平和って必要? 必要!
終わりです。
私が公爵令嬢アナスタシアとして生き始めてから半年が経った。
あの乙女ゲームもどきな修羅場は一応決着。
第一王子は立太子せずに、愛する男爵令嬢と婚約、後に王籍を離れ公爵位に落ちつくだろう。第二王子はこれから王位を継ぐ者としての教育が増やされていくそう。
元々第二王子の方が優秀だったそうだから、落ち着くとこにストンとハマった感じ。
第一王子がなにかひとりで叫んでるそうだけど、彼女への愛を叫んでるのねきっと。
私は結局学院には通わず、家庭教師の先生から学びつつ、領地経営のノウハウをお父さまから教わっている。いずれは女公爵になるもよし、旦那さまに継いでもらって公爵夫人もよしとお父さまに言われている。
「それで課題ですか」
私専属の侍女さん、ナータがお茶を淹れてくれる。彼女はうちの領地からの奉公人だそう。栗色の髪と目の、ふんわりとしたお嬢さんだ。ツッコミは鋭いけど。
「そう。領地の特産を使っての新たな事業計画」
「わぁ、壮大ですねぇ」
「そうよね。私には身に余る課題よね」
「ですが、半分程はできてらっしゃるのでは?」
「そこなんだけど」
家の領地って、羊牧が盛んでその毛糸を使っての編み物織物が主なのよね。蚕で絹とかの布も副産でしてると聞いてるし。
男手は放牧とかの力仕事。女手は子育てと家事。その奥さま方のレース編みは早くてキレイだと、侍女さん達が口をそろえる。公爵家の領地から奉公にきてる女性達の針子仕事を見てると分かるのだとか。
母親仕込みの腕前は、確かに素晴らしい。結局着なかったけど、学院の制服をアレンジしてくれたのが彼女達だった。私の思いつきを即座に形にする判断力と技術は、公爵家内だけで消費するのはもったいない気がした。
「それで、領地に商会を、ですか?」
「会長もできるなら女性がいいけど、まだ女性が上に立つと揉めることも多いだろうから」
「まぁ、確かに」
「必要なのは時間と腕前よ。空いた時間に編んだ物を商会に定期的に納品してほしいの」
「それの、どこに悩みがおありで?」
「人によって編み方も柄も違うでしょ。パッチワークみたいにつないでも面白いけど、問題はサイズが均等でないと使いづらいってことよ」
ある程度の大きさがないとドレスとかには使えないし、あまりに大きいと時間がかかる。できるなら奥様方に、定期的に収入が入るようにしたいのよね。
「なら、木枠で大きいのと小さいのを配布して、その2種類のみ買い取りにしてみてはいかがでしょう」
「あ、それいいわね」
こちらからのサイズ指定なら、使えるかも。
「じゃぁ、それを組み込んで計画書は完成ね」
ふう、なんとかなりそう。ナータにお礼を言って、お茶をもらう。
「そう言えば、侯爵家からお客様がお見えでしたけど」
「そう、お父さまに?」
「ご子息の方ですから、お嬢さまにでは?」
「お断りしておいてー」
高慢で偏見持ちでナチュラルに人を見下す子供と会うなんて、時間の無駄。何故に自分は好かれてるなんて思えるのか、頭おかしいんじゃないかな、あの人。
ナータが侍女長に言付けると、お茶のおかわりを淹れてくれる。はー、美味し。
「ご子息、お嫌いですか?」
「んー、第一王子と同じ感じがするのよね」
自分の世話を周りが(というか婚約者?)するのが当たり前で、自分の意見が正しいからそれを遂行するのが当然。自分を煩わせる事から遠ざける存在(婚約者)は自分を好いていて然るべし。みたいな雰囲気がビシバシ漂ってくるんだもん。きもー。
チラチラこっち見ては、告白するのか? 受け入れてやってもいいぞ? ん? と言わんばかりの態度も腹立つわー。
「できるなら年上の、落ち着いた雰囲気の、私を甘やかしてくれるような人がいいわ」
「あー、でしたらあの方は論外ですねー」
全くもってその通りよ。アレと結婚するなんて考えられない。お父さまにははっきりキッパリ断っといたし。
それなら、まだ国王陛下のほうがマシだわ。いや、それも不敬だけど。でも、ねぇ。
第二王子に王位を譲ったら、公爵家に婿入りしてもいいぞ? とか宣まわれたんだけど、本気かしら?
まだ三十代、日本なら適齢期だし渋い腹黒イケメンとかなにそれ好物ですけど!? だけど、流石に国王とかないわー。
「まぁ、お父さまからもゆっくりでいいって言われたし、焦らず行こうと思うわ」
先は長いしね!
この後、まさに好みドンピシャな人と出会ったり、陛下が半分本気だったことが分かってお父さまとガチバトルが勃発したり、あの我儘おぼっちゃまな侯爵子息が乱入して自爆したりと色々あるけど、知ーらない!
ありがとうございました!