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鉄の竜騎士 -元AI少女の冒険譚-  作者: 御堂廉
第四章 カウース大陸編

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第百十四話 ウルの成人祝い

「ウル、出かけるぞ」

「この時間にですか?門は閉まってるんじゃ……」

「いや、通用口が開いているんだとよ。そこから出入りする事が出来るそうだ。飲みに行こうぜ、おごってやる」

「分かりました。少々お待ちを……」

「そのままでいい、たまにはお前も休め、俺の前でかしこまらなくてもいいのは知ってんだろうが」


 色々な意味で適当なコリーには慣れている。

 今回もまた気まぐれだろう、そう判断して従うことにした。

 途中、ニールも呼ばれていたらしく合流し、衛兵の使う通用口を使って城外へ出る。


「賑やかな街だな」

「コリーが聞いてた通りだね。お城の近くだったら結構良心的なんでしょ?」

「らしいぞ。サービスも色々あるらしくて快適に飲めるとさ。ついでに飯もうまい」


 酒場とは言え高級店だ。それなりの対応があるということだ。

 お忍びで王城関係者などが来たりすることもあるのだから、色々と気を使っているのだろう。

 魔晶石による光や、燃料灯の明かりが暗くなった街を明るく照らし出している。


「帝都の中心ですからね……ボクにはなかなか馴染めそうな気はしませんけど」

「あれ?ウルってボクって言ってたっけ?」

「……っ……わ、忘れて下さい……!」

「ああ、ウルは元々そうだぞ。師匠みたいだろ?本人は恥ずかしがってるが、気心知れた同士だそんなもん気にすんな」


 ちょっと意外な一面を見れて嬉しいニールだが、ウルとしては子供っぽいと思って気にしていたらしい。ただし、ニールもそうだしロジャーもだからあまり気にすることはない。


 そして1軒の店の前に来た。びしっとキメた服を着た壮年のドアマンが扉を開き、中へと招き入れる。


「わ、すごく雰囲気ある!」

「だろ?……ああ、予約していた者だが」


 受付が見えたところでコリーがそちらに言って説明し始めていた。

 ニールとウルはクラシックな雰囲気でありながら高級感あふれるその内装にちょっとビビっている。

 どんな高給酒場なのだろうと思っていると、リヴェリと獣人、エルフの3人の女性たちが出てきた。


「お待ちしておりました。私達が担当させていただきます」

「ああ、よろしく。部屋に案内してくれるか?ほら、ニール、ウル、そこで固まってないで行くぞ?」


 そう言ってコリーはさっさと先に行ってしまう。

 すると残っていたエルフとリヴェリの彼女たちが手を取ってエスコートしてくれるのだった。

 これが高給なところのサービスなのか、と感心しながらも、女性にエスコートしてもらうことに少々恥ずかしさを覚えながら目的の部屋に行けば、広いパーティールームみたいな所へと通される。

 他にも4部屋ほどに繋がっているのかドアがあるが、中央に置かれた大きな机とそこに置かれた美味しそうな料理、そして……。


「今日は俺からの成人祝いだ。おめでとう、ウル」

「えっ。えっ?ボク、に?」

「はい、こちらはウル様成人祝いのために作った料理です、どうぞご堪能下さい」

「おめでとうございます!」

「え、あ、あり、がとうございます……!ボクの為に……?」


 実はウルは夕飯を食べていない。下げ渡しが到着する前に連れ出されてしまったので当然だったのだが、主人の言いつけは絶対なのだ。少々不服ではあったもののおごってくれるということで気楽に来てしまった。

