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52.ヴェラットの加入と出立

 ヴェラットは谷の魔女の命令に逆らえない。私を見張るという命令が下されたから、仲間になりたいと言ったのだろう。


「……私は賛成」

「えっ?」

「ヴェラットの強さは皆知ってる。私達の成長の妨げになるから、私達には手に負えない魔物以外には手を出さないでほしいけれど、いざというとき近くにいると心強い」


 私の意見に皆はぽかんと口を開けたまま固まった。何か変なことを言っただろうか。


「何か違った?」

「いや、間違ってはないけど」

「魔物やその土地の知識も豊富。しかもパーティーに不足している前衛の攻撃職。断る理由がない」

「ちょっと待って。どうしてソフィがそこまで推すんだい?」


 谷の魔女の命令に逆らえないヴェラットのためとは言えず、口を閉ざした。


「君の言う通り断る理由がないのだから、ヴェラットさんを仲間に誘う利点を説明する必要はないよ」

「……あ」

「ソフィっていつも静かなのに、時々話し出すと止まらなくなるときがあるよね」

「あえて理由を挙げるとすれば、ヴェラットさんの目的がわからないことだね。でも、理由は言えないんですよね?」


 カイがヴェラットに目を向けると、彼は頷いた。


「……あぁ」

「だったら追及はしません。僕達を裏切らない限り、あなたを仲間として認めます。ようこそ、狼の集いへ」

「改めてよろしくな、ラット!」

「仲間になったから、さん付けは止めてもいいかな? 一緒に頑張ろうね、ラット!」


 翌日冒険者ギルドに申し出て、ヴェラットが正式に狼の集いの仲間入りをした。




「皆、準備はできたか?」


 荒波の誓いのリーダー、ラウルが私達を振り返る。


「うん、いつでも出発してもいいよ!」

「船ってなんかワクワクするな!」

「レオ、あまり動かないでくれるかい? 食べたものを吐いてしまいそうだ」


 私達は荒波の誓いが操る船に乗っていた。


 ヴェラットが狼の集いに加入した後もしばらくの間フリートベルクを拠点に活動していたけれど、エマがそろそろ他の場所に行きたいと言ったので移動することになった。

 徒歩で帰るつもりだったけれど、荒波の誓いに旅立つことを伝えたら船でランメルツまで送ってくれることになったのだ。


「俺達は生まれも育ちもフリートベルクで、他の地に行ったことがないんだ」

「お前達を送るついでに少し冒険するつもりだ」

「それに王都から来たんだったら、船にも乗ったことがないだろ?」

「大陸が視界に入る距離なら災厄級の魔物は出没しないから安心してくれ」


 今回はフリートベルクやランメルツの危険な森を避け、海を通ってランメルツの領都に戻るつもりだ。

 領都は崖の上にあるから船で直接行くことができないけれど、近くに登れる崖があるらしい。道ではなく崖と聞いてエマが嫌がっていたけれど。


「乗組員の人数よし」

「前方確認よし」

「左右確認よし」

「後方確認よし」

「出航だ、お前ら!」

「おう!」


 息の合った四人のオール捌きでどんどん陸から離れていく。岩礁を抜けた辺りで船は西に進路をとり、帆が追い風を受けて前へ前へ進む。水しぶきが船の真ん中に座る私達にも届いて、エマが楽しそうに笑う。


「船ってすごいね! こんな広い海をものともせずに進んでいくよ!」

「確かに凄いけど、ちょっと揺れが酷いかな……うっぷ」

「オレもそいつを使いたいぜ!」

「オールのことか? 風は良好、波は穏やかだからいいぜ!」


 エマの横でカイが口を押さえて吐きそうな顔をしているけれど、レオはお構いなしに立ち上がり漕ぐ役割を交代する。その動作で船が傾き、カイの吐き気を増長させていることに気づかないのか。


「……フッ、やはりお前らといると飽きないな」


 ヴェラットが一人呟く。一緒にいて楽しい、という意味で合っているだろうか。意外に思って見つめていると、彼が振り返り目が合った。


「なんだ?」

「何も」


 私は顔を逸らして海に目を向けた。時々魚が飛び跳ねるけれど、危険なものはリーダーのラウルが槍で一突きし、それ以外は無視される。


「フリートベルクに来て、本当に良かったね! 海を見ることができたし、船に乗れたし」

「……エマ、当初の目的を忘れてないかい?」

「も、勿論観光のためじゃないよ! いろんな魔物と戦えたし、強い人もいっぱいいたし、友達もできたし」

「おっ、友達って俺らのことか?」

「ひゅー、嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか!」


 エマの言葉を聞いて、荒波の誓いが船を漕ぐ速度が上がった。


「でも、これで終わりじゃないよね?」

「うん! 王都に帰る途中でマークヴェストに寄って、その後はグレンブルクに行くの!」

「……グレンブルクは初めて聞いたけど」

「あれ、そうだっけ?」


 カイの指摘にエマが首を傾げるけれど、撤回するつもりはなさそうだ。


「これからもよろしくね、みんな!」


 笑顔のエマを乗せて、船はランメルツへ向かった。着岸したのがゴツゴツとした岩場で、首が痛くなるほど見上げても終わりの見えない崖に笑顔は消え去ったけれど。


 フリートベルク滞在記は終わり、マークヴェストに寄り道して私達の過去を辿る旅の始まりだ。

ここまでお読みくださりありがとうございます。

第一章が完結しました。


この後閑話と登場人物紹介を挟んで、間章 結成「狼の集い」が始まります。

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