第216話 融合
「もう……なりふり構ってられない」
クロエはそう言って全身の魔力を透き通るような綺麗なものへと浄化していく。
魔法使いとは魔力を魔法という物理法則から外れた事象へと変換する者達のことを言う。しかし、大抵の魔法使いは変換の過程で魔力に不純物を混ぜる。また、元から魔力に不純物が入っているのも多い。
だからこそ、今クロエがやっている透き通る魔力というのは異質なものの代表格みたいなものなのだ。
「透き通る魔力……聖職者しか出来ないと思っていたのだがな……」
「魂を扱う魔法が使える部分に関しては聖職者と同義な存在ってことよ。まぁ、そんなことはどうでもいいわ」
クロエはそう言って全身に特殊な魔力を纏う。
「”神龍化”」
クロエの体が光る魔力に包まれた。その魔力は特殊な力を帯びており、神秘的で妖艶な服を形成する。
「本気なんだな。だったら……お前の力に敬意を示す。かかってこい」
そう言ってオーディンは魔剣グラムを構えると共に、自分の周りに20本のグングニルを出現させた。
「”神龍武装・天空剣”」
クロエがそう唱えると、クロエの羽を覆うように何かが空から降ってくる。そして、それはクロエの羽に覆いかぶさり羽を武装した。
「……剣の羽か」
オーディンのグングニルが真っ直ぐクロエに向かって突っ込む。しかし、クロエは羽の一部を飛ばしてグングニルを撃墜した。
「やる」
クロエは両手に剣を握りしめ急降下する。その先にはオーディンがいた。オーディンはすぐさま自分が狙われていることに気づき、空に浮かび上がる。しかし、クロエは当然のように追いかけてくる。
「破壊神としての力を使う。”羅刹斬”」
たった一瞬だった。一振したように思えたが、実際は何十、何百、何千と切りつけていたのだ。一瞬にしてクロエの視界は黒い魔力で染め上げられ、オーディンが放った斬撃が体を襲う。
しかし、幸いなことにクロエの神龍化にも、神龍武装にも自動回避術式が組み込まれていた。だから、咄嗟にオーディンの攻撃を躱すことが出来た。しかし、オーディンの追撃が迫ってくる。
「”行け”」
クロエの掛け声とともに背中の剣が飛び出す。それは、向かってくるグングニルを全て弾き落とす。そして、クロエは超高速でオーディンの周囲を飛び回り始めた。
「飛んでいたら攻撃は当たらないとでも思ってるのか?俺には範囲攻撃があるんだがな。”グングニル・第6形態・星屑の光”」
無数に煌めく光の刃がクロエに向かって飛んできた。と言うより、この空間を埋めつくしている感じがする。とにかく、今クロエの目の前には光る刃が迫ってきていた。
「”灼熱の吐息”」
クロエはその妖艶な唇を突き出しフゥっと息を吐く。すると、凄まじい勢いの炎が吹き上がった。その炎は無数の刃をドロドロに溶かし無力化する。
「なるほど。小さくなれば耐久値が下がるか」
オーディンはすぐにグングニルを元の姿に戻す。そして、今度は剣を構えた。そして、クロエを目で追う。
「……」
そんな時、ふと何か気配があることに気がついた。しかし、今ここに立っているのはクロエだけだ。他の人はみんな気絶しているはず。オーディンはそう思い込んでいた。
しかし、唐突に胸を剣で突き刺されて気がつく。そこにはもう1人立っている人がいたのだ。
その人は目から血を流し、唇を噛み切って痛みに耐え意識を保ち、必ず倒すという強い意志を持って枯渇した魔力を無理やり引き出ししている。
そんな時、オーディンは背中から突き刺されているのに目の前に人型の何かがいることを確認した。その何かは人っぽいが人ではない。そして見たことがある。
「やって!カッパくん!」
フィトリアの声が聞こえた。それでオーディンは理解する。今後ろから突き刺しているのはフィトリアで、目の前にいるのはその従魔のカッパなのだと。
「あの時切った感触はあったが、死なないのか?」
「カッパくんたちは式神に近いのじゃ!だから、異次元にある魂の源を破壊しない限り永遠に復活するのじゃ!」
「ほぅ、いい能力じゃないか。だが、まだ弱い」
オーディンはそう言ってカッパの攻撃をいとも容易く受け止める。そして、すぐに振り返りフィトリアの首を絞めた。
しかし、そこにクロエが割り込んでくる。フィトリアの首を締める腕を狙って剣を振り下ろしてきた。オーディンはそれすらも見えていた。どうやらこうするように誘導されていたらしい。パッと手を離されそのまま顔を横から強く殴られる。クロエはその勢いに負け、フィトリアを巻き込みながら10m近く飛ばされた。
「死角を着いたつもりなんだろうが、出来てないな」
オーディンはそう言ってニヤリと笑う。そして、すぐにクロエ達との距離を詰め攻撃をする。クロエはオーディンのその速さに驚き言葉を失った。そして、何とか体を起こし逃げようとする。
しかし、咄嗟に動いてももう間に合わない。オーディンの強いかかと落としがクロエの頭に直撃した。クロエはその勢いのまま顎を地面に強打し、顔を強く押しつぶされそうになる。
「このぉ!」
その時、フィトリアが剣を振った。オーディンはそれを躱したことにより、クロエから離れる。だが、既にクロエの意識は失われていた。白目を向き鼻血を垂らして倒れたままだ。
「これで1体1。さぁ、どうする?」
フィトリアは向かってくるオーディンを見て少しだけ胸が苦しくなった。皆は倒れているのに自分だけ起きている。何故か凄く申し訳ない気持ちになった。
しかし、それ以上に、ここで負けてしまったらもっと申し訳ないと思った。だから、この苦しむ胸を押さえつけて最後の力を振り絞らなければならない。そう理解し体が勝手に動き始めるのを止めなかった。
「私だってやる時はやるのよ!”開放・魂繋呪”」
フィトリアが何かを唱えると、フィトリアが従える魔獣達の胸の辺りが光り始めた。そして、当然フィトリアの胸も光るし人形の胸も光る。
その異様な光景にオーディンは少しだけ警戒をする。
「”グングニル・第5形態・厄災の守り人”」
グングニルが変形を始めた。そして、オーディンを包み込む球体へと変わる。それは、特殊な模様が描かれており、強い力を感じる。
「もう遅いのじゃ”混ざり合え。融合”」
そしてその瞬間、フィトリアとその魔獣達が光に包まれ融合する。そして、先程よりもお嬢様感が増した、魔物の女王みたいなフィトリアが光の中から姿を表す。
「……魂の形はそのままか」
「えぇ。元には戻れるわ。ただ、これを使うと魔力が枯渇するから、最終奥義なのよ。そういうことだから、死んでちょうだい」
フィトリアはそう言って剣を握りしめ振り下ろした。すると、オーディンの右腕が切断され、その背後の地面に巨大な亀裂が入った。
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