49.仲間の元へ
私は白の魔女に詰め寄って返事を求める。八つ当たりなのはわかっているけれど、止められなかった。
「私が呼んだとき、すぐに駆けつけてくれたら波間の魔女が死なずに済んだかもしれないのに、どうして?」
私の言葉に白の魔女は目を伏せる。
「申し訳ありません」
「私は理由を聞いてるの」
「ソフィ……」
「それは言えません」
「……もういい。他人に助けを求めた私が駄目だった」
白の魔女に背を向ける。
谷の魔女に災厄の魔女。魔女は私の十年程度の努力を嘲笑うかのように強い。
これ以上仲間を失わないために、もっと強くならなければ。そんな決意を胸の内に秘め、森の魔女に目を向けた。
「私を領都まで送って」
「……白の魔女と話さなくていいのかな? 多分、あの人は……」
「白の魔女が何?」
「……いや、何でもない。館の前……は人だかりができているから、東門にほど近い森に転移させるね」
目を閉じて転移の瞬間を待つ。少しの浮遊感の後、私は草の生えた地面に立っていた。目を開けると、鬱蒼とした森の中。白の魔女も森の魔女もいない。
「閉門の時間なんだけど……」
日没を過ぎたから門は閉まっていたけれど、詰所にいる兵士に冒険者プレートを見せて中に入れてもらった。照明の魔術具が街を照らしているからか、夜でも活動的な人が多い。仲間がいるのは宿屋だろうか。
大通りは明るいけれど、路地裏に入ると途端に薄暗くなる。兵士が巡回しているから治安は良さそうだけれど、一人で長居したくない場所だ。
「いらっしゃい、今日はもう満室だよ」
狼の集いが泊まる宿屋に行ったけれど、仲間はどこにもいない。どこかに食べに行っているのだろうか。
皿洗いをしている主人に冒険者プレートを見せて尋ねる。
「狼の集いはどこへ行った?」
「あぁ、仲間だったか。そいつらなら領主様の館を見に行ったぞ。仲間がそこにいるからって慌てて出ていったな」
そういえば森の魔女が蔦を生やしすぎて、高台の館が壊れたのだった。騎士団も集まっていたし、かなりの騒ぎになっただろう。おまけに、館の主である波間の魔女は殺されてしまった。
急いで高台の館に向かう。夜も深まり、今は騒ぎも落ち着いているようだ。けれど、巡回する騎士の数が明らかに多くて、ピリついた雰囲気が漂っていた。
「はぁ……はぁ……」
館へと続く坂を一気に上って体力をかなり消費した。腕で侵入を防ごうとする騎士を振り払って、崩壊した館の近くに行く。
「ソフィを見ませんでしたか? 黒髪を二つに分け三つ編みにしている少女です」
「あたし達の大切な仲間なの! ここに行くって別れてからちっとも帰ってこないから心配で……」
「チビだから狭いとこにいるかもな! どこ行ったんだよ!」
仲間が騎士団や冒険者達と一緒に瓦礫をどかして私を探している。
私はここにいると言いたいのに、荒い呼吸が収まらず掠れた声しか出ない。
「おい、ソフィならお前らの後ろにいるぞ」
「え?」
どこからかヴェラットの声がして、仲間達が一斉に振り返る。私と目が合うと、エマに涙を浮かべて駆け寄ってきた。
「ソフィ!」
「もがっ」
勢いよく抱きついてきたので、踏み止まることができずに二人揃って倒れてしまう。
「良かった、無事だったんだね! どこにもいないから心配したよ!」
「く、くるし……」
「エマ、ソフィが苦しんでるよ。離してあげて」
「あ、ごめんね」
カイの声でやっとエマの抱擁から解放された。エマに腕を引かれて身体を起こす。
「ひどい怪我! あたしが治してあげるね」
「ん」
エマに回復魔法を使ってもらい傷は癒えたけれど、体全体の疲れは取れない。必死すぎて気づかなかったけれど、魔力も底をつきかけているようだ。
エマ達と別れた後に起こったことを思い出し、魔力枯渇で気を失わなかっただけまだましと思い直した。
「あれ? ソフィは館に行ったんだよね? いつの間にあたし達の後ろに移動したの?」
エマの率直な疑問にどう答えればいいのか考える。災厄の魔女が波間の魔女を殺して、森の魔女と白の魔女が助けに来てくれて、転移魔法であちらこちらに移動して。
私の言葉を待っているのはエマだけではないので、彼女にしか聞こえないよう耳元で言った。
「“まじょさん”に会った」
「え? ……ええっ!?」
「エマ、ソフィは何と……」
「いつ、どこで!? 元気にしてた!?」
カイの言葉を遮って、エマは私の両肩に手を置きまじょさん――森の魔女について深く聞こうとする。けれど、返事をする前に限界が来てしまった。
「あ……」
「ソフィ!?」
二度目の魔力枯渇。目が覚めたのは四日後の昼だった。
目を開けると心配した様子のエマと目が合う。私が起きたことに気づくと安堵の笑みを浮かべた。
「おはよう、ソフィ。ずっと寝てたけど大丈夫?」
「ん。魔力はほとんど回復した。戦うのは無理だけれど、動けはする」
「無理はしないでね」
エマがスープとそれに浸されたパンを用意してくれた。それを食べ終えて、私は自分の杖に手を伸ばす。
森の魔女が使う土魔法は、練度が高く無駄がなかった。どれだけ努力を積めばあの高みに至れるのだろう。
時間がかかることは百も承知だ。生涯かけて磨いても森の魔女がいる領域には届かないかもしれない。
それでも私は。
「土の球。土の矢。土の……」
ひたすら魔法を撃ち続ける。これ以上仲間を失わないために。大切な人を守れるように。
「ソフィ、起きてる? 元気だったら一緒に海に……ちょっと、何やってるの!?」
「あ……」
扉を開けたエマが目をつり上げる。彼女が怒る姿を見るのはいつ以来だろう。
「目覚めたばかりなんだから、魔法を使わず休んでてよ! しかも、ここ建物の中! 魔法を使う場所じゃないよ。あたしが掃除しないといけないじゃない」
エマにこっぴどく叱られて、魔力が完全に回復するまでは魔法の行使を禁じられた。勿論、建物の中はいつでも禁止だ。
「皆を守るために……」
「ソフィは一人で抱え込もうとしないで、もっとあたし達を頼ってよ。仲間でしょ?」
「……わかった」
エマと一緒に部屋を掃除する。砂を全部外に出すと、「それだけ元気なら、海に行こうよ!」と強制的に外へ連れ出された。




