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27.港街の冒険者ギルド

「ここがフリートベルクの冒険者ギルド……うっ!」


 エマが扉を開けた途端、嗅ぎ慣れない匂いが外に溢れた。思わずエマと一緒に鼻を押さえる。


「何故立ち止まるのだ?」

「匂いがちょっと……」

「……海産物の香りか。海の目の前にあるから、嫌でも毎日嗅ぐことになるぞ。耐えられないなら王都に帰るか?」

「それは嫌! そのうち慣れるよ、多分」


 ヴェラットの言った通り、受付や解体部屋に魚や貝などの海の魔物が置かれている。併設された酒場でも海鮮料理を振る舞っているし、これが日常なら慣れるしかない。


「エマ、ソフィ、ヴェラットさん。こっちだよ」

「カイ!」

「待ちくたびれて先に食べ始めちゃったぜ!」


 声のした方を見ると、酒場のテーブルにカイとレオがついていた。カイの前には水だけだけれど、レオの前には魚料理と思われるものと空になった皿が数枚置かれている。

 私達も椅子に座ってこの店お勧めの料理を注文する。運ばれてきたのは魚の塩焼きだ。


「冒険者が狩る魔物には海の魔物も含まれるから、海の近くにギルドがあるらしいよ」

「魚なんかじゃ物足りないぜ! おっさん、肉料理はないんか?」

「ヴァルトエーバーとゲヴァイヒルシュならあるぞ」

「イノシシは最近食ったから、ゲヴァイ何とかで!」


 ゲヴァイヒルシュが何かレオはわかっていないと思うけれど、毎日食べていたヴァルトエーバーよりましと思ったのかそれを注文した。

 レオが頼んだ魔物が何か、私達も知らない。エマがヴェラットに尋ねる。


「ゲヴァイヒルシュってなぁに?」

「二本の立派な角が特徴的な鹿型の魔物だ。あれは希少な雷属性の魔石を落とすのだが、冒険者は食べてしまうのか」

「魔石の方が高く売れるの?」

「あぁ、フリートベルクには魔石専門の買取屋がある。そこに行けば肉や角などより高額で買い取ってもらえるだろう」

「えっ!?」


 ヴェラットの説明に驚いた声を上げたのは、私達ではなく隣のテーブルに着く冒険者だ。よく見ると、他の冒険者も彼の解説に興味があるのか、料理を食べながら耳を傾けていた。

 周りに注目されていることに気づいたヴェラットは、無言で魚料理を食べ始める。この料理美味しいね、と食べながら話していると、興味が失せたのか自分の料理に意識を戻す人が増えていった。


「はぁ、美味しかった〜。ラットさんは本当に魔物に詳しいんだね。地元の冒険者でも知らないことを言って注目されてたよ」

「王国に出没する魔物ならばほぼ頭に入っている。記憶していないのは普段立ち入りが禁じられている地域にいる魔物くらいだ」


 知っていて当然というような顔をしているけれど、ヴェラットが詳しいのは国を護る騎士として勉強に励んだからだろう。それが冒険者になった今でも役に立っているのだ。彼の努力が無駄ではなかったと思いたい。


「明日は街を散策したいなぁ」

「エマ、それは無理だよ」


 エマのいつもの要望に待ったをかけたのはカイだった。


「どうして?」

「ランメルツにフリートベルクと街を満喫しすぎで所持金が僅かなんだ。明日は依頼をこなさないと夜ご飯を食べるお金すらないよ」

「それは困る! じゃあ、明日は依頼の日で! ……ラットさんは? フリートベルクでやりたいことがあるんだよね?」

「……いや、お前らだけで討伐依頼をこなせるとは思えない。俺も手伝おう」


 確かにヴェラットがいれば街の外でも比較的安全に狩りができる。けれど、彼の自由時間を奪ってしまってもいいのだろうか。

 私の心の声が聞こえたのか、不意にヴェラットが私を見た。


「それに、俺のやりたいことを円滑に進めるためにはソフィの存在が必須だからな」

「え?」

「街に入った時点で波間の魔女はお前の存在に気づいただろう。恐らく数日以内に動きがあるはずだ」


 この街に棲む魔女と私にどういう関わりがあるのか知らないけれど、彼は私を餌に波間の魔女を誘き寄せることができると考えているようだ。


「私はただの魔法使いだけれど」

「魔女ではなかったのか?」

「まだ確信したわけではない。それに、国内では珍しいだけで、国外には魔女がたくさんいるはず。私一人に拘るとは思えない」

「……あそこにいる者達はお前のことを見ているが?」


 ヴェラットが顎で示した方を見ると、知らない二人組と目が合う。二人はすぐに人混みに隠れたけれど、服装が明らかに庶民のものではなかった。


「フリートベルク家に仕える者の制服だ。波間の魔女かフリートベルク辺境伯の指示で動いているのだろう」

「つけられていたの?」

「あぁ、宿屋を出てすぐにな」

「全く気がつかなかった」


 人通りが多いと尾行に気づきにくい。いや、二人の姿を見ても魔力をほとんど感じなかったから、魔力を隠すのに長けているのだろう。貴族ならば誰でも身につけている技術なのだろうかと、近寄らないと魔力を感知できないヴェラットを見た。


「どうした?」

「何も」


 目が合ったので視線を逸らす。緩やかな上り坂が終わったかと思えば、お祭り騒ぎのような人混みだ。人の壁ができていて、通れそうにない。


「……貴族の馬車が通るな」

「でも、道広かったよ? 馬車が二台でも普通に歩けたし」

「領主の帰還ならば皆、道を開けるであろう」


 人の壁が分厚くて何も見えなかったけれど、歓声が収まって人々が日常に戻ったから、もう馬車は去ったのだろう。私達は大通りを横切り宿屋に向かった。

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