初回確定は基本
俺は粕谷富嶽。【見習い召喚師】だ。
この東京で、新進気鋭のランク4パーティーの一員として、幼馴染たちと一緒に日夜ダンジョン攻略に励んでいるんだ。
今日もいつも通りに準備をして、パーティーーメンバーとギルド会館で待ち合わせしてるんだ。さあ、今日も冒険に出かけるぜ!
「お前、今日でクビね」
「……え?」
そう言ったのはパーティーリーダーで【騎士】の謙介だ。【魔術師】のアルフレッドと【斥候】の貞則は見守っているだけで何も言わない。異論はないっていうのかよ……。
「なんでだよ……。なんでそんなこと言うんだよ……!! 仲間だろ……? これまでずっと一緒にやってきたじゃないか!?」
俺達四人は同じ町で育った幼馴染だ。小さい頃、一緒にダンジョンを攻略しようって約束して、全員一緒に冒険者になった。どうして、こんなことを……。
「……正直もう限界なんだ」
ポツリ、と謙介が言った。それと同時に紙束が机の上に放り出される。
そこに記されているのはパーティーの収支のまとめだった。
「うちのパーティーは万年赤字だ。その元凶はなんだと思う?」
「そ……それは……」
「わかってるみたいだな富嶽。……お前の召喚術にかかった費用だよ」
「でも、わかるだろ!? 俺の召喚は特殊なんだ!」
通常、召喚師は精霊や魔物などと契約し、戦闘中に呼び出すものらしい。だが、俺のは魔石を消費してアイテムを召喚するもの。有り体に言ってしまうソシャゲのガチャみたいなものなのだ! 金をかけないと何もできない!
俺の叫びを聞いて、謙介は少し口をつぐんだが、意を決したように顔をあげた。
「……富嶽。お前、今日の攻略のための準備費、どうした?」
「………………」
「召喚だろ? これで注意するのは何回目だ?」
「………………」
「百回目だ。富嶽、お前のために俺達はいつも多めにポーションを買っているんだぞ? みんなに迷惑がかかってる。これまでもしっかりと注意してきたけど、治らなかったな」
「でも……今回はいいのを引ける気がしたんだよ!!」
「そうか、なら出たのか見せてみろ」
俺の手は空をかいた。
「……ないんだな。お前がそういうときはいつもそうだ。お前が当たりを出すのは百回に一回あればいいくらいだもんな」
「で、でも……お前たちが使ってる装備は俺が出したものだろ!?」
「そうだな、それには感謝してる。だけど、俺たちはもう自力でこれくらい買えるんだ」
「………………」
「お前が召喚師として、それから人間として、いつか成長してくれるだろうと信じて待っていた」
「………………」
「でも、もう我慢できない」
ドンッ、と一束の札が俺の前に置かれた。
「こいつは手切れ金だ。一か月分くらいの生活費にはなるだろうから、その間に仕事を探せよ。まっ、何か困ったことがあれば相談には乗るさ。金以外はな」
そう言うと謙介たちは俺の肩を軽く叩いて去っていった。残されたのは俺と札束、そして周りからの好奇の視線だけ。
……惨めだ。彼らの優しさが痛い。せめて突き放してくれたら……殴り飛ばしてくれたら、どれだけ救われただろうか。彼らを逆恨みすることができれば、どれだけ。
机の上に置いた手が涙で濡れた。
前を見れば、そこには謙介たちが置いていった革袋。開けてみると、そこには袋一杯になるほどの金貨が。
「……やるか」
考えるよりも先に言葉が漏れた。俺は革袋を手に取り、周囲の視線から逃げるようにギルドから去った。
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1999年7月21日
太平洋にあった海底火山が噴火。新たな島が誕生した。その調査のために各国から地質学者が研究のために上陸した。
完全なる新しい陸地。生命の土壌も整っていない死の島だ。だが、彼らはその島で不可思議な洞穴を発見した。そして一人の勇気ある青年がその洞穴に踏み入れたのだ。
それが全ての始まりだった。
彼が洞穴で目にしたのはゴブリンやコボルドなどの小説やゲームなどに登場するようなファンタジーの怪物たち。そしてそこから引き返した彼は、洞穴の中で拾ったという道具とともに仲間たちに報告したという。普通なら嘲笑されるような出来事だが、彼の持って帰ってきた剣を調査してから事情が変わった。見かけこそ同じだが、地球上の鉄と組成が異なることが明らかになったのだ。
しかし、変化はそれだけに留まらなかった。
洞穴が発見され、ダンジョンと名付けられてから一週間後、アメリカや中国、日本など世界各国で同じようにダンジョンが続々と現れたのだ。ダンジョンの対応はそれぞれの国に任されていたそうだが、基本は自国の軍隊を用いて攻略をしていたという。
しかし、その結果どの国にも所属していなかった最初のダンジョンは管理が手薄になってしまった。
そうして起きたのが〈大氾濫〉と呼ばれるモンスターの大暴走である。
幸いにも孤島であったこと、衛星による監視の効果で大きな被害は出ずに済んだが、ダンジョンの危険性は世界中に知れ渡った。
けれど、ダンジョンは日が経つごとに数を増やし、いつしか軍隊や国の手だけでは間に合わないほどに膨らんでしまったのだ。
そのため国連は新たな組織を作り上げた。〈世界ダンジョン管理機構〉。通称〈ギルド〉。一般人の有志をダンジョン攻略に駆り立てる組織。
以来、多くの人々がダンジョンに挑んできた。圧倒的な強さ、未知の道具を求めて、あるいは英雄になるために。
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「……やっち、まった」
現在、俺は空き地の石材の上で頭を抱えていた。ついさっきまであった諭吉さん百人はもうおらず、代わりに紫色の石——魔石が入っている革袋が俺の前に置かれている。全額ぶっぱした。文無しだ。……飯代どうしよう。
「いやいや、ここで元が取れるくらいの召喚ができればいいんだ!」
それを質にいれれば、当面の生活費にはなる! いや、2つ引ければ倍以上になる! これはチャンスなんだ!