 その結果がこれだ。


 よく見ればプレートも用意してあり、普段はあまり食べる機会のない料理がこれでもかと並んでいる。

 コリーが自分のことを思ってくれているのは分かっていたけども、ここまでしてくれるなんてとウルは胸がいっぱいだった。


「お、おい……泣くなよ」

「ごめ、ごめんなさい、すごくうれしくてっ!」

「それにしても凄い所だね……こんな部屋まで貸し切って」

「おすすめの所聞きまくってたんだ。圧倒的にここがいいと勧められてな、早速予約したんだ」


 感極まって嬉し泣きするウルをエルフの彼女がハンカチで目元を拭いてやったり、椅子に座らせてナプキンを掛けてやったりとしてくれていた。

 それぞれに一人が付いて給仕までしてくれるらしい。


 豪華な食事を腹いっぱい食べて、酒を飲みゆったりと女性たちを交えて話をしていた。

 彼女たちはやはりプロらしく色々と面白い話をしてくれ、楽しい時間を過ごした。ウルももう涙は出ておらず、素直に美味しい食事と初めての酒を楽しんでいる。

 流石にテンペストのようには酔わなかったようだが。


「お腹いっぱいです……こんなに食べたのは初めてだ……」

「美味かったろ?ちなみにもう一つプレゼントを用意してるぞ。そこの部屋の中にな」

「そんな、この食事だけで十分すぎます!」


 高級な食事をしただけでも恐縮なのに、プレゼントまで……とは謙遜しつもその顔はすごく嬉しそうで、尻尾がブンブン振れていた。

 その様子を見てコリーも苦笑いしていた。


「さ、ではこちらへ……」

「あ、はい。あ、あれ?」


 席を立った途端に酒の酔いのせいで上手く立ち上がれず、ふらついたウルだったが、エルフの彼女に優しく支えられて転ぶことは免れた。

 柔らかい胸に顔が当たっていて、それを自覚した瞬間に顔が熱くなるのを感じる。


「どうぞ、私の肩に手を回して下さい」


 エルフに肩を貸してもらいながらゆっくりと部屋へと消えていく。

 扉が閉まると鍵のかかる音がした。


「え、鍵?」

「まあな。要するに……成人祝いついでに本当に大人にしてやろうってな?」

「ちょ、じゃあもしかして……?」

「はい、ニール様のお相手は私が。どうぞこちらの部屋へ」


 高級な酒場……ではあるものの、夜のお店も兼ねているVIP御用達の店だった。

 つまり彼女らは娼婦でもあり……。


『あれ?プレゼントはどこに……』

『それは……こちらに』

『え、ちょっ!な、何で脱いでるんですか!?』

『ですから、私の身体がプレゼントですよ。初めてなんですよね?ゆっくりと楽しみましょう』

『あっ……ま、まってぬがさないで……!あぁああぁぁぁぁっ!』


 閉まった扉の奥からウルの叫びが聞こえてくる。

 どうやら美味しくいただかれてしまったようだ。


 そういうことだったのか……と思いつつも、プレゼントとしては随分と過激なものを選んだものだとニールも呆れる。

 がんばれーと見えないウルに向かって声援を送りながら、ニール達も部屋へと消えていくのだった。


 □□□□□□


 翌朝、辺りが薄ぼんやりと見える程度には明るくなりかけている時間。

 既に周りの店の明かりは消え、外を歩くものは誰もいない。街灯の火だけが辺りを明るく照らしていた。


「……いやー……凄かったな……」

「凄かったね……。今歩いてるだけで精一杯だよ……」


 足取り重くコリーとニールが歩いている。

 どんな人でも大満足させるという話は確かに本当だったようで、満足以上の体験ができた。

 今のところここ以上の場所は無いとコリーが断言する程だ。


 そしてウルはと言えば……もはや自力で歩けないほどまでに搾り取られたらしく、コリーの背中に背負われていた。


「う、すみませんコリー様……」

「気にすんな。今まで溜まりに溜まってたもん全部出しきってすっきりしたろ?」

「え、ええ、まぁ……」


 しかし、初めてだったのに強烈な体験をしてしまったせいで、身体に力が入らなくなってしまって全く立ち上がれなくなっていたのだった。

 コリーとニール、そしてお相手のエルフに手伝ってもらいながら身体を綺麗にしてようやく店を出ることが出来たくらいだ。


「しかしまあ……あれだな。ウルって結構クールな感じあったがあんな声出るんだな」

「やめて下さい!は、恥ずかしいんですからぁぁ!!」

「うん、女の子みたいだったねぇ」


 体を洗ってやっているときのことを思い出してにやにやしていたニールとコリーだったが、コリーの後頭部に無言の暴力が振るわれた。

 顔を真赤にしてプルプルと怒りに震えているウルを見て流石にかわいそうになったので、これ以上からかうのは止めにすることにした。


 通用口を通って屋敷についた時にはウルは疲れ果てて眠っていた。

 流石にコリー達も疲れたので、明日はゆっくりと休むことに決めて朝食まで軽く睡眠を取ろうと部屋へと向かう。


「……ニール?」

「えっ!?起きてたの?」

「いえ、気配を感じたので」


 ずっと起きていた訳ではないらしい。大分眠そうな目でニールを見つめ、窓の外を見やってまたニールに視線が戻ってくる。

 その仕草に「こんなに遅くなるまで遊んでいたの?」という無言のメッセージを感じ取ってニールが弁明したのは言うまでもなかった。


「……で、実はそこ娼館も兼ねてたみたいで……ごめん!」

「私が言いたかったのは遅くなるなら先に言ってほしかったというだけだったのですが……。話を聞く限り無理だったみたいですね。仕方ありません。ですが……心配したのですよ?3人が特に何事もなく過ごしているのが分かったので先に寝ることにしましたが」

