から供給を受けさせて出力を得るという、ハイランド流の使い方をするには磨き上げなど無駄な手間なのだ。
「明らかにあの店員はテンペスト様を侮っておりました」
「そうです!自分でタラスクも狩れないくせにあれ程までに上から目線で講釈を垂れるなどと……」
「ですから私達もあの慌てっぷりを見れて胸がスッとしました!」
ニーナとメイがそう言って援護する。
そうしている間にまた魔道具屋の前まで到着し、店内へ入る。
「いらっしゃい……あれ?先程の……商品に何か不具合がありましたか?」
「いや、そうじゃない。実は俺達は魔晶石を幾つか見たかったんだが、それを取り扱っているというのがここから少し言ったところの宝石店でね。無駄に高価なだけでこういった魔道具に使う用途としては役に立たない。ここなら何か情報があるんじゃないかと思ったんだが……」
「ああ……いや、あそこは特別に高いですよ。魔晶石も高純度のものは確かに高価なのですが、あそこはそういったものを色や光沢ごとに更に分けて小さく加工して宝石として売り出しています。もちろん切り出してしまっているので、使えても一回分程度と大した効果は期待できませんし……何よりも手間を掛けた分高額です。相場から桁1つから酷いのだと3つ位上がったりしてるのもあるくらいですよ。確かに綺麗ですけども……」
「ぼったくりじゃねぇか!」
磨けば宝石並みの光沢を生み出し、魔力を通じると光を生じ、いざという時には一回分くらいは魔法を扱うことも出来るという魔晶石を使って、大々的に宣伝して豪華な台座で飾り付けてこれでもかというほどに価値を高めていった結果があれらしい。
「魔晶石を加工している人たちからすれば、失笑モノなのですが……加工されたやつは確かに綺麗ですので……まあ購入する人が納得しているのならば良いのではないでしょうか……。お客さん達はその価値を正確に知っているようですね。魔道具に使うと言っていましたが、もしかしてみなさんも技術者かなにかですか?」
「作るのは趣味程度と思ってくれていい。なるほど、あの店で無理に買わなくてよかったな」
別にぼったくっているというよりはブランド価格と言った方がいいのかもしれない。
それでもあまりいい商売をしているとは思えないが。
客が満足しているのであればいいのだろう。
魔道具店の店長に案内され、奥へと入っていくと部品なども取り扱っていた。
その一角に魔晶石が並んでいる。
全てこのホーマ帝国周辺でとれる魔晶石ばかりで、テンペスト達からすれば珍しいものばかりだ。
ちなみタラスクの魔晶石は欠片でも相当な値段になっていた。
空の魔物が多いらしくそっち関連の魔石がかなりある。
小さいものから大きなものまで様々だが、中でも目を引いたのがモータルエイグルという鷲と飛竜が混ざったような姿の鳥だ。
出会ったものには必ず死をもたらすとまで言われており、一度睨まれたらまず助からないと言われているようだ。
「ああ、この魔晶石ですか。もちろん凶悪なモータルエイグルとはいえ生きた魔物ですから。縄張り争いに負けたものなどは普通に死にますよ。まともにかち合うのは危険極まりありませんが、それでも殺せない相手ではないということです。そういったわけで流通量自体がかなり少なく……タラスクやこれを含めて数種類はどうしても高額になります」
「その他の種類ってのは?」
「今は手元にありませんね。タラスク、モータルエイグル、スカラベの王、不可視のアレニエ……有名なところだとこの位でしょう」
スカラベの王とは甲虫で騎士のような蟷螂と兜虫を混ぜ合わせて強化したようなものらしい。
人とほぼ同サイズで、普段は茶色の目立たない色をしているが、いざ戦闘となれば体中の甲殻が金色に光り輝き目にも留まらぬ速度で周囲を切り裂いていくという。
全身の甲殻は硬く、脚部の一部はそこらの剣よりも遥かに鋭利で、薄い飛膜ですら岩をも切るという。
しかも飛べば大砲よりも早いというのだから相当だろう。
その甲殻は魔力の供給がある限り打ち破ることは困難とされており、刺激しないようにして逃げるほうが賢い。