俺は革袋を手に取り、中にある魔石を確認する。……100回分ってとこか。
適当に一掴み分取り出して、そのまま突き出す。
『我が手には贄、我が剣は知恵。魔光の灯火よ、異界の御霊を導き給え!』
詠唱が終わると同時に、手元の魔石の感触が消え失せる。そして地面には魔法陣が浮かび上がった。
その魔法陣からは紫色の光が立ち上り、いくつかの形を作り上げていく。
光が完全な形となると魔法陣と一緒に、一つまた一つと順々に召喚物の姿が露わになる。
木製のカップ。
スプーン。
フォーク。
耳かき。
メモ帳。
りんご。
爪切り。
鉄製の剣。
ほうき。
銅貨。
「ゴミばっかじゃねぇかッ!?」
最悪だ。トントンになるような代物が一個しかねえ……。鉄剣以外は全部ゴミ、価格としては100分の1ほどでしかない。
「まだだ……。まだあと90回召喚できる。いける、いけるさ。そんな気がする、間違いない!」
そして俺はもう一度、魔石を手に取った。
『我が手には贄、我が剣は知恵。魔光の灯火よ、異界の御霊を導き給え!』
『我が手には贄、我が剣は知恵。魔光の灯火よ、異界の御霊を導き給え!』
『我が手には贄、我が剣は知恵。魔光の灯火よ、異界の御霊を導き給え!』
『我が手には贄、我が剣は知恵。魔光の灯火よ、異界の御霊を導き給え!』
『我が手には贄、我が剣は知恵。魔光の灯火よ、異界の御霊を導き給え!』
『我が手には贄、我が剣は知恵。魔光の灯火よ、異界の御霊を導き給え!』
『我が手には贄、我が剣は知恵。魔光の灯火よ、異界の御霊を導き給え!』
『我が手には贄、我が剣は知恵。魔光の灯火よ、異界の御霊を導き給え!』
「なんっっっにもでねぇぇぇえええええ!!」
そこら一帯、召喚物の山、山、山。そのほとんどが二足三文にもならないようなガラクタばかりだ。
……このままじゃ、明日の宿もどうにもならない。
「最後の10回、大丈夫いける。絶対いける」
挫けそうになる心に言い聞かせる。問題ない、大丈夫だ、俺の魂がそう叫んでいるんだ。
『我が手には贄、我が剣は知恵。魔光の灯火よ、異界の御霊を導き給え!!!』
そう唱えた瞬間、俺の中で何かがカチッとハマる感覚があった。これは……これまで当たりを引いてきたときと同じ感覚。
それに応えるように、魔法陣の色は銀色に輝いている。
鼓動が大きくなるのがわかった。呼吸は早くなり、汗が滲む拳は固く握られる。
そして、銀色の光が消え失せた瞬間、ガラクタの山の中で一際輝くものがあった。
「当たった……? 当たったぞ! やった、賭けに勝ったんだ!!」
勢いよくしゃがみ込んで、輝きを手に取る。
「青い水晶……? なんだこれ、……うわっ!?」
ーーーーーーーーーー
粕谷富嶽
男 18歳
ジョブ:【見習い召喚師】
ーーーーーーーーーー
水晶から文字の羅列が映し出された。
……初めて見る現象だが、その内容は見慣れたものだ。神によって授けられた【ジョブ】。ギルド会館にある大水晶を使えば、簡単に見れるものだ。
「はぁ……。なんだってこんなものが」
このステータスが、俺は嫌いだった。【見習い】という枕詞が付く【ジョブ】は初心者にしか現れない。ダンジョンを攻略し始めて数か月もすれば、【見習い】なんて称号は消えてしまう。
……俺以外は。
2年間、2年間だ。謙介たちとこの街に来てから、ダンジョンを攻略し始めてからそれだけの時間が過ぎた。仲間たちが【見習い】を終え、謙介に至っては二次職に昇格をした中で、俺だけが【見習い】のまま……。ステータスが表示される度に、お前には才能がないと突きつけられているような気持ちになる。
「なあ、神様。なんだって俺にこんなもんを見せつけるんだよ。この機会に足を洗えっていうのかよ……」
忌々しい。クソみたいだ……。そんなもん頼んじゃいねぇんだよ。
憎しみを込めてステータスを睨みつける。その時だった。
──────────
粕谷富嶽
男 18歳
ジョブ:【#####】
──────────
文字が歪んだ。
「なん……だ?」
──────────
粕谷富嶽
男 18歳
ジョブ:【ガチャリオン】
──────────
「変わった……?」
頭が真っ白になった。全身の力が抜け、手から水晶が零れ落ちる。パリンッ、という音とともに空中の文字が消えたが、もうどうでもよかった。
【ジョブ】が変わった? どうしてこのタイミングで? どんな能力がある? これは夢か何かなのか? っていうか【ガチャリオン】ってどういうことだ?
