第24話:羞恥は、私の生きてる証
瘴気が完全に消えて、
街には少しずつ、人の気配が戻り始めた。
瓦礫の山だった通りには、
壊れた屋台の木材を組み直す音。
香草を煮込む匂い。
子供たちが、小さな声でまた歌を口ずさむ。
(……本当に、終わったんだ……)
胸の奥で小さくドクンと鳴る音が、
それを優しく確かめるみたいに、また私の肌を揺らした。
---
石畳の道を歩きながら、
そっと自分の胸に手を当てる。
そこにはもう、
装甲なんて何もなかった。
極薄密着のPSUは、
あの戦いの中で全部砕け散ってしまって――
今残っているのは、
ただ私自身の、裸の鼓動。
(……これが、私……)
羞恥はまだあった。
手を当てるたびに、
その下で魔力紋が小さく脈を打って、
まだ恥ずかしくて、顔が少し熱くなる。
でも、それが嫌じゃなかった。
---
「リゼット?」
振り返ると、
レイナがいた。
黒髪を春風になぶられて、
少し細めた瞳で、私を柔らかく見つめていた。
「また胸……触ってたでしょう?」
「……だって……」
小さく笑ってしまう。
涙みたいに滲んで、でもそれは温かくて。
「ほら、見て」
私はそっと手を外して見せた。
そこには、
もう装甲なんてない、ただの私の肌。
その真ん中で、小さな魔力紋が淡く光って、
ドクン、ドクン、と生きてる音を刻んでる。
---
「恥ずかしいけど……
でも、これが私の……」
言いかけた声を、
レイナがそっと抱きしめてくれた。
冷たい手が、そっと胸に触れる。
その指先に心臓の音が伝わって、
胸の魔力紋がまた、小さく震えた。
---
「……これが、あなたの証なのね」
レイナはそう言って、
泣きそうな声で笑った。
「羞恥も、怖さも、痛みも……
全部抱えて、それでもまだここで生きてる。
そんなあなたが、
ずっとずっと、羨ましかった。」
「……レイナさん……」
また胸がドクンと鳴って、
息が詰まる。
それが可笑しくて、泣き笑いみたいな声が漏れた。
---
「これからも……
きっと何度も恥ずかしくなるんだと思う。
胸がドクンてして、顔が赤くなって……」
レイナが私の額に自分の額をくっつけて、
そっと目を閉じる。
「それでいいのよ。
だってそれは――あなたが生きてる証だから。」
---
私の羞恥は、私の生きてる証。
この心臓が止まらない限り、
何度だって恥ずかしくなって、
泣いて、笑って、また前を向ける。
それでいい。
それが、私だから。
---
レイナと繋いだ手が温かい。
まだ少しだけ照れて、
でももう隠したりはしなかった。
胸の奥でまたドクンと鳴る音を感じながら――
私はゆっくり、未来へ向かって歩き出した。
---
(おわり)




