爆死の基準は人それぞれ
や、やっちまった。
なんてこった……。
「よっしゃああああ! やったぜ!!」
俺の目の前にはガチャで召喚されたアイテムが山積みになっていた。
ーーーーー
SR.衝撃の錫杖
R.鋼な盾
R.骨のブーメラン
N.単二アルカリ乾電池
N.滑り止めシール
N.洗濯バサミ
N.週刊少年ジャンプ2006年17号
N.カメラのフィルム
N.ボビン
N.片方だけの軍手
ーーーーー
「これは……また」
「どうしたんだよ、アリア!? この『衝撃の杖』は魔力を込めると衝撃波を撃つんだ。かなり使える魔道具なんだぜ!」
これほどのアイテム、普通に買ったら100万出さないと手に入らない代物だ。
金額に換算すれば消費した額の約10倍。圧倒的なリターンだ。これまでの数え切れないほどの召喚の中で数えるほどしか出たことがないレベルの代物である。
しかし、それに反してアリアの顔は暗い。
「いまいちですね……」
「なんてこと言うんだ!? この杖一本だけでも使った魔石全部よりも高いんだぞ」
「そうは言ってもですね」
アリアは腰にさげた剣を叩いた。
「この剣と比べるとかなり見劣りします。レア度で考えるとこの剣はSSRでそちらの杖はSRなのでしょうね」
「……そういえばSRの確率は20%くらいだったか? そう考えると5回に1回は出てもおかしくないんだよな……」
「それにゴミみたいな物が多すぎます。金額面ではいいかもしれませんが、ガチャとしては外れですね」
たしかに、そう言われてみるとどう使えばいいのかわからない物ばかりだ。
……【ジョブ】の変化で良い物が当たる確率もかなり上がったみたいだから、これまでの感覚から修正しないといけないな。
「というか、アリアはガチャについて詳しいんだな」
「言われてみればそうですね。おそらく召喚時にある程度の知識を与えられたんだと思います」
言いながらアリアは落ちていたアイテムを拾っては虚空に投げ込んでいく。
「アイテムボックスか? そんなものガチャから出てたっけ?」
「空間魔法の応用ですよ。こっちの世界では珍しいんですか?」
「まず空間魔法の使い手が少ないからな。アイテムボックスって魔道具を使うのが基本だ」
ダンジョンが現れて以降、様々な現象が新たに発見された。その一つが魔法であり、それに付随した道具への魔法の付与だ。
「便利な魔法なのですから、みんな覚えた方がいいと思いますよ?」
「そっちの世界ではどうだったか知らないけど、こっちの世界の魔法はジョブに紐付けなんだよ。そのジョブも完全に才能依存、どうしようもないんだ」
そのせいで多くの人が煮湯を飲まされてきたのは言うまでもないだろう。やれる事とやれない事は違う。
俺自身、召喚師のジョブに苦しめられていた時期もあったのだ。
「難儀ですね」
「これに関しちゃどうしようもないさ。その代わり、続ければほぼ確実に結果は出る」
そんな風なことを話しながら俺たちはダンジョンの外に出た。
すると受付の青年が声を掛けてくる。
「お疲れ様でした。魔石とドロップアイテムを提出していただけますか?」
「悪いけど、スキルの効果で魔石は全部使っちまった」
「……念のために確認させていただきますね」
彼はカウンターから空港の金属探知機に似た長い棒を出すと、俺とアリアに這わせ始めた。
何往復もして一切反応がなかったので、俺たちはダンジョンで手に入れたものをあらかた売ってから外に出た。もちろん召喚で出た物は別だが。
ちなみにドロップアイテムは精査されたあと、売却か受け取りかを選べる。あまりに危険なものはその限りではないが。
「すっかり日も暮れましたね」
「そうだな。さっさと今日の宿を見つけないと」
今回のダンジョンの収入は大体5万円ほど。ランク1ダンジョンで、しかも1階層だけでこの金額は破格だ。実は冒険者の売り上げの大半は魔石を売った金額なのだが、それを含めても今回ほどの額に届くことは稀だろう。
おかげで良い宿に泊まれそうだ。
「なあアリア、明日もダンジョンに潜るか?」
「そのつもりです。今日で別段疲れたわけでもないですし。私も早くこの体に慣れたいですしね」
「なら今日は少し良いホテルに泊まるか。アリアの歓迎も兼ねて」
「歓迎……?」
アリアが不思議そうな声を出す。
「ん、嫌だったか?」
「いえ、そういうわけじゃないいんです。……ただあまり歓迎って言葉に縁がなくて」
そう言うアリアは感情の読めない曖昧な微笑みを浮かべていた。
あまりいい思い出がないのだろうか。だったら……しっかり歓迎してやらねぇとなぁ!