意外にも好戦的な魔物ではなく、襲われた時や攻撃を受けたと判断した場合にのみ敵となるようだ。
ちなみに罠などを仕掛けた場合、周りに居るもの全てが敵とみなされるらしい。
出会う確率自体がものすごく低く、出会ったところでなかなか倒せない為相当レアな魔物らしい。
皇帝はこの魔物の甲殻を使った鎧と剣を持っているそうだ。
不可視のアレニエとはこれもあまり大きな魔物ではない。
名前の通り蜘蛛の魔物で気配を完全に消してしまう殺し屋だ。
巣は張らず、常に移動を繰り返しては獲物を時には一ヶ月も待ち続け、硬質なワイヤーと化した糸を使って獲物が何が起きたかも分からぬ内に殺す。
ただ姿を消したり、擬態したりというだけではないその身を隠す手口により不可視の名が冠せられることとなった。
それ自体は以外にも弱く、通常のアレニエと共に雑魚並であり、それでもここまで高額になっているのは単純に見つからないからだ。
たまたま他の獲物を狙って投げナイフを投げたらそこに居た、とか……範囲攻撃をした際にいつの間にか巻き添えで死んでたくらいでしかまともに魔晶石を得られていない。
そんな美味しいイベント自体も極々低確率でしか無い。
ただし、特に不可視のアレニエに関しては魔晶石自体が危険とみなされているため、国によって規制されているらしい。
「あ、なるほど……姿消すことが出来るからか」
「ええ。規制前はそれを使ってちょっとした騒ぎが頻発しまして」
「暗殺向けだからなぁ」
「いえ……それが……覗きでして……ただその用途にも使えるということがはっきりしたこともあり、規制に至っています」
「そっちかよ!」
何故かやたらせこいことで捕まるのが多かったようだが、実際はその裏でひっそりと暗殺にも使われていたりする。それに気がついた国が規制に乗り出したというわけだが……ぱっとみてそれだと分かるものは少なく、使っていることは気づかれない為ほぼ野放しになっているのが現状だ。
取引している現場を目撃された場合、死刑にもなりうる物なので注意するようにと言われてしまった。
とりあえずモータルエイグルの魔晶石と他に幾つかのものを購入した。
魔法に関する道具としては当てはまらないのかと聞くと、あくまでも魔道具制作用のものですのでそれ以外の用途では使わないようにして下さい、と言われる。
要するに、法の抜け道と言うものだろう。
どのみち実際に魔道具制作には欠かせないものではあるので規制できないのが現状なのだろう。
購入したものはテンペストがハンガーに送ってしまえばもう分からない。
「あ、そうだ。ちょっと聞き忘れたことがあるから戻る。先に乗って待っててくれ」
「テントのこと?」
「そんなとこだ」
少しして帰ってきたコリーを乗せて王城の方へと帰る。
簡単な検査を受けて入城が許可され、警備の人に付き添われて泊まっている屋敷まで戻ってきた。
「そうだ、ニール。ちょっと時間あるか?」
「コリーどうしたの?」
「ああ、ウルが成人迎えたんでな。今日でめでたくあいつも大人だ、ってことで祝いの品を選ぶ手伝いしろ」
「そういう事なら喜んで。って、僕だけ?」
「あんま大人数で行ったらバレるだろ……」
夕食後に前もって聞いておいた店にウルを連れて行って、そこでサプライズするらしい。
テンペストには悪いが先に休んでもらって、行ってくることにした。
さて、色々と情報を得ました。
やっぱり円滑なコミュニケーションを取るには言質の言葉が喋れないと難しいですよね。
ちなみに宝石店は別にインチキ商売をしていたわけではなく、れっきとしたブランド店です。
金持ちに贔屓にされてきてどんどん価値が上がっていった結果なので、悪いことではありません。
どこぞのマークが入った腕時計が1000円程度の腕時計とほとんど違いがないのに数十万するとか言うのと同じですね。
これにプラスして職人による選別と加工が入るので高いものになっているわけです。
ステータスとしては意味があるけど、使い道がないのでテンペストたちには使えない上にただただ高いという物となってしまいました。