港街編第1話 街入り
「中級冒険者パーティー『狼の集い』の四人と、上級冒険者のヴェラットだな。フリートベルクによく来た、歓迎しよう」
「ありがとうございます」
門番に冒険者プレートを見せて、領都フリートベルクに一歩足を踏み入れた。
人間、エルフ、獣人……行き交う人の種族は様々だ。肌の色が濃い人もいる。外国の人だろうか。
「白い壁に青い屋根の色が、青い海に合ってて綺麗だね! 石畳の道も素敵。早く海に行きたいなぁ」
「その前に冒険者ギルドに行くよ、エマ。ここにはしばらく滞在するつもりでいるんだろう?」
「うん! 海を思いっきり満喫してから帰るつもりだよ」
冒険者ギルドは大抵大通りに面していて、門の近くにあることが多い。だから人通りが多い道を選べばすぐ辿り着けると思っていたけれど、城前広場まで歩いても見当たらない。
「ねぇ、お兄さん。冒険者ギルドがどこにあるか知ってる?」
「旅の人か? ギルドならあの坂を下った先だぞ」
「ありがとう!」
道行く人に教えられたところへ行くと、海岸へ続くなだらかな坂があった。門から遠ざかるけれど、本当にこの先にあるのだろうか。
「ランメルツより坂が緩やかで良かったね」
「でも、どこまで続いているんだろう。先に宿屋を探した方がいいかな?」
「じゃあ、あたしとソフィで探しに行くよ! 一緒に行こう、ソフィ!」
「ん」
「俺が案内する。フリートベルクは広いから慣れてないと迷子になるぞ」
「じゃあ、僕とレオは先にギルドに行くよ」
今夜泊まる宿屋を探す私とエマ、ヴェラットと、先行して冒険者ギルドに向かうカイとレオに分かれて行動することに。夕日に照らされた街並みは美しく、どこからか潮の匂いが運ばれてきた。
「冒険者向けの宿屋があるのはこちらだ」
先導するヴェラットが大通りから一本外れた道に入る。大通りの店はいかにも格式のある建物ばかりで、馬車が行き交う様子が見えた。
けれど、大通りから離れれば離れるほど庶民的な建物が目立つようになる。歩いている人も冒険者や旅の人が中心だ。一軒目の宿屋は満室と断られたけれど、二軒目で空きが見つかった。
「……二部屋だけか」
「ラットさんはいつも別の部屋だよね。他の宿屋を探す?」
「……いや、カイとレオと同じ部屋にしよう」
今まで別々の部屋にしていたヴェラットが相部屋を選んだ。少しは距離が縮まったと捉えていいだろうか。
「波間の魔女との面会を済ませれば出ていく部屋だ。数日耐えればよい」
そう期待したけれど、そんな呟きが聞こえた。まだ壁は厚いようだ。
「何日泊まるんだい?」
「とりあえず一週間かな?」
「六日だね、あいよ」
一週間は火水風土光闇の六日だ。五週で一月、つまり一か月は三十日。それを十二か月繰り返して、一年は三百六十日になる。
エマは一週間と言ったけれど、滞在期間がそれだけで済むとは思っていない。まだ訪れていないフリートベルクの東部に寄る可能性も含めて、一月は滞在することになるだろう。
部屋に荷物を置いたら冒険者ギルドにいるであろうカイ達と合流だ。ヴェラットの案内で大通りを横切り、なだらかな坂を下っていく。海に近づくにつれ、次第に喧騒が大きくなっていった。もう日が沈んだのに、街が明るい。街を照らすものからは僅かに魔力を感じた。
「あれは魔術具?」
「あぁ、光魔法で辺りを照らす魔術具だ。光属性の魔石を使っているから、魔力を流せば誰でも灯せる優れものである」
以前商人のアルバンが言っていた属性魔石だろうか。これほどたくさんあるのだから、街の近くに光属性の性質を持つ魔物が生息しているに違いない。
「でも、これだけの数の魔術具一つ一つに魔力を流すのは大変なんじゃない?」
「いや、街全体に描かれた魔法陣に魔力を流して光らせているのだろう。魔法陣に魔力を流して、結界で街を護ったり魔術具を作動させたりするのは領主の仕事だ」
ヴェラットの元の名前はヘルフリート・レヴィン、レヴィン男爵だった人の弟だ。元領主一族だから、領主の仕事にも詳しいのだろう。
入り組んだ道を歩いていると、不意に開けた場所に出た。海が目の前に広がっていて、大小様々な船が停泊している。海岸沿いは屋台通りになっていて、日が暮れてもたくさんの人が集まっていた。
魔術具だけでなく人混みからも魔力反応が多数あって、あまりの情報量の多さに頭が痛くなる。
「わぁ、すごい人……って、ソフィ大丈夫!?」
「どうした?」
振り返ったエマが私の異変に気づいて顔を覗き込んだ。
「大丈夫、人混みに酔っただけ」
「そういえば、初めて王都に来たときも気持ち悪そうにしてたね。魔力感知が原因なの?」
「多分」
普段は余分な情報を遮断できているけれど、突然人が多いところに出ると頭が痛くなったり立ちくらみがする。こういうときは目を閉じて深呼吸をするのが一番だ。不要な魔力反応を意識の外に追いやって、目の前にいるエマやヴェラットの魔力だけに集中する。頭痛が治まったところで目を開けた。
「もう大丈夫」
「気持ち悪くなったらすぐに言ってね?」
「ん」
いい香りのする屋台通りを歩いていると、お腹が空いてくる。宿屋か酒場で夕食を摂るつもりだし、全員が揃った後で屋台巡りした方が楽しいだろう。何度も屋台の料理に心惹かれながら先を行くヴェラットの後を追った。
「わぁ、大きな船!」
エマは料理よりも海が気になるようだ。船を見上げて目を輝かせている。
「冒険者ギルドに着いたぞ」
ヴェラットの声にはっとして通りに視線を戻す。港からほど近いところに冒険者ギルドがあった。




