第217話 俺は闇だけど
「……」
オーディンは切断された右腕を抑えながら目の前のフィトリアの姿に言葉を失う。融合すると言ったのだから、どれだけ醜悪な姿になるのだろうかと思っていたら、思ったより綺麗な姿のフィトリアが出てきたからだ。
「厄介なのはあの力か……」
オーディンはそう呟く。そして、目の前にある切断されたグングニルを見つめた。
そう、今フィトリアに攻撃された瞬間もオーディンはグングニルの能力を発動していたのだ。大抵の技なら防げるし、ほとんど壊されることがないグングニルの防壁。フィトリアはそれを難なく破ったのだ。
「……うぅっ!?」
その時、フィトリアは突然嘔吐した。そして、苦しげな表情で四つん這いになる。その隙にオーディンは右腕をくっつけることにした。飛んで行った右腕を呼び戻し、回復魔法で無理やりくっつける。
そして、オーディンはくっついた右腕をブンブンと振り回した。すると、右腕の裾がどっかに飛んでいく。
「あ……」
オーディンはそれを見て少しだけ悲しくなった。しかし、戦闘中に気をそらすことは出来ないと思いすぐにフィトリアに向き合う。
「……はぁ……こんなに……苦しいなんて……!でも……!」
フィトリアは痛む体を無理やり起こし、ボケる視界を目をこすって無理やりピントを合わして構えた。
「これが最後だ。”天帝輪廻……」
オーディンはグラムを天に掲げ強いオーラを放つ。
「……この威力だと……躱せない……。でも……負けられない!」
フィトリアはそう言って剣を顔の前に持ってくる。そして、想いを込めた。
「”想いの剣”」
フィトリアはそう叫んで剣を振るう。
「……塵壊魔”」
オーディンは小さくそう呟いて剣を振るった。
その瞬間、フィトリアの体に大きな傷ができる。致命傷とまではいかないが、一時は動けなくなる程だ。
そして、オーディンも同じように傷ができていた。こちらも致命傷とまではいかないが、戦闘離脱を余儀なくされるほどだ。
「全く……とんでもない威力だよ」
オーディンはそう呟いて片膝を着く。そして、倒れかけているフィトリアを見てすぐに起き上がり、体を支えると少しだけ微笑んだ。
「真耶……君の意思は受け継がれてるよ」
その瞬間風が吹く……
━━……吹き抜ける風はとこまでも突き進み真耶の背中を押した。
「……全く……」
真耶はそう小さく呟く。そして、走っているその足を少しだけ止め、少しだけ振り返ってすぐに前を向いた。前には少し大きな段差があり、その下に広い空間がある。
だが、そこには空間以外に何もない。そして、誰もいなかった。真耶はそれを確認した瞬間に左腕に握る剣を振り下ろした。すると、ちょうどいいタイミングでアーサーの攻撃が飛んできた。
「見えてたのか?」
「見えてた」
「よく見えるんだな」
「これでもエイムには自信がある」
2人はそんな会話をする。その間にも2人は激しい戦闘を繰り広げる。大抵の人は見えないような速さの攻撃が何度も何度もぶつかり合う。2人はそんな間にも平然とした口調で表情一つ変えない。
「俺は闇の中にいた。お前は光の中にいた」
唐突に真耶がそんなことを言い始めた。しかし、2人の手は止まらない。何度も何度も切りかかる。
「でも俺はそれで満足だったんだ。どんな状況でも、どんな状態でも、2人でいられることが幸せだったんだ!」
「だが、我は違う!お前といることは苦痛だった!目の前に嫌いな奴がいて楽しく過ごせるわけないだろ」
アーサーは苦しげな表情で真耶にそう言う。しかし、その声はまるで嘘をついているかのようだった。いや、嘘はついてないのかもしれない。だが、苦しそうなことには変わりなかった。
「……まぁ、ごもっともだな。嫌いな奴が目の前にいたら、笑えるもんも笑えねぇわな」
真耶は少しだけ悲しそうにそう言って超高速の連撃を繰り出す。唐突に繰り出されたその攻撃にアーサーは反応しきれずに弾き飛ばされた。