「えっ……僕達の事分かってたの?」


 自分達の行動がバレている……そう思ったニールが少し冷や汗をかいた。

 流石に公認とは言えやはり娼館で楽しんでいるのを知られるのはちょっと恥ずかしい。


「いつも一緒に動くメンバーの位置は分かるように記憶しています。一人ひとり気配が違うので判別が出来るのです。何かあったらすぐに駆けつけることが出来ますよ」

「もしかして……何をしているかとか、分かったり?」

「いえ。その人の状態……それも大まかなものですが、生きているか、弱っているか、死んでいるかの判別が付くくらいです」

「そ、そっか。良かった……」

「千里眼という物があるそうですが、それが魔法的に再現できるとしたらもしかしたら何処で何をしているかも分かるかもしれません」


 止めて……。心のなかでそっと悲鳴を上げるニールだった。

 流石に大人の時間の状況をつぶさに観察されるのは死ねる。しかも今回のように一方的に攻められるという痴態を演じている時には特に。

 もしそういう能力がある物があったら全力で隠そう。そう心に決めるのだった。


 しかし流石にニールももう限界だった。

 フラフラとベッドへと向かうと、着替えもせずにそのまま突っ伏して眠り始める。


 □□□□□□


 朝食の時間となり、ニールはテンペストに起こされた。

 とても深い眠りに付いていたようで、眠ったと思ったらすぐに起こされてしまった気分だ。

 しかし頭は大分シャッキリしている。


 いつもニーナが洗ってくれるいい匂いのする寝間着を脱いで…………。


「あれ?僕いつの間に着替えたっけ?」

「ぐっすり眠ってしまったようでしたので私が」

「……なんか、体中すっきりしてるんだけど」

「すみません、少々酒の匂いが酷かったので服を脱がせて身体を拭きました。今は大分匂いも取れているようですが、どうですか?」


「……完璧だよ、ありがとう、テンペスト……」

「良かったです。また何かあった時には任せて下さい。人の世話をするというのも面白いものですね。ああ、基本的にニール以外はするつもりはありませんので安心して下さい」

「なんか、心が痛いよ、テンペスト……」

「制限があるので仕方ないです。私に出来ないことは誰かにしてもらわなければなりませんから。でも、時が来たらきっとその人達に負けないように頑張りたいと思います」


 頑張る……と言われて即座に昨日の夜の事が思い出され……。

 あれ以上を毎日だと死んでしまうんじゃないか、とちょっとだけ不安になる。

 まさか、とは思いつつも、やる時には全力でマスターしようとするテンペストのことだ。やるとなったら本当にやる可能性がある。


「いや、頑張りすぎるのも色々アレだから。そういうのは段々慣れていこう。ね?」

「?……そうですか。分かりました」


 数年後という近い将来に若干の不安を覚えながら、ニールは朝食を食べに行くのだった。


 □□□□□□


 ニール、コリー、ウルの3人がダウンしているということで今日はお留守番となった。

 代わりにサイラス、ギアズの2人が一緒に来る。運転はラウリだ。

 書類関連は終わったらしく、新しく受け取った報告書を見て大きく頷くとサインをして送り返す。


「何の報告書だったのですか?」

「テンペストの相棒だった男のことだよコンラッドだっけか。彼の顔に関しての変更を色々と指示していたんだ。あれは仮面みたいなもので口は動くが表情は出なかったからね」

「ということは表情を作れるようになったのですか?」

「まだぎこちないみたいだけども、ある程度は……ってところだね。あまり感情が表に出ないタイプの人程度には変わったそうだ」

「……彼はやたらと感情豊かだと記憶しています。飛行中にも一人でジョークを言って笑ったりなどしていたので」