「よしっ、決めた。アリア、生魚はイケる口か?」
「ええ、大丈夫ですけど」
空いていたシティホテルに部屋に荷物を預けた俺達は、アリアの着替えなんか購入しつつ、和食料理屋に足を運んでいた。
「これはっ! 美味しいです!」
「気に入ってもらえたようで良かったよ」
「この醤油というタレが魚と合ってますね! それにしても私が食べた生魚とどうしてこんなに差があるんでしょう?」
「下準備の差とかじゃねえの?」
「あっ、この付け合わせもおいしいです!」
あれもおいしい、これもおいしいと次々に料理にフォークを伸ばしていくアリア。
銀髪美女に似合わない朗らかな笑みを見るに、ずいぶんと緩んでいるようだ。
うんうん、気に入ってもらえたようでよかった。
彼女も俺も今は非戦闘用の服を着ている。
アリアの服装はスラックスとノースリーブのセーターだ。露出はそれほど多くないが、類まれなスタイルの彼女が着ているせいで体のラインが浮き出ていて、どことなく色気が漂っている。
俺? Tシャツとチノパンだよ。どうでもいいだろ?
「こんなにおいしいものを食べたのは久しぶりです!」
「もっと稼げるようになれば、これよりおいしいものを毎日のように食べれるぞ」
「それはいいですね。やる気が湧いてきましたよ!」
その意気込みを表すように、彼女は次々に料理を口に運ぶ。
そして何かに思い立ったような顔をすると、口の中のものを呑み込んでから口を開いた。
「そういえばこの世界の方々はどうしてダンジョンに潜っているんですか?」
「色々だよ。金のためとか、有名になりたいからとか。研究者なら未知の物質を探すためだろうし、世界を救うためなんて人もいるんじゃないかな」
「世界を救う?」
刺身に手を伸ばしながら彼女は尋ねてくる。
長い銀の髪が食事につかないようにかき上げる仕草が、どこか扇情的だ。
「この世界はある日からダンジョンが生まれ続けてる。しかも、それを放っておくと魔物が外に溢れ出すって話だ。ダンジョンを攻略して消滅させないといけないんだと」
「はー、大層な目標ですねぇ」
アリアは特に興味がなさそうに酒を呷る。
「意外だな。勇者様は世界救済って言葉が好きなもんだと思ってた」
「いやー、好きっていうのとは違いますよ? なんて言うか、使命感みたいなものですね。その話を聞いただけで、胸の中では勇者スピリッツが燃え上がり始めてますから」
その胸の中全部が勇者スピリッツなら、そりゃドでかいスピリッツでしょうね……。
「そんなことよりも」
酒瓶を白い指先でつつきながらアリアが切り出す。
「富嶽さんの目的を教えてくださいよ」
「目的、ねぇ……」
「あるんでしょう? 命を賭けるだけの価値が」
赤ら顔の美女の碧眼が俺の瞳を射抜いてくる。酔っているにもかかわらず、アリアの目はまるで心の内を見透かすような強い力を感じさせた。
俺も一口、水を口に含んだ。
「召喚——いや今は【ガチャ】だったか——のためかな」
「……は?」
「ガチャをするには魔石がいるだろう? 正規の方法で魔石を手に入れられるのは冒険者しかないからな」
「そのために命を賭けると?」
訝しむような声色だった。
「良い物が当たると気持ちいいだろ? あの感覚が病みつきになっちまったんだよ」
我ながら割とマズイと思ってるが、これが俺の本音だ。
何より【ガチャ】で、こんなに強くて綺麗な女の子に出会えるとなれば、辞めるなんて選択肢はありえない。
「…………」
アリアは少しの間、何も言わずにこちらを見つめ続けていた。
そして、ふぅっと呆れたように息を吐いた。
「まあ、今はそれでもいいでしょう」
「どういうこと?」
「いつかわかることですよ」
言うなり彼女はグラスの日本酒を飲み干すと、見計らったかのように店員が石焼きの肉を持って現れた。
「いやー、おいしそうですね!」
「なあ、アリア。さっきの言葉の意味は」
「いいじゃないですか富嶽さん、そんなこと。それより今は食事を楽しみましょうよ」
俺の鼻を食欲をそそる香りがくすぐる。
目の前の勇者はフォークとナイフで器用に肉と野菜を切り分け、口に運んでは満面の笑みを浮かべている。どうやらもう俺に何かを伝えるつもりはないらしい。
俺も諦めて食事に箸をのばした。
結局、最後まで彼女が発言の意図について話すことはなかった。
「はー、おいしい食事にやわらかいベッド……。いつぶりですかねぇ、こういうの」
「悪いな。一人部屋が空いてなくて」
「気にしないでいいですよー」
部屋に戻るや否やアリアはベッドに飛び込んだ。そのままクッションを抱きしめて頬ずりし始めた。
俺はもう一つのベッドに荷物を置いてから、声を掛ける。
「寝るんだったら先に風呂に入っとけよ」
「風呂?」
「あー、教えた方がいいか」