疑問が頭を埋め尽くす。だが水晶は割れてしまった。もう確かめる手段はない。
「いや……あるな」
電流が走った。俺の目には百近い数のガラクタが映し出されていた。
ガラクタどもを質に入れ、その金を全て魔石に変えた。せいぜい10回分程度だが……。
ジョブが変化した影響はなんとなくわかる、俺の召喚術に何か変化が起きたようだ。
──────────
UR:1.00%
SSR:4.00%
SR:15.00%
R:30.00%
N:50.00%
──────────
大体こんな感じかな? URとかSSRとかよくわからないけど。
つまり、召喚をすれば確かめられるというわけだ。
行くぞォ!!
『我が手には贄、我が剣は知恵。魔光の灯火よ、異界の御霊を導き給ェェえええええ!!!』
その瞬間、これまで感じたことのないほどの魔力が、俺の手元から風となって吹き荒れる。
無意識に口角がつり上がるのがわかった。
現れた魔法陣は七色に煌々と輝いている。自然と全身に鳥肌が立つ。
そこから銀色の光が伸び、不思議な模様の描かれたマスクを創り出した。
〈マーマンマスク〉だ! 水中で呼吸ができるようになる魔法道具!
「これまで100回に1回程度だったのが一発で!?」
次は銅色の光が伸び、杖が。そこからスプーン、段ボールが続く。
「……まさか最初のは運がよかっただけ?」
高揚していた心が、冷や水を駆けられたように急速に冷める。
まさか勘違いだったり……と思ったとき、再び銀色の光が現れた。
「一気に2回も!? こんなの初めてだ!」
現れたのは、〈俊足の靴〉と呼ばれる魔法道具だった。
そして、ついに初めて見る金色の光が剣を形作る。
鍔に鳥の頭と炎の意匠をあしらった黄金の剣。剣に疎い俺でも、一目でそれは一級品だということがわかった。
「よっしゃぁぁああああああああ!!」
周囲の様子も気にせず、天を仰いで喜びを吐き出す。
最ッ高だ!!! 俺の時代が来た!!
ティーカップ、木槍、革鎧のどうでもいいガラクタが三連続で来たが何にも気にならない! 最後の1回がどんなゴミでも、もう気にならん!!
最後に残された虹色の魔法陣が浮き上がり、何かを形作り始めた。
それはこれまで出てきたものと比べても、かなり大きかった。俺より少し小さいくらいかな?
七色の光が収束し、そのシルエットが露わになる。
それは二本の足を持っていて、二本の手を持っていた。そう、それは……人だった。
「……ごくりっ」
虹色、いままで見たことのない色。一体どんな奴が出てくるんだ……?
光が晴れた。
白魚のように白く、すらりと伸びた手足。雪のように輝き、腰まで届くほど長い艶やかな銀髪。そして、色町でも見たこともないほど豊かな双球。
彼女は、確かな光を讃えた碧眼で、俺の目を見つめながら口を開く。
「私はアリア・ハーゲンティ。あなたの願いに応じて馳せ参じました。以後、よろしくお願いしま……って、あの、どうして目を合わせてくれないのですか?」
「いや、その……」
「なにか問題がありましたか? 不足があればおっしゃってください、すぐに解決しますので」
「じゃあ、言わせてもらうけど……」
「はい。どうぞ」
「服が……」
「服?」
そう言ってアリアは自身の身体に目をやった。……一糸まとわぬ裸体に。
「きゃああああああああ!? み、見ないでくださいぃぃぃいいいいいいいい!!!」
「見てない、見てないから、とりあえずその革鎧を着てくれ!!」
二人でしっちゃかめっちゃかしながら空き地で騒ぎまわる。こんな美女の裸が見れたのは眼福だけど、童貞にはキツイんだよ、色々と!!
これが俺とアリアの出会い。締まりがつかない【異界召喚師】と【勇者】の初邂逅。そして俺達の物語の始まり。
ガチャで進めるダンジョン攻略の幕開けだ。
作中に出てくる確率通りに作者がダイスを振ってます!
ただし、今回だけはUR確定です!