 ちなみにジョークの中身はイマイチ理解できなかった。

 韻を踏む等の独特な表現は少しあの時のテンペストには難しかったのだ。

 そういう事をする度に任務に集中して下さいというのがテンペストの仕事だったりする。


「まだ学園に通うには早いですか」

「そうだね……まあそれでも帰る前にはなんとか出来るんじゃないかな」

「試験機の再利用に関しては少しずつ進んでいると言うことだったので、しばらくはそちらで暇をつぶしておいてもらいます」


 向こうではコンラッドが色々と頑張ってくれている。

 最初の方こそ機体性能に追いつけずに相当怖い思いをしたようだったが、本当に墜落はしないと分かると一転してやる気になったようだ。


 ただ、それでも初めての加速具合などになかなか慣れなかったらしい。

 やたらとピーキーな設定というか、ちょっと動かすとやたらと反応してしまうという状態でまともに飛べるところまで感度を落とすことから始めたそうだ。


 人族でも動かせるようにというリクエストをこなしてくれているわけなので、色々と試して欲しい所だ。


『それで、今日はどうするつもりなのだ?』

「魔物を狩りたいと思います。ここから近い所で魔物がいるところがあれば良いのですが」

「それなら……昨日小耳に挟んだやつで地下迷宮というのがあるらしいですよ。又聞きなので定かではないですが有名なようです。なんでもいつ出来たものなのか、何の目的で作られたものなのかも分からず、工事中の崩落事故によってその存在が知れ渡ることとなった場所のようです」

「そこに魔物が居ると?」

「ええ。こちらでいうダンジョンケイブと似ているようですね。ただ、ものすごく入り組んでいるので迷ったら最後出てこれないと専らの噂のようで……」


 地下に出来た不思議な迷宮。

 迷宮の名の通り中は迷路となっており、軽い気持ちで入った者はそのまま出てくることが出来なくなる。戻ってこない者が後を絶たず、かと言って立入禁止にするには知れ渡りすぎてしまいそのまま放置されることとなった。

 未だ最奥を見たものは居らず、印をつけてもロープを這わせても必ず消えてしまい、自分の記憶やマップを頼りにするしか無い。

 当然内部では魔物も発生する為、危険度は高い。


 ハイランドのダンジョンケイブとは違い、明らかに人工的な造りになっているのだがこれを作ったという資料などは何処にも見当たらない。

 それでいてしっかりと階段などが作られており、今でもこの迷宮の攻略を目的に据えた者達が毎日のように出入りしている……らしい。


『……危険ではないか?』

「記憶、という点ではこれ以上無いくらいの適任者がここに居ますし、先人が残した地図自体は残っていますからね、探索済みのところをなぞるだけなら問題ないでしょう。どうせそれでも魔物は尽きずに沸いてくるらしいですよ?」

「興味深いです。どんな魔物が居るにせよ、素材を入手できるのであれば研究が捗るでしょう」

『儂らが居たときにそういう話は聞いたことが無いな。面白い、安全が確保されているところまでなら行って見る価値はあるだろう』


 場所は知らないが、ここから近いとだけは分かっている。

 何人かに聞いてみれば簡単に見つかるだろうという事で城の門に詰めている衛兵に話を聞いてみた。


「地下迷宮に行きたい、ですか?しかし……賓客としてここに居るあなた方に万一の事があったら危険ですので許可出来ません」

「それなりに実力はありますが。国でも同じようなことをしているので」

「そうは言われましても、皆様の安全を確保できない所へお連れすることは出来ません。例え歴戦の猛者であっても、客としてここへ来ている以上は何かあれば我々の責任問題にもなります、どうか、ご理解を」