「……多分、全ての元凶は俺なんだよな。俺の中にある記憶が……偽りかもしれない記憶が、あの時のことを後悔し続ける。俺の心が開き直ろうと、忘れ去ろうと、こびりついた記憶が後悔し続けるんだよなぁ」
真耶はそう言って少し俯いた。そして、悲しげな目をアーサーに向けて少しだけ本気を出すことに決めた。
「っ!?」
真耶の姿が消える。そして、すぐに自分の背後に現れた。アーサーはすぐに反応し真耶の攻撃を弾き返そうとする。しかし、真耶の剣にまとわりつく闇はいつもの剣を何倍にも重たくする。
「っ!?」
ギリギリで弾き返すことはできたが、その重たさ故に少しだけ後ずさってしまった。真耶はそんなアーサーに追撃を繰り出す。
「真耶……君は……」
アーサーはなにか言おうとするがすぐに止めた。そして、追撃が当たる前に構えをとる。
「”羅針の構え”」
そして、全ての攻撃を弾き返した。真耶は跳ね返る攻撃を全て躱しアーサーの懐に潜り込む。
「真耶。我は……何となく理由がわかった。そして、その答えももうでた。お前は答えは出たのか?」
「とっくに出てるよ。答えなんて全部ね」
真耶はそう言って殺気を極限まで高める。
「”羅刹斬”」
そして、黒い斬撃がアーサーに向かって飛ばされた。しかし、構えを持つアーサーにそんなものは通用しない。全て返されて終わりだ。
だが、アーサーは構えを取らなかった。というより、取れなかったのだ。真耶の攻撃が速すぎたとか、取るタイミングを逃したとかではない。単純な話だ。真耶の繰り出したその攻撃が、あまりにも強すぎたせいで構えをとっても防げなかったのだ。だから、構え以外を選ばざるを得なかった。
「バカ正直に真正面から……”エクス……カリバァァァァァァ!!!”」
アーサーはエクスカリバーを放つ。真正面から飛ばされる殺意の塊のような斬撃をエクスカリバーは切り裂いた。そして、その先にいた真耶の体を切り裂いた。
「っ!?アーサー……お前……」
真耶はその威力に驚き言葉を失う。そして、まるでなにか楽しいことがあったように笑みを浮かべ、その目に神眼を浮かべた。
「これも……神域に潜り込むのも簡単じゃないんだよな。”物理変化”」
真耶の体はすぐに元通りに再生する。そして、急激に真耶の体に不穏な空気がまとわりつき始めた。
「イザナミのパクリだけどね。”神域解放・深紅・炎樹海”」
真耶は剣を1振りした。すると、真耶を中心に放射状に巨大な炎の木の根が伸びていく。それは、まるで生きているかのように蠢きアーサーを襲った。
「こういう感じのゾクゾクする感じ。たまんないじゃないか」
真耶はそう言って左目の神眼を光らせる。そして、全身の闇のオーラをさらに強めた。
「アーサーを見てるとさ、本当に自分が惨めに思うんだよ。なんでアーサーはこんなに高貴な感じがあるのに、俺はまだこうして闇の中にいるんだろうかって思ってさ。でも、考えても見ろよ。俺は闇の中にいるから、冥界と繋がった。冥界にいるから、この世で最も強いんだ。お前なんか比べ物にならないくらいな」
真耶はそう言って狂気的な笑みを浮かべた。そして、神速の連撃を繰り出す。アーサーが構えを取るよりも速く攻撃を繰り出した。アーサーはなんとかその攻撃を弾くが、反撃する暇がない。
「お前は気づいたか?お前は何度も自分の力を使った。だが、俺はこの状態になってからまだ自分の力は使っていない」
真耶はそんなことを言いながらも攻撃するては止めなかった。そして、黄色く光る左目でアーサーを見ながら剣を振り下ろす。
「”王剣・日輪斬”」
「っ!?それは我の……!」
その時、太陽のように輝く刃がアーサーを襲った。
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