日本の風呂ってこっちの世界でもメジャーな文化ではないし、シャワーの使い方も説明しないと。
アリアを起こして浴室に入る。そこはトイレと洗面台、それとユニットバスが一緒になった一般的なものだった。
とりあえず寝ぼけまなこのアリアに一通りの使い方を説明して、バスタオルとバスローブを渡して、俺はメインの部屋に戻った。
耳を澄ますと、かすかに布ズレ音が聞こえてきて、すぐに水の流れる音が響き始めた。
……落ち着いて考えると、これ結構アレなのでは? 男女二人っきりでホテルに泊まるって傍から見たら完全にカップルじゃん。やべっ緊張してくる……。
そんな思考に陥りかけて、俺は首を横に振る。そういうのは好き合って付き合っている人同士でやるべきだ。ましてや今日会ったばかりの相手になんて……。
そう思いながらも俺の鼓動は速くなるばかりだ。瞼を閉じれば、最初に会ったときの彼女の裸体が頭に浮かぶようで……。
「だぁーっ! ダメだ、頭を切り替えよう……」
俺はテレビの電源を入れた。
『東京、渋谷。若者たちの集まるこの街で、日夜ダンジョンに潜る少女たちがいる』
『スタッフ)本日はよろしくお願いします』
『はい、よろしくお願いします!』
『「東京ディーヴァ」。6人の女子高生による新進気鋭の冒険者パーティだ』
番組は人気の密着型ドキュメンタリーだった。
今回の主役の彼女たちは最近よく耳にするような有名な少女たちのようだ。
たしかランクは6。若いにも関わらず、上級者に手をかけるくらいの実力者だ。
『リーダーの神田桜を中心に、林谷ひまわり、富崎蘭、牛飼桃、七草杏、本草寺柚子。彼女たちはアイドルとしても第一線で活躍している。美貌とその力強さから男女問わず支持を集めている』
画面は彼女たちのライブの様子を映している。
最近は街中でポスターも見るようになってきたし、ああいう人とお近づきになりたいものだ。
『ダンジョン攻略は常に命の危険と隣り合わせだ。スポンサーとの打ち合わせもマネージャー任せではいられない』
『この鎧、デザインはかわいいんですけど、少し装甲が薄いと思うんです』
『前に使ったハンマーなんだけどぉ、もう少し重心が先端の方が振りやすいと思うのよねぇ』
一流の冒険者や彼女たちのようなアイドル冒険者は、スポンサーが就くものらしい。彼らは広告塔になる代わりにオーダーメイドの装備を提供してもらえるという寸法だ。
俺たちもいつかはこうなりたいって憧れてたっけ。
画面はダンジョンの中に移る。
撮影のためだろう、出ているモンスターを見る限りランク3程度のダンジョンだ。美少女たちは出現するモンスターたちを槍で突き、ハンマーで潰し、悠々と進んでいく。
そのとき、浴室の扉が開いた。そして中から白い肌をほんのりと紅色に染めたアリアが出てくる。
「お先に失礼しました。って、それはなんですか?」
「テレビって映像を映す機械だ。それで他の冒険者の活動を見てたんだよ」
「へー、面白そうですね」
言うなり、彼女は自分のベッドに腰掛けた。
そちらを見ると、アリアは食い入るように画面を見つめていた。端正な顔だ、画面の中の少女にも劣らないくらい。でも悲しいかな……俺の視線は少し下に下がって、彼女の谷間に吸い込まれてしまう。
うわっ、すごい。ふるふるふるふる震えてる!
「………ゴクリっ」
唾を呑む音が、自分にも聞こえるくらい大きい。
慌てて視線を逸らす。童貞には毒だよ全く。
そんな俺の葛藤など露知らず、アリアは画面に見入ったまま口を開いた。
「強いですね、彼女たち」
「ランク6、つまり中級上位だからな」
「いえ、素質の話です。特にあのリーダーの子は原石ですよ、磨けば私と並べるかもしれません」
凄腕の人はそういうのが感覚でわかるのだろうか? というかランク6でもまだ原石扱いなの? 俺にはわからないな。
そのままテレビを見ているアリアを置いて、俺はシャワーを浴びる。
戻ってくるとアリアはベッドの上に倒れ込んでいた。
『私たちが女の子だけでダンジョンに潜るのは、女の子だけでもこれくらいできるんだぞって世間に』
点けっ放しのテレビの電源を落として、アリアの体を持ち上げる。
思ったよりも軽いな。ゴブリンたち相手に無双したとは信じられないよ。
しっかりと彼女に布団を被せてから、俺も自分のベッドに入る。
思い返せば、今日はかなり濃い一日だったな。
パーティーを追放されて、やけになって召喚しまくって、そしたら【ジョブ】が変化して……。
それで、アリアに会った。
正直、まだ若干信じられない。もしかしたらこれは夢で、朝起きたらいつものあいつらと顔を突き合わせることになるのかも、なんて思ってるところもある。
でも、そうだとしても、例えこれが夢だったとしても……覚めないでくれ。
明日もまた俺はアリアと冒険したいんだ。