「……仕方有りません。流石に我儘を通してあなた方の首が飛ぶのは見たくありません」

「申し訳ありません、どうか街の観光でご勘弁を。この壁の中ならば護衛は必要ありませんので」


 考えても見れば当然の話しだった。

 この壁の内側の街であれば、一々護衛を付けるほどの危険は無いと言われているし、何かがあればすぐに近くの衛兵が飛んでくる位だ。

 しかしその外側へとなるとその時点で護衛が必要になるし、狩りに行きたいなどとはもう守れる可能性すら怪しくなっていく。

 それが危険度の高い迷宮であれば尚更と言うものだ。


 それに、強行突破したところでそれがバレた場合、確実に彼らの責任問題になるだろう。

 他国から来た要人を護衛もせずにほったらかした挙句、危険地帯へ向かわせたとなればそれなりの処罰が下るのは目に見えている。


 ここへ来る時に、無理やり狩りに出かけたときのことを思い出し、もしかしたら彼らも罰を受けたのでは……と今更ながらに思い当たり少し悪いことをしたと思ったが、どうせ全ての罰は責任者である部隊長へと行くだろうと思い直して気にしないことにした。


「さて、とりあえず出てきたけどどうしましょうね……。地下迷宮は諦めるとして、買い物でも行きますか」

「しかし私は昨日の時点で大体買い物をしてしまいましたが」

『魔晶石だったな。コリー殿がやたらと魔道具を買っていたようだが』


 コリーの買い物はすぐに皆に知れることとなった。

 皆のためにということだったので特に問題ないのだが、よくぞそこまでぽんぽん買ったものだと若干呆れられていたのだった。

 実際有用なようだったのでベッドの寝心地を試したりなどしてみたそうだが、実際寝心地はとても良くこれだったらテントを張っても快適だろうということが分かり、無駄な出費にならずに澄んだ。


「ふむ……ならばこの土地ならではの食なんかどうですかね?ハイランドではあまりなかった揚げ物等も多いですし意外と砂糖が安いのか下の方まで甘いお菓子などは置いていましたから」

「お菓子……ですか?」

「そう言えばテンペストは甘いものが結構好きでしたね?幾つか種類はあるだろうし……食べ比べなんてのも良いのでは?」

「それは……とても魅力的ですね!」


 お菓子と聞いて目を輝かせるテンペスト。

 やはりお菓子には勝てないらしい。

 豪華な食事もいいが、甘くてふわふわの美味しいお菓子を食べるのもテンペストの好きなことの一つだ。ただし砂糖の塊のような物はあまり好きではない。


「出来れば味がきちんと分かるような上品なものが良いです」

「パンを揚げたものも売ってましたよ。私達の世界でもよく売っていたものです」

「美味しいのですか?」

「外はサクっとしていて中はしっとり。……とまで行くかは分かりませんが、少なくとも私の国で食べていたものであれば美味しかったですね、大好きでした」

「行きましょう。今すぐに」

『儂にとっては地獄の時間だな……』


 楽しくなりそうだと思ったのが出鼻をくじかれた挙句に、方向性が自分が出来ないことになってテンションはだだ下がりだった。

 物を食って味を知れるのであれば、こんなに辛い思いはしなくて良いのだがと思いつつも、既に舌を失って長いこと経っている。何も出来ずに閉じ込められていたあの時とは違い、自由がある。


『自由か。良いものだな……それに比べたら食えないくらいは受け入れてやろうではないか』

「ギアズ、早く乗って下さい」

『お、おお……スマン。行こうか』


 まるで本当に年頃の女の子の様な振る舞いをするテンペストを見て、少し気が変わった。

 なるほど、子供や孫が居ればこういう感じなのかと。

 であれば、その子の笑顔を見るために付き合うのも良いものだと。


『……これが厳しかった者が孫ができた途端に優しくなる気持ちなのだろうな』


 ならば自分もその気持を楽しもう。

 そう思うギアズだった。

ウルは童貞と処女を卒業した!

経験値を獲得、レベルが1上がった!

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