第16話:絶望の底とヒロインの“狂気じみた慰撫”
私は、
ただそこに膝をついていた。
胸の魔力紋が、
まだドクンドクンと脈を打ってる。
黒幕の声が頭の奥に残響して、
そこを撫でられるたびに、
全身が無意識に反応してしまう。
(……いや……こんなの……)
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「……全部……全部……
私が……パージしたから……」
呆然と呟くと、
涙が自然にこぼれた。
思い出す。
魔核獣と戦うたびに、
私はあの一点突破で、
羞恥に泣きながら力を出した。
(あれは……守るためだったのに……)
でも――
それすら全部、
黒幕にとっては「愛らしいショー」に過ぎなかった。
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「はぁ……っ……」
胸の魔力紋にそっと触れると、
そこはもうほとんど素肌みたいで、
脈動が指先に直に伝わる。
「……全部、パージしちゃいたい……」
その言葉が、喉から零れ落ちた。
「そしたら……もう……
楽になれるのかな……」
泣き笑いみたいに嗚咽が漏れる。
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そのとき、
そっと冷たい手が頬に触れた。
「……リゼット」
レイナがそこにいた。
瞳の奥に泣きたいくらい優しい光を湛えて。
「あなたがどれだけ汚れたと思っても、
私にとっては、
全部――愛おしいものよ」
「や……やめて……
そんな風に言わないで……」
「……だって、本当なんだもの」
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レイナは私を抱きしめた。
細い身体なのに、
どうしてこんなに温かいんだろう。
胸と胸が潰れる。
魔力紋がまた小さく光って、
それをレイナに気づかれたのが分かった。
「……恥ずかしい……
私……やだ……
レイナさんにまで、こんな……」
「ふふ……」
レイナが小さく笑う。
でもそれは、どこか壊れた音色だった。
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「いいのよ。
私が一番最初に、
あなたをこんなにしたんだから」
「……っ……や……」
「だから、責任取らせて」
そう言って、
レイナはそっと私の唇に触れた。
一瞬だけ。
でもその熱が、
胸の魔力紋にまで届いて、
またドクン、と強く跳ねた。
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「ほら――まだ平気でしょ?」
「……っ……ぁ……」
「平気じゃないのなら、
私がぜんぶ、抱きしめてあげる」
レイナの瞳はどこまでも優しくて、
でもその優しさは少し壊れていて、
怖いのに、胸が熱くなった。
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(……レイナさん……)
頭の中で何度もその名前を呼んだ。
そうしないと、
私は本当に全部パージして、
楽になってしまいそうだった。




